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Crossing,  作者: TOKIA
11/15

バカップルとチームメイトと練習試合

というわけで土曜日。

やってきました! 練習試合当日!


ちなみに試合は朝十時からで会場がウチの学校なので設営準備やらライン引きやらアップやらで俺逹は七時集合。でも俺は元気さ! あんま寝てないけど!


試合が楽しみ過ぎて中々寝付けなかったのは内緒です。『遠足前の小学生か!』ってツッコミ食らってしまう。


や、でも練習もつまらなくはないけどやっぱり試合してナンボだと思う。試合のために練習してるわけだし。そりゃ気合いも入るしテンションも上がるってもんだ。

他の部員に同意を求めたら「おまえは入りすぎだし、上がりすぎ」って言われたけど。うんざりした顔で。

まあ、俺は自他共に認めるサッカー馬鹿だから仕方ない。仕方ないったら仕方ないのだ。


というわけで設営諸々準備が完了し、試合開始一時間前。我らが高天原学園サッカー部はウォーミングアップを始めていた。


「なあ、日野、聞いたか?」

「ん? 何を?」


通称『ブラジル体操』と呼ばれるストレッチとジョグを組み合わせたようなメニューをこなしながら同級生でチームメイトの安藤が声をかけてきた。


「さっきキャプテンと監督が話してたんだけどよ。どうも今日の試合、一、二年主体のスタメンでいくらしいぜ」

「お、マジで?」


ちなみにウチの部の事実上の最高責任者は監督ではなくキャプテンだ。

ぶっちゃけウチの歴史は浅くまだ創部二年程でしかない。そして、その創設メンバーの中心人物だったのが今のキャプテンらしい。

監督はその時にメンバー総土下座で頭を下げられ顧問を引き受けたサッカーに関しては素人の先生だ。とはいえ『引き受けたからには』と熱心に勉強して今や素人監督とは言えないレベルになっている。穏やかな性格で恰幅のいい好好爺って呼び方の似合う先生だ。



閑話休題。

そのキャプテンだが部員からは畏敬の念を込めて『鬼将軍』と呼ばれている。もちろん本人の知らないところで(もし本人の耳に入ったら確実にぶっ飛ばされる)。

部内にそんなあだ名が浸透するくらい自分にも人にも厳しい人なのだが、それだけではなく常に周りを見て寡黙ながらも気遣いを忘れない人でもある。やり方はめっちゃ不器用だけど。練習の時はマジで鬼みたいだけど。

で、そういうギャップにやられてキャプテンに心酔している部員多数。俺もその内の一人であり、俺がサッカー強豪校でなく高天原を選んだのはひとえにこのキャプテンの存在があったからだ。色々と縁あって入学前にたまたまキャプテンと一緒にプレーする機会があってその時に誘ってもらったのだ。


「とうとう来るぜえ……俺の時代があ……!」


安藤が気合いを顕にして唸る。


「確かにアピールのチャンスだよな。頑張ろうぜ」

「いや! おまえはこれ以上頑張るな!」

「なんでやねん」

「日野はもうレギュラーみたいなもんだろうが! 俺らのチャンスを潰すんじゃねえ!」


そんな安藤の叫びに同意するようにウンウンと首を振る同級生ズ。


「いや、知らんがな」


そう、ありがたい事に俺は先の公式戦で背番号をもらえたのだ。四試合戦った内の二試合で先発出場、一試合の途中出場を果たし計三ゴールを奪った。残念ながらチームはベスト8で破れてしまったが個人的には凄くいい経験になった………尚、出てない一試合についてはあんまり思い出したくないのでここでは割愛する。


「くっ………なんて友達甲斐のないヤツ! まあ、冗談だがな!」


本気で言われてたら困るわ。冗談とわかっていればこその掛け合いだ。


「でも正直な話、安藤なんかは視野広いしパスセンスもあるから頑張ればチャンスあるんじゃないか?」

「お、おお……マ、マジで? マジでそう思う?」

「思う思う。ただいかんせんスタミナがないのが問題だな」

「そこかぁー……やっぱそこだよなぁ」


ぶっちゃけ安藤は俺よりもよっぽど上手い選手だ。自分で勝負も出来るし周りも使える。戦術眼も秀でていて典型的な司令塔タイプ。俺に無いものをたくさん持っている。


でも、それだけでメンバーに選ばれるとは限らないのがサッカーの面白い所だ。


俺にも俺にしかない長所があって俺がメンバーに選ばれたの最たる理由がまさに『そこ』なんじゃないかと自分では分析している。

俺はテクニックがある方じゃないから人より走り回って汗をかくプレーがチームのためになると思ってやっている。

多分、チーム内では足も一番速い。

あとはなにより俺はゴールを決めてこそ、って思ってやっている。ラッキーゴールでも泥臭いゴールでもサッカーはより多く点を取ったチームが勝ちってスポーツだ。もしプレーの美しさを競ったら俺なんか完全にお呼びじゃない。

だから俺は点を取る事でこそチーム内での自らの存在意義を見出だせる………………だとかなんとか小難しい理屈をこねたけど本当の所はサッカーが好きっていう根っこがあって、あとは毎日の厳しい練習に必死に向き合ってたらいつの間にか、って感じ。毎日ゲロ吐きそうになりながらやってんのにそんな難しい事考えてる余裕はありませんて。


「よし、とりあえず今日はフル出場を目標にする」

「安藤、ラスト20分くらいいっつもバテバテだもんな」

「言うな。つーか、どっちかっつーとおまえのスタミナがおかしい。後半ロスタイムに前線からゴール前まで守備に戻って、そっからカウンターで相手ディフェンスぶっちぎれるのはおまえだけだ。しかも真夏」


そう言って半眼で睨まれた。


「あれは相手もバテてたからだろ」

「むしろキャプテンすらバテてた中でピンピンしてたおまえが気持ち悪い」

「ちょ、ひでえ」


別に疲れてなかった訳じゃないのに………ちょっと集中しすぎてただけで。


「ま、とりあえずお互いの健闘を祈りつつまずはチームの勝利が大前提だろ」

「それは当然」

「うむ」


お互いに頷き合って、ちょうど集合の号令がかかる。


「いっちょやりますか」

「俺、今日は三点取る」

「ちょ、何故にいきなりハードル上げた」

「や、今日は光月が応援来てくれるらしいからさ」

「死ねよ、リア充」














結論から言うとその日の試合には負けた。

スコアは5対3。壮絶な打ち合いになったが最後には突き放され地力の差を見せつけられた形だ。

相手は先の大会で準優勝した強豪でこっちは安藤の言ってた通り一、二年主体のメンバー構成だったので悲観する結果じゃないのかもだけど、やっぱり負けるのは悔しい。


「惜しかったね」


しかめっ面の俺を光月がそう言って励ましてくれる。


「うん………ごめんな。待たせて。試合の後のミーティングが長引いてさ」

「大丈夫。問題ない」


さすがに五失点もして負けたのでキャプテンの試合後の説教も長めだった。

俺も安藤に予告していた通りに三点は取れたのだが山場の大チャンスでシュートを外したので個人的な説教を食らっていた。展開的にあそこで決めていれば結果も変わっていたかもしれないので甘んじて受けた。


ただそのせいで一緒に帰る約束をしていた光月を結構な時間待たせてしまったのでそれだけは気になっていた。


「それより足、平気?」

「足? って、ああ、これこの通り全然大丈夫」


気遣わしげに訊いてくる光月に足をプラプラして見せる。

試合中、再三に渡って削られたので痛くないと言えば嘘になるがサッカーやってりゃこれくらい日常茶飯事だ。ただ、一回だけ強烈なタックルを受けてかなり派手に吹っ飛んだので光月が心配するのも無理はない。


「つん」

「ンぁいっ!!?」


その足を光月がつつく。

軽く打ち身になってる所にピンポイントで当たったので地味に痛かった。


「………大丈夫?」

「いや、大丈夫だけどつついた方が言うセリフじゃないよね」

「そんなに痛がるとは思わなかった」

「さいですか」

「怪我だけは気をつけて」

「ういうい。まあ、こんくらいならどってことないですよ」

「………」


ジト眼で再び人差し指を俺の右足に向ける。


「すんません。マジ気をつけるんでつつかないで」

「ご自愛よろしく」

「りょーかい」


今度は余計な事は言わずに素直に頷いた。光月も納得したらしく右足から照準を外してくれた。


「なあ、光月」

「なに?」

「ありがと」


試合に負けて、ちょっと凹んでたんだけど光月のおかげで元気出てきた。

光月のこういう分かりやすいんだけどあからさまじゃない気遣いとか優しさが、なんかすげえ『いいなあ』っていつも思うのだ。


「何の事かよくわからない」


なのにこんな風にほんのり赤くなりながら否定する光月もかわいいと思う。


「そっか。わかんないか」

「うん、わからない」

「じゃ、わかんなくてよし。俺は勝手に感謝してるだけだから」

「………むう」


どうにも複雑な表情を浮かべて唸る光月。その顔が妙にツボにハマってつい笑ってしまった。


「ブハッ」

「人の顔見て噴き出すのは失礼だと思います」

「悪い、つい」

「何が、つい」


あ、やばい。不機嫌になっちゃった。

これはまずいと話題を帰る。


「明日なんだけどさ」

「………うん」


明日。つまりデートの話だ。さすがに光月も反応する。


「どこ行きたいか決めた?」

「んー」


軽く視線を上げて思案する。


「どこでもいいの?」

「もちろん」


とか言い切ったけどあんまり金がかかるとこだと、ちょっと困るかもしれない。でも男だもん。見栄の一つや二つ張りたいじゃん?


そんな彼氏の心情を知ってか知らずか彼女は言う。


「実はここに二枚づつ二組のチケットがあります」

「ほう」

「一組は県立美術館の『サルマナ展』の優待チケット」

「なるほど」


サルマナっていうのは光月が好きな画家で画集とかも持ってたはずだ。その関係で何回か美術館デートもした事がある。


「そしてもう一組」

「ふむ」


満を持して、と言うように光月が軽いドヤ顔で二枚のチケットを取り出す。


「プロサッカーリーグ、高天原ストーリアの観戦チケット」

「………マジで!?」


高天原ストーリア。数年前、我が高天原市をホームタウンとして創設されたプロサッカークラブだ。

僅かな期間にメキメキと力を付け、今年は二部リーグに昇格。そこでも快進撃を見せ優勝争いを演じている。当然ながら人気も上々。

そして次の試合――すなわち光月の持つチケットのゲームではクラブ初の一部リーグ昇格が懸かっているのだ!


「しかもナイターだから美術館行ってからでも十分間に合う」

「お、おお………つかどうやって手に入れたの、それ」

「お父さんにもらった」

「親父さんか……確か雑誌編集者だっけ」

「そう。知り合いにもらったって」


何度か会った事のある光月の親父さん。編集者をやってるだけあって広い人脈を持ってるそうだ。サッカー関係者や美術関係者くらいはいるのかも。


「よくお礼言っといて」

「了解。それで、行く?」

「行かいでか。完璧ですよ、光月さん」

「どやー」


自慢気に微笑む光月と共に明日の計画を練りながら、連れだって帰り道を歩く俺達だった。


バカップルの話のその2。

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