表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/43

第一章:古い紙の香りと、冷たい石 p3


大聖堂の外の世界は、鋭い角と肌を刺すような冷たい空気が入り混じる混沌とした光景だった。ほんの一瞬前まで、ライリスは割れた窓枠のギザギザの歯を必死で通り抜けていたかと思えば、次の瞬間には急勾配のスレート葺きの屋根へと引きずり上げられ、そのざらついた感触に手のひらが擦りむけてひりひりと痛んだ。大聖堂から聞こえていた音――悲鳴、高位聖職者の怒号――はぷっつりと途絶え、代わりに風の嘆くようなうなりと、大聖堂地区から広がり始めた警鐘の狂ったようなリズミカルな響きに取って代わられた。それは、夜を蝕む音の癌だった。


「ついてこい」隣でグレイルの声が低くうなる。同情も安堵も一切含まれていない。それは依頼ではなかった。それは、置き去りにするという暗黙の脅威に裏打ちされた命令だった。


ライリスの肺は焼けつくようで、息を吸うたびに氷のような空気が苦痛とともに流れ込んできた。図書館の書架の間を静かに、決まった通りに歩くことに慣れた彼女の脚は、抗議の悲鳴を上げていた。二人はイルミナス(Illuminus)の屋根の上を、まるで危険な夜の荒野を駆けるように、必死の、獣のような速さで移動した。この高い場所から見る白亜の都は、全く別の獣だった。もはや静謐な信仰の記念碑ではなく、急勾配の瓦屋根、目もくらむような落下を約束する影深い路地、そして静かで悪意に満ちた無関心さで二人の逃走を見つめる、華麗な石のガーゴイルが潜む危険な風景だった。


グレイルは、ライリスが羨むことしかできない、恐ろしいほどの、流れるような優雅さで動いた。彼女の傷だらけの革のブーツは、不可能に思えるほど滑らかな場所にも吸い付くように足場を見つけ、そのバランスは揺らぐことなく、動きは無駄がなく確実だった。彼女はこの石の荒野の生き物であり、森の中の狼のように、ここに馴染んでいた。対照的に、ライリスはただのお荷物で、不器用で怯えていた。湿った瓦で足を滑らせると、鉄の万力のような手が彼女の腕を掴み、前へとい強引に引いた。その力は、彼女の肩を脱臼させんばかりだった。その行為に優しさのかけらはなく、ただ残酷なまでの、実用的な効率性だけがあった。彼女は貴重な資産であり、グレイルはそれを失うつもりはなかった。


「数分もすれば、奴らは城壁と全ての門に衛兵を配置するだろう」翼を広げた巨大な石の鷲の陰に身をかがめると、グレイルは息を白くさせながら吐き捨てるように言った。「高い尖塔には遠見の水晶を持った監視役もな。高位聖職者は、奴の貴重な『鍵』のために、この街をひっくり返すだろう。奴には、物語を変えさせるわけにはいかないんだ」


ライリスは恐る恐る振り返った。大聖堂は、砕けて欠けた月を背にそびえ立ち、その完璧で独善的な顔には、黒く煙を上げる醜い穴が開いていた。崇拝の場であったはずの場所が、狩人の巣窟と化し、そして自分がその獲物だった。最初の脱出を支えていたアドレナリンの波が、冷たく消耗させる恐怖へと凝固し始めていた。心臓は、肋骨という檻にぶつかる狂った鳥のようだった。その時初めて、窓のステンドグラスの破片が前腕に深く、綺麗な切り傷を作っていることに気づいた。薄いブラウスの袖は、乾いた自身の血で硬く黒ずんでおり、その光景は彼女の新しい現実を突きつける、衝撃的で生々しい証拠だった。


「どこへ行くの?」ライリスは風に言葉を奪われながら、かすれた声で喘いだ。


「下だ」それがグレイルの唯一の返事だった。「街の臓腑の中へ。奴らの聖なる光が届かない、唯一の場所だ」


彼女はライリスを高い屋根の端へと導いた。眼下には、ゴミで埋め尽くされた狭い路地が広がり、生ゴミと人間の排泄物の悪臭が漂ってきた。石畳には、街の下水道へと続く重い鉄格子がはめ込まれていた。何の警告も準備もなく、グレイルは跳んだ。


彼女は闇の中を、暗い落下物となって落ち、熟練した、骨に響く着地を物語る鈍い音を立てて着地した。彼女が見上げると、傷だらけの顔が薄闇の中で青白い、上向きの仮面のように見えた。「あんたの番だ」


ライリスは6メートルほどの落下を見下ろした。路地の床は、遥か彼方の世界のように思えた。すでに疲労と恐怖で震えていた体は、硬直した。「無理よ。脚を折ってしまう」


グレイルの声は平坦で、無慈悲で、閉ざされた空間からわずかに反響した。「あんたは夜明けを選んだ。太陽は、あんたが怖がっていようが気にしない。脚が折れていようが知ったことじゃない。昇るか、昇らないか。それだけだ。跳べ。さもなければ奴らにくれてやる。祭壇の時と同じ選択だ」


警鐘の音は、今やもっと大きく、もっと近く、周囲の石の建物から反響して聞こえるようだった。遠くで叫び声が、追跡の音が聞こえる。選択は、またしても、選択ではなかった。それは主体性の幻想であり、彼女自身を残酷な仕打ちに参加させるための道具だった。歯が痛むほど強く顎を食いしばり、ライリスは目を固く閉じると、縁から身を押し出した。


落下は、風と、喉元までせり上がってくる胃の感覚だけが支配する、短くも恐ろしい永遠だった。彼女はひどい着地をした。全体重が片足にかかったのだ。白熱した電気のような痛みが足首を駆け上り、彼女は鋭い、不随意の叫びとともに地面に崩れ落ちた。傷ついた腕を汚れた石畳に強打し、一瞬、世界は苦痛と路地の床の不快な味に塗りつぶされた。


血と灰の匂いがする強い手が、彼女のシャツの前を掴み、乱暴に立たせた。その動きが足首に新たな痛みの波を送り、彼女は叫び声を上げないよう唇を噛みしめ、自分の血の銅のような味を感じた。


「静かにしろ」グレイルは、ライリスの耳元で刃物のような声で命じた。その息は熱く、労作の匂いがした。「痛みは贅沢品だ。物音は裏切りだ。どちらも我々には許されない」


グレイルが重い鉄格子をこじ開けると、錆びた金属の低いうめき声がして、湿った土と腐敗、そして淀んだ汚水の吐き気を催す悪臭を吐き出す、黒い、ぽっかりと開いた口が現れた。それは忘れられ、埋められたものの匂い、街の秘密の、腐りゆく下腹部の匂いだった。グレイルは微塵のためらいもなく、闇の中へと身を投じた。


痛みと恐怖、そして悪臭からこみ上げてくる吐き気に震えながら、ライリスは捻挫した足首が動くたびに悲鳴を上げるのを感じつつ、後から続いた。ぬるぬるした下水路の床に足がついた瞬間、グレイルが手を伸ばし、頭上の格子を元の場所へと引き戻した。


世界が消えた。二人は絶対的で、息が詰まるような暗闇に突き落とされた。警鐘の音も、叫び声も、風のうなりも――全てが消え去り、代わりに、どこか遠くでリズミカルに滴る水の音と、静寂の中で不自然なほど大きく聞こえるライリス自身の荒い、パニックに陥った呼吸だけが響く、重く湿った沈黙が訪れた。


グレイルの手のひらに、小さなオレンジ色の光が瞬いた。それは捕らえられた小さな炎で、下水路の湾曲した煉瓦の壁に、長く、踊るような、怪物じみた影を落とした。ライリスが理解する魔法ではなかった――呪文も、身振りもなく――ただ意志の火花が、空気そのものに火をつけたかのようだった。その不安定な、地獄のような光の中で、グレイルは初めてライリスの方を向き、彼女を――真に――見た。その黒い分析的な目は、ライリスの破れた服、擦りむけて血の滲む両手、前腕の黒く濡れた染み、そして今や腫れ上がった足首に体重をかけまいとする哀れな様子をなめるように見た。


「あんたが選択をした時に想像したような、壮大で英雄的な脱出劇とは違うだろう?」グレイルは、厳しく、全てを見透かしたような皮肉を込めて尋ねた。それは質問ではなかった。断定であり、教訓だった。


ぬるぬるした煉瓦の壁にもたれかかり、ライリスは唇が震えるのを抑えるように噛みしめ、ただ首を横に振ることしかできなかった。アドレナリンは完全に消え去り、後には彼女の決断の冷たく、厳しい対価だけが残った。痛み、汚物、そして身体的な病気のようにさえ感じるほどの、深い恐怖。


「何を想像していたのか、わからないわ」彼女はついに、広大で圧迫感のある闇の中で、か弱い声で囁いた。


「あんたは圧政からの気高い逃走を想像した」グレイルは憐れみのない声で断言した。彼女はベルトのポーチに手を入れた。「正義の戦いを。下水の悪臭や、爪の間に詰まった汚物や、ただの馬鹿げた捻挫の苦痛なんて想像しなかった」彼女は清潔そうなリネンの布切れと、コルク栓のされた小さなフラスコを取り出した。「あんたは物語を想像した。これが現実だ。腕を出せ」


ライリスは顔をしかめながら、傷ついた前腕を差し出した。グレイルはフラスコの栓を抜き、何の警告もなく、深い切り傷の上に透明で鼻を突く匂いのする液体を注いだ。ライリスは、最初の切り傷よりもはるかにひどい、清潔で白熱した炎のような消毒液の灼熱感に、シーッと鋭い声を上げた。グレイルは彼女を無視し、その表情は変わらないまま、手際よく、きつく傷口にリネンの布を巻きつけた。その動きは実用的で、優しさのかけらもなかった。それは親切でも残酷でもなく、ただ、傷ついた道具を研ぐような、必要な作業に過ぎなかった。


「この世界で生き残るための第一の掟は、想像力に割く場所はないということだ」グレイルは包帯を結びながら、闇の中で低い講義をするように言った。「『もしも』はない。『こうあるべき』もない。あるのは、ただ、あるがままの現実だけだ。そして今あるがままの現実とは、あんたが傷つき、弱く、戦士としては全く役立たずだということだ。だが、あんたは生きている。そして、それだけが我々が築き上げるための唯一の土台だ」


彼女は立ち上がり、小さな炎が彼女の影を下水路の壁に長く、怪物のように映し出した。まるで、自らの汚れた忘れられた神殿で審判を下す、厳格な古代の神のようだった。彼女は再びポーチに手を入れ、黒くて密度の高い塊を取り出した。それを半分に割り、片方をライリスに差し出した。


それはパンだった。あるいは、かつてパンだったもの。岩のように硬く、密度が高く、全く食欲をそそらない見た目をしていた。


「食え」グレイルは命じた。「あんたが望んだあの夜明けの代価か? それは、祭壇での一度きりの壮大な反抗で支払われるものじゃない。分割払いで支払われるんだ。まさに、こういう瞬間に。痛みと暗闇と、下水の中の固いパンでな。慣れることだ」


ライリスは手の中の差し出されたものを見つめた。それは今まで与えられた中で最も醜く、最も魅力のないものだった。しかし、恐怖と極度の消耗から生まれた、深く、うずくような空腹が胃の中で目覚めつつあった。その原始的な欲求は、彼女の嫌悪感を凌駕した。震える、汚物にまみれた指で、彼女はその堅パンを唇へと運び、一口かじった。それは砂利と、塩気と、そして彼女の選択の、何の飾りもない苦い現実の味がした。


太陽が昇るまでにはまだ何時間もあったが、彼女はすでに百歳も年を取ったように感じていた。これは新しい章ではなかった。全く別の本だった。そして、そのページは一枚たりとも綺麗ではないのだろうと、彼女は疑い始めていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ