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楠葵先輩は頼られたい  作者: 黒姫 百合


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早く決めろよクソガキ

 チュロス売り場に辿り着いた二人は、最後尾に並ぶ。

 五、六人ぐらいしか並んでいないのですぐに買えそうだ。


「結構空いていて良かったわね」

「そうですね。すぐに買えそうですね」


 手を繋ぎながら、葵と優は暢気に会話をする。

 優も葵も手を繋ぐのがあまりにも自然すぎたため、この違和感に気づいていない。


「中村さんはどれにするつもり?」

「王道ですけど、私はシュガーですかね。王道が一番おいしいと思います」


 チョコレートやストロベリー、オレンジなど色々な種類のチュロスがあるが、やはり王道のシュガーが一番おいしい。


「確かに王道はおいしいわよね。私も好きよ、シュガー」


 葵は優に共感するかのようにウンウン頷いている。


「楠先輩はどれにするつもりなんですか」

「今日の気分だとストロベリーにするつもりよ。チョコレートと迷ったんだけど、今は甘さと酸味が食べたい気分だったから」

「ストロベリーもチョコレートもどちらもおいしいですもんね。私も好きです」

「中村さんって結構甘党なのね」

「はい。結構甘党ですね。自分で作って食べるぐらい甘いものが好きです」

「だから中村さんはお菓子作りが上手いのね。納得だわ」


 葵の言うとおり、優は自分でお菓子を作って食べるぐらい甘い物が好きである。

 それを聞いた葵はなにか合点がいったかのように頷いている。


「中村さんの彼女になった女の子は幸せ者ね。中村さんの手作りお菓子が食べ放題だもの」

「彼女じゃなくてもお菓子ぐらい休み明けにまた作って持ってきますよ。楠先輩にはいろいろとお世話になっているので」

「えっ、良いの? ありがとう。楽しみに待ってるわ」


 別に彼女でなくてもお菓子ぐらい、食べたいならいくらでも作ってあげる。

 それを聞いた葵はよほど嬉しかったのか満面の笑みを浮かべている。


 こんなことで喜んでもらえるなら安いものだ。


 優は葵の笑顔が好きだった。


「……あっ、ごめんね中村さん。ずっと手、繋ぎっぱなしだったわね」


 ようやくこの時、葵はずっと優の手を握っていたことに気づき謝罪をし、手を離す。


 優もあまりにも自然と葵と手を繋いでいたので、全く気づいていなかった。

 葵の手が離れた瞬間、少しだけ寂しく思ったのは葵には内緒である。


「いきなり年上の女の子に手を握られるなんて嫌だったよね」

「そんなことないですよ。嫌だったら振りほどいていると思うので、嫌ではなかったです」

「本当に中村さんは優しい男の娘ね。……それに本当は嫌でも後輩の中村さんが先輩の私にそんなこと言えないわよね……先輩失格だわ私」

「そんなことないですよ。楠先輩は先輩失格じゃありません。私の理想の先輩です。だからそんなに自分のこと悪く言わないでください」


 葵が自分のことを卑下した瞬間、優は怒りを覚えた。

 葵は先輩失格どころか、むしろ優にとって理想の先輩だった。


 だからなぜ怒りを覚えたのか分からない。


 分からないが、例え葵自身でも葵のことを悪く言われるのは嫌だった。


「……理想の先輩……」


 葵が優の顔を見ながら呆けている。


「す、すみません。いきなり先輩相手に生意気なことを言ってしまって」

「ううん、別にそれは良いのよ。私こそごめん。中村さんを嫌な気持ちにさせてしまって。それに先輩後輩関係なくはっきり言ってもらう方が嬉しいわ。自分の悪いところに気づけるから。むしろありがとう中村さん」


 優は先輩相手に生意気言ったことを謝罪する。

 普通の先輩だったら後輩にこんなことを言われたら、きっと怒るだろう。


 しかし、葵は怒るどころかむしろ悪いところを指摘してくれたことを感謝している。


「私ももっと大人にならないとね。もう十八だし」

「楠先輩は十分大人ですよ。すっごく頼りになります」

「ありがとう中村さん。私ももっと頼られる先輩にならないとね。だって中村さんにとって私は理想の先輩だからね」


 そう言いながら葵は優の頭を撫でる。

 葵に撫でられると嬉しさと照れと恥ずかしさで葵の顔を見ることができず、優は視線をそらしてしまう。


「……蒸し返させられると恥ずかしいので忘れてください」

「うふふ、もう覚えちゃったから忘れられないわ」


 そんな初心な反応が可愛いのか、葵はクスクス笑っている。


「ごほん、お客様、後ろにもお客様が並んでいますのでご注文をお聞きしてもよろしいでしょうか」


 威圧的な咳払いと共に店員が笑顔で優たちに注文の確認をしてくる。

 顔は笑っているのに目が全然笑っていない。


『早く決めろよクソガキ。こっちはゴールデンウィークにも関わらずに働いてんだぞ、クソガキが。リア充アピールしやがって』


 という怨嗟の声が今にも聞こえて来そうである。


 店員の前で注文もせず、イチャイチャしていたことに気づいた二人は急に恥ずかしくなる。


 その後、優たちは店員の前でイチャイチャしていた恥ずかしさを堪えながら注文し、チュロスを受け取る。


 店員は終始笑顔だったが、どこか冷たかった。


「完全にイラついてたわね店員さん」

「はい。笑顔だったのに怖かったです」

「でも私たちが悪いわよね。私たちの番になっても注文もせずに中村さんと駄弁っていたもの」


 チュロス売り場から少し離れたところで葵と優はさっきの自分たちの言動を反省する。

 葵の言うとおり自分の番になっても注文もせず駄弁っていたのだからイラつかれても文句は言えない。


「中村さん、あそこでチュロスでも食べましょうか」

「そうですね」


 葵が空いているベンチを見つける。

 優たちはベンチに座り、買ったばかりのチュロスを食べる。


「う~ん、おいしいわ~。やっぱりストロベリーを買って正解だったわ~」


 葵は頬を蕩けさせながらチュロスを食べる。


 とても幸せそうだ。


「こっちのシュガーもおいしいです」


 優もチュロスを一口食べて、感想を漏らす。

 シュガーの甘さと生地の甘さが口の中いっぱいに広がり、甘さの暴力が襲う。


 やはりチュロスは王道が一番である。


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