37/41
37 現在
あれから十年以上経つが、それっきり僕と志保は一度も会っていない。
幸いにも最後に会った日から二年と経たず、風の便りで志保が結婚したと知った。
配偶者とは知り合って半年だという。
頑なに結婚を拒否し、自分の血を子孫に残したくないと、断固と思っていた僕も、今は結婚して一児の父親になっている。
おしどり夫婦とはいかず、不和を起こす事も間々あるが、とにもかくにも子供は可愛い。
若い頃は好奇心と困難への欲求から波瀾にとんだ生活を送っていたが、今はサラリーマンになり、平凡に、幸せに暮らしている。
きっと志保も幸せにしていると僕は信じている。
志保にとって僕は迷惑以外の何物でもなかったのかもしれないけれど、僕には志保との思い出がかけがえのないものとして残っている。
志保にはもう会う事はないのかもしれないが、それは問題ではない。
純粋に生きていたあの頃、僕のそばに志保がいてくれた事が大切なのだ。
志保との美しい思い出は今でも心の中にひっそりとあり、それは終生消え去る事はないだろう。




