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劇作家による転生劇  作者: アルヒトバルス
2/16

産声は開幕のブザー

その屋敷では待望の世継ぎが生まれようとしていた。


「あぁ、我が子が生まれる時に男はなにも出来ないと追い出されるとはなんたることか…性差別反対!」


この領地にて最も高位にある男がまるでサンキュロットのように出産現場の前で抗議の叫びをあげている。


「旦那様、それ以上騒がれますと屋敷からも追い出しますよ!」


部屋から侍女長の声が叫び返される。


「我が家なんですけど!しかも一番偉い人なんですけど!?」


男の悲痛な叫びを騒音と認定した侍女長が本気で追い出そうと考えた時、助産婦から頭が見えてきたと言われやかましい男(領主兼雇い主)は放置して奥方を励ます。


「もう少しです奥様息を吸って吐いて力んで出してください。」


「くぁ、くっふー、ふー、」


ラマーズ法など無い。漠然としたアドバイスともう少しという言葉を信じて踏ん張る。


そうしてついに


「オギャア オギャア」


嬉しいのか悲しいのかはわからない、ただ力一杯の産声を響かせて一つの命が産み落とされた。




_____________


息が苦しい、目が開かない、どうなっているのかわからない。ただ漠然とした不安と安堵を感じ外界の空気を感じた自分は気づけば大声で泣いていた。


それから数日感覚がはっきりしないまま、意識も安定しないまま、何かを飲まされたり持ち上げられ揺すられたりしてまるでおままごとのおもちゃにされたように暮らしていた。

これは全身大火傷の影響なのだろうか?全身に焼けるような熱さを感じ続けるものと聞いていたので拍子抜けだがこのままおもちゃのようにされるままなのだろうか?

まぁそれも仕方ないのだろう作家の端くれにもかかからず物語の無い世界を望んだ私に物語の神様がお怒りになったのだろう。

天罰が下ったのだ。


そうしてただ時が過ぎた。




_______________




目の感覚が回復した自分は混乱していた。手足は縮み、指は膨れ、自身の足で立つことすら叶わぬこの身を人は赤ん坊と呼ぶだろう。


糞尿を垂れ流し体の感覚も鈍化していたのは火傷のせいではなく赤ん坊になっていたからだと受け入れたのは目が見えるようになってからしばらくしてからだった。


輪廻転生?生まれ変わり?まぁどうでもよいか。


_______________


それからは乳母車で運搬されるだけの散歩や高い高いと唱えながら行われる幼児虐待を涙の一滴も出さずに笑い飛ばすなど赤ん坊としてやるべき職務を果たし一才の誕生日を迎えた。


会話は英語ともロシア語ともつかない言語だが海外の劇を見る為にある程度は語学力に覚えがあるお陰かなんとか理解できている。

実際一般的な日本人の英語と同じくらいの片言でいいなら会話できそうだが最低でも一才10ヵ月までは欠片たりとも会話する気はない。


なぜなら我が家はかなり立派なものでどうやらヨーロピアンな貴族らしく下手に優秀だと世継ぎに確定されそうだからである。


私は劇作家に終身雇用(自己申告制)されているのでそれ以外のめんどくさい職に就く気はないのである。

その為にはここで無能を演じる俳優になるのも辞さない。



_______________


「今日で我が息子のИЗUАКもついに一才を迎えた。今後も我が一族の繁栄を願って、乾杯!」


自分の名前は恐らくイザークなのだろうがまだ固有名詞に確信がもてない。

ちなみにこの家ではパーティーはしょっちゅう開かれるので私の誕生日もただの口実なのでは?と邪推してしまう。

そしてこのパーティーでも私はお集まりいただいたお歴々に喋りかけれないのでやることがない。

椅子にぐでっと座りビ〇ケン様にでもなったような扱いをされて適当なところで眠っておいとまさせてもらう。


そういえば大分前から気づいていたが周りの様子を見るに私は

タイムスリップをしているかもしれないのだがまぁ大した事ではない。




______________


「さて、あの子も眠ったし大人の話をしよう。」


館の主の呟くような小さな宣告は不思議とホールに響き渡る。


このホールにいる貴族はもちろん親しい友人知人でもあるが同時に競争相手や商売敵でもある。

しかし、競争にもルールがある。

今回の集まりのメインイベントはそのルールの改定であった。


その内容は著作権についての取り決めである。

近頃宮殿や上流貴族の間で吟遊詩人が活躍しているが吟遊詩人達がそれぞれ歌物語の所有権を主張し始めたので生まれた制度だった。この新ルールの内容は大雑把に云うと


1、新しい物語を伯爵以上の身分の貴族に披露する。


2、貴族はその新しい物語を気に入れば王へとあらすじを送る。


3、王が興味をもてば御前で披露され物語を登録しその作者の物とする


4、登録された物語を他者が歌いあげる度に作者に著作権使用料を払わなければならない。

また、この著作権使用料には所得税として税金を6割までかけてよい。


5、著作権は世襲こそ出来ないが無期限である。



といった内容だ。

今回の問題は4つ目の文にある税金を6割という文にある。

この税率だと今は安定している各領主の力関係が崩壊しかねない。

この著作権制度だと作者を領地に閉じ込めれば最大で6割の税を取り続けることができる。

国中で公演されるような物語を作った作者は正しく金の卵を産む鶏となるだろう。

今回は集まった全員がそれぞれの領内にどれ程の詩人がいるかを教え、上級貴族が下級貴族にトレード(断れるかは腕次第)を持ちかけたりしてバランスをとるための集会である。勿論不参加も可能だがそんなことは恐れ多くて出来るはずがないというたぐいのものである。


既得権益だけに飽き足らず更なる利益を追い求める汚い大人たちの長い夜が始まった。



_______________


その翌日の晩一歳と一日目の夜、夜中に今まで夜泣きをしていないことに気づきあわてて起きたが今更遅いと気づき諦めて二度寝をしようとしたとき窓に月が二つ見えた。

最初は見間違いかと思い見直したが完全に完璧に二つの月だった。

赤ん坊の身に生まれ落ちたりしたが流石にこれは有り得ない、目が見えてからタイムスリップかと考えていたが地球ですらなかったなんて……最高ではないか!

パクりだとか何番煎じだとか言われることなく作品を作れるのではないかと心の底から喜び、そして歓喜のあまり一歳にもなって初めて夜泣きをしてしまった。

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