第一章:古い紙の香りと、冷たい石 p1
リリスが知る最後の、真に安全な場所は、古い紙の匂いがした。
それは、その場所が持つ歴史そのもののように、複雑で層をなす香りだった。脆くなった十八世紀の羊皮紙が放つ、乾いて甘さすら感じる芳香。二十世紀初頭の木材パルプの、鼻を刺すような酸っぱい香り。そして、朽ちかけたリグニンの、埃っぽく微かにヴァニラを思わせる甘い匂い。それは彼女のライフワークの、彼女の聖域の香りだった。その香りは彼女の服に染みつき、爪の間に棲みつき、心地よい塵のように肺の奥深くに積もっていた。彼女はアーキビスト。記憶という儚い聖遺物を守る、俗世の巫女であり、大学の特別収蔵閲覧室は、彼女にとっての大聖堂だった。
その日の午後、彼女は特に興味深い一品に身をかがめていた。十七世紀の錬金術に関する写本で、そのページは優雅で流れるような筆跡と、自らの尾を呑み込む蛇の緻密な図版で埋め尽くされていた。空調設備の穏やかなハミングは、途切れることのない優しいマントラであり、あまりに馴染み深いがゆえに、それが消えた時にだけ意識にのぼる音だった。指先の下にある羊皮紙の重みは、よく知る信頼すべき引力。彼女は七段階の蒸留過程を示す図をなぞりながら、忘れ去られた知識を解読する静かな喜びに心を委ねていた。インクと羊皮紙の世界。秩序があり、理解できる世界。
引き裂く音は、しなかった。
それは物理的な断裂ではなかった。紙や布が裂ける音ではない。彼女の現実という織物そのものが、引き裂かれるような感覚だった。最初の感覚は、暴力的で吐き気を催すような目眩。まるで床が足元からだけでなく、「下」という概念そのものから崩れ落ちたかのようだった。空調の優しいハミングは消え去り、代わりに鼓膜に凄まじい圧力がかかり、頭蓋が砕けるかと思った。
光――焼けるような、無色の反=光が眼裏で炸裂し、写本のイメージを焼き尽くした。心地よかった古い紙の香りは感覚から洗い流され、代わりにオゾンの無機質で電気的な匂いと、深く、凍てつくような虚無が訪れた。それは攻撃と感じられるほど、絶対的な感覚の剥奪だった。彼女の魂、意識そのものが、目に見えぬ宇宙的な手に掴まれ、宇宙に開いた針の穴を無理やり通されるような感覚がした。
そして、始まった時と同じくらい唐突に、それは終わった。
後に続いた沈黙は、書庫の平穏な静けさではなかった。重く、深く、冷たく、そして古の静寂。そして、寒さ……その寒さこそ、彼女が最初に感じた真実の感覚だった。薄いブラウスとジーンズを通して染み渡り、肌から、筋肉から、骨の髄から熱を奪っていく、深く突き刺すような冷気。それは巨大な古い石の冷たさ。千年間、太陽の光に触れたことのない冷たさだった。
手足は鉛のように重く、思考は泥のように鈍く、どろりとしていた。まぶたをこじ開けるには途方もない努力が必要だった。まるで長い、薬漬けの眠りから覚めるかのように、信じられないほど重かった。
最初に目にしたのは闇だった。天井という概念すら呑み込んでしまいそうな、広大で深遠な闇。それは単なる光の欠如ではなく、生きている、呼吸する影そのものだった。はるか頭上では、磨かれた黒曜石のアーチが、巨大な、とうに死んだ神の化石化した肋骨のように、骸骨めいて恐ろしく、闇の中へと伸びていた。空気は重く、噛み砕けそうなほど濃密で、むせ返るような甘い香に満たされていた――乳香、没薬、そしてもう一つ、何か樹脂系の奇妙な香り。その全ての下に、別の匂いが潜んでいた。喉の奥をちくりと刺す、微かな鉄錆のような匂い。彼女の後脳が、原始的で不穏な親近感と共に認識する匂い。古びた血の匂いだ。
ガラスの破片のように冷たく鋭いパニックが、心の霧を切り裂き始めた。動こうと、身を起こそうとしたが、体は鈍く、筋肉は反応しない。まるで標本のように板に張り付けにされている気分だった。その板が、祭壇であることに気づき、胃がひっくり返るような吐き気を覚えた。巨大な、頭上のアーチと同じ磨かれた黒い石の、冷たい一枚岩の祭壇。
これは現実じゃない、と彼女は思った。その言葉は、必死で自暴自棄なマントラだった。夢。脳動脈瘤。私は書庫の床で、脳卒中を起こしたんだ。その考えは、もう一つの可能性より、はるかに慰めになった。
「見よ」と、声がした。
その声は、洞窟のような静寂の中で物理的な存在感を放っていた。チェロのように滑らかで、よく響く声。一語一語が完璧に発音され、リリスの骨の髄まで震わせ、敬意を要求する権威を帯びていた。
「器は形なき虚空より遣わされた。慈悲深き方が、おいでになられた」
首が抗議の悲鳴を上げるのをこらえ、リリスは必死の思いで顔を向けた。そして目に飛び込んできた光景は、ただの脳出血であってほしいという彼女の必死の望みを粉々に打ち砕いた。
彼女がいたのは、大聖堂としか呼びようのない場所の中心だった。あまりに恐ろしく、ゴシック的な壮麗さに満ちたその場所は、彼女の世界の最も野心的な建築物すら子供のおもちゃのように見せた。何百、おそらくは何千という人影が、同じく光を吸収する黒い石で彫られた信者席にひざまずいていた。闇の中に浮かぶ白い卵形の顔は祭壇に向けられ、その表情は畏怖と、魂の底からの絶望的な希望が入り混じった、不穏で恍惚としたものだった。
巨大で複雑なステンドグラスの窓が壁の重苦しい闇を破っていたが、慰めにはならなかった。それらは救済の場面や慈悲深い聖人を描いてはいない。美しく、残忍な苦悶の傑作だった。ある窓には炎に包まれた女性が描かれ、その顔は静かな受容の仮面を浮かべていた。別の窓は、影と触手の怪物に愛情深く抱きしめられる金髪の美青年を描いていた。三つ目の窓は、人々が自ら進んで荒れ狂う黒い海へと歩み入る共同体を描いていた。それは犠牲の栄光に捧げられた神殿であり、美しく、自発的な苦しみを礎に築かれた信仰だった。
チェロのような声の主は、祭壇の脇に立ち、彼女を見下ろす男だった。彼は背が高く、ありえないほど痩身で、漂白された骨の色のローブをまとっていた。そのローブには銀糸で緻密な刺繍が施され、まるでそれ自体が冷たい内なる光で揺らめいているかのようだった。彼の顔は静謐な敬虔さの習作であり、穏やかで禁欲的な輪郭と慈悲深い落ち着きに満ちていた。まるで彼女が研究していた写本から抜け出してきた人物のようだった。だが、彼の目…その目はおかしかった。
磨かれた川石の色をした、灰色で深く、古の目をしていた。そこには深遠な知識と、共感を一切欠いた、全くもって恐ろしいほど非人間的な何かが宿っていた。彼は彼女を人間としてではなく、無事に届けられた、かけがえのない聖なる遺物として見ていた。
カルトだ、と彼女の心が、冷たく臨床的な思考を供給した。それしか当てはまる言葉がなかった。潤沢な資金を持ち、建築学的に壮麗で、恐ろしいほど組織化されたカルト。
白いローブの男は彼女に微笑みかけた。その表情は完璧で穏やかだったが、古の目までは届いていなかった。
「恐れることはない、子よ」と彼は言った。その声は怯えた動物をなだめるための軟膏のようだった。「そなたはリリス、であろう? 我々は待っていた。我らの祈りを聞き入れ、かくも純粋な者を遣わしてくださるとは、納骨堂の神は慈悲深い」
リリスの喉は砂漠だった。話そうと、頭蓋の内側でぶつかり合う幾千もの絶叫する問いを口にしようとしたが、しゃがれた乾いた鳴き声のような音しか出なかった。彼女はごくりと唾を飲み込む。その音は広大な静寂の中に大きく響いた。
「ここ…ここはどこ?」彼女はついに、か細い囁き声で言った。「この場所は何?」
「そなたはアセリアの中心、イルミナスの大聖堂にいる」男は、混乱した子供に最も簡単な事実を説明するかのように、忍耐強い口調で言った。「そなたは選ばれたのだ。定命の魂が授かりうる、最高の名誉だ」彼は長く優雅な手で、静かに見つめる会衆を指し示した。「一年間、そなたは我らが『聖別されし慈悲の御子』となる。何よりも敬われ、慈しまれ、この世が与えうるあらゆる安楽を与えられよう。そなたは具現化した我らの希望。答えられた、我らの祈りなのだ」
その言葉は金メッキの鳥籠だった。一語一語が、優雅で恐ろしい、完璧に磨き上げられた鉄格子。彼女の中のアーキビスト――あらゆる文書に隠された文脈、裏の意味を見つけ出すよう訓練された部分が、絶叫していた。器。選ばれし者。希望。それらは恐ろしい、口に出されない重みを伴う言葉だった。
「何のための希望?」彼女は囁いた。その声は、か弱いながらも力を得ていた。「正確には、何のために選ばれたの?」
高位聖職者の穏やかな表情は揺るがなかった。それどころか、ますます祝福に満ち、神聖な目的に輝き、彼女の肌を粟立たせた。
「我らを救うためだ、もちろん」彼は微笑みを広げた。「幾世代にもわたり、我らは聖なる周期に祝福されてきた。毎年、敬愛と純粋さの頂点にある『聖別されし者』が、『通過の儀』において自らを喜んで捧げる。その犠牲は納骨堂の神を鎮める聖なる軟膏となり、神の平穏のうちに、我らの地を蝕む『枯死』は食い止められる。それが産み出す、歪でねじくれた怪物『枯死の民』は、影の中へと退けられる。そなたの小さく、束の間の痛みは、幾千もの民の救済となるのだ」
婉曲表現が剥がれ落ちた。言外の意が、文言そのものとなった。優雅な金メッキの鳥籠は、それが真に屠殺場であることを露わにした。自らを捧げる。通過の儀。小さく、束の間の痛み。
いくつものピースが、墓の扉が閉まる最後の、耳を聾するような轟音とともに、あるべき場所にはまった。
「生贄ね」リリスは言った。彼女の声は恐怖の震えを失い、冷たく鋭い明晰さに取って代わられて、突然平板になった。アドレナリンが、祝福された、恐ろしい炎となって、ついに霧を断ち切ったのだ。「あなたたちは、私を自分の世界から、人間の生贄にするために連れてきたのね」
ひざまずく群衆の中から、彼女の粗野で、不敬で、素晴らしく正直な言葉に対する、敬虔な不満がこもった集団的なささやきがさざ波のように広がった。
高位聖職者の微笑みがミリ単位で引きつった。それが彼の不快感を示す唯一の兆候だった。「生贄とは、不本意な犠牲者を意味する、子よ。屠殺場に引きずられる、鳴き叫ぶ山羊のことだ。そなたは捧げ物。世のために、自ら進んで注がれる杯だ。一年間の敬愛の果てに、そなたは栄光のうちに昇天し、その恩寵は我らにもう一世代の平和を授けてくれる。それは美しいことなのだ。聖なる、完璧な物語なのだ」
リリスは彼を見つめた。その古の、非人間的な目に宿る、絶対的で、揺るぎない、恐ろしい確信を。これは交渉ではない。議論でもない。これは彼の世界における、事実の陳述だった。彼女の人生、彼女の物語は奪われ、新しく、恐ろしい物語が決定されたのだ。彼女はもはや人間ではない。資源なのだ。鍵。一年間、極上のワインで満たされ、そして最後の一滴まで飲み干される杯。
アドレナリンの炎は、大火となった。彼女の静かで秩序だった人生ではほとんど必要のなかった生存本能が、最前線へと咆哮を上げて躍り出た。彼女は祭壇の上で身を起こす。筋肉が抗議の悲鳴を上げ、冷たい石が手のひらに衝撃的な現実を突きつけた。
「嫌」彼女は言った。その一言は、大聖堂の壁に投げつけられた、小さく硬い石ころだった。だがそれは彼女の石。彼女の言葉。「嫌。私は杯じゃない。捧げ物でもない。私は人間。私の名前はリリス。私はアーキビスト。そしてあなたたちは、とんでもない、天文学的な間違いを犯したの。私を返しなさい」
高位聖職者モリアンは、ただ首を振った。どんな怒りよりも腹立たしい、深く、悲しみに満ちた憐れみの仕草だった。「一度天に届けられた祈りを、返すことはできぬのだよ、子よ。一度書かれた物語を、無かったことにはできぬ。そなたの古い人生は、終わった序文だ。そしてこれこそが……そなたの、第一章なのだ」
彼は手を挙げた。その声はチェロのような響きを取り戻し、広大な空間に轟いた。
「聖別されし者は、その聖なる責務を受け入れた! 全アセリアよ、歓喜せよ!」
会衆から耳を聾するような咆哮が巻き起こり、音の津波となってリリスに物理的な力のように打ち付けた。彼らは詠唱していた。雷鳴のような、ただ一つの賛美の歌を。「アヴェ、サンクタ! アヴェ、コンパッショーナ!」
彼らは彼女の言葉を聞いていなかった。初めから聞く気などなかったのだ。彼らは自分たちが信じる必要のある物語だけを聞いていた。彼女の否定は無関係。彼女の恐怖は重要でない些事。物語は書かれた。結末は定められていたのだ。
息が詰まるような音に包まれる中、むせ返るような香を切り裂いて、新しい匂いがした。それは聖なる匂いではなかった。鋭く、刺激的で、不敬な匂い。消えかけた炎の、熱い金属の、焦げた土の、そして古く、こぼれた血の匂い。
大聖堂の空気が重くなり、圧力が変化した。突如として暴力的な静電気が空間に満ち、リリスの腕の毛が逆立った。高いステンドグラスの窓の一つ――影の触手の獣に愛情深く喰われる聖人を描いた窓が、まるで第二の、より怒れる太陽がその後ろで昇っているかのように、悪意に満ちたオレンジ色の光を放ち始めた。
黒い、枝分かれする血管のような亀裂が、光るガラスの表面に蜘蛛の巣状に広がった。
詠唱がよろめいた。賛美の咆哮が、幾千もの喉の奥で絶えた。かつて祭壇に崇拝の念を向けていた頭が、今や困惑と恐怖のうちに不自然な光へと向けられた。
高位聖職者モリアンの静謐な敬虔の仮面がついに砕け散り、純粋な、冷たい怒りの表情に取って代わられた。
音と衝撃波の両方である、耳を聾するような爆音とともに、窓が内側に向かって爆散した。カミソリのように鋭い色とりどりのガラスの嵐が下の信者席に降り注ぎ、ローブと肉をひとしく切り裂いた。苦痛の叫びは、先ほどの賛美の詠唱からの、衝撃的で、歓迎すべき変化だった。灰と反逆の匂いをさせた冷たい突風が大聖堂を吹き抜け、蝋燭の半分を吹き消し、タペストリーを鞭のようにしならせた。
窓があった場所に開いた、大きくギザギザの穴の中に、アセリアの傷ついた黄昏の空を背に、一つの人影が浮かび上がっていた。それは女だった。背が高くしなやかで、その姿は恐ろしく野性的な優雅さの習作であり、傷だらけの黒い革と、ちぐはぐな鉄の切れ端をまとっていた。風が、この距離からでも破滅と報復以外に何も約束しない顔の周りで、夜の闇色の髪を滝のように乱れさせた。
リリスの心臓は、胸の中で冷たい死んだ石のようだったのが、純粋で混じりけのない恐怖の、必死で狂乱したドラムビートとなって肋骨を打ち鳴らした。
そしてその下に、野性的で、招かれざる、そして最高に素晴らしい何かの火花が散った。
希望。
彼女の金メッキの鳥籠は、今まさに壊されようとしていた。そして、その代わりとなるものは、炎で鍛えられるのだろうと、彼女は予感した。