彼女視点。
最初の数行が浮かんで勢いのままに書きました。
一目で恋に落ちた。
流れる黒髪も切れ長の同色の瞳も全てが好ましかった。
言葉を交わして、この気持ちは勘違いなんかじゃないと確信した。
少し低い体に響く声が紡ぐ言葉達は、捻くれて雁字搦めになった私の心にストンと落ちてきたから。
そして、微かに触れた指先に、もっと触れて欲しいと願った時、私は欲情というものを知った。
それは青い炎の様に私の身を焦がした。
だけど、悲しい事に私はまだ12になったばかりで、あの人は20を超えた大人で。
ようするに、ちっとも本気にとってもらえなかったのだ。
私の紡ぐ求愛の言葉はあの人の前で哀しいくらいにカラカラと空回った。
それはもう。必死になればなる程に。
微笑ましいものを見る目で見つめられあしらわれ、私の幼いプライドは酷く傷ついた。
だけど、どうしても諦められなくて私は何度も何度も言葉を紡いだ。
初めての恋に駆け引きなどやり方を知るはずもなく。
否定の言葉に傷つきながらも、決してあきらめず押して押して、押しまくったのだ。
子供の戯言と笑顔で切り捨てていたあの人は、次第に戸惑い、困惑し、沈黙した。
幼い初恋と笑っていた周りも私の必死さに呆れ、やがて絆され、じょじょに援護してくれる様になっていった。
「何を笑っているのだ?」
扉を開けたあの人が、不思議そうに首をかしげる。
白い軍服に身を包んだ彼はとても凛々しく、出会った頃には無かった目尻のシワがセクシーだ。
白いドレスに身を包んだ私は、ゆっくりと首を横に振りながら立ち上がる。
「出会った頃を思い出していました。あなたを手に入れるために頑張った日々を」
背の高い彼が目の前に立てば、私は首が痛くなりそうなほど上を見上げなくてはならない。コレでも、昔に比べればだいぶ近くなったのだけれど。
目を合わせてにこりと笑えば、苦笑が返ってくる。
「あぁ、あの頃はまさかこんな日が来るなんて思いもしなかった」
深くなった目尻のシワになんとなく手を伸ばせば、触れる前に彼の手に捕まって口づけられる。
「こんな風に愛おしく想う時が来るなんて、な」
見つめる瞳の中に昔とは違う確かな炎を見つけ、私の体にもジワリと熱が灯る。
「………嬉しい。ようやく、貴方が私と同じになってくださって」
少し掠れてしまった声でそう囁けば、瞳の中の炎が一層強く燃え上がる。
きっと、私の瞳にも同じ色が映っているのだろうと、ぼんやりと考えていると、一瞬目を閉じた後、困った顔で目を塞がれた。
「そんな目で見るな。せっかくの純白のドレスを乱してしまいたくなる」
囁きとともに唇が塞がれた。
触れるだけの優しい口づけ。
だけど、冷たそうなイメージと裏腹にその唇はとても熱く感じた。
次いで、ゾロリと唇が舐められた。
ぞくりと背筋を熱いものが駆け抜ける。
「………夜に」
囁きが唇の上に落とされ、少しくすぐったい。夜に?
スッと目を覆っていた手が外され、いつの間にか正しい距離へと戻った彼が、私にエスコートの為の手を差し出してくる。
一見、いつも通りの冷静そうな彼の瞳だけが情欲に熱く煙っていた。
「行こう。招待客を待たせるわけにもいかない」
「はい。旦那様」
不承不承、私は頷いた。
教会での誓いは既に済ませた、から。
この人は、もう名実ともに私の物。
これから、披露のための宴が始まるのだ。
そして、夜。
そう、夜になれば心だけでなく、全てを捧げることができる。
たった一つの口づけで乱されてしまった体を叱咤し、そっと彼の手に指先を置いた。
直ぐにぎゅっと握りしめられ、柔らかな仕草でエスコートされる。
歩き出せば、心は踊った。
「………夜、ですね」
囁きに答えは無かった、けれど。
握られた手に、もう一度ぎゅっと力が込められた。
読んでくださり、ありがとうございました。
勢い任せの上に短いです。
エピローグかと自分で突っ込みましたが、続きません(笑)
初恋を成就するのって大変そうですよね。
しかも年上。最初は本気で相手にされてません。けど、頑張ったんです。おめでとう〜(笑