7 志保の恋慕
日が経つにつれ、志保はますます安幸に熱を上げた。安幸が松任谷由実を聴くと聞けば松任谷由実を聴き、安幸がベルミーコーヒーを飲む姿を見れば、志保もベルミーコーヒーを飲んだ。純心はそうすることで、無二無三、安幸に同調していたのだろう。
いじらしくも微笑ましい乙女心である。
されども、恋の女神は志保に微笑んではくれなかった。安幸はしらぬ間に、同じクラスの和美と付き合いだしていたのだ。
安幸と和美の噂は、恋愛未経験者が大半を占める学校にあって、瞬く間に周知の事実になった。
時を移さず、放課後の音楽室前で志保は事の真偽を聞いてきた。
「悠次兄、安幸兄と和美姉が付き合ってるって本当」
僕は慕情を斟酌し、傷つけまいとしどろもどろに頭をひねったけれど、未熟さゆえ上手く言葉にできず、奥歯に物がはさまったような言い方で肯定するしかできなかった。
近傍の証言に引導を渡された志保は、言葉もなくその場を後にした。
その寂しげな様子に僕は己を悔やんだけれど、さりとてどうすれば良かったのかさえ分からず、ひとり困り果てた。
それからの数日というもの、受け入れがたい現実に、さしもの志保も目を覆いたくなるほどにしおたれた。
僕は沈んだ気持ちを持ち上げようと、折に触れては明るく話しかけたけれど、意図は空回りするばかりで、しばらくは痛ましいほどの落ち込みようだった。
いくらかの時に希釈され、志保は元気を取り戻したが、恋慕は断ち切れず、けなげに安幸を想い続けた。
僕は志保にことづかって、安幸に手紙を渡したり、誕生日プレゼントの宅配をしたり、時には志保の聞きたい事を代わりに聞いたりと、いとわず黒衣に動いた。
神社に参拝したりして、志保の恋が叶う事を僕も祈ったけれど、安幸は志保に興味を示さず、和美との交際を楽しむだけだった。




