本物の異世界出身者
・・・・・・この作品だけは完遂させたいと考えております。
※あらすじや、作品タイトル一部を修正しました。紛らわしくてすいません。
※主人公の特徴の描写を一つを、再編集により変更いたしました。髪等についてです。
一番最近に、再編集した日時は、2018年3月14日。
「お前の噂は聞いてるぜぇえ? 異世界から来たんだろぉお?」
カラカラと照りつける赤茶色の荒野にて、中肉中背な一人の男が、ヤクザのオーラを纏った大男の集団に、囲まれていた。
「さすがにバレるのが早いな・・・・・・あいつら言いふらしたのか?」と、ため息を付きながら、先程の言葉を無視して語る中肉中背な男。彼の名は ギン 、年齢は十六。
「てめえ状況わかってんのかぁ!?」と、最初のセリフを言い放った大男が、軽めのボリュームで怒鳴り散らした。ちなみにその大男の外見は、茶色い髭を顎いっぱいに生やし、古代の北欧にいた海賊バイキング風の魚の鱗みたいな甲冑と、牛の角を取り付けた兜を着用していて、右手に大きな戦斧を所持。
状況を詳しく言うと、場所は急な崖と崖に狭間れた、幅五メートル位な行き止まりの道で、退路は一つしか無く、武装した大男達がそれを塞いでいる。
つまり賊達が、ギンをここに追い込むよう誘導したのだ。
あとその荒野は、本来雨が殆ど降らない地域なのだが、珍しく昨日天気が大雨で、ところどころぬかるみがあった。
そう・・・・・・ギンを囲んでいる奴らは山賊で、荒野を通っている彼を見つけ、カツアゲもとい物盗りを犯そうとしていた・・・・・・物語の初めとしてベタベタの空気を醸し出していたのだ。
山賊の一人「てめえの持っている現金、貴重品、特に樹脂やらプラスチックとかビニールやらシリコンやらでできている珍しい物! すぐに全部出せ!」
この物語の、主な舞台となっている世界では、ビニールなどの人工物が存在しなかったので(今は超微量存在している)、この世界に住んでる者にとっては、金の何倍も高価な物として取引される。
「てめえ・・・・・・早く出せや・・・・・・早くしないと、この小説が全年齢対象から15禁になるようなえげつない方法で、てめえを殺してみせるぜ?」と、山賊の一人が、自分の持っている得物を舐めながら脅した。
「いや!? それ禁句!! 登場人物が全年齢対象とか言っちゃだめだから!! 読者が約数百文字流し読みして、呆れさせる小説って、お前ら・・・・・・無しだよそういうの!!」と、山賊に荒くて長いツッコミを入れたギン・・・・・・自分もシリアスの空気を壊しているセリフを連呼していることに気づかない彼であったが・・・・・・。
「何だその態度はあああああああああ!!」と、ギンのツッコミに激昂した山賊の半数は、彼に向かって、得物を振りかざし、攻撃しようとする。
最早山賊の蛮行により、彼があられもない状態になり、この小説が15禁になるかならないかという寸前・・・・・・。
「ちょっと待ったああああああああああああああああ!!!!!」
斜め上空から山賊側に迫ってきた一つの微小な火炎弾が、ギンに突き立てようとする刃にぶつかる。それが吹き飛ばされ、地面に突き刺さった。
上から高らかに聞こえた可憐な声と炎攻撃で、ベタに山賊達の得物と足を踏みとどませたのだ。
「なっ何者だあああああああああ!?」と、これまたベタなセリフを吐きながら、自分の前方側向かいにある、崖の上を仰ぐ山賊の一人。
崖の上に立っている人物は二人、三つ編みおさげな赤茶色の髪の毛を持つ少女と、短髪黒髪のゴブリン男であった。
女の子の特徴は、前髪はパッツン姫カット。
大きな丸メガネを装着し、服装は上に、膝頭までのローブ、それを重ねるように、胸ポケット付きのケープを肩部分に羽織っている。
分厚い革の手袋も履いていた。長い旅でも大丈夫なようでっかいカバンを背負っている。
右手に彼女の背丈並みな大きさを持つゼンマイ草の形をした木製の杖と、左手につまんで持てるくらいの細小の杖を構えている。あと、見た目の年齢は16歳で、鼻にソバカスがある美少女であった。
ゴブリンの方は、背は隣りにいる少女の半分程度な高さで、猫背であり、頭にニット帽、革ジャケットとを着用している。体の特徴は、耳と鼻が長く尖っていて、肌の色は少し茶色い。あと悪役に最適な目付きの悪さも備えていた。
髪に顔に、服装と・・・・・・少々全体的に小汚い印象を受ける。
※ちなみにゴブリンとは子鬼みたいなモンスターで、今舞台となっている国では、知的である化生は、人間と同じく人権を持ち、国から保護される。
「とうッ!!」
崖の上に立っていた二人は、ギンの元へと、そこから4メートルの高さから、勢い良く飛び降りた。
山賊たちが身構え、ギンが唖然とする中・・・・・・。
降りたゴブリンは、一人の山賊がかぶっている兜に向かって、額に激突し、着地しているときには、頭を抱え悶てしまった。
悶ている彼の横に、少し遅れて着地した彼女だが、着地した場所がぬかるんでいたので、泥の近くにいたゴブリンの両目と、ギンの着ていたブレザーとズボンにかかってしまった。しかもそのぬかるみが深く、彼女の足元の身動きが取れなくなったのだ。
「ああああアあああああああああアああ!?」
「チョッ何しに来たのあんたら!? 俺の大事な一張羅がああ!?」
「フッ・・・・・・成功ね・・・・・・あんな硬い地面に、高いとこから飛び降りたら、大怪我しちゃうとこだったよ・・・・・・ぬかるみのおかげで、左足に軽い捻挫ができたくらいで助かったよ!」と、額に冷や汗をこれでもかとかきながら、ゴブリンの叫びとギンのクレームを不自然に無視する少女。
山賊の一人「誰だてめえら!? まさかおれたちを倒して、そのモブ男を助けようとする正義の味方様かい?」
モブ男というキーワードを聞いたギンは、殺意のオーラを纏った。
「その通りよ・・・・・・覚悟しなさい!!」と、山賊たちに向かって、びしっと人差し指を指す少女。あと彼女の左足は、杖を持ったまま左手で抑え、なんとか立ち続ける。
位置的状況は、ギン達と山賊の距離は約3メートルほど、背には崖の壁が立ちふさがっている。
「ふっふっふっ・・・・・・いいだろう! ゴブリンとモブ男は殺すとして、女の子の方は、この小説が、18禁になるような、いかがわしい行為を強要させようじゃないか!!」と、茶髭の男は ニタニタ 笑いながら語った。
他の山賊たちもいやらし笑みを浮かべて、ギンは赤面しながら、不埒に少しだけ期待の念を持った。
「あのう・・・・・・ちょっといいっすか?」と、山賊たちが笑う中、挙手して言うゴブリン。
山賊の一人「あぁ!?」
ゴブリン「この小説を18禁にするとかなんとか言ってますけど・・・・・・ならないと思いますよ?」
山賊の一人「はっ?」
「あっいや・・・・・・下手にこの小説に刺激の強いような表現出されたら、R指定される前に消されると思いますよ? 小説ごと・・・・・・オイラたちの冒険や、君たちの活躍とか・・・・・・このノベル予め全年齢で指定してありますから・・・・・・」と、淡々と無表情に語るゴブリン。
一気に、乾いてた荒野に響いていた音が、しばらく静まり返る・・・・・・。
茶髭の男「てめええら!! 良い子でも安心して読める小説にするよう気をつけて、あいつらをぶっ殺せえええええええ!!!」
他の山賊全員「よっしゃああああああああ!!!!」
山賊のほとんどが、各々持っている武器を構え直して、ギンたちに向かって攻撃し始めた。
残りの一人が、地面に転がる得物を持ち直す。
ギン「あっいや、 ブッコロセ とか言っている時点で、良い子は安心して読めないのでは!?」
少女は身構えた途端、彼女の足元に魔方陣なる光を発し、大きなゼンマイ草杖の先端から、光の塊を出した。
猛烈に早く移動するその光弾は、彼女の向かいにいる最前列の山賊に向かって、突進する。
しかし、最前列の山賊は、重装備なのだが、紙一重ギリギリに彼女の攻撃をかわした。
「はっは~!! 山賊は、山で自然に足腰を鍛えてるんだぜえ」と、ドヤ顔で歩を進め語る山賊の一人。
少女が、左手に持つ細小の杖をちょちょいと動かす。
すると避けられた光の塊の移動方向が変わり、ドヤ顔している山賊の頭上背後に向かって激突・・・・・・そのまま彼は、彼女の寸前で倒れ伏した。
他の山賊の一人「何ぃいぃぃいいいいい!?」
山賊の一人は「まさか左の杖で、出した魔術を軌道修正できるのか!?」と、ただただ驚愕。
倒れた賊の背後で、少しだけ戸惑い、減速する彼らだが、彼女に向かっての突進は止んでいない。
彼女は何を思ったのか、細小の杖を、自分の足元前方向のぬかるんだ地面に突き刺し、残りの大きな杖を両手に持ち上げ、それでゴルフボールを振る寸前の構えをした。
眉をひそめ怪訝な顔を表す賊達。
刹那・・・・・・山賊たちが向かう地面のみが、細小の杖から氷結した。それと『同時』に、ゼンマイ草の杖先端から、ブースターが如き烈風が排出された。前者は氷の、後者は風の属性の術である。
「同時で!? 彼女はもしや、『同時並行型術者』!?」と、地面にうつ伏せで倒れた賊が、驚き慌てる。
※同時並行型術者・・・・・・通常の術者は、複数の術は維持はできるも、一度に発動できる魔術は一種類のみだが、稀に一度に二種類以上の魔術を同時に発動することが出来る者たちがいて、彼女らを指す言葉。
しかしその彼女ら術者の短所として、例えば通常の術者と同時並行型術者が、同じ術を使って比べた場合、前者よりも術の規模や威力・効果が劣る傾向にある後者。極少数タイプである。
少女「振ルスィィィィイイイインンンンンンンンンングウウウウウウウゥゥゥッ!!」
そう彼女が叫びながら、噴射する突風によって強い推進力を得た杖で、倒れた賊を強打した。 スッッコッーン と小気味良い音が聞こえる。
「グワアアアアアアアアアッ!!!?」と、彼女の攻撃により、滑り弾かれた彼は、背後に駆ける自分の同朋全員にぶつかり、将棋倒し状態になった。氷の地面により、彼が滑った時の摩擦力はほぼゼロ。
「はーい! サンタさんがプレゼントを配りますよ? 10月だけど今・・・・・・」と、倒れ伏している山賊の前に、自分の腰にぶら下げていた小さな革製袋から、オレンジ色に光る得体の知れない複数のビー玉を地面にばらまきながら語るゴブリン。
山賊の一人「なっ・・・・・・なんだこれは・・・・・・」
「ただの音が出るビー玉ですよ・・・・・・オイラ魔力(魔術を使うためのエネルギー)とか少ない方なので、賊が近づいたら大爆発とか起こす地雷とか作れませんよ~」と、にこやかに山賊に向かって微笑むゴブリン。ちなみにその微笑みは、多分ブサ顔大会があれば、ぶっちぎりで優勝できるほどであった。
山賊たちの額に冷や汗が流れる・・・・・・R指定だとか、モブ男とかのワードが飛び交う緊張感のない中、一応死地であるこの場所でばらまいたものがおもちゃでしたなんて済むはずないという考えが、奴らの頭の中をよぎったのだ。
「ウッ嘘だ! ハッタリだ! こんな狭い場所で爆発なんて起こしたら、それこそあんたらも巻き添えを食らうんだぞ!!」と、怒鳴りながら、立ち上がろうとする山賊の一人。
その瞬間、山賊の動きを察知してか、 ピーピー と耳障りな音を出しながら、オレンジから真っ赤な色に変わるビー玉達。
山賊一同「ヒィイイイイイイイィィィィィィイイイイイイ!?」
「あははっ嘘なんて一言も言ってませんよ~・・・・・・爆発は・・・・・・しませんよ・・・・・・」と、眼力を込めて、上がっていた口角をますます曲げて、語るゴブリン。
「・・・・・・ということは爆発以外の何かが、このビー玉に起こるというのか」と、そのような考えが、こびりつく山賊たち。
ゴブリン「あと戦いの時は、視線を下ばかりに向けるのではなく、たまに上に向けたほうがいいっすよ?」
山賊一同「・・・・・・は?」
山賊たちが視線を少女とギンに向けると、どさくさに紛れて拾った細小杖を構えながら、何やら小声で、呪文を唱えている彼女の姿が、彼らの目に映ったのだ。
「光の精よ、杖の魔よ、汝らに頼み乞う・・・・・・遥か異界にある神器を模して、我を助けよ!!」
高度な術や苦手な術を発動する時、呪文を唱えることによって、成功率や安定性を上げることが出来るのである。
そして彼女の一寸先には、ゼンマイ草型の杖が、宙に浮いた状態で、猛スピードに回転している。
彼女の呪文が言い終えた瞬間、ゼンマイ杖の両先端から光が纏まりだした。回転はそのまま維持しているので、光が円を描いているようにみえる。
山賊一同「あっ・・・・・・え・・・・・・・あ?」
少女「私の究極必殺技!! 『チャクラム・ステッキ』 !!」
「喰らえ!!」と、少女が、持っている細小の杖をおもいっきり振ったら、光の円を描いた大きな杖は、将棋倒しになっている山賊たちに向かって突進・・・・・・彼女は大杖を蛇行移動させるために、小杖を演奏指揮者のタクトみたいに動かして、その回転する得物で、全員一人残らずはじき飛ばした。
そして彼らは全員倒れ伏した。
ただでさえ平均体重が120キロをもつ山賊・・・・・・その上全員が全員重装備なので、それらを軽々吹き飛ばす彼女の魔力に、ギンは目を見張るばかりだった。
少女「フッフッフッ・・・・・・悪漢共を全員吹き飛ばしたよ! あっ! まだここにとんでもない悪役顔がいる!」
「あん?」
「とうっ!」
「ぶげら!?」
彼女の飛び蹴りが、長い鼻を持つ目付きの悪い猫背怪物を、吹き飛ばした。
「って・・・・・・! 悪者を蹴散らしたあと、わざとオイラを吹き飛ばす悪ふざけやめろって、前々の前々から言ってるだろ ナナ !! 怪我しているならおとなしくしていろ!!」と、後ろ頭にでっかいたんこぶができた悪役顔・・・・・・もといゴブリンが激昂した。
「ッテヘヘ ごめんごめん悪者より悪役顔していたから イイキさん まあこれもビジネスパートナーに対するコミュニケーションの一つですよ・・・・・・?」と、ぬかるみから脱出したナナと呼ばれる少女は、右足で彼を蹴り飛ばし、その片足のみで着地した後、自分の後ろ頭を掻き、舌をペロッと出しながら、とぼける。
イイキと呼ばれたゴブリン「どんなコミュニケーションだ!? それは!?」
ナナと呼ばれた少女「バイオレンスコミュニケーション・・・・・・とか?」
「・・・・・・これ以上ふざけたらオイラのあの本・・・・・・今日返してもらうぞ!?」と、悪びれる様子もない少女ナナに、脅しつけるような口調で言うゴブリンイイキ。
「『木剣使いタタの足掻き』!? あれは誤って紅茶こぼして汚しまくったから、新しいの弁償すんまでちょっと待ってよ!?」と、落ち着いてふざけた顔に血の気が引け、弁解に力を注ぐ少女。
イイキ「こぼしたんか!? あれ絶版本だからすっごい貴重なんだぞ!?」
少女とゴブリンの口喧嘩をただ眺めて黙るギン。
「ほ・・・・・・本!? まさかあの女・・・・・・冥読本蟲の二つ名を持つ ナナ か!?」と、倒れ伏している山賊の一人が、信じられないものを見るような目で、激しく震えながら驚嘆した。
ギン「デスブックワーム!?」
「図書館の本という本を、返却日までには絶対に返却しない!! 返却されたとしても、ひどいシミや破れを100%つけて返すといわれ、図書館職員に最高危険人物と認定された魔術士・・・・・・ナナ!!」と、驚嘆した山賊が彼女の噂を言い続けた。
「なんてしょうもない通り名・・・・・・」と、呆れ返るギン。
続けて「いや・・・・・・同時並行型の魔術師だから、それから二つ名つければいいんじゃないのか!?」とも語る。
「ふっ・・・・・・」
ギン「え?」
「ふざけるなああああああああああ!! おれがこんなふざけた通り名を、自分自身で喜んで言いふらすいかれたやつに負けるかああああ!!」と、茶髭の男が戦斧を握りしめ立ち上がり、彼女ナナに向かって走り出した。
「ウチがそんな自分を貶めるようなあだ名、名乗る訳無いでしょ!? ケチな図書館職員から勝手につけられたのよ!!」と、ツッコミを入れながら、細小杖を、茶髭の方向に向けて構える少女ナナ。
「痛!?」と、ぬかるみにはまってた自分の足から、ひどい痛みを感じた少女。その瞬間気を取られ、斧を振りかざそうとする山賊を前に、ひるんでしまった。
少女ナナ「あっ・・・・・・・・・・・・これやば・・・・・・」
今まさにこの小説が、グロの表現によって綴られようとする寸前・・・・・・。
「ぐがぁあ!?」
走り出した茶髭の男の真横めがけて、半端ではない威力の飛び蹴りを、彼に食らわせる獣がいた。
その獣・・・・・・うさぎのような大きな耳、短い前足に長い後ろ足、二足歩行で立ち上がり、長い尻尾を持っている・・・・・・そして一番特徴的な部分はお腹にあるポケットだろう。
ギンの横に立っている獣は、まるでオーストラリアに生息するカンガルーのような生き物であった。
いや本物の『アカカンガルー』であった・・・・・・。
茶髭の男が、蹴られた横っ腹を抱え悶るのを、ギンが眺めながら、「だいじょうか?」と、少女に問いかける。
「えっ? いつの間にそこいたの? そのカンガルー・・・・・・この世界ではいないと思ったのに・・・・・・」と、戸惑いを隠せない少女。
ギン「ああっ・・・・・・」
「その獣・・・・・・『かんがるー』っていうのかい? オレが召喚したんだよ・・・・・・。この世界とは違う、別の世界の獣を召喚することができ、ある程度は操ることが出来る魔術さ・・・・・・」と、淡々と微笑みながら語るギン。
呆然とギンを眺める、少女とゴブリン。
ギン「いやあ、ぐっだぐだだったけど、助けてくれたんだね。ありがとう! オレはギン! 君たちは、ナナちゃんとイイキ・・・・・・・さんだよね?」
ゴブリン「ええ!? 名前名乗ってないのに、なぜオイラたちの名前知ってるの!?」
ギン「あっいや、君たちの論争で、名前わかっちゃったから・・・・・・」
「いやいや助かったのは、ウチのほうだよ・・・・・・ありがと・・・・・・」と、ナナは感謝の言葉を述べながら、カバンのサイドポケットから取り出した、縦5センチ横2センチの長方形の札のようなものを手に持つ。それには真ん中に墨字で、梵字風なマークが描かれている。
彼女がその札を空中に投げると、札が光だし、宙にに縦2メートル横1.5メートルの、しかし奥行き一ミリしかない黒と紫の曲線が渦巻いている、次元の穴が生じた。
投げられた紙切れは、空気に溶けていく。
「ナッ何それ!?」と、ギンは歪んでいる黒い穴を眺め、驚き、腰を抜かした。
「国の役人さん呼ぶのよ・・・・・・、さっきの札は国から無料で支給される『次元の穴札』! この先には城内部に続いているの・・・・・・。 こんないっぱいの大男を、人気のない場所から、どうやって王都の留置所まで届けろって言うの?」と、ギンの質問に答えながら、自分のポケットからスタンプを取り出すナナ。
「はいはいお待たせしました~。役人5課『ハイエナ』の者です~。名前は マガ と申します。ご用件は・・・・・・見たままの状況なら、彼らの捕縛と連行らしいですね。」と、次元の穴から、西洋の甲冑で全身を纏った国の役人らしき人が、登場しながら語った。あと、彼の左肩当てには、鼻先が黒く、耳が丸い大きな猫みたいな肉食獣・ハイエナの紋章が描かれている。
ナナ「ええ! お願いしますね」
それからぞくぞくと、次元の穴から、似たような甲冑を着た人たちが11人出てきた。最初のと合わせて12人。
一人の役人が、ギンが召喚したアカカンガルーと、見つめ合っている。
『ゴンッ』と、別の役人が魔力の氷に滑って、弁慶の泣き所を強打した。泣いた。
「くっくそぉおおおおおお!!」と、茶髭の山賊が抵抗するも、役人全員は、山賊一人残らず、紐や鎖で拘束した。
「はい、じゃあこちらが『依頼達成証書』とその『控え』となります~、朱肉はこちらで用意しましたので、『認め』と『依頼ナンバー』の記載お願い致します~」と、マガは、左手に朱肉を、右手に二枚の紙を持っており、その紙には、城の形をしたスタンプ痕が、左下記入欄に記入されていた。
「ええ! でもココらへんに机とか無いから、どうしよう・・・・・・、依頼達成証書なんて大切な書類、地面に直に置いてスタンプとかするわけにもいかないし・・・・・・」と、戸惑いのジェスチャー付きの意見を、マガに聴かせるナナ。
「はい! 大丈夫です!!」と、マガが、 パキンッ と指を鳴らした。
その瞬間、ナナの前にある空間の一部分(1メートルの正方形並の大きさ)が、青色に光だし、固まりだした。そのまま光を発し続けている。
「『エアテーブル』です! 空気を硬質化しましたので、その上に置いてもも大丈夫ですよ~?」と、のんきそうに彼は、自分の術を説明している。
ナナは空気の机に紙2枚を置き、イイキがスタンプとペンを持って、それらの右下記入欄にスタンプして、記載事項にペンを走らせる。
「ありがとうございます! 失礼ですが、賊がギルドの者と騙って、不正に報酬金額等を受け取るケースがございますので、一応名前と所属ギルドの方をお確かめさせてください」と、その中の1枚ある紙を丸め、自分のポーチに入れながら、ナナたちを眺め語るマガ。
※ギルド・・・・・・この世界においては、同業者組合が運営する会社のこと。
彼女達が所属しているのは『魔術師ギルド』で、その会社は、公共又は民間から来る依頼の仕事を、それに属する魔術師に斡旋・仲介する機関。
ナナ「炎精霊の巣窟、ナナ」
イイキ「同じく炎精霊の巣窟、イイキ・ゴブリード」
「構成員全員が、イカレている『炎精霊の巣窟』ですね・・・・・・はい、ギルド名簿にも確認取れました。『控え』のほうどうぞ・・・・・・あれ? ナナ殿達? なぜ臨戦態勢に入ってなさいますか~? 何か気に触るワードでも私言いました~?」と、腰にぶら下げていたぶ厚い本を眺めながら語りだし、視線をナナたちに戻した後、トボけた態度で、首を傾げるマガ。
ナナが『控え』の紙を持ち、丸めてカバンに入れる時、彼女が何か思い出したのか、「ギン君・・・・・・異世界から来てたって話、山賊と君との会話で聞こえたんだけど・・・・・・?」と、視線をギンたちに戻しながら言った。
その瞬間、彼女の瞳に写った光景は、カンガルーと、依頼達成証書を渡した人とは違う一人の役人が、メンチをきり合って、ギンがなだめようと悪戦苦闘する姿である。
「えっ? 異世界・・・・・・あっ・・・・・・あ~あ~あ~・・・・・そうだけど? 何? アッチョやめなよかんがるー!! 役人にメンチきるのやめてくれ、俺が公務執行妨害で逮捕されるからああああああ!!」と、自分が召喚した獣を羽交い締めながら、ナナの質問に答え、にっちもさっちもいかなくなっているギン。
「あっえっ、え~と、異世界から来てる人は、『特例住民票』さえ提出すれば、難民扱いしてくれて、役人の元で保護してくれることもできるけど、どうする?」と、思考停止したナナは、なんとか脳内オートモードで、ギンに説明した。
役人の一人「彼・・・・・・異世界転移者? 私達に同行すれば、仮住居と、仕事を紹介しますが・・・・・・?」
「ああ!? いやいやいいよいいよ!! 別ににに・・・・・・ちゃんと奉公先も、住処もあるから、心配せず! うん大丈夫!! 大丈夫だから!! だから心配しないで、お願い・・・・・・頼む!!」と、何かを怯えたように、そして噛みまくりながら拒否するギン。
役人の一人「ああっ・・・・・・そう、了解しました・・・・・・」
ギンたちが話し合い、カンガルーたちがガンを飛ばしあう中、他の西洋甲冑で身を包んだ役人たちは、なんとか抵抗する山賊たちを、無理やり次元の穴に向かって、連行しようとしていた。
「あっおい!! あの水晶でできた地雷に近づくな!! 音が出るあれだよ!! 頼むから俺たちにそれらを近づけさせないでくれえええええぇぇぇえええええ!!」と、役人に連行されてる山賊の一人が必死に、イイキがばらまいたガラス玉に近づくのを恐れ、叫び乞う。
「ああっ・・・・・・ここに来てから、地味に耳障りな音が鳴るなと思ったらこれですか・・・・・・」と、音を発する真っ赤なガラス玉の一つを、ヒョイッと、つまみ上げ、しげしげと眺めながら、淡々と語るマガ。
山賊の一人「あっおいバカ兵公!! こっちに近づけんな!! 爆発する!! うわあああああああああああああ!!」と、山賊の一人が叫び、山賊全員が、各々自分を連行する役人の陰に隠れて、醜態を晒した。
マガ「これおもちゃですよ・・・・・・?」
山賊一同「・・・・・・は?」
「誰ですか? こんなとこに『マギサイレングラスボール』投げ捨てたの?」と、マガ。
「あっはいっオイラっす!!」と、イイキが エヘヘ と、自分の ボサボサ 後ろ髪を掻きながら、挙手をした。
「だめですよ!? 私達『ハイエナ』を呼んだのに、自分の得物片付けてないの! 呼ぶ前に武器だろうがおもちゃだろうが片付ける!! ギルドの者として基本でしょう!! 踏んで転んだらおもちゃでも危ないですよ?」と、きつい口調で、イイキに注意喚起するマガ。
イイキ「すんません、これから気をつけます」
ちなみにマガの注意勧告を、聞いたナナは、地面に置いてあるゼンマイ草型の大杖を、魔術で浮かせて自分の手元に呼び戻した。
イイキとマガの会話を、ただ唖然とただ呆然と、眺めていた山賊たちのなかで、すぐに額に青筋立てた茶髭の山賊は、張り裂けるような声で「あっあああはああああああああああああ!!? お前確かにこのガラス玉は地雷とかなんとかって・・・・・・ほざいてただろうがぁあ!! おもちゃっなのに騙しやがったのかぁあ!?」と、今までにない激昂振りを見せていた。
「はっ? オイラ嘘なんて一言も言ってませんよ? 『ただの音が出るビー玉』だって・・・・・・『爆発はしませんよ』って・・・・・・やめてくれません? 自分のお粗末な記憶力を棚に上げて、オイラを嘘つき呼ばわりするなんて・・・・・・」と、眉毛と口角を下げた状態で、迷惑そうに山賊の質問を返したイイキだが、山賊全員はなんとなく気づいてしまった・・・・・・こいつ腹の中で、腹抱えて笑ってやがるっと・・・・・・。
イイキと山賊の会話で、大体の事情が飲み込めたハイエナの方々は、
「くすくす・・・・・」
「まじかよ?」
「でっかい図体したおっさんが・・・・・・」
と、ごく小さいがはっきりと聞こえる笑い声を出していて、山賊たちはそれらを聞き逃さなかった。
ここで怒りをぶちまける山賊かと思いきや・・・・・・。
「たったのむ~!! 俺たちを極刑に処してくれえええええええ!! 執行猶予もいらん!! やった悪事も全て吐く! だからできるだけ早くこんな黒歴史に満ちた世界とおさらばさせてくれえええ」と、茶髭の男が、膝を地面につき、マガに向けて手を合わせ、みっともなく嘆願した。
マガは自ら吹き出した息を、山賊達に悟られないように、手で隠し、肩を震わせた状態で「残念ですが・・・・・・この国『マルウェー』の法律上、極刑とは終身刑に当たります。死刑はないのです・・・・・・黒歴史に満ち溢れたこの世界とは、別れるには少々長い時間がかかりますが、あなた達がそれをお求めなら裁判官、検事の方々に申しあげておきます。一生鉄格子の中でしたなら・・・・・・ププッ・・・・・・あなた達の『武勇伝』が、他の人達に伝承される光景を見ずに済みますからね・・・・・・」と、言った。
山賊たちはそれを聞くうちにどんどん青ざめた顔になり、心は完全に放心状態で、役人たちに手を引かれ、ハイエナの半数とともに、次元の穴奥底へと去っていった。
「では、私もこれにて失礼致します。依頼達成証書の控えはしっかりギルドの方に渡しといてくださいね? あとナナ殿は怪我しているご様子なので、よろしかったら城の医療棟で、治療してもらうこともできますよ?」と、ナナと話しながら、次元の穴に親指を指して語るマガ。
「あっ!? いやいいよいいよ~!! お手数ですから!! イヤほんと! 大丈夫だから! 頼む! お願い!」と、焦り、手と首を横に振って、猛烈に拒否するナナ。
「そうですか・・・・・・ではごきげんよう・・・・・!」と、マガは、次元の穴に入った。
ちなみに残りの半数の役員は、次元の穴へと戻っておらず、山賊残党がいないか、荒野の中を見回りだした、もし残党がいたならば、ナナ達が、依頼未完遂扱いとなり、報酬額が『少し』減らされる方式である。
「おい、ナナ!! あんた回復魔術使えないくせに、なんで拒否したんだよ!! ギルドの経費で落ちるのに? どうすんだそのけが?」と、頭のなかにクエスチョンマークができたイイキは、ナナに問いかける。
「チョッ・・・・・・シーシー静かに! 2ヶ月前にウチ、解毒治療のため医療棟に行ったんだけど、そこの待合室にあった本破っちゃったんだよ・・・・・・!」と、自分の人差し指を口に当て、イイキの声のボリュームを制御しようと試みながら、答えたナナ。
イイキ「あーあー・・・・・・」
「・・・・・・でっ、その時待合室はウチしかいなかったから、タイヤ付き本棚の下にある隙間に隠しちゃったの! ・・・・・・それであとから聞いたんだけど、その本・・・・・・院長のお気に入りで置いてあったのだって・・・・・・」と、青ざめた顔で、イイキに小声で話すナナ。
その内緒話を聞いてた役人の一人は、密かに赤いハンカチに書かれてある緑色の録音魔方陣を使い、彼女の声を記録していた。
「・・・・・・おまえもしかして、すっごい極悪人じゃないの・・・・・・」と、ヤレヤレと慣れたように彼女の話を受け止めるゴブリンであった。それと彼は、なぜか彼女の上空周辺を一瞥する。
「足怪我してんなら、オレの魔獣で家まで運ぼうか? 助けてもらった礼がしたい・・・・・・」と、彼女の後ろから声がした。
ちなみにカンガルーは魔獣ではない。
ギンだった・・・・・・額や頬が腫れていて、唇を切っていた。・・・・・・ギンは二枚目のモブ顔であったが、今ではそのイケメンぶりも台無しになっている。
ナナ「どっどうしたのその顔!?」
「いや何・・・・・・カンガルーと役人の殴り合いを止めようとしただけさ・・・・・・気にすんな・・・・・・」と、虚ろな視線を地面に向け語るギン。
イイキ「いったい何があったんだ・・・・・・」
ギンがカンガルーを呼び、その獣の背にナナを乗せ、そのカンガルーが、ぴょんぴょんと力強く、ギルドを目指して、地面を蹴り出した。
彼ギンが召喚した生き物は、魔力で肉体が強化される。女の娘一人担ぐことぐらいなんてことないのだ。
ナナ「それじゃあギルドの方までお願い・・・・・・すみません・・・・・・こっから近いから・・・・・・」
歩行に関する配置は、カンガルーに乗ってるナナが先頭で、そのすぐ背後にイイキとギンが並んでいる。
イイキが具体的なギルドまでの道案内担当で、荒れていたカンガルーの命令は、ギン担当である。
イイキ「すまんね、ギンとやら・・・・・・しかしナナとおんなじようなやつと会えるとはね・・・・・・」
「はっ?」と、イイキの理解不能な質問に、戸惑いを隠せないギン。
「ウチ・・・・・・なんとか異世界転移者の人とお話したかったのよね・・・・・・ギン君と会えて良かったよ・・・・・・」と、何か悲しみを込めた目で、遠くを眺めながら言うナナ。
「いや~良かったら何より・・・・・・ところで何故会いたかったの? やっぱり珍しいから?」と、美少女に会えて良かったとか言われ、デレデレと答えるギン。
彼女がおもむろにポケットから何かを取り出した。長方形型で、真ん中に四角型の水晶みたいな物がはめ込んである何か。
彼女が何かのスイッチを押した瞬間、その真中部分が光だし、ナナと、ナナの同じくらいの年齢を持ちそうな見知らぬ女性が、肩を組んで、ポーズを取っている映像が写りだされた。
スマートフォンである・・・・・・。この世界にとって携帯電話とは、とびっきりレアなもので、一介の一般魔術師が持てる代物ではないのだ。
「ナナちゃん・・・・・・それ・・・・・・」と、呆然としたギンが、ナナに問いかけた。
「ああっこれ? 携帯電話っていうんだ」
「へえ・・・・・・そう・・・・・・」と、完全挙動不審で、受け答えするギン。
「ああっ・・・・・・元の世界の皆と、また会えたらな・・・・・・」と、目頭に透き通るような熱い液体がたまり、それをこぼしながら願いを漏らすナナ。
ギンが、冷や汗をタラタラ流し、引きつった笑顔を作る。
彼の心の中はこうツッコンだ・・・・・・。
「『本物』の異世界出身者来たあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
読んでくれてありがとうございました。
何度も何度も編集し直して申し訳ございません。未熟です!!
ナナちゃんの持っていたスマートフォンの説明については、後々の話で説明させていただきますね。