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お月さま色した、猫  作者: 久世ひろみ
5章
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ゲイツとエステルと、レイルーン 4


「――その先は、ヴィアから聞いているだろう」


 長い話を、王はそう静かに締めた。



 ぼんやりと眺めていた窓の外は、もう紅く燃えていた。視線に気付いて猫が振り返れば、王が真剣な眼差しで見つめていて、きょとんとする。


「この、十年と、そして二年……」


 しん、と静まり返る部屋に切り出された声は、固くて重かった。猫が見上げる中で、王はゆっくりと頭を垂れる。


「どんな理由があろうと、独りにしたことは事実だ。苦しめた。人間をやめることを願うほど、悲しませた。――許される、事ではないだろう。許せ、とは言わない。言えない。だが、償わせてほしい」


 告げる王の声音は震えていた。泣くのを、我慢しているような声だな、と猫は思って、じぃ、と彼の顔を見上げる。


「……うぅんと、償う、って、なに?」


 ゆるりと首を傾げて問う猫に、王は刹那黙り込んだ。


 拒絶されることも、罵倒されることさえ覚悟していた彼だったけれど、まさかそう返されるとは思っていなかったから、どう返事をすればいいのか迷ってしまう。

 それでも、彼女が人としての記憶をなくしていることを思い出し、苦しそうに眉根をしかめた。


 痛みをこらえるような表情で、そうして悲しげに猫を見つめる王に、猫はただ首を傾げるだけだった。どうしてそんな風に見つめられるのか、本当にわからない。だから猫は何も言わずに、王を見上げていた。


「レイルーン。……私は、君を守って、必ず幸せにすると誓うよ。エステルにできなかった分も、君をきっと幸せにして見せる」

「ふぅん」


 深い決意の込められた声に、猫はへらりと笑って答えた。


(この人も、ヴィアや魔法使いと同じことを言うんだな)


 ぼんやりとした頭の中で、そんな風に思う。



 幸せにする。幸せに、なれ。

 猫に言われることは、そればっかりだった。



(あたしは、魔法使いと一緒にいて、幸せだったのに、な)


 けれど、その幸せは、ヴィアの言葉を借りるなら「歪んだ幸せ」なのだと言う。

 歪んだ幸せは、幸せじゃない。幸せのふりをしているけれど、本当の幸せは違うのだと、ヴィアはそう語った。


 でも、幸せって、なにかな?


 猫は、この数日ずっと考えていた。

 猫にとっての「幸せ」は、ずっと魔法使いと一緒にいることだった。

 自分が人間だったことも、何もかも忘れて魔法使いのそばにいた。それが、人間だった自分が願ったこと。望んだことだったはずだ。

 だから、二年を猫として過ごしてきた。魔法使いのそばで、何も考えずに、穏やかな毎日だった。それが幸せだったのだと、確かにそう思っていたのだけれど。


 でも、だったら。猫はそう思う。

 幸せって、なんだろう。

 魔法使いは言った。人として、幸せになれと。

 ヴィアも、王さまも、あたしを幸せにすると言った。



 ――でも、あたしの幸せって、なんだろう。




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