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召喚獣戦士 ヴィオ  作者: 朧月 氷雨


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第45話 憧れるもの

 あれは、確か……三年位前だったかしら。

 私は、当時15歳だった。

 ルシフェリアンス王国という広大な国土を有する王国の王都であるアヴァランシェアという城郭都市じょうかくとしに私は暮らしていた。

 街の中心に巨大なお城がそびえ立ち、その周囲に人々が暮らす街が築かれている。

 その街を覆う様に、これまた巨大な城壁が立ち並ぶ街だった。

 お城自体も巨大な壁で街と隔てられていて、街との間には深い堀があった。

 お城へ行くためには、堀にかけられた橋を渡らなければならない。

 その橋は、八つに区画整理された地区に、それぞれひとつづつ掛けられている。

 跳ね上げ式の稼働橋で、有事の際は橋を鎖で引っ張り上げて街とお城を切り離すことができるものだった。

 私は、お城へ行ったことはない。

 一般の人は、お城になど入れはしない。

 お城で働く人や一部の商人、お城勤めの騎士などが橋を渡って出入りができた。

 だから、私はそのお城を見上げる毎日だった。

 私には両親はいない。

 流行り病が蔓延した際に亡くなった。

 数年前のことだから、もう悲しみはない。

 と、言いたいところだけれど、寂しさは少しだけある。

 今は、一人で暮らしていた。

 平屋のぼろ家が我が家だった。

 両親とともに過ごした家でもある。

 時々、親戚のおばさんが様子を見にやってきてくれて、食料などを分けてくれていた。

 とても、ありがたい。

 私は、普段は飲食店で配膳の仕事をしていた。

 時々、失敗をしてしまうこともあったけれど、何とか頑張っていた。

 その日その日を暮らせる程度のお金は手に入れることができたので、ちょっとづつではあるけれど貯金などもしていた。

「メルティナ。今日は、もう上がって良いぞ」

 店長にそう声を掛けられ、テーブルを拭く手が止まった。

 ようやく今日一日の仕事が終わった。

「ご苦労様、メルティナ。今日のお給金よ」

 店長の奥さんが、お金を手渡してくれた。

「ありがとうございます。明日も頑張ります」

 お金を握りしめて、私は元気に答えた。

「お前、明日は休みだぞ。次は明後日だ」

 店長に言われてしまった。

 そう言えば、そんなことを前に言われていたっけ。

「そうでした。すみません」

 軽く頭を下げる私に「メルティナは相変わらずね」と奥さんに笑われてしまった。

 こんな私を使ってくれている。

 お給金もそれなりに、はずんで貰えているので、不満はなかった。

 帰路につき、ぼろ家の我が家に帰る。

 ドアを開けて入った部屋には、薄汚れた木製の長方形のテーブルに同じく木製の椅子が三つ。

 調理するためのちょっとした台とかまどがあり、飲料用の水を溜めた瓶が置いてあるだけ。

 殺風景だけれど、一人暮らしでは何も問題はない。

 奥には部屋が二つあり、一つは両親の寝室だったけれど、今はほとんど何もない。

 一応、倉庫みたいな感じで不要なもの……というか、すぐに使う必要がない物をちょっとだけ置いている。

 もう一つの部屋が、私の寝室だった。

 ベッドと小さな机と椅子、数着の着替えを入れてある洋服ダンスに、本が数冊置かれただけの小さな本棚があるだけの簡素な部屋だった。

 眠るためのだけの部屋なので、ほとんど何もなかったし、いらなかった。

 物欲もない。

 食欲は、それなりにあったけれどね。

 まかないの食事で事足りていたので、無駄にお金を使うことはなかった。

「明日は、お休みか……何をしようかしら?」

 私には目的や目標といったものがなかった。

 全くなかったというと嘘になるけれど。

 こんな風になりたいなという漠然とした理想というか、はかない妄想を実現できたらいいなというような思いは、少なからず胸の片隅にはあった。

「今日は疲れたな……」

 ベッドに横になると、私はすぐさま眠りにいざなわれた。



 次の日の朝。

 今日は、仕事が休みなのでゆっくりと寝ていた。

 微睡まどろみの中、ざわめきが耳に飛び込んでくる。

 何やら外が騒がしかった。

 人々の声で目が覚め、私はベッドの上から跳ね起きた。

 歓声のような声が打ち寄せる波のように聞こえてくる。

「何かあったのかしら?」

 私は気になって、家の外へと出た。

 人々の声がより顕著に聞こえた。

 気になったので、声のする方へと私は向かって歩く。

 路地を数回曲がると、大通りへと出る。

 その大通りには、たくさんの街の人々が集まっていた。

「頑張ってくれよ」

「頼りにしているぞ」

 集まった人々は、口々に叫んでいた。

 この大通りは、街の外へと続く南の門へと続いている。

 魔物の侵入を防ぐように、ほぼ一日中門は閉ざされている。

 けれど、街の外へと向かう者……行商人だったり、乗り合い馬車だったりが通過する際には、門を守り監視している騎士たちが門を開けてくれる。

 今は、その門は全開に開かれていた。

 反対側は、お城と街を繋ぐ跳ね上げ橋に繋がっている。

 跳ね上げ橋も今は、街とお城を繋ぐように掛けられていて、そこを通って多数の一団が行進していた。

 この大通り沿いには、宿屋や一般市民の家々が多く立ち並んでいた。

 そのため、人の数はかなり多い。

 通称……南地区と呼ばれている場所。

 この地区の一角に私の家はあった。

 大通りは多くの人でごった返し、他人の後頭部しか見えない。

 何とか背伸びをしてかろうじて見えるけれど、長時間この体勢はきつい。

 大通りを全身重武装した人たちが足音を立て、リズムを刻みながら規律正しい動きで通り過ぎていく。

 白銀はくぎんの鎧兜を身に着けた集団だった。

 フルフェイスの兜は皆同じデザインのものだった。

 鎧も同じものを着用していた。

 指揮官と思われる人は、真紅のマントを棚引かせていたのでわかりやすい。

 手には、円錐形をした長い騎槍ランスを握りしめ、逆の手には台形を上下に組み合わせたような大型の盾を装備していた。

「騎士団?」

 お城から跳ね上げ橋を通って騎士団が出てきていた。

 まっすぐに南門の方へと向かっているので、このまま街の外へと出て行くようだった。

 それをみんな、見に来て集まっている。

 一糸乱れぬ行進をしながら、目の前を歩いて行く白銀の鎧兜の騎士たち。

 面頬めんぽおが下ろされていて、各人の表情は伺えない。

「戦争をしに行くの?」

 思わず私は呟いた。

「違うよ。街の外に人食い鬼オーガの集団が現れたのさ」

 私の言葉を聞いた誰かが、そう言っていた。

 人食い鬼オーガの集団。

 また、現れたみたい。

 この街は堅牢で強固な城壁で守られている。

 その理由は、凶暴で凶悪な魔物が多く生息している地域だからだった。

 人食い鬼オーガ巨漢トロルなどの大型の魔物が結構頻繁に現れる。

 それも徒党を組んでとなると脅威でしかない。

 それを討伐するのは、いつも騎士団の役目だった。

 強さを示す意味もあったと思う。

 魔物が現れるたびに騎士団は討伐に向かって行った。

 必ず魔物を殲滅して帰ってくる。

 そんな騎士団は人気があった。

 街に住む子供たちが憧れる職業ナンバー1が騎士団である。

 男の子のみならず、女の子もだった。

 騎士団の中で、特に人気のあった人がいた。

「あっ!あの人」

 誰かが声を上げた。

 私は、つま先立ちで背伸びしながら視線を向けた。

 馬に跨った金色の鎧兜に身を包んだ一団。

 今までの白銀の鎧に身を包んだ騎士団とは違う集団だった。

 それは女性だけで構成された三十人程度の騎士団だった。

 アルティマリア騎士団。

 金色の鎧兜を身に着けた女性だけの騎士団は、そう呼ばれていた。

 騎士団長を務めるアルティマリア・アルティメイティアの名を冠する騎士団。

 団長のアルティマリア様は、無敗を誇る女性騎士と噂されていた。

 どんな魔物との壮絶な死闘にも負けず、無傷で必ず生還してくるという。

 無敵のアルティマリアとか、無敗のアルティマリアと言われ、街の人々からは崇拝にも似た対象とされていた。

 数回ほど私も彼女が魔物の討伐に向かった時の行進……今と同じような状況を遠目で見ていた。

 今日は結構近くで見られたのでラッキーだった。

 彼女は、一人だけ白馬に跨っていた。

 他の馬と比べて、この白馬は一回り大きな体格に見えた。

 雄々(おお)しく凛々(りり)しい顔立ちの白馬は、跨る彼女の姿をより神々(こうごう)しいものに引き立てていた。

 アルティマリア様は、がっしりとしていてやや細身な体格ではあるものの、陽の光を受けてきらりと光る金色の重厚な鎧を着こなしている。

 また、それが良く似合っている。

 いつも兜で顔を覆っているので、兜を外した時の素顔をはっきりと見たことはない。

 今日は面頬めんぽおを跳ね上げていた。

 茶色い前髪が馬に揺られるたびに左右に揺れる。

 右目が燃えるような真紅の瞳。

 左目は金色の瞳をしたオッドアイの持ち主。

 鋭く尖った瞳は力強さを感じさせ、勇敢さを湛えていた。

 生白い肌がとても美しい。

 誰もが、うらやむ美貌も兼ね備えていた。

 文武両道を成し、美しい上に強いなんて、この世にそんな完璧な人がいるの?と疑ってしまいそうになるくらいに完璧な女性だと噂で聞いたことがある。

 それゆえに、この街に住む人々の憧れのような存在でもあった。

 集まっていた男の人たちは、彼女が近くを通ると、ひと際大きい歓声を上げていた。

「アルティマリア様~」

「美しすぎるぜ」

「天から舞い降りた女神様のようだ」

「俺と結婚してくれ~」

 男の人たちからは、下心丸出しの絶賛の声が上がっている。

「私たちの英雄」

「アルティマリア様、街をお守りください」

 女性からも人気で、黄色い声援が飛んでいた。

 女性でありながら、騎士となり、一団を任されている存在。

 強く美しいとなれば、女性からも憧れの目で見られるのは至極当然だと思う。

 私もアルティマリア様には、一人の女として憧れを抱いていた。

 いえ、崇拝に近い感情を抱いていたと思う。

 強くてかっこよくて、美しいその姿に惹かれ、私も騎士を目指そうという思いが少なからずあった。

 けれど、騎士になるのは18歳からだった。

 騎士になるための試験を受けて、それに合格しなければ騎士にはなれない。

 私のような一般人にとっては、ものすごく狭き門であることは知っていた。

 それでも、あの人のようになれたらいいなという思いは胸の中にわずかながらあった。

 一緒に戦えたら素敵だろうなと思ったことは何度もある。

 何度もあるけれど、私は魔物と戦ったことなど一度もない。

 間近で魔物を見たこともない。

 街の外は危険がいっぱいなので、出たことがない。

 門のそばには必ず門番を務める騎士が数人いて、女子供が街の外へ出ようとすれば必ず止められた。

 それほど、この街の外は危険なところだと、生前の両親からは口が酸っぱくなるほどしつこく教えられていた。

 だから、魔物の本当の怖さは知らない。

 図書館などで魔物の図鑑ほんで魔物の姿形を見たことはある。

 興味を抱いたので、魔物に関する知識を詰め込んだことはある。

 いつかは戦うかもしれない魔物のことを知っておかなければ、アルティマリア様とともに戦うことになった際に役に立てない。

 少しでも私の知識が、アルティマリア様の力になればいいなという思いがあった。

 でも、現実を見れば、剣のような武器すらも握ったことのない私が魔物と戦えるわけがない。

 彼女と肩を並べて、前線で活躍できるわけがない。

 我に返ると幻滅してしまう。

 あくまでも、私の理想であり、妄想であり、女性としての憧れの姿であった。

 彼女の横に立ち、並んで戦えることを夢見ているだけだった。

 金色の鎧に身を包んだ騎士団が私の前を通りかかる。

「アルティマリア様」

 思わず、私は声を上げて右手を振っていた。

 私の声が届いたのかは、わからない。

 アルティマリア様はフッと口元に笑みを浮かべ、私と目が合った。

 わずかに手を振ってくれたように見えた。

「目が合っちゃった」

 私は、胸がドキドキしていることに戸惑った。

 これはもう、騎士になるしかない。

 騎士になってアルティマリア様とともに戦場に出て魔物を討伐するしかない。

 そんなことを思いながら、一人興奮していた。

「相変わらず派手なだけね……」

 紫色をした髪を束ねた女性が、通り過ぎて行ったアルティマリア騎士団を見送りながら嫌悪感を露にしたような声で呟いていた。

 背中には短い棒のようなものを背負っていた。

 鞘なのかよくわからないけれど、そんなものに棒は入れられていた。

 この人は何なのかしら?

 不思議に思っていると「役立たずの冒険者が。ひがむなよ」と、女性のそばにいた見知らぬ男の人が罵声を浴びせていた。

 冒険者?

 確か、いろんな依頼を受けて仕事をする人で、魔物の退治とかもしていたはず。

 あまり詳しくは知らないけれど、冒険者ギルドというものがこの街にあることは私は知っていた。

 知っているだけで、行ったことはない。

 まあ、用もないからね。

「フン、いざっていう時に困っても知らないよ」

 捨て台詞のようなものを吐いて、紫髪の女性は男の人を相手にせず、立ち去って行った。

 殴り合いの喧嘩になってもおかしくないような感じだったけれど、女性が身を引いた形になった。

「アルティマリア騎士団は最強無敵の騎士団だぞ。無能な冒険者どもとは違うんだよ」

 男の人は、立ち去る女性の背に向かって叫んでいた。

 あの紫髪の女性は、よほど嫌われている人なのだろうか?

 見たことない女性だった。

 あんなに悪口を言われているのに、威風堂々としていて、男の人を相手にもしていなかった。

 男の人が怖くて逃げ出したという感じじゃない。

 相手にする価値もないといったような感じに見えた。

 騎士団の行進は、まだまだ続いて行く。

 かなり多くの騎士たちが魔物の討伐に投入されるみたいね。

 騎士団の存在があるから、この街は安泰と言える。

 逆を言えば、騎士団がいなければ、この街は終わるということだろう。

 無敵の女性騎士団、アルティマリア騎士団だけでもいれば十分だとこの街に住む人々は誰もがそう思っている。

 他はいらない。

 私もそう思っている一人であった。

 あんなことが起きるまでは……。


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