雨の中
山深い所に病院がある。
何ヶ月、通った事だろうか・・・・
今は、病院の外から、あの窓を見つめる事しか出来ない。
3年前、滑り止めで受かった工業高校。
親に頼まれて仕方なく行った。
当たり前だが、ロクに行かなかった。
頭を金髪に染めて、靴を踏んで歩く。
どこからどう見ても不良少年だった。
バレンタインデー
そこで彼女と出会った。
一つ先の駅
名門の私立女子校
俺には無縁だった。
不釣り合い
そんな言葉がお似合いだった。
駅で会えば、言葉も交わさないまま
乗り換える駅まで一緒に帰った。
話しかける彼女。
無言の俺。
そんな日々を過ごした。
帰り道、彼女が言った。
「ねぇ、このままどっか行っちゃおうよ」
「オマエんちお嬢様なんだろ?」
「そんなのどうでもいいじゃん」
俺達は、そこから仲良くなった。
彼女の親には、良く思われる訳が無かった。
それでも、毎日、一緒に帰り、遊び呆けた。
親の目を盗んでは、夜な夜な遊んだ。
高校2年の夏休み前から、彼女は学校に来なくなった。
友達づてに聞いた。
入院したと。
病院に毎日通った。
家から2時間強。
電車賃も馬鹿にならなかった。
それでも、毎日通った。
彼女の親がいる時、俺は追い出された。
親父さんが居るときは、殴られ追い返された。
青畦を作っても、俺は通い続けた。
ようやく会えた彼女。
変わり果てていた。
自慢のさらさらの髪が、抜け落ちつつあった。
泣きたかった。
泣きたいのは、彼女の方だろう。
個室の部屋。
備え付けの洗面台。
手をつくフリをして鏡を割った。
「やだ、こうちゃん止めて!大丈夫?!」
「もう、ぜんぜん大丈夫、馬鹿だよなぁ。オレ」
笑いながら、右手を押さえまくった。
激しい音に気づき看護士が飛んで来た。
処置をするからと、部屋の外に連れ出される。
廊下
病室
トイレ
看護士の手を振り切って、女子トイレに入る。
全ての鏡を素手で割っていた。
両手は、血塗れだった。
看護士が必死で止める。
「なんで、そんな事するの!!」
「馬鹿野郎!あんな姿を見せられるかよ!」
オレは泣いて暴れた。
オレの親父も同じ病気で死んだ。
だから、知っている。
この先の展開を・・・・
力なく肩を落として、病院を後にした。
外は激しい雨が降っている。
どうして、彼女を選んだ?!
どうして、俺から大切な物を奪ってゆくんだ?!
雨の中、俺は孤独だった。
今、彼女は集中治療室にいる・・・・。
雨の中、俺は祈り続ける。