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Crossing,  作者: TOKIA
10/15

バカップルと小芝居と放課後デート

小さく、か細い声で顔を真っ赤にした光月に告白されて付き合い始めたのは、ちょうど一年前の今頃だった。

肩口で切り揃えた、ややクセのある黒髪を持つ彼女は中学時代からの同級生だ。

フルネームは朝比奈光月。趣味は絵を描く事。


俺と初めて出会った時も光月はスケッチブックを持っていた。場所は近所の公園。

俺がいつも自主練にいくその場所で光月もよく絵を描いていた。

真剣な顔で鉛筆を走らせるその姿をとても眩しく感じたものだ。


それからまあ、ちょっとした切っ掛けがあって会話するようになり、実は同級生だったと知り、約束をして会うようになった。

そんなこんなで色々と紆余曲折を経て交際に至った訳だ。

省略しすぎと言われるかもしれないが話せば長くなるのでここでは割愛。


事告白されるに至り、曰く“鈍感”らしい俺は告白されるまさにその時まで光月の気持ちに気付いていなかった。

あとから散々その事を言われたが、俺は俺で長らく自分の片想いだと思っていたので鈍感はお互い様だろうとも思う。


はっきり言おう。光月は可愛い。超可愛い。彼氏の贔屓目を差し引いても文句なしに可愛い。そして少し風変わりにも思われがちなのだが、その実は優しくて面白いヤツなのだ。そんなヤツがいつも側にいたら好きになるなって方が無理だ。

まあ、これを本人に言うと照れまくって否定するけど。

というか光月は光月で俺をカッコいいと思ってるらしい。よくそう言われる。

正直悪い気はしないがこんな十人並みフェイスを捕まえて何を言っとるのか、と。ちょっと美的センスだけはおかしいかもしれない我が彼女である。これを言うと何とも言えない困った顔をされるのか不思議でたまらない。


ちなみに、どう見ても両想いなのにいつまで経ってもくっつかないからじれったくて仕方なかった、とはお親友談。そしてくっついたらくっついたで暑苦しくてうざったい、というのもお親友談。


ともあれ、かくして恋人同士となった俺と光月。

バカップルと呼ばれるのも慣れたもの。一応言っとくと自覚はある。自分達を客観的に見たら「爆発しろ」と言うこと請け合い。

最近は少し落ち着いたが付き合い始めの頃はマジで顔から火が出るレベル。思い出すと恥ずかしさで悶える。

そりゃバカップル言われるわ。今更もう気にしないけど。人前で手だって繋いじゃうけど。


「ソーマ? 何ボーッとしてるの?」


繋いだ手をニギニギしながら光月が上目遣いで聞いてくる。現在絶賛放課後デート中である。


「何か考え事?」

「まあ。でも大した事じゃないから気にしなくていいぞ」

「そう?」

「おう」

「じゃあそうしよ」


俺達はお互い何か言いたい事や思った事があったら出来る限り言い合うようにしてる。言えない事はもちろんあるがそれはそれで尊重する。

だから俺が気にしなくていいって言った事に光月はそれ以上突っ込んで来ない。まあ、光月はそもそもがあんまりグイグイくるタイプじゃないのだが。


だからって気にならない訳ではないみたいでチラチラとまた上目遣いでこちらの様子を窺ってくる。

俺はそこそこ身長があり(175センチ)で逆に光月は小柄(154センチ)なので、よくこの状態になるのだが、女の子の上目遣いはズルい。今日も安定の可愛さである。


「ほわん」

「どしたの、いきなり。男子がほわんとか言っても可愛くないよ」

「当然だな。可愛いのはおまえの方だから」


恥ずかしげもなく言ってみる。こういうのは照れたら負け。

光月の可愛さにほわんとなっただけだ。


「何で褒められたのかわからない。嬉しいけど」

「喜んどけ喜んどけ」

「わーい、ってなんでやねん」


ビシッとツッコミを食らう。案外ノリが良いのも光月の特徴の一つである。


「時に光月さん?」

「何ですか、ソーマさん?」

「今週の日曜日はお暇ですか?」

「暇ですよー」

「じゃあ何処か遊びに行きませんか」

「いいですねえ。行きましょう。……ところでこの小芝居やめない? 疲れる」

「だな」


無意味な茶番はあっさり終了。

無計画に始めると面白くもない上にオチもないのが俺達の小芝居である。


「で、何処行きたい?」

「何処でもいいよ」

「何処でもいい、が一番困るんだが……」


と、晩御飯のおかずに悩むお母さんみたいな事を言ってみる。


「というかソーマ部活は?」

「案ずるなかれ。土曜が練習試合だから日曜はオフなのだよ」

「おおー、珍しい」


「うむ。俺も久しぶりだなと思って調べてみたら、なんと三ヶ月ぶりの完オフでした」

「それ調べてどうするのか。ソーマは時々すごくどうでもいい事に時間と労力を使うよね」

「テヘリ」

「だから可愛くないし、照れる所でもない」

「ですよねー」


ともあれ週末は久方ぶりの完全オフなのだ。


半オフとかは結構あったんだけどな。

日曜日が試合の時は月曜日が部活休みになるけど学校は普通にあるからガッツリ遠出も出来ない。今日みたく放課後デートが関の山。


「すんません。マジすんません」

「?? いきなりどうしたの? 何についての謝罪?」

「いやあ……なんだかんだと部活部活で彼氏らしい事もロクにしてやれてないなー、と。寂しい思いをさせてごめんなさい、と。総じて不甲斐ない彼でごめんなさい、と。そんな感じ」

「なるほど」


説明すると、光月は何やら思案するような表情になる。


「……特に寂しくはないけど?」

「ちょ、ひでえ」

「ふふり」


そして笑って言葉のナイフで攻撃してくる彼女さん。マジパネェ。


「まあ、それは嘘」

「いやマジでそういうのはやめて。心臓に悪い」


真顔で言う俺。

もしかして光月は俺の事、実はそれほど好きじゃないのかなー、とか考えちゃうから。んで、考えてたらリアル涙目ですから。

ポジティブさが売りの俺も、こう見えて意外とネガティブな部分もあったりする。主に光月関連についてのみだけど。


まあ、光月もそれを分かっててからかってるだけなんだろうけど。


「ごめん。もう、しない……とは言い切れないけど」

「うん、まあ正直なのは良いことだけどね?」


今回は言い切って欲しかったなー。


「本当は寂しいのが半分。あと嬉しいのが半分」

「え、どういう事?」


彼氏が自分放ったらかしで部活にかまけてるのが嬉しいの?


「もちろん寂しいんだけど、ソーマが自分の目標に向かって一生懸命打ち込んでるのも分かるから」


そして、それはソーマがソーマの夢に近づいてるって事だから、と光月は言う。


「だから半分は嬉しい」

「……光月はん」

「なんで関西弁風?」

「照れ隠しです、ハイ」


いや、もうね。なんつーか胸が一杯になった。

俺、この娘の事めちゃくちゃ大事にしようって改めて思った。


「というわけでこの件について不満を言う気はない。たまに構ってくれればそれでいい。むしろ私がソーマの目標に邪魔になってないか気が気じゃないくらい」

「邪魔な訳あるか」


ちょっと低い声が出た。


「おまえがいてくれなかったら辛くてとっくに辞めてるわ、多分」


サッカーは大好きだけど割と半端じゃない練習量と厳しさだからな、ウチのサッカー部は。辞めたい、辞めてやる、と思ったのは一回や二回じゃない。

で、その度に光月の叱咤激励を受けて思い直したのだ。


「そうなの?」

「そうとも」


力強く頷く。


「サッカーをやってないソーマはちょっと想像がつかない」

「まあ俺もつかんけども」


施設にいた頃からボール蹴ってたからなあ、俺。

今でも好きな事やらせてもらえてるのは両親のおかげだね。大感謝である。


「もし私がいなくても、それはそれでソーマはサッカー続けてたと思う」

「気持ちは分かるけど、もし、とかタラレバを言い出したらキリねーべ? 実際、こうして俺と光月は付き合ってるわけで。そうじゃなかったらどうなってたかなんて事は誰にもわからないだろ」

「それは、そうだけど」

「つか、どした? 普段そんな事言わないだろ。何かあったか?」


いつも通りに見えて、なんか妙に後ろ向きな事ばっか言うなあと思ったら、どうも図星だったらしく光月はシュンと俯いてしまった。


「……聞いても大丈夫な事か?」


俺は光月を責めたい訳でも悲しませたい訳でもないので、それが光月にも分かるように出来るだけ優しく訊く。

まあ、話したくないって言うんなら無理矢理聞くつもりもないのだが……どうやら話してくれる気になったらしい。


「実は………」












話を総合すると。

本日の昼休み俺と昼食を食べ、教室に戻る途中で教頭にばったり出くわしたらしい。で、この教頭、お調子者とヤンチャ坊主の巣窟であるサッカー部を目の敵にしていて事あるごとに俺達に難癖をつけてくる。さらに本人はほぼ全生徒(特に女子)に毛虫の如く嫌われてると言うのにそれにまったく気付かず頻繁に校内を見回りと称して我が物顔で闊歩するのだ。正直、生徒からしたら迷惑以外の何物でもない。特にサッカー部と見ると絶対に何かしら言われる。全うな説教ならまだしも論点ズレまくりの理不尽な事しか言わないので余計に煩わしい。ズレるのはあんたの頭のモノだけで十分だと言うに。


今回は運悪く光月がその餌食となってしまったという事だ。どうも、何処からか俺と光月が付き合ってる事を聞きつけたらしい。別に隠してる訳じゃないから知っててもおかしくないけど。

会うなり嫌みを言われたそうだ。


『只でさえ素行の悪い劣等生風情がが不純異性交友等とは嘆かわしい。玉遊びが少し上手いからと言って将来の何の役に立つわけでもないのに今度は調子に乗って女遊びとはな。全く育ちが知れるというものだ』


要約するとそんな感じの内容をかなり婉曲且つ長々とほざいていたらしい。


「あんのハゲ………ヅラ燃やしたろか」

「私も凄く腹が立ったけど言うだけ言ったらすぐにどっか行っちゃったから言い返せなくて……ごめん」

「いやいやいや、この場合謝るのは俺だろ。あのハゲジジイ、特に俺の事嫌ってるから」


そのせいで光月にまで辛い思いをさせてしまった。

あのハゲ、マジでどうしてくれようか。


「光月はそれで落ち込んでたって事か」

「落ち込むというか色々考えてたら、もしかして私はソーマの邪魔になってるんじゃないかって」

「なんでそうなる」


どういう思考経路を辿ったらそんなぶっ飛んだ結論に行き着くんだ。


「そもそもの話、あのハゲの戯れ言を真に受ける必要は全くないから」

「うん」

「あのハゲ、自分があの年まで独身だからってひがんでるだけだから」

「うん」

「光月はいつも通り隣にいて、たまーにガンバレーって応援してくれたらいいから」

「うん」

「そしたら俺、超頑張るし」

「うん」

「だから、まあ、あれだ」

「うん?」

「………これからも末永く俺の彼女でいて下さいって事」

「……………」

「いや、ごめん。そこで黙られるとめっちゃ恥ずかしいんだけど」

「ほわん、てなってた」


光月が繋いだ手をギュっと握る。


「ソーマ、超カッコイイ」


光月は超カワイイ。俺が言っても可愛くないけど光月のほわん、は世界一だと思う。

やべえ、多分俺、今超顔赤い。だって光月も真っ赤っかだし。


「ま、まあ何はともあれですよ」

「うん」

「ひとまずは土曜日の試合で光月が俺のパワーの源だと証明しないと」

「うん。頑張れ、ソーマ」

「おう。俺、超頑張る」


こんなカワイイ彼女に応援されて頑張らなかったらそいつは男として終わってると思う。


「そんで、気持ち良く日曜日を迎えてデートとしゃれこもうぜ」

「うん」

「行きたいトコ考えといてくれな」


光月となら、何処でもいいんだけど。


すると光月はたまに見せてくれる優しい笑顔を浮かべて、俺の内心を見透かした様に言った。


「何処でもいい………ソーマと一緒なら」


何処でもいい、は困るけど、本当に何処でもいいんだから仕方ないよな。




なんというバカップル

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