月夜に輝く世界
初投稿なので温かい目で見てくださるとうれしいです。
キャラの口調崩壊注意です
「ん………?」
涼しい風が頬を撫でる。さっきまで自分の部屋にいたはずなのに、まるで外にいるような感覚に目が覚めてくる。
「確かご飯食べて、お風呂に入ってそれで…」
身体を起こし見上げると、そこには夜空が広がっていた。
「わぁ……綺麗……」
星達が自らの存在を誇示するかのように煌々と輝き、息を飲む程綺麗な三日月がその光で世界を包んでいるかのようで、目を奪われてしまう。
時間にして数分程であるがまるで数時間見ていたかのような不思議な体験から意識を引き戻す。
「はっ!いけない、とにかくここがどこか確かめなきゃね。」
見渡す限りの星空に春にここで寝たら気持ちいいだろうなと思う程ふわふわの芝生の上から立ち上がり、どう見ても夜ではあるが何故か暗くない視界に疑問を感じつつも少しずつ歩き始めた。
歩いても変わらない景色、終わりが見える気配がないただただ広い世界。この世界に居たら誰しもがこの疑問を浮かべるだろう。
「ここは一体どこなんだろう」
と
しかし、そんな疑問を1人呟いたところで返す声がある訳もなく、ただ歩く。時折座り、空を見上げる。そしてまた歩く。
そんなことを繰り返していると目の前に1匹の蝶が現れた。
「蝶々?急になんで……ねぇ、あなたどこから来たの?」
ここまで歩いてきて生物など1匹も見なかったからこその違和感。だが何故かその違和感はすぐに消えてしまった。いや、消されたというべきだろう。
目の前をヒラヒラと舞う蝶は自らに投げかけられた問いに答えるかのように進んでいく。
進んだかと思えば止まり、まるで着いてこいとでも言うかのようにこちらを向いている。
「このまま進んでも埒が明かないし、着いていくしかなさそうね……」
そうして蝶誘われながら歩き始めた。
蝶に誘われしばらく歩いていると遠くから声が聞こえてきた。
「人!ここに人がいたんだ!」
自分をここへと案内してくれたのであろう蝶を追い抜かし声の方へ走っていく。
そこには少女達がいた。姿も形も知らないはずなのに、ただ不思議と他人のような気がしなかった。
「どうしてだろう、私彼女達を知ってるような気がする」
こぼした言葉は少女達に届くことはなかったが、蝶はその言葉に応えるように蝶が彼女たちに近づいていく。
「あっ!ちょっと!」
置いていかれないように慌てて後を追いかける。
少女達はなぜ自分たちがここに居る意味などに興味はなかった。ただ今を楽しむかのように過ごしていた。
彼女達に近づいていくと同時に何か違和感を覚える。
「なんだろう、何か、おかしいような…」
その答えはすぐに分かった。
「なぁ、それ何してるんだ?」
「……化石見てる。」
「へー、化石かぁ。なんの化石なんだ?」
「……サンゴ。」
そう。2人の少女の会話を目の前で聞いていても"気づかれない"。
少女達に自分の姿は見えていないのだ。
「そんな…」
ショックで目眩がする。ここまで来て尚誰かと話すことは叶わないのか。揺れる視界の中を蝶が舞う。まるで自分には君が見えていると言わんばかりに。
「そうだね…私にはあなたがいたね」
短い付き合いとはいえ、借りにもここまで一緒に歩いてきた仲だ。そして何よりこの世界で唯一自分を認識している存在でもあるだ
「あっちの2人の所に行ってみよう」
そう言って1人と1匹は歩き始めた。
そこではお茶を嗜んでいた。遠目から見ても『The・外でのお茶会』と言えるレースの綺麗なパラソル、豪華なテーブルの上にはいかにも高級そうなお菓子達が所狭しと並べられ、これまた豪華な椅子に座りまるで2人だけの世界だと言わんばかりの空気を纏いながら会話を楽しんでいる。
「こうして一緒にお茶できて嬉しいな。」
「はい!兎愛もとっても嬉しいです!」
「ふふっ、兎愛ちゃん。私たち同い年なんだから敬語やめて話しましょ?」
「あっ、それもそうだね…。美夢ちゃん。」
「なぁに?兎愛ちゃん?」
あの2人の空間を表すにはこの言葉が最も相応しいだろう。
「尊い……」
見えていないはずなのに思わず息を潜めて見てしまっていた。もし自分があの空間を壊してしまったらと思うとどうしても近づける訳がなかった。
「でもどうしてだろう、私あの子たちの事全然知らないはずなのに、もう大好きだな。」
まるで何年も一緒に過ごしたかのような、そんな感覚がする。
「他に誰かいないのかな」
辺りを見渡すと、1人で居る少女が目に入る。その少女は1人でなにかしているようだった。
「あの子は…」
何をしてるのかはその少女に近づくと分かった。1人でデッキ調整をしているのだ。
「カードファイター…」
決闘者、デュエリスト、カードファイターetc…そう呼ばれる人達は暇さえあればデッキ調整をしていると聞いたことがある。
「この子のことも知ってる。でもどうしてなの…?」
1人呟き、悩んでいると蝶が少女の上に止まった。
「あっ、大丈夫…?」
何に対しての大丈夫なの…と自分でツッコミつつ蝶を少女の上から退かそうとした時だった。
「みんなーーー、ドーナツ持ってきたよーーー」
声の方を向くと茶髪ロングの少女がドーナツの箱を高らかに掲げ得意げな顔をしていた。
「あの子も知ってる…なんで…」
謎が謎を呼び謎を作っていくループに落ちたのを自覚しつつもドーナツを貰えないかなと淡い期待を抱いて彼女の元へ歩いていく。
ちょうど少女達も彼女の元へ集まり、みんなでドーナツを食べようと話している。
「七音はこれにしよ〜っと」
「兎愛はこれ!」
「珊瑚ちゃんは何にするの?」
「……これにする」
「では私はこれにしましょう」
「ヒマリちゃんは?どれにする?」
「これにします」
「おっけー。じゃあまなはこれにしよ〜」
少女達がドーナツを囲みながら和気あいあいと楽しんでいる。そんな彼女達を見つめながらしれっと頂いたドーナツを食べる。
「美味しい。見つめられても、あなた食べられないでしょ?」
頂戴と言ってそうな雰囲気を醸し出し、こっちを見つめる蝶へツッコミつつ、少女達のことを考える。
「本当にあの子たちは誰なんだろう。私の大切な人達ってのは何となく分かるんだけど、なんで大切なのかな…思い出せない」
これまたしれっと頂きいた紅茶を嗜む。
「思い出そうとするとモヤがかかるような…記憶がハッキリしない感じがするんだよね」
これ以上考えても何も分からないだろうなと心のどこかで諦めを感じながらもカップを置き、膝を抱え少女達をボーッと見つめる。
「というか全員かわいいな…顔がいい…」
そんなことを呟いいて居ると少女達がコソコソと話しているのに気づく。明らかにこちらをチラチラ見つめ話している。
「……ん??こっちを見てる……??」
ピンク髪の少女が近づいてくる。急な出来事に心の準備が出来ていない。肩に乗っていた蝶に助けを求めようとしたが、いつの間にかいなくなっている事に気づき、更に焦ってくる。
「ど、ど、どうしよう…」
「あの、」
「は、はい!」
「もしよろしければ、あなたもこっちで一緒にお茶しませんか?」
突然の誘い、強い顔面、いい匂い、情報の三拍子に圧倒されそうになるのを抑え意識を保つ。
「え、いいんですか?というか私の事見えて…」
そう言われた少女は手を合わせ、全身から喜びを溢れさせている。
「もちろん!さ、こちらへどうぞ」
「う、うん」
手を引かれ連れていかれるように進む。
何故か、その手からは温もりを感じなかった。
「そうそう、さっきの『私のこと見てえるの?』って質問なんだけどね、貴女気づいたらそこにいたんだよ」
「……え?」
「みんなでドーナツ食べてたらね、まなちゃんが貴女を指さして『あの子誰なんだろう』って」
「みんな知らないって言うんだけど、不思議と他人じゃない気がする気持ちは一緒で、せっかくだし一緒にたべようよって話になったから誘ったのだけど嫌だったかな……?」
「いやいや!全然そんなことないよ!むしろ誘ってくれてめちゃくちゃ嬉しいよ!」
「ほんと!良かったー、実はもし断られたらどうしようかと思ってヒヤヒヤしてたの」
いつの間にか少女達がいる所まで歩いていたらしく視線が自分に向いているのを感じる。でもその視線すら心地よくて、きっと彼女達となら仲良くできる気がしてくる。
「お!やっと来たか〜!早く一緒に食べようぜ!」
「みんなおまたせしました。彼女は……そういえばまだ名前聞いてなかったね。なんて言うの?」
その問いに答えようとすると意識が遠のいていく。
「私の……名前は………」
『ピピピピ…ピピピピ…』
朝日が部屋に差し込む。遠くでは鳥の鳴き声が聞こえ、近くではアラームの音が鳴り響いている。
「………ん、もう朝か……」
アラームを止めようと手を伸ばすと、何かが手にぶつかり落としてしまった。
「あ、やっちゃった…」
ベットから降り、落としたアクスタを拾う。
「美夢ちゃん…どうしてこんなとこに…」
うーーん、思い出せない……たしか昨日は疲れてそのまま寝ちゃったんだっけ……
アクスタを撫でながら元のあった場所に戻そうと棚を見ると、何故か暖かい気持ちになってくる。
「そっか……私、夢でみんなと会ったのか」
詳しくは覚えていないけれど、幸せだったことは確かに覚えてる。あの輝きは忘れない気がする。
みんなも覚えてるのかな。
「よーーし!今日も頑張りますか〜!」
飾られた少女達に光が当たる。
その輝きはあの夢の空のようだった。
夢っていいとこで終わるよね