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ふわふわした笑みを浮かべたまま、ソファに寄りかかる凪を見て、一誠はしばらく黙って考えてた。
以前の凪なら、こんなこと絶対言えなかった。
でも今の、少し力の抜けた凪だからこそ、言ってもいいかなと思った。
「なあ、凪」
「ん?」
ソファに横になりかけていた凪が、緩やかに首を傾けてこっちを見た。
相変わらず、目元はどこかとろんとしてて、昔の冷たい視線が嘘みたいに優しい。
「お前、これからどうするか悩んでるって言ってたよな」
「うん」
「正直さ、今のお前を一人で放っとくの、俺嫌なんだよ」
凪のまぶたがわずかに開いて、意外そうに見返してくる。
「……嫌?」
「ああ、嫌。前のお前だったら、心配してもしなくても関係なかったけど、今のお前は違う」
一誠は小さく息をついて、言葉を続けた。
「だからさ、いっそのこと、うちに住まないか?」
凪の目が少し丸くなった。
すぐには返事が返ってこない。
その沈黙に、一誠は焦りもせず、ただ凪の様子を見つめ続けた。
すると、凪はふわっと笑った。
「……いいの?」
「ああ」
「私、もう前の私じゃないかもしれないのに?」
「それでも、俺にとってはお前だろ」
一誠のその言葉に、凪はまた少しだけ考えるような顔をして、やがてソファから体を起こした。
そして、のんびりとした間延びした口調で、ぽつりと呟く。
「……んー。まぁ、甘え、させてもらうね?」
「……は?」
一誠は少し目を丸くする。
そんなことを凪が言うなんて、普通なら信じられない。
だが、凪は確かに、ふわふわと微笑んでいた。
「そういうの、悪くない、かも」
「……まじで、お前変わったな」
「ふふ。そうだね」
一誠は思わず苦笑いを浮かべつつ、そのまま凪の肩を軽く叩いた。
「じゃ、決まりな。明日から荷物持ってこいよ」
「うん」
凪は素直に頷き、そのままソファにまた寄りかかった。
一誠はそんな凪を見ながら、変わってしまった部分と変わらない部分、どっちも受け入れるしかねえな、と改めて思った。