避暑
遅刻&短くてスミマセン_(._.)_
自然は王侯も金持ちも大貴族も作らない。
あぁルソーの言葉だ、ググる必要さえない。
私の眼前に広がる風景は自然とこの言葉を思い起こさせた。
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あの子ども集会から一月程経ち、夏の気配がにじり寄ってきている今日この頃。
メリー(正確にはその母親)からの便りでこの国の避暑地として有名なヴェリアスへと遊びに行くことになった。
滞在期間は二週間と長めだが向こう側からの要望らしいので前の人生含めて久しぶりの旅行となりそうだ。
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『 ヴェリアスは小さい町だがフロンサス地方でもっとも美しい町の一つと断言してよい。
尖った赤レンガの屋根をかぶった白い家々がなだらかな丘の斜面に広がり、 背の低い葡萄の木々がその青々と茂る葉で斜面の起伏を描いている。
ヴェリアスの北部には春先にも雪化粧をしているような険しい山がある、そこからの寒流は町を貫き町民の生活に清涼感を与えて、この町の足元にあるドィール川へと合流する。
これほどの町だが観光客のみなさん油断はいけません。
悲しいかな、この町に住まう人々は実に我欲が強く醜い。
この町の人間は実利を重視し住民の頭の中にもこの薄汚い損得勘定がこびりついているのです。
町のみずみずしい美しさ惹かれた他国の旅人は町の人にも清々しさを期待する。
この町の人々と話してみると確かに彼らも美しい町を愛していると言うが、なぜかを聞くとこの美しい町は観光客を誘引し宿屋を潤し、さらには観光客になら相場を知られていない地元の物を高めに売り付けられるからだというあんまりな解答を得られた。』
ふらふらと屋敷を歩いていたら見つけた、テラスのイスに置いてあったガイドブックのようなものを流し読みしている。
おそらくお母様のものだろうがこんなものお父様に見つかると「え、我輩仕事だぞ?え?…あ、置いてくの…そう。」って言ってたお父様に追い討ちをかけることになるから拝借しているのだ。
一通り流してマーサにお母様に返すように言っといたのでお父様も追撃を食らわずに済むだろう。
これほど言われる程の観光地となると期待で心が浮き足だっているのを感じる、遠足前の子どものように眠れなくなりそうだ。
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旅行当日
「いやだぁ!我輩も行くんだ、離せ!止めるな!主人の言うことが聞けんのか!!」
「いやだぁ!離せ、馬車に半日以上だと!おしりが4つに分裂しちゃうだろ!」
朝っぱらから叫ぶ愉快な貴族様はもちろんみなさまご存じの私、
イザークです。
そして隣で叫ぶこの方はこのリカード家の元当主であらせられるイワン・ドミトリエヴィッツ・リカードその人であり、私のお父様である。
「御当主様には仕事があるので戻って下さい!代官のほとんどをクビにしたのはあなた様でしょう!」
「ぐふぅ…」
人間不審になった時、衝動的に代官をクビにしたせいで今このリカード家の庶務はきちんとお父様自身でやらなければならなくなっている。
「ほら、行きますよイザーク様。楽しみになされていたではないですか?」
「ぐぬぬ…」
私は旅に行きたいが馬車だけは…馬車だけはやめてほしいのだ…
「ほら、いきますわよ。」
お母様に右腕を左腕をマーサに持たれてなすすべもなく運ばれる様は有名な宇宙人のようだった。
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そして、途中で休憩を挟み、馬車で脳をカクテルにされたりすることじっくりことこと約12時間、朝早くに出て夕方にようやくヴェリアスにたどり着いた。
「ほわ~」と口から何か魂的な物を吐き出しているのが
私です、イザークです。
マーサやお母様も長らく馬車に乗っていたのは同じだ
、俯瞰してみんなを見ていたがお疲れのようだ
ってホントに幽体離脱しかかっているじゃないか!
そんな一人コントをしながら気をはっきりさせ
周りを見回すと
「ほぅ」と心を奪われる程の美しい景色が網膜に焼き付けられた。
自分は今ヴェリアスの中でも高所に位置するこれからお世話になるメリーの家の別荘の前に立っている。
石造りの白の家々、葡萄の木々の緑、町の用水路が乱反射する光それら全ての色彩を夕焼けが柔らかなグラデーションをもって調和させている。
黄昏、誰ぞ彼、町の中を行き交う住民の影もゆらゆらとした神秘性を夕日から与えられノスタルジックな風情を醸し出すのに一役かっている。
私はこの風景を見ただけでここに来たこと、あの長い馬車旅をしたことには価値があったと思えた。
私はここで誰と出会い、接して、どんな夏休みを過ごすのだろうか?
ちなみに
主人公の屋敷からヴェリアスまではだいたい東京から静岡ぐらいまでの距離と考えています。