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召喚獣戦士 ヴィオ  作者: 朧月 氷雨


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第49話 冒険者メルティナ

メルティナの挿絵あり。

 小さな街なので簡単に冒険者ギルドは見つかった。

 城郭都市(じょうかくとしアヴァランシェアにあった冒険者ギルドと比べると、遥かに小さな建物だった。

 アヴァランシェアの冒険者ギルドの建物が驚くほど大きかっただけかもしれないけれど。

 人の出入りも、そんなに多くはなさそうだった。

 まあ、街の住民の数自体が違うのだから、アヴァランシェアと比べてしまうことがおかしい。

 この街の冒険者ギルドで、念願の冒険者に私はなれる。

 そう思うと期待に胸が膨らんだけれど、本当に冒険者になれるのかと不安な気持ちも同時にき上がっていた。

 なかなかギルドの扉を潜る勇気が湧かなかった。

 どれくらい逡巡していたのかしら。

 周囲にいた人から見たら、私は不審者みたいな動きをしていたのかもしれない。

 私は冒険者になるんだ。

 心の中で強く大きく叫んだ。

 意を決して冒険者ギルドの扉を開けた。

 一歩足を踏み込んでしまえば、進むしかない。

 何と狭い冒険者ギルドだろうか。

 扉を開けた先には、やや広い空間が広がっていたけれど、アヴァランシェアの冒険者ギルドと比べると本当に狭いという印象を受けた。

 その空間の右手側には、リクエストボードがあり、冒険者らしき人たちが群がっていた。

 やはり、アヴァランシェアと比べると遥かに人は少ない印象だった。

 真正面にはカウンターがあり、五つほど窓口がある。

 そこにそれぞれ受付嬢が、にこやかな笑みを浮かべながら、待ち受けていた。

 カウンターに向かって歩みを進める。

 カウンター内にしている一人の受付嬢と先ほどから目が合っている。

 逸らしたら負けだと思いながら、睨みつけるように歩みを進めた。

「ようこそ、イブリシアの冒険者ギルドへ」

 長く艶やかな茶色の髪を背に垂らした清楚な印象を強く受ける受付嬢の前に私は立った。

 受付嬢は、にっこりと微笑みながら声を掛けてくれた。

 見た目の割には幼く、可愛らしい声の主だった。

 見た目とのギャップが強かったため、ちょっと拍子抜けした感じがしたけれど、私は深呼吸をすると口を開いた。


挿絵(By みてみん)


「あの……冒険者になりたいんですけれど……」

「ああ、冒険者志望ですか?では、こちらの用紙に必要事項を書き込んでください」

 受付嬢は、紙一枚を私に差し出してきた。

 ちょっとだけ厚みがあり、頑丈で多少乱暴に扱っても簡単に破れたりはしない感じの紙だった。

 カウンターには、小さな陶器に満たされた黒色のインクと鳥の羽根を加工して作られたペンが置いてあったので、それを使って指示された箇所に名前と年齢を書き込んだ。

「メルティナ・メーベリアさんですね。十八歳ですか」

 受付嬢は、私が書き込んだ箇所を見詰めながら呟いた。

「魔物との戦闘経験はありますか?」

 尋ねられたので正直に答えてみた。

「いえ、まだないです」と。

「そうですか。それならば、最初に受ける依頼は、魔物の討伐以外のものをお勧めいたします」

 いきなり、カウンターに数枚の紙切れが置かれた。

 先ほど書き込んだ紙とは全く異なる紙質のものだった。

 ペラペラの紙で質は、かなり悪そうだった。

「え~と……これは?」

 訳が分からないので困惑した。

「ああ、すみません。先ほど書き込んでもらった紙は、『冒険者証明書』と言って、冒険者である証になります。常に携帯してもらって、必要な時には提示をお願いしますね」

 私が書き込んだ厚手の紙を受付嬢は渡してくれた。

「?……あの……私、冒険者になれたんですか?」

「ええ、そうですよ。あなたは今からギルド所属の冒険者です」

 そう言われたけれど、あっさりしすぎていて実感が沸かなかった。

 拍子抜けしてしまった。

 『冒険者証明書』というものに名前と年齢を書き込んだだけで、冒険者になれてしまった。

「そうですか……私、冒険者になったんですね……」

 もっと嬉しいものかと思ったけれど、あっさりと冒険者になれてしまったので、大いに戸惑った。

 受付嬢の女性は、そんな私の姿をまじまじと見つめながら、不思議そうな顔をしていた。

「もしかして、他の街から来られた方ですか?」

「はい、城郭都市アヴァランシェアから来ました」

「ああ……よく来られましたね。あの辺は恐ろしい魔物がたくさんいると聞き及んでいますけど……」

「冒険者の護衛付きの乗り合い馬車で来ましたから……」と私は答えると「そうなんですか」と頷いていた。

「この街の周辺には、おもに小鬼ゴブリンが生息しているので、アヴァランシェアにいらした方からすれば、歯ごたえのない魔物にしか感じないでしょうね」

 そう言われても、小鬼ゴブリンという存在自体、この目で実物を見たことはない。

 魔物の図鑑でその姿を見たことがあるだけで、強さも何もかも私にとっては未知なものだった。

「そんなことないと思いますけど……」

 とりあえず、苦笑いを返しておく。

「ギルドのことは、どの程度ご存じですか?」

「魔物の討伐とかをする依頼を受ける場所ってことくらいです……」

「ああ……魔物だけではなく、様々なお仕事がありますよ。薬草の納品だったり、薬の調合や剣術などを教えたりと幅広くあります。冒険者になったばかりのメルティナさんには、この薬草の採取と納品などが手始めに良いと思います」

 いきなり、仕事を勧められてしまった。

「この街の東に位置する森に生える薬草を摘んで、納品してもらうだけですから簡単ですし、魔物と遭遇しても討伐のお仕事ではないので戦う必要はないですよ」

 小鬼ゴブリンという魔物が、どれほどのものなのか私にはわからない。

 知識としては知っている。

 小さな子供と同じくらいの体格の魔物で、集団で行動しているらしい。

 戦えるかはわからないので、遭遇はしたくはない。

「その依頼って受けなければならないものですか?」

「いいえ、冒険者になったばかりのメルティナさんに勧めているだけですので、断ってもらっても構いません」

「そうですか。私、今この街に着いたばかりで、右も左もわからないので……」

「ああ、そうでしたか。それなら、この依頼をとりあえず受けておいて損はないと思いますよ。このギルドの二階は宿屋も兼ねていて、依頼を受けた冒険者の方であれば、格安でお泊りいただけます。しかも、この依頼は期限などはないので、焦って納品することもないので、街の中や外をじっくりと探索して慣れてもらうにはうってつけかと思います」

「えっ?依頼を受けると格安で宿泊できるんですか?」

 そんな特典があるなんて初耳だった。

「はい、あくまでも依頼を受けた冒険者さんに限りますし、依頼を受けている間はお得ですよ。その辺の宿屋に宿泊すると倍以上の金額はかかりますからね」

 この街に来たばかりで右も左もわからない状態だ。

 だから、お金を無駄に使うことは避けたい。

 薬草を採取するくらいだったら、簡単にできそうだった。

「それなら引き受けます」

 私は、受付嬢が進めてきた依頼を引き受けていた。

「では、先ほどの冒険者証明書に書き加えさせてもらいます」

 カウンターに置いていた冒険者証明書を受付嬢は手に取ると、何かを書き込み始めた。

 覗いてみると今引き受けた依頼の内容が簡潔に書かれていた。

『薬草の採取と納品』と。

「薬草を採取して、再びここに来てください。依頼の達成を確認でき次第、ここに記載されている報奨金をお支払いしますね」

 依頼書の指さしている箇所に視線を向けた。

 そこに書かれた金額は、薬草を一定量納品するだけで、配膳の仕事二日分に相当する額の報奨金が書かれていた。

 冒険者の仕事って実入りがいいのかもしれない。

「これが二階の部屋の鍵です。依頼を達成するまでは使用可能ですが、宿泊費が発生していることはお忘れなく」

 いつまでも宿として使用してもいいけれど、宿代は少なからず発生していると念押しされたようだった。

 まずはこの街の中を散策して、それからこの街の周辺を散策し、明日から森に向かって行き薬草を採取してみようと私は考えた。

 冒険者ギルドの二階に上がり、指定された部屋へと向かう。

 鍵を開けて室内に入っていく。

 簡素な部屋だった。

 正方形の小さなテーブルが一つあり、そのテーブルを挟むように二脚の椅子が置かれていた。

 ベッドが一つと申し訳程度に窓がある。

 まあ、特に荷物もない私にとっては、一人で暮らすには十分な部屋だった。

 窓を開けて、街の様子をうかがってみた。

 ギルド前の大通りを行き交う人たちの喧騒が聞こえてくる。

 新しい場所にやって来た実感がいた。

 先ほど貰った紙切れを開いてみた。

『冒険者証明書』と言っていた。

 冒険者である証となる書類。

 まだ、私が書き込んだ名前と年齢、受付嬢が書いてくれた冒険者として登録した今日の日付と登録したギルドの名前……『イブリシアの街の冒険者ギルド』と先ほど受けた『薬草の採取・納品』の依頼が書かれただけの紙切れ。

 他にも受注した依頼の成否や魔物の討伐記録なる欄があり、そこはまだ空白になっていた。

 ここに私の実績が書き込まれていくことになるらしい。

 最終的には、どんな証明書になるのか楽しみではあった。

「私、冒険者になったんだ」

 あっさり過ぎて未だに冒険者になった実感は感じられないけれど、この証明書がそれを示してくれている。

「私は、これからロゼリアンナさんのような冒険者になるわ」

 改めて決意を口に出していた。

 今まで、そうして日々を過ごして来ていた。

 口に出すことで、実現させるんだという思いが湧いてきていたからだった。

 新天地にて、私は決意も新たに冒険者としての道を歩み出した。

 それが、この後とんでもないことになるきっかけになるとは、この時は露ほどにも思ってはいなかった。


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