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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

続きが書けたらいいな置き場

食らい食らわれ愛を紡ぐ

作者: アロエ




今は昔、戦闘狂と言われる民族が暮らす大国がありました。そしてその国を束ねる人外の王には偉大なるコァデル(戦士)が。彼は八本の逞しい腕と様々な方向を見渡す事ができる八つ面、下半身は獅子と大変に勇ましい姿であり、彼の国では彼に胸をときめかせない女性はいないとまで言われる程だったと。


そんな彼には一人娘がおり、修羅の姫君と多くに呼ばれていました。産後の肥立ちが悪かった母君は早くに亡くなりましたが彼女は世を儚むでも呪うでもなく前だけを見据え努力を重ね、自己を研鑽する性格をした強き心の乙女でした。


そんな姫君が身分や外見を偽って隣国のとある妾腹の王子に会いに行ったのはいつの頃だったでしょうか。




互いの肉体の一部を食らい合う事が最愛の証とされる人外の理を、忌避せず姫君に対し好意を示した妾腹の王子。


彼が送ってきた手紙にはその思いと一つの小箱が。中身は翡翠色の虹彩が美しい眼球が入っていて、それを見て姫君は初めて興味を抱いた。


求婚において他のものからも指の数本や腕、足や耳殻など貰う事はあった。しかしこの宝石と見紛う眼球を見て、しかもそれが人外ではなく人の子からの贈り物だと知って、不思議なときめきと甘い痺れが体の内を走った。



この思いが初恋でないのなら、何が恋なのでありましょう。



そして姫君は己の姿を偽って彼の妾腹の王子の元へと向かったのです。





だがしかし。気になる相手には一向に会えず、何故かあれと腹違いの兄弟に足を止められ姫君は不満と怒りに苛ついていた。



しかも何やら婚約者だなんだと間違われ、挙げ句知りもしない女をいじめただという不名誉極まりない言葉を叩きつけられ、彼女のこめかみや腕には血管が浮き出ていた。


扇を掴んだ手はあまりの怒りにぷるぷると震えをきたし、肝心の扇も最早扇として使えないだろう。


そんな彼女の様子を目の前にして一切気付かず、証拠とも言えないようなお粗末なものを突き付け自慢げな顔を披露する男達に、彼女はもう限界であった。



男達が声高に罪を論うのを聞きながら彼女は己の身にかけていた変化の術を解く。


途端に増える腕は父譲りの八つ、顔は父に及ばずとも三つあり己の敵を逃がすまいと鋭く辺りを睨みつける。半身は人のものとあまり変わりはなかったがそれでも十分な程に人外の鬼としての迫力はあった。


それを見た途端に野次馬のように集まっていた生徒は悲鳴をあげ、我先にと逃げ出した。だが王子たちは腰が抜けたらしくビクビクと子犬の如く震え憐れな醜態を晒すだけ。



「私が望むのは貴様のような腑抜けではない」



糞尿の臭いまで垂れ流し始めるものたちを見下ろしフンと鼻を鳴らすと壊れた扇を侍女へと渡し、ようやく彼女は何者にも阻まれずに歩みを進め悠々とその場を離れた。





後に漸く意中の人と出会う事が叶い、また彼が本当に隻眼となっているのを見て彼女は彼の愛を信じることができた。


種族の違いからもしかしたら己の体を傷つけるのを忌避し従者か死人か、はたまたどこかで購入した他の生き物の目ではないかとの僅かな疑念があったのだが実際に会いそれは綺麗さっぱり晴れたのだ。


父のような凛々しさも逞しさも何もないように見える、優男にしか見えない彼を、熱を帯びた恋する乙女の眼差しで見据えながら彼女は自分の体の何が欲しいかと彼に問うた。


彼は若干言い澱んでから小さく答えた。



彼女の美しい丘の片方が欲しいと。



欲を言えば二つとも欲しいでもないが、しかしそれではいずれ生まれてくる子どもが可哀想であるから一つで我慢をするのだと。


それを聞き目を丸くしてから笑い声をたてた彼女は快く承諾し、晴れて彼らは夫婦と相成った。そして夫の国から修羅の国へと帰り二人はいつまでもいつまでも幸せに暮らしたのだそうな。




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