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3

「……凪」


そう呼んでも、もうハッキリした反応は返ってこなかった。

さっきまで、まだギリギリ保ってたんだろう。

けど今は、氷室のまぶたは半分落ちて、焦点の合わない目で空を見てる。


「おーい、聞こえてるか?」


声をかけると、氷室はほんのわずか、首を傾けた。

だが、その口から出た声は――


「あー、うん……これは、無理、だなぁ……」


完全に間延びしてた。

眠そうな、というより、意識そのものが溶けている感じ。

普段の氷室の、あのピシッとした冷静さはもう欠片もない。


「……運んで、欲しい。立て、な、い……」


ふらふらと腕を伸ばしてきた氷室を見て、ため息が出た。


「お前な……そこまで自覚あんのに、無理するなよ」


氷室はゆるく笑っただけだった。反論する気力もねぇんだろうな。

仕方なく、肩を貸してやる。いや、実際はほぼ抱える形だ。

身長は俺と変わらねぇし、体重も軽いわけじゃねぇ。

だが、不思議と力は抜けていて、妙に運びやすかった。


「自分の家戻るのも無理だろ? 俺ん家、来い」


氷室は微かに頷いた気がした。もう半分以上、意識飛んでるっぽい。


タクシーに乗せて、自宅まで。

道中も、氷室はぐったりしてたが、目だけは開いてた。

たまに、ぼんやりと外の景色を見て、また虚ろな笑みを浮かべる。


部屋に着いて、ベッドに寝かせると、氷室は小さく吐息を漏らした。


「ふわぁ……柔らかいな……ベッド」


「あのな……普段の凪なら、絶対そんなセリフ言わねぇだろ」


微かに笑ったまま、氷室はそのまま眠るように目を閉じた。

胸の上下は安定してる。命に別状はなさそうだ。

だが、完全に統合が進んでる。

氷室という人間の輪郭が、曖昧になっていくのを感じた。


「……ったく、心配させやがって」


ベッド脇の椅子に座り込み、氷室の顔を見つめる。

どんなに中身が混ざろうが、変わろうが――

俺の大事な親友であることに、変わりはねぇ。


「しばらく見張っててやるよ。だから、無理すんな、凪」


返事はなかったが、眠る氷室の口元には、微かな笑みが残っていた。


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