とある大学生のキャンパスライフと日常。
1.――構内にて――
「あ、榎本君。こんにちは」
「おっす、半沢。珍しい所で会ったな。いつもは大体東棟で会うのに」
「だねー」
「二限はこっちで講義?」
「そうだよ。現代文」
「あー、あれかー。山科教授の?」
「うん。あの先生、話が面白くて好きなんだ」
「あのおっさん、妙なウンチクに詳しいよな。講義に関係ないことまで」
「そうそう」
「あと女子生徒相手だと扱いがあからさまに違う」
「そうなの?」
「女の子にはめちゃくちゃ優しいくせに男相手だと超鬼畜」
「んー、そんな感じしないけどなぁ?」
「いや、全然違うな。半沢みたいに可愛い子には特に猫被ってやがるんだ、いい年こいてあのエロオヤジ」
「えーと、それは色々反応に困っちゃうコメントだね……」
「は? 何が?」
「あーうん、何でもないよ、何でも」
「?? おう……?」
「それで続きは?」
「それでな、俺なんかこの前、膨大な量の資料をデータ化するのを手伝わされたし。昼から夜の十一時くらいまで、ぶっ通しで」
「わー………」
「その前は、機材を運ぶのに研究棟から教室まで四往復させられたな。コピー機とか旧型だから重さハンパねーの」
「た、大変だったんだね」
「大変なんてもんじゃないぞ、あれは。まあ、その後、飯オゴってもらったからいいけどさ」
「あ、そうなんだ」
「おう」
「何食べたの? ラーメンとか?」
「いや、寿司」
「お、お寿司? お寿司オゴってもらったの?」
「うん」
「………ちなみに、それはもちろん回る方のお店だよね?」
「いや、回らない方。生まれて初めて入ったぜ。生け簀とかあるのな。めっちゃ旨かった」
「………………」
「ん、どしたー?」
「あの………それって逆に気に入られてるんじゃないかな」
「え? ハハハ、そんなバカな」
2.――友人宅にて――
「―――あ゛あ゛あぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「(ビクッ!)な、なんだよ、どうした?」
「………レポートが間に合わねえ」
「は?」
「レポートが提出期限に間に合わねえんだよおおおおおっ!!?」
「なんだ。何かと思ったら、そんな事か」
「そんな事……? そんな事って言った、今!?」
「言ったよ。いや、確かに言ったけど詰め寄って来んじゃねえよ、気持ち悪りぃっ」
「お、おまえってやつぁ………! 俺はなあ!! 俺は、このレポート落としたら留年しちまうんだよおおおおおおおっ!!?」
「それこそ、そんな事だよ? 勝手にダブれば?」
「おまっ! おまえっ、親友の危機にそれは薄情じゃあるまいか!?」
「知らん。自業自得だろう」
「またダブる訳にはいかねんだよ! 大学辞めさせられちまうよ! 助けてくれよ、榎本ぉ!!」
「あ~? うざいなぁ。面倒だなぁ。……………………………って、“また”?」
「あ、うん。俺二回ダブってるから」
「え? 浦安、おまえ年上だったの!?」
「そーだよ? 知らなかった?」
「しかも二回ダブり!?」
「いえすあいどぅ」
「おお………おまえ、俺の想像を凌駕するバカだったんだな」
「いや、ちょっ。バカだから留年したとは限らんでしょっ?」
「違うのか?」
「うん、違わないけどね!!」
「チィース。浦安先輩、チィース」
「あっ、やめて! 心が痛いから、そういうのホントやめて!」
「あー面白い」
「でも榎本に先輩って呼ばれるのちょっと嬉しい! もっかい呼んでみて!」
「わーうぜえ」
3.――自宅にて――
「ゆ~ゆ~ゆゆ~」
「………………」
「ゆゆゆ~ゆゆ~ゆ~」
「……おい、咲」
「ゆ~。あ、駿介君。おかえりなさい」
「おう、ただいま。で、なんだ、その変な鼻唄」
「え? 鼻唄?」
「歌ってただろ、今」
「歌ってないッスよ?」
「何か、ゆ~ゆ~言ってたじゃん」
「言ってないッスよ?」
「……………」
「ッスよ?」
「(イラッ)いや、まあ別にどうでもいいんだけどな。ちょっと頭がおかしくなったのかと思っただけで」
「どうでもいいとか言わないでっ。誰もいないから油断してオリジナル鼻唄作ってただけだからっ。無関心は破局への第一歩っ。あと頭はおかしくなってません。だから、どうでもいいとか言わないでっ」
「寂しいヤツだな……じゃあ俺はどうすればいいんだよ」
「もっと構ってください」
「面倒くさいな、おまえ………つか最近よく来るな」
「ふふり。合鍵もらっちゃったから。もう、いっそここに住んじゃう勢いですよ」
「それはやめろ」
「えー……なんで?」
「狭い」
「一言!?」
「つーか一緒に住むならちゃんとそれ相応の部屋に引っ越すし」
「おお……それは夢が膨らむね」
「金がないからすぐには無理だけど」
「世知辛い!!」
「世の中そんなもんだろ」
「いやいや、なんのなんの愛があればその程度の障害―――」
「なんともならねえよ?」
「ですよねー」
「まあ実現するのは卒業してからかなー」
「わー、とっても現実的ー」
「そのへんが妥当な線だろ。愛は金で買えないとよく言うが、金もまた愛では手に入らない」
「駿介君かっけえ!!」
「……いや、特にかっけえ事言ったつもりはない」
「私にとっては365日かっけえの」
「あーはいはい」
「流された!? 無関心は破局への―――」
「それは、もういいから。それより俺、腹減ったんだけど」
「あ、はーい。すぐ準備しまーす」
4.――実家にて――
「うぃーす、ただいまー」
「お兄ちゃーん、おかえりなさーい」
「よう、涼子、久しぶりだな。ちょっと背伸びたか?」
「うん! 前に会った時から三センチ伸びたよ!」
「そうかそうか。成長期だもんなあ」
「えへへー」
「親父とおふくろは?」
「二人で映画観に行ったよ。ご飯食べて来るから帰りは夜だってー」
「あー、そうなんか。子供ほったらかしでデートね……相変わらずだな、あの人達は。翔はどうしたんだ?」
「翔ちゃんはねー、保育園のお友達と動物園に行ったよ。お友達のお父さんが連れてってくれるんだってー」
「へー。まあ、皆元気そうで何よりだ。そういや涼子は遊びに行かなかったのか? せっかくの休みなのに」
「うん。でも、早くお兄ちゃんに会いたかったから涼子はお留守番してたんだぁ」
「………おまえは良い子だなあ。お兄ちゃんは嬉しいぞ」
「嬉しい? お兄ちゃん、嬉しいの?」
「おう。よし、頭を撫でてやろう」
「わーい」
「おかげで久々の里帰りを一人寂しく過ごさずに済んだぜ」
「だいじょうぶ。涼子がいっしょにいてあげるからね。ごはんも作ってあげるー。あのね、涼子ね、カレー作れるんだよ」
「お、マジで?」
「すごいでしょー」
「おお、すげーなー」
「えへー、がんばって作るから楽しみにしててね」
「ありがとな。よし、じゃあ、飯の時間までゲームでもするか」
「うん! するー!」
「じゃあ部屋まで競争だ!」
「だー!」
「よーい、」
「どーん!」
了
SS四連発。