寸劇 ~臆病者の侯爵様~
今宵、お送り致します演目は臆病者の侯爵様。
臆病とはその人を守る本能、しかし、それが募りに募ると獣性にもなりうるのです。
果たして侯爵様の臆病は人の道を踏み外してしまうのか?
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「寝不足なのだ、なんかこわい声が聞こえてくるの…」
そうイザーク様が不安そうな顔で仰られる。可愛…おっと危ない。
これぐらい小さいころなら葉っぱや風鳴りが何だか恐ろしい物に感じることなどよくある話だ。
なら今日の夕げの時にでも奥さまに一緒に寝てもらえるか伺いましょう。そう考えるていると。
「父上には はずかしいから 言わないで。」
恥ずかしがるには早いけれど男の子なんだからそうなんだろうと思い夕げの後に伝えることにする。
それと花瓶の花が萎れているので替えて欲しいと言われた。替えの花を用意するまではイザーク様の提案で大きめの壺を飾っておくことにします。
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ふぅ、仕込みはできたかな?
ちなみにわが家では一歳から一人部屋になる。
貴族としての自覚云々やら一人立ち出来るようにだとかで家訓の一つらしい。
なんでも過去に世継ぎが一人しかいないのにそいつがマザコン過ぎて結婚したくないとかほざき血筋が絶えかけたから早めに一人立ちさせようとするようになったらしい。
とにかく久々に母上と寝ることになったが、母上は美人ではあるけど母親って認識がちゃんとあるからか変に緊張することもなく普通に一緒に寝れる。まぁ恥ずかしくはあるけど。
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「奥さま、今日イザーク様が一緒に寝…」
「いいわ。」
済ました顔でマーサの話に食いぎみに答える。
この家の家訓で一緒に寝られなかったけど私は自分の子どもとしてイザークちゃんを愛している。
まぁ家訓だけど一日くらいなら破っていいでしょう。
バカ旦那(領主)に聞かれたら「一日だけ家訓を破る?まぁまだ一歳ぐらいだし仕方ないな家長である私も一緒になら許可しよう。」とか言って3人で寝るはめになる。
まぁ旦那のことはもちろん好きだけど寝ると歯ぎしりが煩いのよね。
夕げの時に伝えられて旦那の前で聞かれてたら面倒だったわ、ナイスだわマーサ。
ちなみに歯ぎしり問題でケンカして以来寝室は基本別々にしてあるから抜けてもバレないでしょう。ふふ、今夜が楽しみだわ。
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夜、イザークちゃんをぎゅっとしたり背中をさすったりして楽しみながら寝ていると私の方が眠くなってきちゃった。寝顔、もう少し見てたかったな。
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寝静まった屋敷の廊下に足音が、響く。
アントンである。彼は領主の息子に暗示をかけ、将来的に王政府に反感をもたせようとしている。
反感を持たせることで無謀までいかなくとも関係が悪化してギクシャクしてくれるだけでも同じような特産品を持つミリーカの方に利益が流れてくるであろうと考えている。
何故暗殺などせず暗示なのかというとこの領地でのNo2の立場は使えるものだから下手に大事を起こして失いたくない、だがミリーカからかなりの額の金を貰っているし何もしないわけにはいかないと暗示を試みているのだ
アントンが口を開こうとした瞬間。
ドゴッ
アントンの後頭部に衝撃が走る。何だ!と考えるまもなく意識が闇に落ちていく…
「はぁはぁ、やったか?」
緊張からか荒い息を吐きながら降り下ろした花瓶を手に佇むのはこの領地の領主であった。
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すこし時間を遡る。
「妻の霊圧が消えた!?」
などと訳のわからないことをいいながら起きたこの男は領主であり侯爵であるイワン・ドミトリエヴィッツ・リカードであった。
彼は領主として自分には敵が多くいると思っていたためネズミの足音の気配にすら驚くほど感覚が鋭敏なのである。
その為隣の部屋にいるはずの妻の気配が無いことに少し寝てから気づいたのである。
なんとなく不安に思い一応探して見るかと屋敷を探して見ようと部屋を出る。
過去自身の臆病でやり過ぎたことがあるので従者の者はつれずに探しに行く。
トイレで腹を痛めているのでは?調理場でつまみ食いをしているのでは?テラスで月を眺め…いや無いな。などと考えながら探していると一つ思い当たる、
息子と寝ているのでは?
………羨ましい!!
行かねば!息子のいる寝室へ!
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息子の寝室の前に着き、起こさないように慎重にドアを開ける。
そこには先客がいた。
メイドかと思ったが背格好が男だ、
暗くてよく見えないが恐らくそうだろう。
こんな夜更けに息子の寝室に謎の男?
臣下の者は勿論息子の寝室には入る用事などないだろう。
であればこいつは…
刺客だ!!
知らぬところでも恨みを買ってしまうのが大貴族というものだ、きっとそうに違いない!
確認をしようと声をかけたかったが、もし刺客であればこちらに気づいた途端に慌てて息子を殺すか人質にとるかもしれぬ。
我輩が殺らねばならぬ、どのみちプライベートな空間には許可なく入るなと言ってあるので入ってきた奴が悪い。
パニックに陥り真っ白になりつつある頭の命令で近場に有った壺を手に取る。
動悸が鼓膜を激しく揺らすかのような緊張、それでも息子の危機を取り除くため刺客に音をたてないようそっと忍び寄り、気づかれる前に降り下ろした!
ドゴッ
確かな手応えを感じ刺客と思われる男が崩れ落ちる。我輩はやりとげたのだ。
遺体にとりあえずカーテンをかけ。
妻にイザークと共に自分の寝室に行くように言い含めて起こす。
妻に事情を話すと不安そうにしたいたので今夜は警備をつけることにした。
そして皆を集め初めて遺体の顔を見ると
よく見知ったアントンだった。
我輩はなんと取り返しのつかぬことをしでかしてしまったのか!
己の右腕を自らへし折るなど…
イワン侯爵は悲嘆に暮れる…
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さて、間違ったり何かの手違いで自分の大切なものを自ら壊してしまう。悲劇のテンプレですね。
どうも主犯のイザークです。
今回のシナリオの中心は安眠妨害おじさんアントンの排除でした。
まず、マーサを使いお父様に内緒でお母様を呼ぶ。
私が何故お父様に知らせなかったのかというと時間稼ぎの為である。
アントンが暗示をかけにくるのが体感で零時すこし前ごろ、
お父様の夜の分の仕事が終わるのが午後11時半(昼間は挨拶回りやらで書類を夜にやっているらしい)
このまま11時半に私の寝室にお父様が来てもアントンはいないので暗示も何もなく一日が終わる。
もし来そうになってもお父様が気づいて追い返して終わりである、根本的に解決してないのでまた一人で寝るようになるとアントンは現れるだろう。
だからお母様の居場所を伏せてこの広い屋敷をさまよってもらうことで時間を調節したのだ。
ちゃんと事前に臆病者で心配性なお父様の事は知っていた。
マーサから面白い話があるとこんな逸話を聞いていたのだ
気配に鋭敏過ぎて深夜にトイレに行ったお母様に気づき心配になるあまり屋敷のものを全員起こして探させる一大事としたという話だ。
ちなみにお母様はトイレで寝ているという間抜けなところを侍女に発見され、そっと寝室に戻され、後日この事件は闇に葬りさられた(知らないのは爆睡していたお母様だけ)。
そのお父様の行き過ぎた危機感にアントンが殺されるまでが今回の私のシナリオだ。
まぁ殺されなくても寝室に何故いたのかと問い詰められたら解答出来るか怪しいし出来ても多少は信頼を削げて身辺調査されてボロがでたりするのでは?
と上手くいかない可能性もそこそこあった。
こんな不確実な方法をとったのは安眠妨害おじさんアントンは腐っても右腕であるから正攻法では排除は躊躇されるかもしれないからだ。
だが緊急時の事故なら?シカタナイよね?
かくしてアントンは無事安らかに眠り
私の安眠も返ってきたのだった。
そしてお父様は自分の腹心を失った喪失感を感じながらアントンの身辺整理を臣下にやらせず自分の手でしていたらで隣の領主とのやり取りの手紙や二重帳簿等の不正の証拠のを見つけ悲しみを怒りに変えたりしたらしい。
その後お父様は人間不信がなって
「はやく、後を継がせて隠居したい。」
が、口癖になってしまった。
……末長く頑張って下さい。
チマチマ進めると言っておいて4話にして
早速謀殺してしまった(´・ω・`)