幕間~貴族の跡継ぎ息子~
今後は基本的に毎週水曜日くらいでいきます。
貴族社会とは野蛮でいまだ挫かれざる意志力と権力欲を抱いている略奪的人間が、より虚弱な、より平和的な、おそらく商業か牧畜を営んでいた種族に、あるいは古い老熟した文化に、襲いかかって生まれた野蛮人階級である。
つまり、彼ら貴族とは肉体的に優れていたのではなくその意志と欲により精神的な優越性を持った人間であったのだ!
なんてニーチェ先生が言っていた気がする、うろ覚えだが。
どうも貴族のイザークです。
いやまぁ私は貴族たらんとする意志も欲もないのだけどね。
それはさておき私はこの一年出来る限りの知識の収集に努め、尚且つ悪餓鬼を演じることで将来の跡継ぎとして不安を与えることができた、充実した一年であったと思う。
今後もこの調子で成長していき後は弟などが出来ればそいつに家督を押し付け私は無事作家に成れるだろう。
完璧だ、私の計画に狂いはない。
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「最近、イザークちゃんはどうかしら?」
私はイザークちゃんのお世話係りの侍女のマーサに尋ねた。
母親だけど婦人会への出席や旦那の代理としての挨拶回りで忙しいのよ、なんでもアントンの一件以来あまり人を信じられなくなったらしく身内である私を多用しているの。
まぁ元々イザークちゃんはお外が好きらしくインドア派の私とはあまり遊んでくれなかったけど、私は日焼けしやすい体質なのよ。
「いつも通り知識欲旺盛で質問に対応するための予習が大変なくらい色んなことに興味津々です。」
イザークちゃんはどうやらお利口さんらしい。大変うれしいことね。
「ですが、たまにハッと何か思い出したような顔をした後に慌てておかしな事をし始めるのが不思議ですね。」
「おかしな事?」
「ええ、おとなしいはずのイザーク様がまるでやんちゃな下町の子どものようなイタズラなどをするのです。」
う~ん?何故かしら?あのお利口さんのイザークちゃんが……
もしかして、
「私たちを気遣ってくれているんじゃないかしら?」
「はぁ……?」
「きっとあまりに大人しい子だと、私たちが元気の無い子なんじゃないかと心配したりしてしまうかもしれないと思ってわざとはしゃいでみせているんじゃ?」
「なるほど、確かに。あの賢いイザーク様ならあり得ますね。」
「でしょう。やっぱり賢い!流石うちの息子だわ。」
「そうであるな、流石我輩達の息子だな!」
ドアを開いて飛び込んで来たのはうちのバカ旦那だった。
「ちょっと盗み聞きとか趣味が悪いわ。」
「違うぞ、たまたま聞こえてきたのを聞いただけだ。」
ダウト!腐っても貴族の屋敷であるここの防音がそんなに甘いわけがないわ。
でもまぁ許してあげましょう、この人も忙しくて気になる息子とあまり接することが出来てないのだから。
「はいはい、ドアが開いていたのかしらね。」
「うむ、きっとそうであろう!」
「?」
マーサだけは首を傾げているけど気にしないでおきましょう。
「して、マーサよ。イザークのやってきたおかしな行動とやらをもう少し詳しく教えてくれないか?」
「えーと、最近ではお昼のつまみ食いでしょか?他にも魔法を見てみたいと駄々をこねたりして……」
そこまで言ったらマーサは頬っぺたが融解したかのようにだらしない顔になってしまった。
「おーい、マーサ……」
旦那がマーサの顔の前で手を振ってようやく我にかえってきた。
「……っは!旦那様、失礼しました。」
「何か思い出していたようだが?」
「いえ、なんでも有りません。」
「では気を取り直して、一番記憶に残ったおかしな行動は?」
「そうですね、スカートめくりでしょうか?」
「「!!」」
私と旦那二人して、すっごい驚いた。あのイザークちゃんがそんなことをするなんて……
「何時ものごとく、ハッとされてからしばらく悩みに悩んで決死の覚悟を決めたような顔をされてからエイっと。その後顔を真っ赤にして走り去って行きました。」
それってつまり……
「きちんと女性に対して興味を持っていて尚且つそれはあまり表に出してはいけないことであると理解して恥じらいを持っているってことね。」
「そうであるな、大変素晴らしい跡継ぎだ。欲に溺れるような放蕩息子にはならなそうな良識とそれでいて奥手になりすぎない程度に女性への興味を持っているのだろう。孫の顔も早く見れるやもしれぬな。」
「えぇ、将来が楽しみです。」
跡継ぎ息子は周囲が将来を期待するほど出来のいい子として
温かく見守られながら育っていく。