バカップルとデートとその後
「うぇーす。お待たせ」
「大丈夫。まだ時間前だから」
本日、日曜日。時刻は十一時の十分前。少し早めに到着したんだけど光月はもう待ち合わせの場所で待っていた。
「いつから待ってた?」
「十分前くらい?」
「相変わらず早いなー」
言いながら苦笑すると光月も同じように笑った。光月とはもう何回もデートしてるけど、待ち合わせで光月が俺より遅れた事はほとんどない。俺も体育会系なもんで時間には気をつけてる方(遅刻なんかしたらキャプテンにぶっ飛ばされる)なんだけど、光月はそれにも増して時間前行動が染み付いてる。ご両親の教育の賜物なのかなんなのか俺が十分前行動なら光月は二十分前行動って感じだ。以前聞いた限りは当の本人は特別なことしてるつもりはなく「私も十分前行動してるだけ」とよく分からない事を言われた覚えがある。けど、まあ早めに行動する分には何の問題もないのであんまり気にしてない。
「さて、じゃあ行きますか」
「うん」
と、いうわけで手を繋いで歩き出す。今でこそ、こんな風にさらっと手を繋いだり出来るけど付き合いたての頃は、もー照れ臭くてしょうがなかった。お互い異性と付き合うのは初めてだったから経験値ゼロ。男の俺がリード出来れば良かったんだけどそんな余裕もなく二人で探り探りしながら、ちょっとずつ進展してきた感じだ。でも、それも俺達らしいよな、と今となっては思うのだ。細っこい光月の手を握った左手が誇らしい。
「なに?」
感慨に耽っていたら光月が不思議そうにちょこんと首を傾げた。超可愛い。これが俺の彼女なんだぞ、と自慢して回りたい。手を繋いでる時点で周りの男性からは恨みがましい視線が集まってるので、それで満足しておくけどな。フハハ、どうだ羨ましかろう?
「いやあ、俺は幸せものだなあと実感してただけ」
「………」
そう答えたら光月の顔がほんのりと赤くなった。意味を察して照れてるらしい。口数は多くないけど基本的に素直な光月は結構感情が豊かに表れる。
「どっちかと言うと多分私の方が幸せ者だと思うよ」
「どぅふ」
で、そんな事言うもんだから、こっちまで照れる。変な声出た。
「いや、どう考えても俺の方だろ。光月と出会えただけでもラッキーなのに、それどころか付き合えるなんて俺の人生における最大の幸運と言っても過言じゃないね」
「それは明らかに過言」
「これについては反論は受け付けませんよ? 光月は俺みたいな平凡な男にはもったいない彼女っすよ」
「……ソーマが平凡なら世の中の男性の大半がとても気の毒な事になると思うんだけど」
「え? なにそれ、どーいう事?」
「わからないならいい。それでこそソーマって気もするし」
「???」
よくわからんけど光月がいいって言うならまあいいか。
そんな生温い会話を続けながら俺達は最初の目的地までの道を歩いた。
ーー
まずは腹ごしらえ、という事で駅に置いてあった持ち帰り自由の情報誌を見ながら二人であれこれ吟味した結果、最近評判のラーメン屋に入ってみる事になった。ネットのグルメサイトでも評価は上々。前から気になってた店だったので楽しみだ。
場合によっては一時間待ちもザラらしいんだけど運良く俺達はそれほど並ばずに入れた。その後、あっという間に満席になって外には行列が出来てたのでよほどいいタイミングだったんだなと思う。
「いらっしゃいませー! 二名様でしょうか?」
「あ、はい。二人です」
「それではこちらの席へどうぞー!」
入って早々ビックリしたのは対応してくれた店員さんが金髪の可愛い女の子だったからだ。しかも金髪といってもヤンキーみたいなのじゃなく多分天然モノのブロンドヘアー。
顔立ちは日本人っぽいのでハーフか何かだろうか? どっちにしてもラーメン屋で働いてるのが意外に感じてしまうくらい綺麗な娘だった。年頃は多分同年代くらい。もしくはちょっと上かな?
彼女は俺達のオーダーを取った後、くるくると飛ぶように軽いフットワークで店内を回りながら奥へと引っ込んでいった。
その後、食べたラーメンは看板に偽りなしーーどころか想像以上でめちゃくちゃうまかった。
「あー、腹一杯。すげえ美味かったな」
「うん。餃子も美味しかった」
大満足の俺達は店を出た後、感想を言い合う。そして、あの金髪の店員の話題になる。
「あの店員さん、凄く綺麗な人だった」
「だなあ。味も良くて、あんな店員までいたらそりゃ評判にもなるよなあ」
見た目だけじゃなく、明るく元気。仕事は丁寧かつ手際もよかった。
あと途中で何かチャラい感じの男に声かけられてたけど上手くあしらっていた。……『結婚してて子供もいるので』とか言ってたのが聞こえたけど、それはさすがに冗談だろうなあ。いくらなんでも若すぎるし。
「また一緒に来よう。次はつけ麺も食べてみたい」
「もうちょい近かったら通うんだけどな。惜しい」
ともあれ、腹も膨れた。いざ美術館である。
ここからは歩いてだいたい十五分くらい。腹ごなしには丁度いい。
ーー
「でけえ……」
美術館を見上げて思わず呟いた。それくらいデカかった。
国内でも有数の規模を誇るらしい美術館はただ巨大なだけでなく、その外観からしてアーティスティックだ。曰くフランスだかイタリアだかの有名建築デザイナーと日本でも随一と言われる建築家がコラボレートして設計?建築されたらしい。なんか色々テーマとかモチーフがあるらしいんだけど、正直言っちゃうと俺にはよくわからない。ちなみにここまでの情報は全部光月の受け売りです。
で、その光月はと言うと、まだ入場前なのに目をキラッキラさせながら、ふんすと鼻息荒くパンフレットを熟読中。こんなに分かりやすくテンション上がった光月は非常にレアなので、もう少し眺めてたいけどそうもいかない。受付でチケットをもぎってもらい並んで入場する。
今、やってる展示は『マリア=サルマナ展』。ヨーロッパを代表する女性の水彩画家で、光月はこの画家さんが大好きだと公言してやまない程のファンである。今までにも小さな展示に何度か一緒に行った事があるので、俺もそれなりに知識はある。詳しいとは口が裂けても言えないけど。とりあえず綺麗な絵だなあ、という小学生みたいな感想しか言えない俺は感性がお子様なのかもしれない。
そんな俺をよそに光月はかぶりつきで猫まっしぐらって感じで絵を見つめている。……本当に好きなんだなあ。
実のところ、俺は絵よりも絵を見てる光月を眺めるのが好きだったりする。だって、女の子が好きな事に打ち込んで熱中してる姿って魅力的じゃん? しかも、それが好きな子だったりすれば尚更じゃん? 光月の嬉しそうだったり楽しそうだったりする表情を見てるだけで、俺はすごく幸せな気分になれるのだ。
って話を友達にしたら『……末期だな』って言われた事があるけど、別に俺だけじゃないよな? きっと世の恋人達はみんなそうだよ。うん、普通普通。
ともあれ、絵画鑑賞に没頭する光月鑑賞に勤しむ俺。楽しみ方は違えど、俺達は有意義に美術館での時間を過ごしたのだった。
ーー
で、だ。
やってきました、本日最後にして俺的にはメインイベント!! 我らが高天原ストーリア、首位攻防戦にして一部リーグ昇格を懸けた今シーズンーーいやチーム創設以来最大の大一番ですよ!
「オーオー、オッオオー!! オーオーオーオー!!!」
試合前から鳴り響くサポーターたちによる応援チャントの大合唱に乗っかって俺も叫びまくる。すでに汗だく。ちなみにレプリカユニホームとタオルマフラー完備であります。イェア!!
「すごい熱気……」
同じくレプリカユニホームに身を包んだ光月が隣で呟いた。応援の迫力が凄すぎてビックリしてるらしい。まあ、前に来た時はストーリアがまだ弱い時だったし、ましてや今日はビッグマッチだから無理もない。……とりあえず俺はテンション上げすぎて光月を置いてきぼりにしないように気をつけないと。
「お、出てきた出てきた!」
とか考えてる間に選手が入場してきた。
「って、ふぉおおおおおっ!? 秋葉さん、スタメンやーん!!」
その中に、ある選手を見つけ喜び&驚きで変なノリになった。
「ソーマの好きな選手?」
「イエス!! 聞いたことない? 秋葉 雄吾」
「テレビで見た事あるかも」
秋葉 雄吾ーー元日本代表のエースストライカーであり、光月の反応を見てわかる通りサッカーを知らない人でもこの選手だけは知ってたりする名選手。世界大会にも何度も出場してる。そしてその初出場時には日本人初ゴールを決めた男。その背番号9は今や栄光の背番号と言える。まさに日本サッカー界のレジェンド! いや、むしろ神と呼びたい!
齢40にして未だ現役を続け、今季からストーリアに加入するやチームを躍進させた立役者だ。ストーリアに入団するって聞いた時は嬉しかったなあ。
好きな選手はたくさんいるけどこの人は別格。子供の頃、それこそサッカー始めた頃からの一番の憧れで、目標だ。
ちょっと前に怪我をしてからは暫く欠場が続いてたんだけど……まさか、今日復帰するとは!
「やべえ、俺、明日死ぬんじゃなかろうか」
滅多に来れない生観戦が初昇格に立ち会えるかもしれないビッグマッチで、しかも秋葉さんまで観れるなんて幸運にも程がある。
「そんなに嬉しいの?」
「嬉しい!」
実は俺、子供の頃に秋葉さんに会った事がある。俺がまだ日野の家に引き取られる前で施設にいた頃の話だ。
当時、選手として全盛期を迎えていて、人気ももう物凄かった秋葉さんが施設に訪問する機会があった。確か他の選手も何人か来ていたと思うんだけど、そっちはぶっちゃけよく覚えてない。
試合でゴールを決めたら幾ら寄付、みたいな形で秋葉さんは若い頃から俺みたいな子供達に対しての支援活動みたいな事を積極的にしてて、その時もそういう活動の一環だったんだと思う。
とりあえずハッキリ覚えてるのは女性の職員が何人か歓喜の余り失神した事と、施設の運動場で秋葉さんとサッカーした事だ。もちろん他の奴らも一緒だったから秋葉さんの方に特別俺が印象に残ってたりはしないだろう。たくさんいる子供達の中の一人ってだけで。
ただ、それでも俺にとってはその時から秋葉さんはスーパーヒーローだ。少しだけ話す機会があって、その時に言われた言葉を俺は一生忘れないだろう。光月にも教えた事がないくらい大事な言葉。俺がサッカーを始めるキッカケになって、今も続けていられる理由でもある。
と、まあそんな訳で俺は秋葉さんの大ファンなのだ。勝手に知り合い気取りで秋葉『さん』って呼んだりしてね。正直嬉しすぎて既にちょっと泣きそうです。
「喜んでもらえたならよかった」
「おう! マジで親父さんにはよろしく言っといて」
「うん」
光月が笑って頷いて、俺が変わらず感極まってる間に試合開始の笛が鳴り響いた。
ーー
結果から言うとーー試合はスコア3ー1の快勝で高天原ストーリアは来季からの一部リーグ昇格を決めた。秋葉さんが決勝点挙げて俺、大絶叫&感涙。案の定、途中から光月を放ったらかしにしちゃってたので、それは大反省。
「あー……叫びすぎた。声ガラガラ……」
「のど飴舐める?」
すっかり日が落ちて暗くなった帰り道を光月と並んで歩いていた。今は駅から光月を家まで送り届ける道すがらである。
喉を押さえながら言った俺に光月が取り出して渡してくれたのど飴を受け取る。
「ありがと。貰うわ。つか、よくのど飴とか持ってたな」
「うん。こんな事もあろうかと用意しておいた」
「光月さん、さすがっすね」
「ふふり、ソーマの事なら大体わかる」
のど飴を口に放り込んで、光月のドヤ顔を見つめる。付き合い始めて結構経つけど光月には俺の事をすっかり把握されてしまってる気がする。それはそれで嬉しい事なんだけど、俺が知ってる光月の事より、光月が知ってる俺の事の方が多分はるかに多いような。それが彼氏として情けなくもあり悔しくもあり、複雑な心境である。
「光月、今日は本当にありがとな」
「??? なんのお礼?」
コロコロと口の中で飴を転がして感謝を口にすると光月は不思議そうにする。
「今日の試合のチケットさ。親父さんがたまたまもらってきたって言ってたけど、本当は光月が頼んでくれたんだろ?」
「………」
「ははは」
真顔で目を逸らした光月が面白可愛くて、思わず笑ってしまった。
「光月は正直者だなあ」
「……バレるとは思わなかった」
よく考えたら、まあ分かるよね。だってタイミング良すぎる。昇格とか秋葉さんの復帰と重なったのは偶然だろうけど。滅多にない俺の休みとたまたま手に入れたチケットの日程が合うとか都合良すぎだろ。
多分、俺のスケジュールに合わせて用意してくれたんだろう。光月に甘い親父さんならちょっとくらい無茶してくれそうだし。
「ダメ元でお父さんに頼んでみたら、その次の日にはもらってきてくれた」
親父さんパネェっす。
「久しぶりのデートだからソーマに楽しんで欲しかったので」
「そういうのはどっちかって言うと男側の考えることの気がするけど、光月に甘えて何も考えてなかった俺が言えることじゃありませんね、はい」
彼氏の見栄も何もあったもんじゃないわ、俺。
「今日、ソーマは楽しかった?」
「ん? うん、そりゃあもう。これ以上ないくらい」
ビシッとサムズアップ。
可愛い彼女と美味しいもの食べて、お互いの趣味に触れて、憧れてる人の活躍も見れた。最高に楽しくて幸せなデートだった。
「なら何の問題もない。私も楽しかったから」
握った手にギュッと力が込められて、
「ラーメンも美味しかったし、ずっと見たかった絵も見られたし、サッカーも面白かった」
ニッコリと光月が優しく微笑む。
「でも一番は今日一日、ずっとソーマと一緒にいられたから」
「光月……」
「だから凄く楽しくて、凄く嬉しかった」
「……こ」
こっ恥ずかしいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!
ヤバい。照れ臭さで人は死ぬかもしれん。
いや、だってこれ光月さん、完全に俺を殺しに来てるよね?
「ふふ、ソーマ、照れてる?」
「逆に、これで照れない奴がいたら見てみたい」
「うん、私も恥ずかしい」
「なんでやねん」
普段、割と淡々としてるくせに、たまにこういう恥ずかしいセリフをさらっと放り込んでくるから油断ならないのが我が彼女殿である。しかも、そのくせ自分で言っといて照れるとか意味がわからない。
「あー……とりあえず、あれだな」
「うん?」
「光月には何か今日のお返しを考えないとな」
「私が好きでした事だから気にしなくていいよ?」
「いいや、それじゃ俺の気が済まない」
「本当にいいのに」
光月は遠慮するけど俺も引く気はない。お返しとは言うものの本音は俺も光月を喜ばせたいだけだ。光月が言った事と同じ。
本気で嫌がられない限りは実行します。
「光月は今、何か欲しい物とかして欲しい事ある?」
「しかも直接訊いてくるんだ」
「うーん。こっそり用意して驚かせたりっていうのも楽しそうではあるけど」
サプライズプレゼントとか目論んで、それで喜んでもらえたらいいけどもし外したらお互い悲しいし気まずいじゃん?
「俺、隠し事しても光月にバレない自信ないし。それならまだストレートに訊いた方が良いと思うんだ」
「なるほど。ソーマは顔に出るもんね」
「ポーカーフェイスってどうやるのかサッパリわからん」
サッカーの試合中なら駆け引きもするし出来るけど、普段は無理。特に光月には敵う気がしない。
「まあ、何か考えといてよ」
「……それって、何でもいいの?」
「俺の経済力で賄える範囲なら」
つまり大した事は出来ないって事だけどね。
「大丈夫。お金は全然かからない」
「お? 何かある?」
「うん」
「いいねいいね。言ってごらん? お兄さんに言ってごらん?」
「ええとね」
一瞬の逡巡の後、
「ギュってしてほしい」
「ギ、ギュ?」
「ギュ」
「ここで?」
「ここで」
「なう?」
「なう」
抱き締めろと? たしかに周りに人通りはないけど、こんな天下の往来で抱き締めろと、そう仰ってるんですか、光月さん。
「そ、それはさすがに恥ずかしいんですけど」
「何でもいいって言った」
「言ったけども」
そんな羞恥心を煽られる要望が来るとは思ってなかったんだよ!? もっとこう、普通にプレゼントとかねだられる想定だったのに!
「ギュ」
「ええええぇぇ」
なんとか逃れようと方策を考えてたら、向こうから抱きついてきた。
「いやいやいやいやいや」
マジか。光月さん、マジなんか。
俺は手は繋げても抱き合うのは恥ずかしいシャイボーイなんだよ。そこんとこ分かってる?
「………」
…………
「………………」
……………………
「つか、長くね!?」
「ソーマー充電してる」
「なにそれ!?」
「ダジャレ」
え、えーと。ああ、ソーマとソーラー充電とかけてるのか。って、上手くない上に更に恥ずかしいわ!
…………
「満足した」
「それは何よりですね……」
その後も長々と俺に抱きついた後、離れた光月はホクホクした表情でとても満足気だ。その代わり俺の精神力がガリガリ削られたけど。
「実はもう一つ、希望がある」
「ああ、もうこの際だから何でも言ってみ」
もはや俺に恐れるものはない。
開き直りに近い境地でそんな風に考えていたのだけど、
「……ソーマともっと一緒にいたい」
光月の吐き出した言葉に俺は目を丸くした。
「え、えーと?」
「………」
「以前にも申し上げた通り俺も部活ばっかで中々一緒にいられないのは非常に申し訳ないとは思っているんですがーー」
「ううん。それはいい」
「へ?」
「いつも言ってる通りソーマにはサッカー頑張って欲しいから」
「それじゃどういう事だってばよ」
「今日。これから」
今日? これから?
「デートの続きって事か? いや、でもこの時間だとどこもやってないだろ。せいぜいカラオケかファミレスとか? つか、今からだと相当遅くなるぞ?」
光月の希望なら聞いてやりたいけど、あんまり遅くなって家族に心配かけるのはよくないよなあ……。
どうしたもんかと悩んでいると、光月がふるふると首を横に振った。
「私の家で」
「光月の家?」
「うん」
「………」
一瞬、何言ってるのかと思った。
「今日、私の家、お父さんもお母さんも法事で出掛けてて帰ってこないから」
「……え!?」
何その情報!? なんで今このタイミングでそんな事言いだしたの!? いや、わかるけど! わかるけど、本当にこれ正解なんすかね!?
「だからソーマさえ良ければ今晩はずっと一緒にいられる」
うん。多分合ってるね!! いや、でも待って急展開でちょっとついていけてないよ、俺!
「いや、え、マジで?」
コクンと光月が頷く。
「そ、そいつぁ、ちょいとまずくないかい?」
「……嫌?」
真っ赤な顔で上目遣いでそんな事訊かれた日にゃあ……そんなもん嫌なわけないよね! 拒否れる男がいたらそいつはホモだよ!
「じゃ、じゃあ……ちょっとだけ、お邪魔しよう、かな?」
「いいの?」
「ダメな理由がない。いや、なくはないけど知らない振りする」
出来る範囲で何でもいいって言ったしね、俺。それがこんなお願いならむしろ進んで叶える。……光月の親父さん、おばさん、ごめんなさい。なんだろう。こんな時間から親が留守にしてる彼女の家に上がり込むのって罪悪感がすげえ。光月の家には何度もお邪魔してるけど、いつもはおばさんいるからなあ。
でも、とりあえず母親には今日は帰らないってメールしとこう。あとは友達にも口裏合わせを頼んどく。
「これでよし」
「……本当に大丈夫?」
「大丈夫。もしバレたらバレた時考える」
正直、ちょっとビビってるってか怖じ気づいてるけど。いろんな意味で。
「よ、よーし。それじゃ行くか」
「ソーマ、何か緊張してる?」
「手汗やばいわ」
初めてじゃなくてもシチュエーション次第でこうも緊張するんだね。いざ実際に光月の家に着いたらどうなるんだろうか。
無駄に戦々恐々としながら俺達は再び手を繋いで、朝比奈家へと向かったのだった。
バカップルの3つめ。