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劇作家による転生劇  作者: アルヒトバルス
3/16

貴族の役

この世界が異世界であったという行幸はおいといて、その文明水準について話そう。


両親が晩餐で使っていた銀食器の作りの精巧さから推察するに最盛期である17世紀初期頃の物に近い感じを受ける。

前世で一時期銀食器にはまって蒐集していたのだ。


ふむ、文化のレベルは分からんが前世の世界ではこの50年くらい前の西暦1548年に聖史劇ミステールが禁止されてから古代ギリシアを手本に悲喜劇が始まったりしたはずだ。

ちなみにこれはフランスの話で他のとこはもう少し早く始めてたりする。私がうろ覚えしてる限りではだが。

この世界でももう人文主義者による劇は作られているだろうか?

もし作られていれば最低でも50年ほど出遅れてしまっているだろう、急がねば。


私は雪の日は真っ先に外に出て誰も踏んでない雪に一番最初に足跡を残すのが好きなんだ。


要約、早く誰も書いたことのない劇を書かせろ。



幸いにして我が家はそこそこの領地の主であり、これほどの家なら跡継ぎにならなくても仕送りでいくらか貰えそうだ。


金の問題も大事だが創作活動の時間が減るような家督など継ぎたくない。

よって今後は放逐されない程度の横暴もしくは暗愚な息子を演じよう。

方針も固まった事だ、家の中で劇に使う為の知識を身に付けねば。

しかし、まだ喋り始めるには早い。

私は一年間ほど言葉を喋れないふりをして雌伏の時を過ごした。

そして少し雌伏し過ぎていたことに気付いてハッとさせられたりしたがここでは割愛しよう。


_______________


赤ん坊だが何故か覇気を放っている、そう私は初めて見たときから感じていた。

何か生まれて間もないのに自分のやるべきことを理解していてそれだけを考えているような…これが貴族の息子としての覇気なのか!と戦慄したものだ。

そんな貴族様の子供も世話係として接してる今では可愛い弟のようだけど。



今その子は屋敷の庭で遊ばれている。


「マーサ、これはなんだ?」


そう大義そうに言いながら服の袖を掴んでくるのがここの領主様の息子のイザーク様でございます。


イザーク様は言葉ではなくもう簡単な文を話せます。2歳と数ヶ月でここまで話せるのは賢いんではないでしょうか?


最初は「パパ」「ママ」などの簡単な単語を話始めるのも遅くみんな心配していましたが、ある日私が「何か言ってみて下さいな」なんて冗談半分で言ったらハッとした顔をされたあと「マーサ」と私の名前を呼んで下さいました。


「パパ」「ママ」を最初に言わせたがっていた旦那様と奥様の目がとても怖かったです。



おっと質問にお答えしなければ


「それはタカットの花でございます。」


何故かこのイザーク様は草花の名前や鳥の名前をよく聞きたがるそして続く言葉は…


「この花はいいものか?わるいものか?」


最初にこの質問をされたときポカンとしたのは仕方ないだろう。

この質問の意味は『一般的に縁起が良かったり受け入れられたりしているものかそうでないか』という意味である。


「わるいものでございます。」


質問はまだ終わらないのを私は知っている。


「なぜわるいものなのか?」


イザーク様は何故かわるいものを掘り下げて聞きたがる。


「それは、このタカットの花はどこにでもすぐに生えてくる雑草だからです。花壇の邪魔者なのです。」


「ふむ。」



そう答えると満足そうにして再び庭を歩き回る。



_______________


「ふむ。」


私はここのところ庭を歩き回り草花や鳥についてばかり質問していた。

これらのような物を例えに使う台詞を考えたりすることもあるやもしれぬからだ。

比喩とは単純だが効果的に現状などを伝えることが出来る、もしこの世界の庶民に教養があまりなくてもよくみる草花などを使った比喩だと難しい台詞まわしよりインパクトを与えられるだろう。



知識を身に付けねると言って書庫が真っ先に思い付かれるかもしれないが残念ながら貴族といえどそこまで2歳児に世界は甘くない。


赤ん坊のころ広告チラシを口に入れたりしたことはないか?

まぁこれは私だけかもしれないがようは世間一般の子供はなんでも口に入れてしまうとされているので書庫になど入れぬのだ。

将来的には題材にしやすそうな歴史関係などの本などを読み漁りたいものだ。


このような事情により仕方なくここのところこうしてフィールドワークに励んでいるのだ。


そんな風に最近の生活を歩きながら振り返っていた私はたと気づいた。



あれ?このままではいけないのでは?


今まで質問をしたりするだけで手のかからない子供でいるのだ、このままでは好奇心旺盛だが大人しく真面目そうな子といういい子ちゃんのレッテルを貼られかねない。

私は暗愚な息子でなければならぬのだ。

急に意味もなく走り、喚くような正しくアホな子供でなければ。


しかしそのように走りまわったらつたないバランス感覚では体勢を崩して転ぶのは目に見えている。


だが私は、今走らなければならない!なぜなら今の私はアホな子供なのだ理由もなく走り出すアホな子になければならないのだ!さぁ演じろ、最高のアホを!!


思い立ったらすぐに実行だ!


だがその前に


「今からばか騒ぎしながら転ぶから手当ての用意をしてくれ。」


これでよし、傷からバイ菌とか入ったら大した免疫の無い体では重い病にかかったりするやもしれぬのでマーサにあらかじめ手当の用意を頼み走り出す。


「キーーン!」


両手を翼のように広げて全力疾走(速いとは言ってない)ついでになんとなく思い付いた言葉を叫んでみる。


ズテっ


痛い!痛みをあまり感じたことのない幼い神経だからかすごく痛い。


「痛いよ~マァザァ…」


不覚にも素で泣きながら手当てを求める、衛生兵はまだか!


「大丈夫ですか!イザーク様!?」


どうだ?普通のアホの子だったろ?


涙が止まらないがこれでいい。自分の役柄を演じきったことで達成感を感じていた。



________________


その時まで普通にテクテクと散歩していたイザーク様が急に振り返り


「今からばか騒ぎしながら転ぶから手当ての用意をしてくれ。」


などと意味不明なことを言ったと思ったら次の瞬間


「キーーン!」


と奇声を上げながらとてとてと走り出し、ズテっと転んだ。

まさに意味不明!な状況に少し呆けるも


「痛いよ~マァザァ…」と呼ばれ慌てて駆け寄り手当をする。


幸いにして軽い擦り傷程度だけでしたので手当てもすぐ終わりましたけれど何故このような事をしたのだろうかと疑問に思う。


確かに行動自体は小さい子供としてよくあることでしょう。


だけど、あらかじめ冷静に転びます宣言をしてから転びにいく子はいないだろう。


疑問を解消すべく素直に聞いてみることにした。


「なぜ急に走り出され、転ぶと言ってから転ばれたのですか?」


________________


「なぜ急に走り出され、転ぶと言ってから転ばれたのですか?」


その質問は達成感に浸る私を貫いた。今ならブルータスに刺されたカエサルの気持ちを理解できると思えるほどの不意討ちだった。


「ふぇ?」


泣いたあとなので声がうまく出せない。


しまった、アホの子を演じる為に走り出したが初めに転ぶと宣言して走り出す子どもはいない!


保身に走ったのが失敗だったのか、走る先をアホの子に絞らなかった私のミスだ。

うーん?とりあえず何かマイナスになりそうで横暴そうなことを言わなければ!


呼吸を調え尊大にいい放つ。


「上に立つものとして、ぐみんの子どものようなことをしてみたのだよマーサ!」


どうだこの態度!とっさのことだが民を愚民と見下し嘲るような言動だろう?こんなヤバイ子どもが上に立ってはいけないとマーサもそう思…


「素晴らしいお考えです!貴族の中の貴族です!我が身を落としてまで下々の民の目線で事をお考えになられるとは!」


って下さい!マーサしっかりしてくれ!


ふぅ……ステイクール、なら方針を変えよう。


「今のは嘘だよ。本当はちょうちょさんが見えた気がしたからだよ。」



苦しいがこれならまちがいない。乱暴ではないが普通にアホの子だ。


「まぁ!もう嘘をつけるなんて!貴族の必須技能を身に付けて始めているとは、流石はイザーク様でございます。」


……マーサそれを子どもに言うなよ…嘘は確かに大事だけどさ。

大丈夫なのかこの国?ますます後継ぎを回避したくなった。


結局この後も評価の下方修正は結局出来なかった。


今後はアホの子を演じる時もあらかじめきちんと計画を練ってから動いて頭が残念そうな真似をしようと心に決めた。


目指せ!慎重なアホな子!



________________



さて 現在は深夜零時頃(多分) 突然ですが


貴族とは何でしょうか?それは特権を備えた名誉や称号をもっていて何か社会的地位が高い人達であるとされます。また劇においてはしばしば野心を抱いて魔女や亡霊に踊らされる哀れな役である。


今は私もそんな貴族の一員になった訳だがもうヤバイ、現在進行形でヤバイ、ヤバingである。


「いいかい?君は遠縁だが王族の血筋が流れている…君は王になれる人間なんだ…」


最近、私が寝ているふりしてスルーしてるけどこのおっさんが寝ている(と思われている)私の横でマインドコントールもどきの暗示か催眠術か、横でブツブツ言ってくる。こっわ!!


このおっさんさんはお父様の右腕のアントンとかいう奴だ。


王族の血筋の件が本当かは知らんがこいつは俺が国家転覆を将来的に企むことで利益を得れる奴の手先だ。


失脚を狙うとしたら特産物とかが似通っているようなライバル的な別の領主の手先だろうか?それとも因縁や私怨?


本来のこいつの画くシナリオ通りだと差し詰めこいつが魔女で私がマクベスとなってしまうのか?


まぁ有り得ないけれど、マクベスのような野心がないんで。

あ~だるい、叫んで追い出したい。だがそうしない、何故なら…


「最近、ミリーカの治安の悪化が進んでおる。こちらにうじを集めなければ…」


こんな感じでさらっとトンでもないことを暗示の合間に独り言で言うからである。

前回は物価の価値の変動を教えて(愚痴って)くれた。


ちなみにミリーカが隣の領地の地名なので今こいつは隣の領地側の人間であることが確定した。


今回の独り言は俺としても放置出来ない内容である。

少しの間治安が悪化する程度ならいいがもし長期になると領地の評判が落ち俺の仕送り(もらう予定)が減るかもしれない。


しかし、ここにきてまたしても2歳児の体が邪魔をする。

ここで父上や母上、マーサにダイレクトに教えるなどしても父上の右腕である以上アントンはすぐには処分されまい。

むしろ追い詰められたアントンが強行策、たとえば子息(私)の殺害とかに走るかもしれない。


それに暗示を受けているということの意味を理解している素振りで相談すると確かにアントンは窮地に立ってくれるのかもしれない。

しかし現在2歳の自分が暗示もしくは催眠を受けていることを理解できたと分かった時点で体はこども頭脳は大人並なことがばれ世継ぎの座がより強固なものになってしまうかもしれない。どうしたものか?


……いや、考えるだけ仕方ない。


私に出来ることはたった一つ

劇を書くことだけだ。



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