ゲイツとエステルと、レイルーン 4
「――その先は、ヴィアから聞いているだろう」
長い話を、王はそう静かに締めた。
ぼんやりと眺めていた窓の外は、もう紅く燃えていた。視線に気付いて猫が振り返れば、王が真剣な眼差しで見つめていて、きょとんとする。
「この、十年と、そして二年……」
しん、と静まり返る部屋に切り出された声は、固くて重かった。猫が見上げる中で、王はゆっくりと頭を垂れる。
「どんな理由があろうと、独りにしたことは事実だ。苦しめた。人間をやめることを願うほど、悲しませた。――許される、事ではないだろう。許せ、とは言わない。言えない。だが、償わせてほしい」
告げる王の声音は震えていた。泣くのを、我慢しているような声だな、と猫は思って、じぃ、と彼の顔を見上げる。
「……うぅんと、償う、って、なに?」
ゆるりと首を傾げて問う猫に、王は刹那黙り込んだ。
拒絶されることも、罵倒されることさえ覚悟していた彼だったけれど、まさかそう返されるとは思っていなかったから、どう返事をすればいいのか迷ってしまう。
それでも、彼女が人としての記憶をなくしていることを思い出し、苦しそうに眉根をしかめた。
痛みをこらえるような表情で、そうして悲しげに猫を見つめる王に、猫はただ首を傾げるだけだった。どうしてそんな風に見つめられるのか、本当にわからない。だから猫は何も言わずに、王を見上げていた。
「レイルーン。……私は、君を守って、必ず幸せにすると誓うよ。エステルにできなかった分も、君をきっと幸せにして見せる」
「ふぅん」
深い決意の込められた声に、猫はへらりと笑って答えた。
(この人も、ヴィアや魔法使いと同じことを言うんだな)
ぼんやりとした頭の中で、そんな風に思う。
幸せにする。幸せに、なれ。
猫に言われることは、そればっかりだった。
(あたしは、魔法使いと一緒にいて、幸せだったのに、な)
けれど、その幸せは、ヴィアの言葉を借りるなら「歪んだ幸せ」なのだと言う。
歪んだ幸せは、幸せじゃない。幸せのふりをしているけれど、本当の幸せは違うのだと、ヴィアはそう語った。
でも、幸せって、なにかな?
猫は、この数日ずっと考えていた。
猫にとっての「幸せ」は、ずっと魔法使いと一緒にいることだった。
自分が人間だったことも、何もかも忘れて魔法使いのそばにいた。それが、人間だった自分が願ったこと。望んだことだったはずだ。
だから、二年を猫として過ごしてきた。魔法使いのそばで、何も考えずに、穏やかな毎日だった。それが幸せだったのだと、確かにそう思っていたのだけれど。
でも、だったら。猫はそう思う。
幸せって、なんだろう。
魔法使いは言った。人として、幸せになれと。
ヴィアも、王さまも、あたしを幸せにすると言った。
――でも、あたしの幸せって、なんだろう。




