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辞表を出す時、凪は妙に静かだった。

あのふわふわした喋り方のまま、上司――直属の司令官――にだけ、ひっそりと辞職の話を切り出した。


「……すみません。私、もう人間、じゃないかもしれないから」


司令官は驚いた顔をしたが、凪の穏やかな表情と、どうしようもない事情を察して、それ以上は聞かなかった。

軍の人間は、時に異形に関わる。

だからこそ、凪が「辞める」と言った理由も察せるのだろう。


「……わかった。何も聞かない。すまんな」


「ん、ありがと」


そのまま、何事もなかったかのように手続きを進めた。

騒ぎにはならなかった。

凪ほどの有能が辞めるのに、噂ひとつ立たないのは不自然かもしれないが、そこは軍内部の忖度ってやつだ。


無事、退役。

それでも、凪の顔は晴れなかった。


夜。

一誠の部屋、畳にぺたりと座った凪が、ぼんやりと口を開く。


「……これから、どうしよっか」


「は?」


「軍、辞めたし。私、もう……多分、普通じゃないし」


ぽつりぽつりと語る凪は、やはりどこか掴めない。

穏やかで、でも距離がある。

自分でも自分をどう扱っていいのか、まだ分からないんだろう。


「だから、一誠。もう、私に構わなくていいよ。迷惑、かけるし」


凪のその一言に、一誠の顔色が変わった。


「おい、ふざけんな」


怒気を含んだ声に、凪が目を見開く。


「……一誠?」


「迷惑? 誰がそんなこと言った? ふざけんな。お前、何年の付き合いだと思ってんだ」


一誠は床を蹴って、凪の目の前に座り込む。


「お前がどんな姿だろうが、何と混ざってようが、凪は凪だろ。俺の親友に変わりねぇよ」


「でも、私――」


「黙れ。勝手に自分の価値決めんな。お前がいなくなったら俺が迷惑なんだよ」


その言葉に、凪の目が揺れた。

ふわふわと笑うばかりだった彼が、珍しく黙り込む。


「お前、自分で言ったろ? 最後に俺と話せてよかった、って。あの時、俺どんな気持ちだったと思ってんだよ」


「……」


「今さら置いてく気なら、ぶん殴るぞ」


冗談とも本気ともつかない言葉に、凪は肩を震わせた。

だが、笑ったのは穏やかに――どこか、昔の凪に近いものだった。


「ん……やっぱり、一誠、怒るんだね」


「あたりめぇだ」


「そっか。ふふ……じゃあ、迷惑、かけるね」


一誠は黙って頷いた。


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