転生した先は前世よりもハイテクな未来でした。〜転生チート?なにそれ、おいしいの?〜
皆さんは「転生」と言う言葉を聞いたことが有るだろうか?一度死んで、別の人物として産まれ変わることである。私の前世は、日本人だった。両親と、兄が2人、姉が1人、弟が1人、妹が2人の9人家族。戦死した兄と弟も含めたら11人の大所帯だった。今世の私は、両親と私の3人家族。長年不妊に悩んでいた両親は、やっと生まれた私を蝶よ花よと、とても大事に育ててくれた。それに関して不満は無い。戦争が無い平和な世の中である事も実に喜ばしい。だが、一つだけ言いたい事が有る。
「普通、転生って前世よりも文明が劣る世界に行くもんじゃ無いのっ?!」
私の大声に驚いて、隣を飛んでいた通勤途中のサラリーマンがバランスを崩して落下しそうになった。そう。『飛んでいた人が』だ。なんとこの世界、飛行機が無くても簡単に空が飛べるのだ。人が1人乗れる位の大きさの、洗濯板みたいな形をした乗り物が前世で言う自転車のような立ち位置だ。『スカイボード』と言う。下を見下ろせば、地上を車がたくさん走っている。ぱっと見、普通の車に見えるが全て自動運転車だ。どうやら私は前世より2歩も3歩も4歩も先を行く文明の世界に生まれ変わったようだ。
巷で話題の異世界転生アニメでは、転生した主人公達がチート能力を活かして国造りをしたり、味噌や醤油等の調味料を活用して権力者達の胃袋を鷲掴んでいたが私には無理だろう。脳内に埋め込まれたチップ式小型万能通信機器『インテリジェントフォン』で検索すれば、難解な数式も、秘伝の隠し味も、一瞬で最適解が出てくる世界なのだ。
「もういいよ。私はこの便利な世界で、ただの無能として甘やかされて生きるんだ……」
そう決めて、自堕落に過ごしていたある日のこと。
世界を支えていた「超高度管理ネットワーク」が、原因不明のバグによって完全に沈黙した。空を飛んでいたスカイボードは緊急着陸し、自動運転車はただの鉄の塊と化した。街中の照明が消え、蛇口からは水一滴出ない。脳内に埋め込まれたインテリジェントフォンはオフラインになり、人々は何をしていいか分からず、ただパニックに陥って泣き叫んでいる。
そんな阿鼻叫喚のなか、私だけが冷静に立ち上がった。
「……なんだ。ただの停電じゃん。」
前世では停電はよくある事だった。そんなに慌てることでは無い。慌てることなく、今、すべき事を考える。まずは飲み水の確保だ。
近くの川に行き、水を汲む。バケツをチャプチャプさせながら帰る途中、パニック状態の人々から声をかけられた。
「その水は何処にあったんですか?!」
「川から汲んできました。」
「えっ、川水?!そんなの使ったら危ないよ!!浄化フィルターも通してないのに汚いよ!!」
「落ち着きなさいよ。煮沸すれば問題ないわよ。……あぁ、そうか。あなたたち火の起こし方も知らないのね。」
私は河原で拾ってきた固い石と、その辺に墜落していたスカイボードのパーツから剥ぎ取った鋼を使って、前世の知識を総動員して火を起こした。火打石である。揺らめく炎を見た人々は、まるで奇跡を目撃したかのように拝み始めている。
「はい。これで煮沸完了。飲み水の確保OK!」
「狂ってる.....!煮沸しただけの川水を体に入れるなんて、自殺行為だ!」
いつの間にか集まっていた大勢の人々にめっちゃドン引かれた。前世では、水はとても貴重な資源だった。あるだけありがたいと思うのは、私だけだろうか?
一番大事な水が確保出来たので、次にすべき事は情報収集だ。ネットワークが死に、情報の伝達が途絶えた街。人々は隣に誰が住んでいるかも知らず、孤立して震えている。
そこで私は、回覧板と連絡板を自作して近隣の住民と情報共有が出来るようにした。
「今度の日曜日、政府による食料の配布があるらしいですね。」
「そうなんです。場所は第一東小学校の校庭です。詳細は連絡板に書いてありますので確認してください。」
情報の取捨選択をAIに任せきりだった人々にとって、このような泥臭いコミュニケーション方法は、どんな高度なプログラムよりも新鮮で、頼もしく映ったらしい。
「超高度管理ネットワーク」が謎のバグでダウンしてから1ヶ月が経った。備蓄していた食品はすでに底をつきかけている。情報網も構築出来たし、次に取り掛かるべきは食材の確保だ。近くの山に皆を連れて行き、食べれる山菜や茸のレクチャーをする。ついでに罠を仕掛けて貴重なたんぱく源が捕れる事を期待する。前世ではよく、弟妹達と食材探しに山に登ったものだ。
「このキノコは毒があります。絶対に食べないでください。見分け方は、この特徴的な模様です。」
「これは食べられますか?」
「それは猛毒です。触っただけで死にます。」
「っ!!!!」
3時間程かけて、食材収集をした。
「こんなに頑張っても収穫はこれだけか、、、。」と落ち込む人々に声をかける。
「これだけ採れれば十分じゃないですか?」
前世、たった3本のキノコを泥水のような汁物にして、家族みんなで分け合ったあの日のことを思い出す。現代人はちょっと贅沢言いすぎではないだろうか?
数日後、少しずつインフラが復旧し始めた頃。私は「原始的な生存戦略のスペシャリスト」として、政府の災害対策本部からスカウトされる羽目になっていた。
「あの……私、ただちょっと昔不便な生活をしてただけなんですけど。」
「謙遜しないでください! あなたの『自分自身の力で生き抜く力』は、便利な道具に慣れきってしまった我々人類にとって必要な能力です!」
どうやら今世では、『私の前世の不便な生活』それ自体にチート級の価値があったようだ。




