表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚獣戦士 ヴィオ  作者: 朧月 氷雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/43

第39話 邪悪な波動

 冒険者ギルドから依頼された魔物退治。

 このランドレイクの街のどこかに潜んでいるという人狼ウェアウルフを探し出して退治するという内容だった。

 さすがに放置しておくわけにもいかないし、僕たちにも身の危険が迫る恐れがあるので人狼ウェアウルフ退治の依頼を引き受けることにした。

 けれど、その肝心の魔物……人狼ウェアウルフが、どこに潜んでいるかまではギルドは把握できていない。

 なので、街中をくまなく歩いて探すしかなかった。

「どこにいるんだろうね?」

 僕は、周囲を見渡して呟く。

 このランドレイクの街は、かなり広い。

 街の東側には船着場があり、そこから先は湖になっている。

 人食い鬼オーガ鬼王オーガキングがいた真ん中の島があるのは、その湖だ。

 北、南、西にはそれぞれ門があり、街の外の街道へと続いている。

 街の中心には広場があり、その広場の周囲には冒険者ギルドや宿屋があり、冒険者御用達の武器屋や防具屋、雑貨屋なんかが密集している。

 広場からは東西南北にメインストリートが伸び、広場から離れて行くに従って民家が増えていく。

 なので、街の出入り口となる門のそばともなれば民家が密集している地帯になっている。

「確か……広場以外のところで冒険者が襲われたって言っていたのは、あそこの孤児院の近くじゃないかしら?」

 街の北東のはずれ、湖にほど近い場所に寂れたおんぼろの建物が一軒佇んでいた。

 周囲の民家からやや離れ、ポツンと孤立しているようにも見えた。

 その建物の周辺で幼い子供たちが元気よくはしゃぎまわっている。

「ヴィオ君が、いっぱいいるわね」

 メルティナが、そんなことを呟いた。

「僕は、あんなに小さくはないよ」

 遊んでいる子供たちは五~六歳くらいの子供たちだ。

 僕の見た目が小さいからって、あの子達よりははるかに年上なんだよ。

 これでも十二歳だよ。

 十二歳。

 まあ、背が低いのは認めるけれど、そんな子供たちよりかは大きいつもりだ。

「……っで、昨晩この辺りでも男女の冒険者が襲われたって話だが……何でこんなところに冒険者が?」

「さあ?孤児院以外何もないね」

 孤児院の建物が建っている以外、何もない。

 湖が近いってことくらいだ。

「夜中に孤児院を尋ねるって言うのも、おかしな話ですよね?」

「男女ってことは、この辺でいちゃついていやがったな」

 モグリーナは、右肩に担いでいたハンマーをドカリと地面に下ろすと、面白くなさげに呟いた。

 イチャイチャしていて魔物に襲われたなんて目も当てられないね。

 それに冒険者なのに何もできずに魔物に命を奪われるなんて。

「でも、なぜ急に冒険者が襲われるようになったのかしら?人狼ウェアウルフは前から街中に現れていたみたいなことをエリエリスさんは言っていたわよね?」

「そう言えば、そうだよね。なんでだろう?」

 僕は首を傾げた。

「んっ?もしかしたら……」

 モグリーナが何かを言おうとした、その時だった。

「きゃあああああ、誰か……」

 突如、女性の大きな悲鳴にも似た叫び声が張りあがった。

「何?」

 声のする方に視線を向ける。

 湖とは反対側の民家がある方だ。

人狼ウェアウルフが出たのかもしれないわ」

 メルティナの言葉にハッとなり、「あたいが先に行く」と声を上げてモグリーナはハンマーを抱え上げて走り出した。

 その後を僕とメルティナが追いかける。


「何だ、てめえ……ぐあっ」

「この野郎!……ごふっ……」

 数人の声が街中を木霊する。

 その声を頼りに駆けつける。

「ぎゃあああ……」

 ひときわ大きな断末魔の叫びが聞こえた。

 家が立ち並ぶわき道に入り込み、数度わき道の角を曲がって飛び出すと、目の前に毛むくじゃらの得体のしれない生物が佇んでいた。

 薄紫色の毛で全身を覆われている。

 二足歩行で立ち上がっているけれど、その足は人間のそれとは異なる。

 動物の足そのものをやや引き延ばして無理やり立たせたような印象を受けた。

 しなやかな細腕も毛塗れだけれど、鈍く光るものが先っぽから長く飛び出している。

 よく見れば、指先から三十センチほどの長さの鋭利なものが確認できた。

 それは、その生物の指先から生えだしているようだ。

 剣の刃のように研ぎ澄まされた爪だ。

 それが冒険者の男の人の胸を突き抜けて背中から飛び出していた。

「何やってんだい」

 モグリーナが声を張り上げると、毛むくじゃらはゆっくりと振り返った。

「!?……狼の頭」

 メルティナは息を吞む。

 薄紫色の狼の顔をした生物……こいつが「人狼ウェアウルフ?」僕は驚き戸惑った。

 体格的には、やや小柄な大人の男性と同じくらいな感じだろう。

 全身が薄紫色の体毛で覆われ、指先からは長い爪が生え伸びている。

 狼の足を思わせる下半身は、やや太めな感じだ。

 足の指先には、ちょっとだけど飛び出した鋭利な爪がある。

 手指の長い爪とは対照的に足指の爪は短いながらも鋭く尖っていた。

「助け……て……」

 人狼ウェアウルフの爪で胸元を貫かれていた男の人は、助けを求めるように左手を宙に漂わせていたけれど、ついには力尽き、その手は力を失ってダラリと垂れっ下がった。

 人狼ウェアウルフは、突き立てていた鋭い爪を一気に引き抜く。

 男の人の胸部からは止めどなく赤い鮮血が吹きだし、その身体は支えを失って石畳の上に仰向けに倒れた。

 そばに冒険者らしき人が二人倒れている。

 どの人も血の海に倒れ込み、ピクリとも動かない。

 三人の冒険者が、あっという間に命を奪われた。

 悲鳴が上がって、すぐに駆け付けたのにもかかわらず、三人が犠牲になっている。

 それを考えれば、この魔物……人狼ウェアウルフの戦闘能力の高さが伺える。

「何で冒険者ばかりを狙うんだい?」

 モグリーナが話しかける。

 人狼ウェアウルフは、視線をこちらに向けたまま答えようとはしない。

「答えたくなければ、力づくで答えさせてやるよ」

 モグリーナは、ハンマーを右手に持ち、振りかざしながら人狼ウェアウルフへと走り込んでいく。

「おりゃああああ」

 気合ととともにハンマーを振り下ろす。

 人狼ウェアウルフは、後ろにステップを踏んだのちに、ピョンと飛び上がった。

 その脚力やいかに。

 あっさりと民家の二階の屋根に飛び移ってしまうほどの脚力だった。

「逃げ足の速い奴だねぇ~」

 ギラギラと闘争本能をたぎらせてモグリーナは、人狼ウェアウルフを睨みつける。

 その人狼ウェアウルフは、屋根瓦を蹴り割りながら、一直線にモグリーナへと飛び掛かって来た。

 それに合わせてタイミングよく白銀のハンマーを振り抜く。

 ハンマーの直撃が人狼ウェアウルフに当たったと思われたけれど、長く鋭い爪を叩きつけてその反動で人狼ウェアウルフははじけ飛んで一回転しながら地面に着地した。

 なんて身軽な奴なんだろう。

 相当、強い魔物だと今の動きで分かる。

 これならば、レベルの低い冒険者では太刀打ちできないことは明らかだ。

 路地に転がる三人の冒険者は、誰も剣すら抜き放っていない。

 それすらできぬままに襲われ、命を落としたと思う。

 昨晩、冒険者を襲った奴が目の前にいるこの人狼ウェアウルフなら、こいつを討伐すれば街中の脅威はなくなるはずだ。

「モグリーナ、何とかやっつけられる?」

「ヴィオ。あたいを誰だと思っているんだい?あたいはモグリーナだよ。あんたの召喚獣のモグリーナだ。どんな奴が相手でも、あたいは負けない。そして、お前を守る」

 僕の言い方が癇に障ったのか、モグリーナが力強く宣言してきた。

 僕は、ただ心配だっただけなんだけれど。

 人狼ウェアウルフは、モグリーナから距離を取って様子を見ている。

 モグリーナは、ハンマーを握りしめて身を沈めた。

 一気に間合いを詰めて、最速でケリをつけるつもりのようだ

 でも、そこへタイミング悪く誰かがやってきてしまった。

「こっちで悲鳴が聞こえたぞ」

 路地から飛び出してきたのは、街の住人だと思われる男女三人組だった。

「うわっ!なんだあれ?」

「きゃああああ、化け物」

 三人組は、人狼ウェアウルフの姿を見て口々に声を上げた。

 そのため、人狼ウェアウルフの意識がその三人組に向いた。

 モグリーナは、その隙をついて飛び掛かろうとした。

 それよりも早く、人狼ウェアウルフが動き出す。

 男女の三人組に向けて鋭い爪を向けて一陣の風となって差し迫る。

「!!」

 三人組は、驚き戸惑いの表情を浮かべて硬直している。

 そこへ死をまとった鋭利な爪が突き立てられる。

 ドガン!

 大きな爆発音をともなって、人狼ウェアウルフが吹き飛ばされた。

「何だ?」

「爆炎の魔法?」

 人狼ウェアウルフの爪が三人組に届く寸でのところで阻止されていた。

 たぶん、爆炎系の魔法だと思う。

 激しい爆発は熱風を巻き起こして、周囲に広がり、僕たちの頬を撫でるように通り過ぎて行った。

 爆発の衝撃によって大きく人狼ウェアウルフの身体は吹き飛ばされ、民家の壁にぶつかっていた。

「こいつらは、冒険者ではないぞい」

 灰色のローブに身を包んだ人物が三人組の背後からヌルっと姿を現した。

 しわがれた声質から、かなりの高齢であることが予見できた。

「ヴィオ君。あの灰色のローブって、まさか……」

「そのまさかだと思うよ。ダサインって冒険者を眠らせちゃった魔導士……」

「ロロド導師って人よね?」

「うん、そうだよ」

 間違いない。

 この魔力の波動は覚えがある。

 邪悪な感じの魔力の波動。

「何だい、あんたは?」

 突然、現れたローブの男にモグリーナは噛みついた。

「わしか?わしは、ロロド。この街の者は、わしのことをロロド導師と呼んでおる。見ての通り、魔法使いじゃよ」

 フードに隠されていて顔や表情は、一切うかがえない。

 けれど、口調からは自信がみなぎっているように感じる。

 かなりの魔力を持っている人だと思う。

 さっきの爆炎系と思われる魔法も、かなりの威力があるように感じた。

 でも、何か変な違和感を僕は感じた気がした。

 魔力が強くないと、高威力の魔法は発動できない。

 だから、このロロド導師って人は相当な魔力を持っている人だと思う。

「なんで手加減したんだい?」

 モグリーナの言葉に、一瞬だけれどロロド導師が驚いたようなしぐさを見せた。

「何のことかな?」

「とぼけるんじゃないよ。そいつを一撃で倒せただろう?」

 鋭い爪を民家の壁に突き立ててガラガラと音を立てて崩しながら、人狼ウェアウルフはゆっくりと立ち上がった。

 顔や胸元の毛が爆炎魔法を受けたことで、ちょっとだけチリチリになっている。

「思ったよりも頑丈な奴じゃな。ほれ」

 ロロド導師は、右の掌に魔力を集中させていく。

 魔力の波動が感じられる。

 不快な魔力の波動だった。

 導師の右掌に炎の塊が出来上がる。

 それを人狼ウェアウルフに向かって投げつけた。

 人狼ウェアウルフは、強靭な脚力を発揮して上空高くへと飛び上がった。

 炎の塊は、人狼ウェアウルフがいなくなった民家の壁に激突してボンと大きな音を立てて爆発を起こした。

「うわっ!」

「きゃあ!」

 僕もメルティナも逃げることができず、悲鳴を上げた。

「ヴィオ。メルティナ」

 モグリーナが、僕とメルティナに覆いかぶさるように飛び掛かって来た。

 モグリーナの背後から爆風と家の瓦礫が降り注ぐ。

「いてててて……無事か?ヴィオ?」

 モグリーナが覆いかぶさってくれたおかげで僕は無傷だった。

「僕は大丈夫。メルティナは?」

「重いんだけど……」

 一番下で下敷きになっているメルティナの声が聞こえた。

 僕の身体はメルティナとモグリーナに挟まれるような形になっていた。

 モグリーナは立ち上がる。

 手を差し出してきてくれたので、その手を握って起き上がった。

 モグリーナと僕の下敷きになっていたメルティナも自力で立ち上がった。

 怪我はしていないようだ。

「おい、爺」

 モグリーナは、突然爆炎系魔法を放ったローブの男に向かって叫んだ。

「あれ?いない?」

 僕たちの前から、ローブの男の姿はなくなっていた。

「何なんだ?あいつは?」

 先ほどまでロロド導師がいた場所を睨みつけながらモグリーナは歯噛みしていた。

「あっ!モグリーナ、血が出ているよ」

 背中の所々から、うっすらと血がにじんでいた。

 僕とメルティナをかばった際に瓦礫が当たって怪我をしたみたいだ。

「大した怪我じゃあない。大丈夫だよ」

 まったく気にした様子がない。

 見た目的めてきにはかすり傷程度で、重症といった感じの傷跡は見られないので大丈夫だと思うけれど、ちょっと心配になった。

「あいつの魔力の波動は何なんだい?」

 嫌悪感を催した様子でモグリーナは吐き捨てた。

「やっぱり、モグリーナも邪悪な波動を感じたよね?」

「邪悪な波動?」

 メルティナが首を傾げていた。

 この世の中には、魔法が使える者と使えない者がいる。

 それは体内に魔力を保有しているか、いないかで決まる。

 メルティナのように魔力を保有していない人は魔法を使えないし、魔力の波動といったものを感じ取ることができない。

 逆に魔力を保有している者は、魔法を使用できるし、魔力の波動というものを感じ取れる。

 魔力の保有量は人それぞれで、ちょっとしか保有していない人もいれば、たくさん保有している人もいる。

 けれど、無限にあるわけじゃあない。

 有限だ。

 保有している魔力を超えて魔法を使用することはできない。

 魔力を無理やり使いすぎると倒れてしまったり、下手をすると死んでしまう場合だってある。

 魔力を持っていることが必ずしも優位に働くわけじゃあない。

 けれど、魔法を使えるってことは、使えない人と比べると相当に優位とも言えた。

「魔力には個人個人特有の波動ってものがあるんだよ。例えば、優しい人の魔力は温かい感じがするとか、冷酷な人の魔力は冷たい感じがするとかって言えばわかりやすいかな?」

 僕のつたない説明に「なんとなくイメージできるわ」とメルティナが答えた。

「あのロロド導師って人からは、邪悪な感じの魔力の波動が出ていたんだよ。すごく気持ち悪いような感じの波動だよ」

「ああ、それはあたいも感じたよ。何やら、後ろ暗いことをやっているような奴が持つ波動と同じだねぇ~」

 嫌悪感丸出しでモグリーナは、吐き捨てるように言った。

「じゃあ、あの人は悪い人なのかしら?」

 メルティナは、怪訝な表情で呟いた。

「それは……わからないけれど……」

「邪悪な魔力の波動を感じるってことは、まともな奴じゃあないよ。現に、あの爺は人狼ウェアウルフを逃がしやがった」

 モグリーナは、悔し気に歯噛みしていた。

 逃がした?

 モグリーナはそう言ったけれど、人狼ウェアウルフは魔法を躱して逃げていっただけのような気がするんだけれどなぁ~。

 モグリーナには、そう見えたのかな?

「ヴィオ。この後、どうする?」

「えっ?どうするって?」

 突然尋ねられて、僕の思考は追いついていない。

人狼ウェアウルフを逃がしちまった。やっぱり、街中まちなかに人がいたんじゃあ、戦いの邪魔にしかならない。ギルドの力で外出禁止にでもしてもらわないと、一般人まで巻き込んじまう」

 確かに、さっき人狼ウェアウルフは街の住人と思われる三人組に襲い掛かっていた。

 そんな人までモグリーナは守れない。

 と、言うよりも、守らない。

 モグリーナは、僕の召喚獣だ。

 僕を守るために存在している。

 だから、街の人たちが危険にさらされていても、僕のことを最優先に助けようとする。

 僕以外の人間は二の次になる。

 どうせなら、他の人がいない方が戦いやすい。

 守る必要がないんだから。

「出来るかどうかわからないけれど、とりあえずギルドに戻って頼んでみよう。ロロド導師って人のことも報告した方がいいかな?」

「ああ、あの爺に邪魔されたって言ってやろう」

 モグリーナの中では、ローブの人はすでに敵として認定しているようだ。

 ものすごい魔法を使う人みたいだから、あまり関りあいにならない方がいいような気がするよ。

「この人たちは、どうしたらいいのかしら?」

 人狼ウェアウルフに命を奪われた三人の冒険者を見下ろしながらメルティナが狼狽うろたえている。

 ここまま放置しておくわけにもいかない。

 でも、僕たちでギルドまで運ぶのは簡単にできそうにない。

「ものすごい音がしたぞ」

 野次馬らしき人たちが、こっちへとやってきていた。

「ちょうどいい、あいつらに頼もう」

 モグリーナは、そう言っていた。

 えっ?頼むって何を?

 まさか、野次馬で集まって来た人に遺体を運ばせるってことかな?

 協力してくれるかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ