God’s only excuse is that he does not exist
神のできる唯一の弁解は、神が存在しないということだけだ
朝少し早起きして昨日読めなかった『讃えある(略)』に書いてある魔導に関する注意事項を読んでいく。微妙に読み残すのはやはり気分が落ち着かなく早く読み終わってしまいたかったのだ。
注意事項だけは今までの尊大な口調(文調?)が急に真面目なものに切り替わっていてふざけた著者だと思っていたが真剣に読む人に気を付けてもらいたいという気概が見てとれて好感が持てた。
注意事項としては
1 魔法も魔術も魔力を使うが自分の魔力を消費魔力が越すと倒れたりひどい場合は精神に後遺症を残すほどのダメージをうけてしまうので無茶はしないで自分の魔力が減り疲れる感覚を覚えること。
魔力を増やす方法もあるがここでは書かないから『讃えあ(略)』の中級編を読むように
何故書かないのかと言うとかつて魔力の増やしかたを先に教えて魔力をある程度増やしたことで調子に乗った子が力量を大きく越えた魔導行使で廃人になってしまったことがあったのだ、
だから今の魔力がそれほど無いうちにキチンと魔力の残量確認の術を身に付けて欲しい。
万が一倒れるにしても小規模な魔導で後遺症を残さない程度に倒れて魔力切れの怖さを感じておくことが大切である。
2 魔法は自分より上位の存在との交渉のようなものであるので生半可な気持ちで使おうとはしないこと。何か理由があって魔法を使う際にはその交渉で最後の一線は見逃して下さるよう取り付けること。最悪の場合は魂を削られる怖れもある。
3 間接的であれ、これで君も大魔導師である私の教えを受けたのだ
魔導を探求する心と魔導の力に飲まれない理性を忘れずにいてくれること。
…文がうるさいとか思ってごめんなさい先生
私は著者の評価を上方修正して
その後の製本に関する苦労話と自慢話の詰まった後書き30ページを見て評価を下方修正して戻しておいた。
ちなみにこのふざけた著者の名前はマールンというらしい…
こうして『讃(略)』を読み終わって外を見るが今日も雨だった。
結局この雨は数日間続いてメリーの部屋にあった興味のある本はだいたい読めるだけの時間を手にしたが、対価として童話を延々聞かされ読まされたことで精神的に疲労困憊である。
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「おい!ジュリウス、テメーこの仕事手伝えよ!」
「これは兄さん達の仕事じゃ…」
「うるせぇ!黙って手を動かしやがれ!」
雨のせいで家に閉じ込められ自分の仕事だけやって逃げ出すことは出来ない、狭い家の中では兄たちに捕まってしまう。
兄たちに殴られるのが恐いからすごすご鉋を手に取り材木を削る。
腕を動かしながら考え事をする。最近は兄たちの嫌がらせもひどくなってきている。どうにか兄たちより強く…
イザークから聖書を貰ってから近所の教会のおじいちゃん司祭に会って話を聞いたら、このラテール語をぜんぶ覚えれば貴族の家庭教師や司祭になれるらしい。そうすれば兄たちが将来ただの木工職人になって僕だけは教会や貴族の後ろ楯のある立場になれる。かもしれない
でも、それじゃ遅い。もっと手っ取り早く力が手に入らないだろうか?
貴族といえば、イザークはどうだろう?格好こそかなり仕立てのいい大商人でも買えないことはない格好だが、あの気品は明らかに中級貴族以上のものだと感じる。
そんなイザークのことを利用すれば…
僕は何を考えているんだ、友達を利用するなんて
「イテっ」
材木のささくれが戒めるように爪の間に刺さる。
思わず指を押さえてうずくまってしまう。
これも天罰なんだろうな。
雨のせいか考えもサイテーな方へところがってしまう。早くイザークに会えないかな。
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さて、避暑の為にこちらに遊びに来たがもうあまり出立までの日がないことに気付いた。
今日ジュリウスに会ったらそれを伝えようと思い朝食を食べる。
それと私がいなくなる前にメリーを紹介しておきたい。友達の友達も多分友達になれるだろう、メリーも見たところ友達があまりいない様子だからな。
いつもの時間にメリーとともにジュリウスとの待ち合わせの場所である腰掛け岩(今、命名した)に行くと既にジュリウスはいた。少し目を見開いていて見慣れない女の子を連れている私に驚いているようだ。
「やぁ、ジュリウスいつもより早かったな」
「雨の日に多めに仕事をして余裕を作っていたんだ。それで、そっちのお嬢様は?」
「あぁ、友達のメリーだここの近くに住んでいるんだ」
「は、はじっ、はじめまして、メリーです」
「はじめましてメリーさん、見たところイザークの妹さんかな?」
「メリーは同い年の友達だぞ?こんな可愛い妹、ぼくには勿体ない」
メリーがニマニマしてるが私はロリコンではないので別になんとも思わない、目茶苦茶可愛い友達出来て転生して良かったなんて叫ぼうとしてない。すていくーる。
まぁ友達自慢はさておき、雨のせいなどもありようやく二人を合わせられた。私はそろそろ自分の領内の屋敷に帰るがこの二人はお互いに気軽に顔合わせ出来る距離にいる、仲良くしてほしいものだ。
「そうだ、ジュリウス。ぼくはこの夏の間だけここに遊びに来ていたんだ。だからもうそろそらかえらなきゃならないんだ」
「なんだって!せっかく友達になれたのに…」
「まぁ今生の別れではないし、また来年には遊びに来るさ。それにメリーは近くの大きな屋敷に住んで…」
突然ジュリウスはビクッとした
「イザーク…貴族と平民はほんとはこんなに仲良くするものじゃないんだ」
ジュリウスが呟いた、やはり貴族だとは分かるものなのか。
「君は確かにいいやつだけど、やっぱりダメなんだよ」
「そうなのかい?知らなかったよ」
私は軽く流そうとしたがジュリウスはそれを許さなかった
「あぁ、だろうね。君は貴族にしてはいいやつ過ぎる。僕が君の貴族としての力にすがるかもしれないのに、利用するかもしれないのに!」
ふむ、どうやら何か良心の呵責と闘っているらしい。
「なるほど、それが何だ?」
「え?」
「利用したければすればいい、私はその程度で友達を見捨てるほど小さい人間ではないし、そもそも私もいつか君を利用するかもしれないだろ?」
主に役者として、美形はやっぱり固定客が出来る要素だからな。まぁ内容で客を呼びたいけど先ずはイメージアップも大事なのだ。
「そんな、僕なんかじゃ何も君にあげれないよ…」
「いや、体があるだろう?」
そのセリフを言われた瞬間のジュリウスの驚きようと怯えようは強姦魔に襲われた生娘のような絶望的な表情だった。メリーは首を傾げているし私も首を傾げている。
「そ、そんな体が目当てだったの…」
「すまん、ごめん、悪かった!言葉のチョイスを間違えたな!」
危うく男色の気があると思われるところだった。確かにジュリウスは男というには違和感があるほどの美少年だが私はノーマルだ。
その弁解のために言葉を尽くすうちにシリアスな雰囲気はどこかにいってしまった。ちなみにその間にメリーは腰掛け岩に座って足をぶらぶらしだしていた。
「ところで何故急にそんなことを恐がったんだ?」
「それは…イザークから貰った聖書を司祭さまと読んでいるうちに自分の欲に気づかされて申し訳ない気持ちになったんだ。君はこれを見越して聖書をくれたんだろ?」
そこまで考えてはいないかな
「その聖書には書かれていないけどね
求めよ、さらば与えられん
探せよ、さらば見つからん
叩けよ、さらば開かれん
って教えもあるんだよ、だから目標に向けてただ前に進んでみることは悪いことではないんだよ」
まぁこの世界ではまだ誰も言ってないかもしれないが
慈悲深き我等が主なら赦してくれるでしょう
「まぁ真面目に勉強すればメリーの家庭教師になったり出来るかもしれない。少し時間はかかるけど貴族と繋がりを持てることはきっといい力になるさ、デメリットなんてないだろ?」
「いや、それじゃ遅いんだ」
そういって捲った袖の下では白い肌に斑に青が浮かび上がっていた。
お待たせしましたm(._.)m