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第9話 スライム事件

 僕とメルティナは、山を越えて(ふもとから延びる街道を歩き、途中の分かれ道をまっすぐに進んで、その街道沿いにある村に辿り着いていた。

 それが昨日の夕暮れ前のことだった。

 村に一軒しかない宿屋に1泊し、今朝はその宿屋で朝食をとって、今は僕とメルティナの二人だけで村の中を散策していた。

 次の街へ向かうための準備が必要だ。

 そのための買い物を今日はしようとしていた。

「何もない村だね」

 僕は、村の中を見渡して呟く。

「牛さんやお馬さんがいるじゃない」

 辺りを見渡してメルティナが指をさす。

 確かに牛や馬が囲いの中で飼育されているみたいだけど、それ以外は民家がまばらに点在していて、お店屋さんもほとんどない。

 民家の脇に畑らしきものがあるけど、興味をかれるようなものは何もなさそうだ。

「干し肉や日持ちする食料が売っているお店があればいいんだけどなぁ~」

「冒険者とかが立ち寄る村であれば、そういったものを売っているお店はあるはずよ」

「そのお店があるとは思えないんだけど」

 僕は右手を額に当てて周囲をぐるりと見渡す。

 遠くに何かの看板を掲げている家が見える。

 お店屋さんぽい感じがする。

「あそこに何か看板が出ている家があるから行ってみよう」

 僕は、看板が見えた家の方を指さすとメルティナもそちらに視線を向ける。

「あら?あそこの家だけ何か変じゃない?」

 メルティナが怪訝けげんな顔をしながら、僕が指さした家の右側…木が数本立っていて家全体が隠れるようになっているが、かろうじて青い屋根の部分が見えている家の方を目をらして見ている。

「家が変?」

 何を言っているのかわからないので、僕も視線を向ける。

 青い家の屋根がウニョウニョとうごめいているようにも見える。

 見間違いかな?と思って腕で目をこすってからよく見てみる。

 やっぱり、屋根の部分が気色の悪い動きをしている。

「何だろう?何かが動いているよね?」

「ヴィオ君もそう思うわよね?でも、屋根が動くなんてありえないと思うわ」

「見に行ってみようよ」

 僕は興味を惹かれて駆け出した。

「えっ?ちょっと待って。何か嫌な予感しかしないんだけど…」

 駆け出した僕の後を追いかけながら、メルティナが呟いた。


 青い屋根がうごめいている家のそばまでくると、十数人程度の人が人だかりを作っていた。

 家全体が透明な何かに包まれている。

 見た目は透明なゼリーのようなものがモゾモゾと動き、家を丸呑みにしている状態だった。

「何かあったの?」

 集まっていた人に声をかける。

「良くはわからないが、スライムだ。スライムが、この家をおおいつくしちまっているんだ」

 多分、この人は村の人だろう。家がスライムに丸呑みにされている状況に困惑している。他の集まっている人たちも同じだ。

「すっ…スライム!」

 メルティナは、拒否反応を示すような声を上げた。

 そういえば、前にスライムに酷い目にあわされたみたいなことを言っていた気がする。

 それを思い起こしたのかもしれない。

 スライムで覆いつくされているのは、この一軒の家だけだ。

 この一軒家は、他の家と少し離れてポツンと立っていたので、他に被害がいっていないだけのようだ。

「どうしてこんなことになったの?」

「俺たちにもわからん。近くを通ったらこんな状態になっていたから…」

「でも、この家に住んでいるあの偏屈爺へんくつじじいがまた何かやらかしたんじゃないか?」

「その可能性はあるな」

 集まっていた人たちは口々に言う。

「またって?前にも何かしたってことですか?」

 メルティナが尋ねると、そばにいた男の人が教えてくれた。

「この家に住んでいる爺さんは、昔から魔物の研究をしているらしくてな。前に炎をまとったファイアースライムを作ったと言って家を火事で焼失させていたし、つい最近は、人体に影響はないが服だけを溶かす変態スライムなんかを作ったとか言っていたな」

「その服を溶かすスライムのせいで、私の娘は服を溶かされて半泣きで帰って来たんだから、迷惑きわまりないわ」

 村の人たちは、この家に住む魔物の研究家にいろいろと迷惑をかけられているようだ。

 そうなると、この家を覆いつくしている大量のスライムも、この家に住む魔物の研究家が何かやらかしたに違いない。

「ろくなことしない研究家みたいね」

 さげすむような目つきでメルティナは、スライムに覆われた家を見ながら吐き捨てるように言った。

「ああ、ただの迷惑爺だよ」

 村人がそんなことを口にしたとき、「誰が迷惑爺じゃい」と僕たちの背後から大きな声が上がった。

 皆が一斉に振り返る。

 そこには、スケベを凝縮したような雰囲気のおじいさんがいた。

 結構、年齢がいっているお年寄りっぽい。

 真っ白い髪の毛を無造作に伸ばしていてボサボサで凄くだらしない。

 服装も村の人と比べると、奇抜というか一風変わっているという感じの服装をしていて、上に羽織った白い服は薄汚れていて一見すると浮浪者に見間違われそうな感じだ。

「あんたのことだよ。これは何なんだよ?」

 村人がはっきりと言い、スライムに覆いつくされた家を指さした。

「ぬおっ!研究中のスライムが!」

 目の前の光景に研究家のおじいさんは目を見開いて驚いている。

 予想外のことが起きているみたいだ。

「今度は何の研究よ?もうスライムの研究は、やめてもらいたいわ。迷惑よ」

 村人たちは、口々に不満を口にしておじいさんに詰め寄る。

「まて、あまり騒ぎ立てるでない。あまり騒ぐと…」

 研究家のおじいさんの静止の言葉は、より村人たちの不満を増大させ、爆発させた。

 村人たちが大きな声で不満をわめき散らす。

「静かにせい。あんまりあやつを刺激すると…」

 研究家のおじいさんの声が一番大きかった。

 その声に反応したのか、家を飲み込んでいたスライムが僕たちの方に向かって動き出した。

 途端に、その場にいた村人たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 ゆっくりとした動きで家から離れた透明なゼリー状のスライム。

 それはかなりの大きさだ。

 一軒の家を覆い隠すほどの量なのだから、それが一塊ひとかたまりになれば相当な量だ。

 そのスライムは、不規則な動きをしばらく見せた後、変化を見せる。

 まるで人の形に近いような姿を形成した。

 頭のような部分があり、身体みたいな部分があり、それに手足が付いているような形。

 でも、透明なゼリーのような物体。

 表面がまるで脈打つように蠢いている。

 見ているだけでも気色悪い。

「うおぉぉぉぉぉぉ…ギガンテスライム。儂の理想通りのスライムじゃ」

 魔物の研究家のおじいさんは、目の前の不気味なスライムの姿を見て歓喜に満ちた雄たけびを上げている。

 理想通りのスライムって何?ウネウネと体表が蠢いている気持ち悪い人型のスライムに何の魅力も感じないんだけれど。

「あのスライムは何なの?」

「よくぞ、聞いてくれた。少年よ。儂の長年の研究成果じゃよ。スライムは一匹一匹では小さくて弱い。だが、その弱いスライムがたくさん集まって一つになったらどうなる?答えは簡単じゃ。強くなる。このスライムは、儂が300匹以上を集めて、一つに合体させたのじゃ」

 おじいさんは、自信満々に胸を張って言い切った。

 弱いものをたくさん集めたら強くなる?そんなことあるのかな?弱いものをたくさん集めても弱いものは、弱いままだと思うんだけど。

「見よ。このギガンテスライムを。強そうじゃろう?」

 透明の人型ゼリー状のスライムを指さして尋ねられても、気色悪いだけで強そうには見えない。

 まあ、大きさは普通の人の三倍くらいの大きさはあるので、見た目の大きさは巨人のようだ。

「でっかいだけでしょう?」

「何を言っておる。少年よ。ギガンテスと言う魔物を知っておるか?」

「ギガンテスって…毛むくじゃらの筋肉隆々の巨人の魔物のことですよね?」

 メルティナは、ギガンテスと言う魔物のことを知っているみたいだ。

「お嬢ちゃん、良く知っておるな。そう、その魔物と同じような見た目、そしてパワーを兼ね備えたスライム。それが、この儂が生み出したギガンテスライムじゃ」

「じゃあ、おじいさんの言うことを聞くの?」

「あっ…ああ…もちろんじゃ…多分…」

 最後の方は、聞き取れないほど小さい声だった。

「だったら、何とかしてよ」

「ああ、わかった。儂のギガンテスライムよ。良い子だから、儂の家にお帰り」

 おじいさんがそう言いながら近づいていくと、透明なゼリー人間…ギガンテスライムは突然、腕を振り上げて襲い掛かってきた。

「ひゃあ!」と声を上げて、おじいさんは逃げ出した。

 全然、言うこと聞かないじゃん。

 まあ、言うこと聞くぐらいだったら、こんなことにはなっていないかな。

「ヴィオ君、どうするの?おじいさんは逃げちゃったし、村の人たちも逃げちゃって…私たちしかいないけど…」

「僕たちで、何とかするしかないんじゃない?このまま放っておいたら、暴れ回って大変なことになりそうだもの」

「それもそうね。でも…私たちじゃなくて、ヴィオ君の召喚獣が…でしょう?」

 的確な指摘をしてくるメルティナ。

 確かにそれは、そうなんだけどね。

「たまには、あの人を呼んであげようかな」

 僕は、両手を前に突き出して魔力をめる。

 僕の前方に魔法陣が描き出される。

「メイドリアン、召喚」

 僕の叫び声とともに、魔法陣が淡い光を放ち、その光は指名した召喚獣の姿を形作る。

 一層輝きを増した光が、パッとはじけた。

 そこに現れたのは。

「えっ?」

 メルティナの驚きの声が僕の耳を打った。

「あああ…やっちゃった!呼び出す場所を間違えちゃった」

 僕は、天を仰ぐ。

「ヴィ…ヴィオ君?何の冗談なの?」

 メルティナがジト目で僕を見てくる。

「久しぶりに呼んであげようと思って、気軽に召還しただけだったんだよ。でも、呼び出す場所を間違えちゃった」

 僕が、呼び出した召喚獣は、地面の上をピチピチと跳ねて戸惑っている。

 呼び出した召喚獣は、イルカの召喚獣だった。

 イルカは、海にいる動物だ。

 完全に陸の上で呼び出す召喚獣じゃない。陸の上では泳げないので、移動すらできない。

 イルカの召喚獣メイドリアンは、ピチピチと跳ねながら困った表情で僕を見つめてくる。

 久しぶりに呼んであげたかっただけなんだよ。

 意地悪するつもりとかはないからね。

「キュイィィィィィ…」

 抗議の声なのか、動き出そうとしたギガンテスライムをけん制しようとしたのかわからないけれど、イルカの召喚獣のメイドリアンが泣き声を上げた。

 それと同時に、ギガンテスライムに向けて口から水の球をいくつも連続で発射した。

 それは、ギガンテスライムの表面に当たってはじけるけれど、何の効果もない。

 ただ単にギガンテスライムの表面を水で濡らしただけだった。

 このままでは、僕がメイドリアンに嫌がらせをするために呼び出したみたいだ。

 そうではないことを証明するために「すぐに成獣化させるよ」と、僕は叫ぶと、再び魔法陣を描き出す。

 イルカの召喚獣メイドリアンの身体の下に魔法陣が広がり、光がイルカの身体を包み込む。

「我、汝の封印を解き、解放する者なり。封印よ、退け。メタモルフォーゼ」

 呪文を唱えると、イルカの姿から人型へと光が変貌へんぼうしていく。

 光が消え去ったそこに現れたのは、メイドさんだ。

 全体的に黒を基調としたメイド服にエプロンドレスを身に着けている。

 スカート丈は、膝上あたりかな。

 黒髪を三つ編みにし、赤いふちの眼鏡が印象的だ。

 その眼鏡の奥の瞳は、おっとりした印象を受ける。

 ちょっとのんびり屋さん的な雰囲気を醸し出している。

 そのメイドさんのメイドリアンは右手に、なぜかデッキブラシを握っていた。

「ご主人様、ちょっとひどいです~」

 頬をぷっくりと膨らませて口を尖らせている。

 陸の上で呼び出したことに、ちょっとご立腹のようだ。

「ごめん…メイドリアン。また、やっちゃったよ。久しぶりに呼んであげようと思っただけなんだよ」

 頭を下げて僕が謝ると「そういうことなら、許しちゃいます」と屈託のない笑みを僕に向けてくる。

 そんな笑顔を見せられると、ますます僕自身、悪いことをしたなって気分になっちゃうよ。

「それよりも、ご主人様。このゴミは、なんですか?お掃除しても構いませんか?」

 ゴミとは…ギガンテスライムのことみたいだ。

「そのギガンテスライムを片付けちゃって」

 僕の言葉に「かしこまりました」と深く頭を下げると、メイドリアンはデッキブラシを両手で構え戦闘態勢をとる。

 ゼリー状の身体をしたギガンテスライムは、ウネウネとうねる腕を伸ばしてメイドリアンに掴みかかってきた。

 華麗に飛び上がって楽々とかわし、デッキブラシを頭と思われる部分に押し当てると数回ブラシをこすり付ける。

 ブラシが擦った個所は、なぜか透明度が増したようにも感じる。

 ギガンテスライムは、今度は腕を大きく横に振るった。

 動きはそんなに早くはない。ただ、ゼリー状の身体をしているため、振り回すとやや伸びたりするので距離感を掴みにくい。

 でも、メイドリアンは冷静にそれを躱し、代わりにデッキブラシで胴体部分を擦る。

 擦られた胴体部分が綺麗になり、やはり透明度が増したようにも感じる。

 ギガンテスライムは、両腕を鞭のようにしならせてブンブンと音を立てて振り回す。

 それを躱しつつ、メイドリアンのブラシがギガンテスライムの身体を擦って磨き上げていく。

 ほぼほぼ、ギガンテスライムの透明なゼリー状の身体が綺麗になりつつある。

 ギガンテスライムの攻撃を飛んだり跳ねたり、バク転や側転で軽やかに回避するメイドリアン。

 スカートの丈が短いから、そんなに激しく動き回るとスカートがめくれてパンツが丸見えだ。それでいいの?

 村の人たちが周囲にいないから、まあいいけど…僕としては、ちょっと目のやり場に困る。

 ギガンテスライムが攻撃し、それをメイドリアンが躱してはブラシで擦るを何度繰り返したことだろう。

「ヴィオ君、あの攻撃に何か意味があるの?スライムが綺麗になっていっているだけのような?」

 メルティナの指摘に、僕も同意するけど、意味があるのかはわからない。

 ギガンテスライムの攻撃をかいくぐりながら、全身をデッキブラシで擦り続けるメイドリアン。

 いつしか、ギガンテスライムの身体は、ピカピカになっていた。

「ふぅ~…綺麗にお掃除できました」

 一息つくメイドリアン。

「メイドリアン、その攻撃は何か意味があるの?」

 尋ねる僕に「いえ、ありません」と、きっぱりと答えが返ってくる。

「えっ?」

 僕とメルティナは、顔を見合わせる。

「汚いものがあると綺麗にしたくなる性分なので、お掃除させてもらいました。やはり、片付けるのなら、綺麗にしたいものですから」

 急に不敵な笑みを浮かべるメイドリアンにゾクリとしたものを僕は感じた。

 メイドリアンは、手にしていたデッキブラシを器用にクルクルと回転させ始めた。

 まるで風車の羽が回るかのようにだ。

 そのデッキブラシは、回転速度を上げていく。

 ギガンテスライムの腕が伸びてくる。

 だけど、回転しているデッキブラシに当たるとあっさりと弾き飛ばされ、ギガンテスライムはたたらを踏む。

「メイド流お掃除殺法、十二の型。冷気の息スノーブレス回転風車ハリケーン

 何か訳のわからない叫び声をメイドリアンは発し、口から白い息を吐き出した。

 それは目の前を回転しているデッキブラシの遠心力で広がってギガンテスライムの身体を覆っていく。

 ギガンテスライムが、白い息を嫌がるように身体をよじる。

 何が起きているのかよくわからないけれど、ゼリー状の体表が白く変色していっている。

 いや、凍っているように見える。

 じわじわとギガンテスライムの身体が、凍り付いていく。

 メイドリアンの吐く白い息があの回転しているデッキブラシで増幅されて拡散しているみたいだ。

 凍り付いていくのはギガンテスライムの身体だけではない。その背後にある魔物研究科を名乗るおじいさんの家も白い息を受けた部分だけが徐々に凍り付いていっている。

 ギガンテスライムは、逃れようと身をひるがえそうとするが、時すでに遅し。

 体中が透明から真っ白に変色して動かなくなっていた。

 カチンコチンに凍っている。

 メイドリアンが白い息を吐くのをやめ、デッキブラシの回転もやめる。

 メイドリアンは、右手にデッキブラシを持つと、それを凍り付いたギガンテスライムに向けて突き出した。

 一回だけではない。

 目にも止まらぬ速さで、何度も突きを繰り出す。

 デッキブラシが凍り付いたギガンテスライムに当たるたびにキィンと硬質な音が響く。

 最後は、両手で握りしめて大きく振りかぶり、横なぎに思いっきりデッキブラシを振り回した。

 凍り付いたギガンテスライムの腹部にデッキブラシは命中し、その巨体が浮き上がって吹き飛んだ。

 ギガンテスライムの身体は、背後にあった魔物研究家の凍り付いた家に激突すると、家もろとも粉々に砕け散った。

 それも、砂粒くらいの大きさにだ。氷の粒の山が出来上がる。

「はぁ~…綺麗なものを壊すときって、快感」

 恍惚こうこつの笑みを浮かべながら、何やら恐ろしいことを一人呟いてえつに入っているメイドリアン。

 ちょっと、怖いんだけど。

 こんな人だったかな?

 ずいぶん前に呼んだことがあるけど、覚えていない。

「何か、あの人…ちょっと危ない人じゃない?」

 メルティナが、小声で僕の耳元にささやきかけてくる。

「僕も、そう思う」と小声で返事を返すと、人の声が聞こえてくる。

 どんどん近づいて来ているようだ。

「スライムごときで騒ぐなよ。爺さん」

 現れたのは、ギガンテスライムを作ったと豪語ごうごしていたあの魔物研究家を自称するおじいさんと冒険者風の男の人だった。

「儂のギガンテスライムは、どこに行ったんじゃ?あやや…儂の家が…」

 木っ端みじんになって跡形もない家があった場所を見ておじいさんは、がっくりと項垂うなだれる。

「あのスライムならメルティナが、やっつけてくれたよ。家は、スライムが暴れて壊しちゃったんだよ」

 僕は、さも当たり前のように言い放った。

「何?お嬢ちゃんが儂のギガンテスライムを倒したじゃと?」

 信じられないといった声をおじいさんは上げた。

「弱いスライムがたくさん集まっても、スライムはスライムだよ。強くなかったってことだよ」

 僕は、きっぱりと言い放つ。

 僕が戦ったわけじゃないから、強かったかどうかは知らないけれどね。

「最強のスライムではなかったということか…」

 がっくりと肩を落とすおじいさん。

 逆に「嬢ちゃんは、冒険者か?」と冒険者風のおじさんが尋ねて来ていた。

「メルティナは、凄い強い冒険者だよ」

 僕がそう言うと、おじさんは興味を持ったみたいだ。

 冒険者証明書を見せてほしいと言ってきた。

 メルティナは少し嫌そうにしたが、僕にうながされると諦めたようにおじさんに証明書を見せた。

 おじさんは、メルティナの魔物討伐記録を目にすると驚いていた。

「凄腕の冒険者だったのか。巨人みたいなスライムが暴れているから何とかしてくれとその爺さんに言われて来たんだが、嬢ちゃんが倒したってことでいいんだよな?」

 ギガンテスライムは、粉々になって姿形はない。なので、存在した証明がない。

「急に凍り付いたからメルティナが粉々に砕いちゃったんだよ。その時に倒れたスライムに家が押しつぶされて壊れちゃったんだよ」

 適当な嘘でごまかす。

 僕たち以外で、この場にいる人物の中で、ギガンテスライムのことを知っているのは研究家のおじいさんだけだ。

「凍り付いた?失敗したということか…やはり、無理やり合体させた弊害が出たのか…ゴニョゴニョ…」

 おじいさんは、さらに落胆していたが、ああすればよかったのかも知れないとか一人で何かをもごもごと呟いている。

 まあ、ギガンテスライムは失敗作だったということで、このおじいさんは納得したみたいだ。そう思いたい。

「さすがにそのスライムの姿がないから、ギルドに討伐したことを証明してやることができないんだが…」

 申し訳なさそうに冒険者風のおじさんは言う。

「ああ…大丈夫です。お気になさらずに…」

 メルティナは、そう言った後に安堵のような溜め息をついていた。

 メルティナが、自分で倒したわけじゃないからね。

 討伐記録が増えなくて良かったと思っているみたいだ。

「くうう…今回も失敗はしたが、儂は諦めんぞ。凄いスライムを研究して作り出してやるぞい」

 研究家のおじいさんは、突然復活して、そんなことを宣言し始めた。

 この場所に戻ってきた村人がその言葉を聞き、「いい加減にしろ」とか「迷惑だ、村から出ていけ」などと罵声を浴びせていた。

 ふぅ~…人に迷惑をかける人って困るよね。

 僕は、迷惑物のおじいさんを遠目に眺めながら、少し大きな溜め息をついていた。

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