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婚姻の日。  作者: 夜凪
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彼視点

初めて会った日。

可愛い少女だと思った。

まるで黄金を紡いだ様な輝く髪に煙る菫色の瞳。柔らかそうな白桃の様な頬とローズピンクの唇。

2つ下の友人の年の離れた妹は、10人いれば10人が可愛いと称する最高級の人形の様な少女だった。


なぜか私を見て驚いた様に固まった後、白い頬をパァっとバラ色に染めた。

瞳が潤みを帯び、キラキラと輝きだす。

愛らしい人形が、息をする人間の少女に変わった瞬間だった。


その変化に、思わず息を飲み見とれてしまったのは、きっと私だけでは無いはずだ。

同じ様に招待されていた友人の客達から感嘆のため息がこぼれていたから間違いないと思う。

だが、なぜか少女は私だけを一心に見つめていた。


大きなアメジストの様な瞳が、物問いたげにジッと見つめてくるのに、身の置き所の無い様な不思議な感覚に陥った事を覚えている。

数多の敵に囲まれた時よりも身の置き所の無い様な気分を味わったものだ。


なぜ、そんなにも見つめていたのか。

その謎はあっさりと当の本人からの告白で判明する。


「一目惚れ」だったそうだ。


2度目に会った時に、恥ずかしそうに頬を染めながらそう言われた時、内心驚きすぎて唖然とした。

自分という存在と「一目惚れ」という言葉があまりにもかけ離れすぎていて、どんなリアクリョンも取れなかったのだ。


幸い、私の壊れた表情筋は内心の動揺を微塵も外に出さなかったおかげで、どうにか対面は保たれた(この時ほど自分の表情筋の壊れ具合に感謝した事は無かった)。


漆黒の髪と瞳。無表情で目つきの悪い私は体格の良さも相まって、幼い子供や若い女性に怯えられこそすれ、好意を寄せられることなど殆ど無かった。

それなのに、少女はまるで物語の王子を見る様なキラキラとした瞳で私を見つめ、真っ直ぐに好意を伝えてきた。


その都度私は非常に居心地の悪い、けれど決して不快ではない不思議な感情に悩まされた。

少しでも邪険に扱えば直ぐにしょんぼりとして、時にアメジストを濡らす様子を見れば胸が痛んだし後悔もした。

なんとなく思いつきで些細なものを渡せば、こちらが驚くほど喜んで見せ、大切にしてくれた。


年が離れすぎていたし、幼い彼女を可愛らしいと思いこそすれ、それはけして愛情では無かった。例えるならば、自分にしか懐かない愛らしい子猫を戯れに構っている感じ、だったのだろう。


変わったのはいつだったのか。

今でもハッキリとは分からない。


だが、気づけば彼女の面影はしっかりとこの胸に刻み込まれていた。

ふと目に飛び込んだものに彼女が喜びそうだと思い、寒い夜には震えていないかと考える。


華奢な首筋にふと触れたいと思って危うく手を伸ばしそうになった時、ついに私は観念した。

私は彼女を欲しているのだ、と。


意識してしまえば、心が囚われるのはあっという間だった。

友人でもある彼女の兄に相談すれば「ようやく自覚したのか」と笑われたが。


いつの間にか周りは一途な彼女の味方ばかりになっていて、何の障害もなく、私は彼女を手に入れることが出来た。

彼女の両親にまで「ようやく貰ってくれる気になってくれたのか」と感謝すらされそうな勢いだったのには思わず笑ってしまった。


そして、今日。

神殿での誓いは既に済ませ、披露宴の場は整い、私は花嫁を迎えに控え室へと続く扉を開けた。


純白のドレスに身を包み窓辺に置かれた椅子に腰掛けていた彼女はまるで女神の様に美しく微笑んでいた。


たっぷりと見とれた後微笑んでいた理由を尋ねれば、幸せそうに答えてくれた。

「出会った頃を思い出していました。あなたを手に入れるために頑張った日々を」


微笑みに苦笑がもれる。

あの頃、一途に追いかけてくる彼女を実は心待ちにしていたなど、今更言えるわけもない。

思えば、弾む様な足取りを覚えてしまった時から、私は彼女に囚われていたのだろう。


言葉を零せば、見つめる瞳に炎が灯る。

まだ何も知らない無垢な彼女はその瞳がもたらす効果の本当の所など少しもわかっていないのだろう。

客を待たせていなければ、このまま寝室へと攫ってしまいたい。

込み上げてくる情欲をどうにか意志の力で押さえつけ、軽い口づけにとどめる。


「………夜に」

思わず零れた情欲の欠片はしっかりと彼女に届いた様だ。

アメジストがトロリと溶けて私を見つめる。

だから、その目は危険だと言うのに。


エスコートの為には必要ない力で彼女の手をぎゅっと握りしめると、私は客人の待つ広間へと足を進めた。






読んでくださり、ありがとうございました。


ちなみに兄の上司にも当たります。


なんちゃってな中世くらいの世界観……ですかね。

じゃないと、社会人をローティーンが追いかけ回す設定に無茶が(汗)


初めは年の差もあって本当に眼中には入ってませんでした。良くて妹、悪くて愛玩動物的な。

可愛いとは感じていたんで脈はあったんでしょうが、育ってきてもめげずにアタックかけて居たのが彼女の勝因かと(笑)

ちなみに22歳と12歳→29歳と19歳くらいで書いてます。


結婚後はひたすらに溺愛することでしょう。




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