第48話 新天地へ
両腕を頭上高くに掲げ上げ、耳障りな雄たけびを上げながら怪力巨人は突進を開始した。
街路に敷き詰められた石畳を踏み割りながら、巨体が迫り来る。
ロゼリアンナさんは、右手に槍を構えたまま身動ぎすらしない。
手にした『零槍ゲイボルグ』からは、相も変わらず靄のようなものが立ち上り、その靄はある程度、槍から離れると小さな氷の粒となって石畳の上にコロコロと転がり落ちている。
間合いを詰めた怪力巨人は、ロゼリアンナさんに向けて両の腕を勢いよく振り下ろした。
ドン!と激しい衝撃と破砕音を伴いながら街路を揺らし、石畳を軽々と粉砕する。
粉塵が巻き上がるその場に、ロゼリアンナさんの姿はなかった。
怪力巨人の一撃で潰されたわけではない。
振り下ろされた腕が衝突する寸前で右に跳ね飛んで躱していた。
躱した先で、ロゼリアンナさんは先ほどと同じように左手を前に突き付け、腰を捻るように『零槍ゲイボルグ』を持つ右手を後ろに引いた姿勢をとっていた。
槍から立ち上る靄は、明らかにその量を増しているようだった。
靄は氷の粒となり、さっきよりも大きな粒になって石畳に落ちていっている。
「氷の粒が……大きくなっている?」
私の呟きに「その通りだ」とベントさんが頷いていた。
「あの槍は今、ロゼリアンナの魔力を吸い取っているんだ」
「魔力を吸い取る?……大丈夫なんですか?」
「まあ、あいつの持っている魔力量は尋常じゃないからな。そんじょそこいらの奴だったら、あっという間に槍に魔力を吸い取られて死んでいるぜ。くくく……」
槍に魔力を吸い取られている?
魔力を持っている人は、魔法を使えるということは知っている。
けれど、槍が魔力を吸い取るなんて話しは聞いたことがなかった。
まあ、魔法とかに関する知識は浅い。
私自身が魔力を持ち得ていないから。
魔法に関しては、あまり興味を抱いたことはなかった。
「ゲイボルグ、無限形態」
ロゼリアンナさんが、声高らかに叫んだ。
『零槍ゲイボルグ』から立ち上っていた靄は、まるでロゼリアンナさんの声に応じるかのように動き出す。
槍全体を包み込むかのように渦を巻いて巻き付き、槍先に一気に集まった。
槍先に円錐状の突起が作り出された。
靄が一瞬にして氷に変化して、鋭い突起物になっていた。
その姿はまるで、騎士たちが手にしていた騎槍のような形をしていた。
ロゼリアンナさんへと振り返った怪力巨人は、再び突進を試みようとしていた。
けれど、その前にロゼリアンナさんが飛び出していた。
閃光のように一直線に怪力巨人に向かって飛び込んでいく。
迫るロゼリアンナさんを拒絶するかのように、怪力巨人は大きな両腕を身体の前に突き出した。
構わず、ロゼリアンナさんは『零槍ゲイボルグ』を持つ右腕を一気に突出させた。
怪力巨人の肉厚でいびつな両手を槍先は易々と貫通し、そのまま胸元へと突き刺さる。
「無限串刺し」
ロゼリアンナさんの声に応じて、槍が吠えた。
怪力巨人の体内から無数の針のようなものが飛び出した。
よく見れば、その一つ一つが氷の針の様だった。
皮膚を貫いて体内から飛び出している。
顔や身体、腕や足の至る所から飛び出していて、怪力巨人の身体はまるでサボテンの様な状態になっていた。
「なっ?何?」
何が起きたのか、全くわからなかった。
「零槍ゲイボルグの力さ。ロゼリアンナの魔力を吸い取り、その魔力を氷結系の力に変える。槍が突き刺さった瞬間に一気に溜め込んだ魔力を解放して怪力巨人の体内から瞬時に凍り付かせたのさ」
ベインさんが説明してくれたけれど、いまいちよくわからない。
けれど、怪力巨人の身体が氷漬けになっているのは、その状況を見ればわかった。
まさに一瞬の出来事だった。
「破壊」
氷漬けになった怪力巨人の身体に突き立てられていた『零槍ゲイボルグ』をロゼリアンナさんは、力いっぱいに押し込んだ。
ガラスが崩れるかのように、怪力巨人の身体はガラガラと音を立てて崩れていった。
石畳の上に落ちていく怪力巨人だったものは、落ちた衝撃でさらに細かく砕け散って塵になっていった。
吹き上げた風に乗って、氷の塵は舞い上がり、キラキラと幻想的な空間を描き出していた。
そこに容姿醜い怪力巨人という魔物が存在していたことを覆い隠すように。
「凄い……」
そんな言葉が自然と漏れた。
衝撃的だった。
目の前に存在していた巨体の魔物は、一瞬にして氷の塊になった後に崩れて塵になっていくなんて、目の前で見ていたけれど信じられない光景だった。
「ふぅ~……快感……」
一息吐きながら、ロゼリアンナさんは小さく呟いていた。
頬を上気させ、やや恍惚とした笑みを浮かべていたことが印象的だった。
いつの間にか『零槍ゲイボルグ』は、初めに見た短い槍の姿に戻っていた。
「快感……じゃね~よ。一人で楽しんでいるんじゃねぇ~よ」
ベインさんが叫んでいた。
「あっちは、あんたらに任せるわ。それでいいでしょう?」
ロゼリアンナさんは、疲労困憊といったような様子だった。
一気に魔力を失ったために疲労が襲ってきたようだった。
「んあ?あれっぽっちか?」
新たに南門から魔物が数匹、街に入り込んできた。
人食い鬼三体と巨漢が一体。
白銀の鎧を身に着けた騎士団の面々が多数で斬りかかって、ようやく一体の巨漢を倒したところだったので、新たに現れた魔物の姿に騎士たちは慌てた様子だった。
「嫌なら、ベインはここにいなよ」
「俺らが行ってくる」
ベインさんの背後に佇んでいた男女の二人は、楽しそうに笑みを浮かべながら、南門の方へと駆け出して行った。
「あっ!てめーら。ずるいぞ。俺の分も残しておけよ」
叫びながら、ベインさんも後を追いかけるように走って行ってしまった。
この場に残された私とロゼリアンナさん。
ロゼリアンナさんは、その場に腰を下ろして座り込んでいた。
やり切ったというような達成感に浸っているように見えた。
そんな彼女をじっと見つめていると「何?」と尋ねられてしまった。
「いえ……あの……楽しそうだなって思って……」
私は、その時思ったことを吐露していた。
不謹慎なことを言っていると後々思った。
「楽しいわよ。生きているって実感が持てるもの」
「怖くは……ないんですか?」
おずおずと私は尋ねた。
「怖くないって言ったら嘘になるけれど、生きているって実感を得るには死と隣り合わせのことをするしかないって思うのよ。生きることは戦いよ。どんな時でもね。あたしは、こうやって生きる方法しか知らないから」
あっけらかんとロゼリアンナさんは言いながらも良い顔をしていた。
「冒険者……ですよね?楽しいですか?」
「ええ、楽しいわよ。辛いことや苦しいこともあるけれど、私は楽しいと思ってやっているわ。普通に生きていたって辛いことや苦しいことはあるはずよ。それならば、自分がやりたいことや楽しいと思ったことをやった方が苦しみは少なくなると思うのよね。たとえ、戦いの中で死んだとしても、あたしは悔いは残さない」
実に晴れやかな顔をしていた。
その顔がたまらなく素敵に見えた。
「あの……私も、冒険者になれますか?」
私は、そんなことを尋ねていた。
「なりたいっていう強い思いがあれば、なんだってできるわ。あなた次第よ」
ロゼリアンナさんは、ウインクして見せた。
その姿がチャーミングに見えた。
その時に私は思った。
この人のようになりたいと。
うわべだけを見繕った偽りの姿を振りまいていたアルティマリア騎士団のようにはなりたくないと強く思った。
今まで憧れていた騎士団には幻滅した。
ただの道化には、なりたくはなかった。
ロゼリアンナさんのようになりたいと心底、思った。
「私が冒険者になったら、一緒に連れて行ってもらえますか?」
返答は期待していなかった。
私自身、冒険者になれるかどうかは、わからない。
けれど、冒険者になりたいという強い思いは、ふつふつと溢れんばかりに湧き上がっていた。
「そうね……いつまでここにいるかはわからないけれど、あれぐらいあなたが強くなったら一緒に戦ってあげても良いわよ」
ロゼリアンナさんは指を指す。
その先には、南門のそばで戦うベインさんと他二人の冒険者の姿があった。
三人は、人食い鬼と巨漢を難なく倒していた。
見ている分には簡単そうに見えるけれど、よほどの実力を持っている人たちだということはわかった。
「あなたのように、強くなりたいです」
私は決心するかのように、ロゼリアンナさんに向かって言っていた。
「楽しみにしているわ」
紫の髪をかき上げながら楽し気にロゼリアンナさんは笑った。
この後。
白銀の鎧に身を包んだ騎士たちと一緒に、ロゼリアンナさんたち冒険者ギルドに所属する数多の冒険者は、街の外にいた魔物を協力し合って討伐していた。
どれほどの数の魔物がいたのかはわからない。
けれど、街は一般の騎士たちと冒険者の活躍によって、守られたのだった。
街の人々は、アルティマリア騎士団の偽りの姿に嫌悪感と不信感を抱き、一般騎士たちへは称賛の声が上がった。
そして、今まで評価をされてこなかった冒険者の見方も変わっていった。
騎士を目指そうとする者は少なからずいた。
けれど、冒険者を目指そうとする人は以前より増えたらしい。
あくまでも冒険者を目指す志を持った人が増えただけだ。
冒険者の数が増えたわけじゃない。
その理由は、この街がある周辺の環境が大きく影響していた。
この街の周辺に現れる魔物は、非常に凶暴で巨悪な魔物が多い。
しかも、図体がでかい大型の魔物ばかり。
そのため、そんな魔物を倒せる実力を持つ人でなければ、冒険者にはなれなかった。
冒険者になるためには、冒険者ギルドで試験を受ける必要があると説明を受けた。
それは、私も冒険者になるために冒険者ギルドの門を叩いた一人だったからだった。
この街の周辺に生息している魔物の大半は、人食い鬼と巨漢らしい。
時折、巨人と呼ばれる魔物……怪力巨人のような魔物も姿を現すので、そんな魔物を倒せるだけの実力者でなければ、冒険者になって依頼を受けることはできない。
何しろ、簡単に倒せるような魔物ではない。
ロゼリアンナさんたちが、異常に強いだけだから。
彼女たちのような実力を持った人は、この街には一握り程度しかいなかった。
私も冒険者になるために試験を受けた。
冒険者ギルド内の一角にちょっとした訓練施設の様な広場があった。
そこで模擬戦闘を行い、ギルド職員……元冒険者に一太刀浴びせるまたは、完全勝利することがこの街で冒険者になることの条件だった。
元冒険者の人は、強い人からそこそこ強いかな?という人まで実力は、人それぞれだった。
私が試験に臨んだ際に相手をしてくれたギルド職員の人は、実力的には弱い方に位置する人だった。
この人なら勝てると、私は思い込んでいた。
木製の剣を模したものを使用しての模擬戦。
剣の扱いなど全く知らない私が、勝てるわけはなかった。
あっさりと敗北し、不合格になった。
当然と言えば、当然の結果だった。
それでも、私は諦めなかった。
何度も何度も試験を繰り返し受けた。
そのたびに返り討ちに遭い、不合格を繰り返していた。
何度不合格になろうとも、試験は何回でも受けることができた。
不合格を言い渡された回数は、いつの間にか二桁に突入していた。
冒険者になることを諦めろと何度言われたことだろうか。
それでも諦めきれず、私は繰り返し試験を受け続けた。
そして……。
三十三回目の不合格を言い渡された時だった。
「メルティナさん。あなた、剣の扱いを学んだ方がいいですよ。それに今の実力……と言っても、まともに剣すら振れない状態では、冒険者になる以前の問題ですね。この街の冒険者ギルドで何度も試験を受けても、不合格になるだけですよ」
試験をしてくれたギルド職員の女性に、はっきりと言われてしまった。
「でも……どうしても、冒険者になりたいんです。ロゼリアンナさんみたいな冒険者に」
ロゼリアンナさんに、猛烈な憧れを私は抱いていた。
彼女の強さを目の当たりにしたあの時から、あの人のようになりたいと心の底から思っていた。
だから、何度も不合格を言い渡されたけれど、それでも諦めずに試験を繰り返し受けていた。
「ロゼリアンナさんですか……あの人は、規格外の強さというか、実力を持った人ですから、あの人のようになるには血のにじむような努力が必要ですよ」
「それでも、あの人のようになりたいんです。冒険者になりたいんです」
決意は変わらなかった。
「そうですか……なら、あなたが唯一冒険者になれる方法を教えてあげますよ」
私の熱意に根負けしたのか、いい加減にしてほしいと思ったからなのかはわからないけれど、そんなことをギルド職員のこの女性は言い出した。
「えっ?私、冒険者になれるんですか?」
「ええ、冒険者になるだけ……ならですけれどね……」
ギルド職員の言いたいこと、言っている意味が良く理解できなかった。
冒険者になるだけとは?
「よく聞いてください。この街の周辺地域には凶悪な魔物が多数生息しています。その魔物を倒せるだけの実力がなければ、この街の冒険者ギルドでは冒険者にはなれません。だって、人食い鬼や巨漢を相手に戦えるような人でなければ、依頼をこなせないからです。でも、この街ではなく、山を一つ越えた遠く離れたレヴァレイド地方にある冒険者ギルドでは、このような試験もなく冒険者になることはできます」
「試験もなくですか?」
「はい、それには理由があって。レヴァレイド地方に生息している魔物は、ここと比べると比較にならないほど弱いんです。小鬼だったり、犬人だったりとそんなに実力がなくても倒せる魔物しかいないんです。だから、試験をすることもなく、冒険者として登録することは可能です。あくまでも、冒険者として登録することは……ですけれどね」
冒険者として登録することだけはできると、念を押して強調するように言っていた。
冒険者になって活躍できるとは言ってはいなかった。
私としては、冒険者になることが目的になっていた。
だから、冒険者になれるのであれば、それでもいいとこの時の私は思った。
「そのレヴァレイド地方にある冒険者ギルドに行けばいいんですね?」
尋ね返すとギルド職員は頷いた。
「けれど、そこへ行くには街の外へと出る必要があります。今のメルティナさんでは、魔物と遭遇したら確実に死にます」
きっぱりと、そしてはっきりと言われてしまった。
「では、どうしたら……?」
「冒険者の護衛がついた乗り合い馬車というものがあります。定期的に各地方へと行きたい人たちがその乗り合い馬車に乗って街から街へと移動しています。これに乗れば、たとえ魔物に遭遇したとしても、冒険者に守ってもらいながらレヴァレイド地方には行けます」
「それなら……」
私は、希望が見えて笑みが浮かんだ。
けれど、次の言葉に笑みは消え去った。
「ただ、乗り合い馬車は運賃がかなり高いです。レヴァレイド地方に行くには、相当のお金がかかります。あなたにそれがありますか?レヴァレイド地方に行って、生活する資金がありますか?」
「ちなみに、どれくらい必要なんですか?」
蓄えは、多少はある。
乗り合い馬車に乗るだけのお金くらい何とかなると思った。
けれど、その考えは甘かった。
「この街からレヴァレイド地方にある街の冒険者ギルドまでは軽く見積もっても五千ゼルは必要になります」
「五千ゼル?」
驚きの額を聞かされ、私は驚くとともに絶句する。
私が二年間働いたお給料が、それくらいになる。
高すぎるし、今ある貯金では全くと言っていい程足りない。
「向こうで生活するにしても、お金がなければ着いた先で路頭に迷うことでしょう。余裕をもってさらに二千ゼルくらいなければ生活もままならないはず。あなたに用意できますか?」
三年分のお給料を用意しなければならない。
「用意できないのであれば、冒険者になるのは諦めた方がいいですよ。憧れを抱いたり、目標を持つことは良いことだと思いますが、過度な希望はあなた自身を追い詰め、絶望に片足を突っ込む羽目になるかもしれません。そうなる前に、はっきりと言っておいてあげます。メルティナさん、あなたは冒険者には向いてはいません。何度、この冒険者ギルドで試験を受けたとしても、今のままの実力では絶対に冒険者にはなれません。諦めることをお勧めします」
こんなにも、はっきりと言われるとは思わなかった。
悔しい気持ちに苛まれた。
「お金を……貯めることができたら……レヴァレイド地方に行くことができれば……確実に冒険者にはなれるんですよね?」
唇を噛みながら、私は声を搾りだしていた。
「ええ、レヴァレイド地方に行くことができれば、冒険者になることはできます。ただし、あなたが望むロゼリアンナさんのような強い冒険者になれるかは、あなたの努力次第ですと言っておきますが……」
はっきりと言ってもらえてよかったとも思う。
生半可なことを言われていたら、ここまでの気持ちにはならなかったと思う。
絶対にレヴァレイド地方に行って、冒険者になって見せると、私は心に深く深く誓った。
だから、このギルド職員には感謝しかない。
この人の言葉がなければ、私は強い思いを抱くことなく、いづれは冒険者になることを諦めていたとも思う。
「絶対に冒険者になってみせる」
私は、その言葉を口に出しながら、この日以降の日々を過ごしていった。
いつものように配膳の仕事をして必死になってお金を貯めた。
切り詰めれるだけ切り詰めて、ひもじい思いをしながらも必死になってお金を溜めた。
レヴァレイド地方にある街の冒険者ギルドに行くことが出来さえすれば、冒険者になれるという思いを胸に頑張った。
そして、三年の月日が経った。
私は十八歳になり、七千ゼルもの大金を貯めることができた。
その間も、冒険者ギルドに行って試験は何度も受けていた。
そのたびに不合格を突き付けられていた。
ギルドの職員の人も呆れ顔をしていたくらいだった。
そんな私もついに旅立ちの時を迎えた。
それなりに十分なお金は貯めることができた。
そのお金を使ってレヴァレイド地方にある街の冒険者ギルドへ向かう乗り合い馬車……冒険者の護衛付きに乗ることができた。
配膳の仕事をしていた店の店長とその奥さんは、私がレヴァレイド地方に行くことを伝えると寂しそうにしていた。
冒険者になりたい旨は、以前から伝えていた。
だから、旅立つ決心をした時には寂しがってくれたし、餞別も少なからず渡してくれた。
「冒険者になれなかったら、いつでも戻って来なさいよ」と奥さんは言ってくれた。
けれど、戻ってくる気は私にはなかった。
だって、戻ってくるためのお金は確実に足りない。
片道切符しかない。
レヴァレイド地方に行って、冒険者になって活躍するしかない。
私は、大いなる希望を胸に旅立った。
住んでいた家は引き払い、売れるものは売ってしまった。
もう、ここに戻る気はないので残す必要はなかった。
持ち物は、レヴァレイド地方に行った際に必要になる生活費と家にあった一振りのボロナイフだけ。
武器がなければ、冒険者として格好がつかないと思ったので、倉庫として使っていた両親の部屋に転がっていたナイフを見つけて、それを持ち出した。
冒険者の護衛付きの乗り合い馬車に乗り込み、私は生まれた時から暮らしていた城郭都市アヴァランシェアの外に出た。
見るものすべてが新鮮で、私は胸がときめいた。
次第に住み慣れた街が遠ざかっていく。
寂しさも沸いてきて、一人馬車の中で涙を零した時もあったっけ。
でも、新天地でどんな生活を送るのかとか冒険者になって何をしようかとか考えるとワクワクした。
レヴァレイド地方に辿り着くまでに数回魔物と遭遇し、複数の冒険者に守ってもらった。
護衛についてくれた冒険者たちは強かった。
一緒に乗り合わせた人たちは、冒険者の強さに舌を巻いていた。
私もその一人ではある。
そして、レヴァレイド地方の目的の街に辿り着いた。
イブリシアの街。
私が長年暮らした城郭都市アヴァランシェアと比べると、はるかに小さな町だった。
街の外周に築かれた壁もそんなにも強固な感じではなく、高さも低かった。
このレヴァレイド地方には小鬼や犬人などの小型の魔物が多く生息していることは聞き及んでいた。
だから、壁もそんなに高くなく、それ相応の作りだった。
早速、私は冒険者ギルドを目指す。
向かっている最中、本当に試験もなく冒険者になれるのか不安に駆られた。
ここまで来て、試験があって冒険者にもなれないとなったら、何のためにここまで来たのだろうかと不安に思う気持ちにも駆られた。
でも、もう引き返すことはできない。
ここで新たな生活をするしかない。
意を決して冒険者ギルドに乗り込んだ。




