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召喚獣戦士 ヴィオ  作者: 朧月 氷雨


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第37話 見世物

 明朝、朝早くからギルド職員は、働いていたらしい。

 僕もメルティナもまだ寝ている中、眠る必要がないモグリーナは冒険者ギルドのそばにある宿屋の窓から、その様子を眺めていたらしい。

 十数人というギルド職員が、ギルドを後にして街の船着場の方へとぞろぞろと歩いて行ったとのこと。

 その中には、傷心のギルドマスターの姿もあったという。

 それを話してくれたのは、僕とメルティナがともに起床して、宿屋の一階で朝食を食べている時だった。

 ギルドマスターは、亡くなった妹の姿を見て何を思うのだろうか。

 モグリーナの話では、人の姿かたちが確認できないぐらいに金棒で殴りつけられていたらしい。

 その有様を見ていたら、僕もメルティナも朝食なんて喉を通らなかったかもしれない。

「可哀想ですね……」

 亡くなった人に向けてなのか、ギルドマスターに向けてなのかはわからないけれど、メルティナがポツリと呟きを漏らしていた。

 朝食を食べ終わった後。

 僕たちは宿屋の部屋で、思い思いの時間を過ごしていた。

 モグリーナは、窓から外を眺めている。

 冒険者ギルドの人の出入りなどを見ているようだった。

 未だに湖の真ん中の島に向かったギルド職員たちは戻って来てはいないみたいだ。

 メルティナは、部屋の隅に追いやられるように置かれていた簡素な木製の椅子に腰かけ、これまた味気のない装飾すらない小さな丸テーブルの上に背負い袋ナップザックに詰め込んでいた荷物を広げて整理をしていた。

 薬草や干し肉などの旅の必需品や冒険者の証である冒険者証明書、お金の入った皮袋、何かの薬品が入っていたと思われる空瓶など、大した物は入っていないようだ。

 必要な物と不要な物に分けて背負い袋ナップザックに必要な物だけを詰めなおしている。

 不要な物を持っていても仕方ない。

 荷物になるだけで、不要物はできるだけない方がいい。

 こういった細かな整理が出来ることが旅を快適に進める秘訣だと思う。

 メルティナと出会った頃は、何でもかんでも背負い袋ナップザックに詰め込んでいた。

 そのため、背負い袋ナップザックの重量は増し、歩いて旅をするメルティナの足枷にもなっていた。

 それが今やこうして旅を続けてきたことが、メルティナの成長に繋がっている。

 斧槍ハルバードの扱いも努力して経験を積んで、まともに魔物と渡り合えるくらいに成長してほしいんだけれど、本人は恰好ばかり気にして成長がみられない。

 どうやって構えたらかっこよく見えるかとか、強そうに見えるかとか、そんなことばかり気にしている。

 まあ、僕の召喚獣たちがいるから、今更メルティナが強くなる必要があるのかと問われれば、ないような気もする。

 けれど、自ら冒険者になったんだから、強くなるための努力は惜しまずしてほしいと思うばかりだ。

 ベッドの上でそんなことを思いながらメルティナを眺めていたら「何?」とメルティナから声を掛けられた。

 僕の視線が気になったみたいだ。

「暇だなぁ~って思って……」

 ベッドの上でゴロゴロする僕は、暇を持て余していた。

 何かすることがないと暇で仕方ない。

 メルティナが冒険者ギルドで仕事を請け負って一緒に出掛けるのは楽しいと思う。

 魔物に襲われて怖い思いをすることもあるけれど、刺激的で退屈しないで済む。

 依頼を達成させれば、報奨金ももらえるので、楽しくなってくる。

 メルティナと出会う前は、冒険者ギルドとかかわることなんてほとんどなかった。

 召喚獣と二人っきりで旅をしていて、そんなにも刺激的な出来事とかはなかった。

 だから、いつしかメルティナと一緒に旅をしていることは刺激的な日々を送れることなんだなぁ~と思い始めていた。

 僕と召喚獣とメルティナの三人でいつまでこうやって一緒にいられるんだろう?と考えてみた。

 メルティナがそれなりの実力者、冒険者証明書に記載されている魔物の討伐記録を自分の力で実現できるくらいにならなければ、ずっと一緒にいることになるだろう。

 まあ、それはいつになるかはわからないね。

 強くなる努力をメルティナはしないからね。

 この先もずっと僕の旅についてくるだろうね。

 僕の旅もいつ終わるかはわからない。

 それまで一緒にいるのかと思うと、複雑な気持ちだ。

 そういえば、メルティナって恋人とかはいないのかな?

 いるわけないか。

 いたら、僕と一緒に旅なんてしていないよね。

「ねえ、メルティナ。メルティナには恋人とかっていないの?」

「なっ?何よ、突然!」

 上擦った声を彼女は上げていた。

「聞いてみただけ」

「ああ、そう……いるわけないでしょう。いたら、ヴィオ君と旅なんてしていないわよ」

 唇を尖らせながら、メルティナは僕を睨んできた。

「そうだよね」

 僕はベッドの上でゴロゴロと身体を動かしながら、メルティナの視線を躱した。

「んっ?ヴィオ。ギルドの連中が帰って来たみたいだぞ」

 不意に窓の外を眺めていたモグリーナが声を上げた。

「え?本当?」

 ガバッとベッドから上半身を引き起こした僕は、ベッドから飛び降りてモグリーナの足元へと駆け寄った。

 さすがに背の低い僕の身長では窓からの景色は見えない。

 モグリーナは何も言わずに僕の腰に手を回すと抱え上げてくれた。

 メルティナも気になったのか、窓のそばへと歩み寄って来た。

 窓の外へと視線を向ける。

 僕たちがいる宿屋の二階からは、広場とメインストリートが良く見える。

 宿屋の斜め向かい側がギルドの建物になる。

 オレンジ色の屋根をした派手な外観の建物だ。

 そこへと向かってギルドの制服に身を包んだ人が操る馬車が一台、人目を避けるようにやって来た。

 荷台には真っ黒な布がかけられていて何かを隠すような感じだった。

 その馬車からかなり離れて後方にもう一台馬車がゆっくりとした動きでメインストリートを練り歩いていた。

 その馬車の荷台には、人食い鬼オーガの姿が確認できた。

「あれって、人食い鬼オーガだよね?」

 指を指しながらモグリーナとメルティナに確認するように声を掛ける。

「あれは……」

鬼王オーガキングよ」

 メルティナが声を上げた。

 よく見れば、モグリーナが斧槍ハルバードで傷つけた胸元の傷痕と眉間の傷が遠目に確認できた。

 それに馬車の荷台からややはみ出ているほどの巨体だ。

 メルティナの言う通り、鬼王オーガキングで間違いないだろう。

 でも、何で鬼王オーガキングなんかを馬車の荷台に積んで運んでいるんだろう?

鬼王オーガキングって何かの素材として使えるの?」

 僕の問いに二人は首を傾げている。

「もし使えるとしても骨ぐらいかねぇ~」

 モグリーナが呟くように言葉を漏らす。

「素材としての使い道はないはずよ。それをわざわざ島から運んでくるなんて……」

 メルティナは、呆れ顔をしている。

 鬼王オーガキングを荷台に乗せた馬車は、冒険者ギルド前の広場で停車した。

 物珍し気に街の人々が広場に集まり、一種の見せ物状態になっていた。

「でかい人食い鬼オーガだな」

「こんなのどうやって退治したんだ?」

「顔が怖い~」

「焼いても食えそうにないな」

 集まって来た見物客たちは口々に思い思いのことを吐露とろしている。

 見物客たちは、街の人々だけではない。

 お祭り目当てで集まって来ていた人達や商人たちもいる。

 冒険者と思われる人たちも何事だとばかりに集まり、大きな人だかりを作っていた。

 その人だかりを左右に押しやりながら、さらに二台の馬車がギルド前で止まった。

 その二台の馬車には、ギルドの制服に身を包んだギルド職員たちが乗っていた。

 湖の真ん中にある島に行っていた職員たちだろう。

 ワラワラと馬車から降りるとギルドの中へと入っていく。

 その中で一人だけ、異質な行動をする人がいた。

 馬車から降りたと思ったら、鬼王オーガキングが横たわる馬車へと歩み寄っていく。

 ツンツンと尖った金髪をかき上げながら、優雅な動きで荷台へと上がる。

「おお、冒険者ギルドのギルドマスターだ」

 人だかりの中から、そんな声が上がった。

 ギルドマスターは、荷台で無様な姿を晒す鬼王オーガキングをこれ見よがしに踏みつけた。

「ランドレイクの街の皆さん。湖の真ん中にある島……近々、宝湖祭ほうこさいが開催される会場に住み着いていたこの人食い鬼オーガ。いえ、人食い鬼オーガを束ねる鬼王オーガキング。この邪魔者を我々冒険者ギルドの冒険者が昨日退治をいたしました」

「うおおおおおお……」

「すげえぞ、冒険者ギルド」

「あんなバカデカイ人食い鬼オーガを退治できるとんでもない冒険者がいるんだな」

「冒険者って凄い」

 ギルドマスターの言葉に、人だかりから一気に歓声が上がった。

「この憎き鬼王オーガキングを見てください。この巨体。この醜い顔。このような魔物でも我が冒険者ギルドの冒険者は、果敢に立ち向かい、討伐を行えるほどの実力者ぞろいです。ギルドは、みなさんに安心して生活していただくために、このような魔物を駆逐していくことに全力を尽くすことをお約束いたします」

 ギルドマスターは、高らかに声を上げる。

 声を上げるたびに足元の鬼王オーガキングの死体をゲシゲシと踏みつけている。

「どんな魔物が襲って来ようと、冒険者ギルドの冒険者は戦います。皆さんを守るために戦います。そのためには、みなさんからの支援が必要になります。どうか、これまで以上に冒険者ギルドへの支援をよろしくお願いいたします」

 何度も何度も鬼王オーガキングの動かなくなった死体をギルドマスターは踏みつけて言葉を発していた。

「気に入らないねぇ~」

 胸糞悪いと言わんばかりの表情をしながら、モグリーナが吐き捨てるように呟いた。

「そうですね」

 メルティナも苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

 僕も何だか気分は悪かった。

 死んでいるとはいえ、鬼王オーガキングの身体を何度も踏みつけているのは見ていて気分がいいものじゃない。

 けれど、街の人たちや冒険者ギルドの人たちは、歓喜の雄たけびを上げている。

 鬼王オーガキングを退治できる冒険者ギルドをたたえるかのようなはしゃぎっぷりだった。

「あいつ……確か、家族を鬼王オーガキングに殺されていたよな?」

 ギルドマスターを睨むような視線を向けたまま、モグリーナが尋ねてきた。

「ええ、モグリーナさんが見つけた同行者の人が妹さんだったって……」

「だからって、鬼王オーガキングを晒し物にしながらの死体蹴りはどうなんだ?いくら家族を殺されたからって……」

 モグリーナの言いたいことはわかる。

 でも、ギルドマスターとしては、あんなことをして妹を殺された恨みを晴らしているかのようだった。

 見ていて気分が悪いと感じたのは、鬼王オーガキング討伐にかかわった僕たちだけかもしれない。

 他の人たちからしてみれば、自分たちに脅威をもたらす存在なのだから、鬼王オーガキングがどんな扱いをされようと構ったことではないのかもしれない。

 何だか、鬼王オーガキングを退治してよかったのかな?と疑問に思ってしまう。

「冒険者ギルドの冒険者は強い。どんな魔物にも立ち向かい、負けはしない。この街の冒険者たちは、最強だぁ~。魔物なんてものは、我が冒険者ギルドの冒険者たちが駆逐する」

 ギルドマスターが煽るように叫ぶと、周囲に集まった人々から溢れんばかりの歓声が上がった。

 モグリーナは、無言で窓を閉めてカーテンまでも閉めてしまった。

 それでいいと思う。

 見ていても気分が悪くなる一方だったからね。


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