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召喚獣戦士 ヴィオ  作者: 朧月 氷雨


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第36話 ギルドへ報告

 湖の中央にある島からボロ船に乗って僕とメルティナとモグリーナの三人は、ランドレイクの街の船着場に戻って来た。

 街に戻って来た頃合いは、陽が沈み始め、空が夕焼け色に染まっていた。

 船から飛び降りると、船が沈まずに無事に帰ってこれたことに安堵の溜め息が出た。

「ギルドへ急ぎましょう」

 三枚の冒険者証明書を握りしめたメルティナが、珍しく先頭を歩き出した。

「うっ……うん」

 頷いて僕とモグリーナは、メルティナの後に続いた。

 船着場からまっすぐにメインストリートに向かい、中央広場を目指す。

 街の中央にある大きな広場の一角に冒険者ギルドは鎮座していた。

 まばらだけれど、冒険者の出入りしている様が見て取れた。

 メルティナは、ギルドの戸を押し開けると威風堂々とした足取りでカウンターへと歩み寄っていく。

「おお、メルティナさん。戻られたんですね?」

 カウンターのそばで立ち話をしていた優男風のツンツンヘアーが、メルティナに気づいたようで声を掛けてきた。

「ギルドマスター」

 メルティナは、その男の声に応じた。

「冒険者と同行者は見つかりましたか?」

 メルティナは無言で手にしていた紙切れ三枚をギルドマスターの男に差し出した。

「これは?」

 ギルドマスターは、その紙を受け取り、書かれている内容を確認した後で、驚きの表情を見せていた。

「これは行方知れずになっていた冒険者と同行者の冒険者証明書じゃないですか?まさか……」

 ギルドマスターは、最悪の事態を思い浮かべたような表情をしていた。

「そのまさかだよ。三人とも真ん中の島で死んでいたよ」

 モグリーナが声を上げた。

「そんな……彼らは、それぞれCランクの冒険者だったんですよ。人食い鬼オーガとなら対等に渡り合える実力があったのに、やられてしまうだなんて……」

 信じられないといった様子だった。

 でも、実際は魔物にやられて亡くなっている。

 僕は確認していないけれど、モグリーナが確認してくれている。

「おそらく、あいつら三人をやったのは鬼王オーガキングだよ」

「は?鬼王オーガキング?」

 ギルドマスターは、間の抜けた声を漏らしていた。

「冗談でしょう?鬼王オーガキングって言ったら、普通の人食い鬼オーガよりも体格の大きな魔物ですよ。そんなのが生息しているなんて報告は受けていないし、信じられない」

 ギルドマスターは、モグリーナの言葉を疑っているようだった。

「でも、いたよ。鬼王オーガキングは、すごく大きかったし、人食い鬼オーガも三体じゃなくて、十体以上いたもん」

 僕が声を張り上げた。

 周囲にいたギルド職員や冒険者たちが何事だとばかりに僕たちの方に視線を向けていた。

「そんな馬鹿な。生態調査をしっかりと行ったうえで、冒険者に依頼を出しているんです。人食い鬼オーガの数が違っていた上に、鬼王オーガキングがいたなんて……私には信じられない」

 部下のギルド職員が調査した報告を鵜呑みにして信じているみたい。

 部下を信頼しているってところは評価できるけれど、実際にこの目で見てきた僕たちの言葉を信じようとしないのは、ちょっといただけない。

「でも、いたんです。人食い鬼オーガがたくさん。鬼王オーガキングもいたんです」

 メルティナも声を荒げていた。

 しっかりと調査していれば、三人は鬼王オーガキングにやられることはなかったかもしれない。

「『龍殺しドラゴンスレイヤー』や『巨漢殺しトロルバスター』の称号を持つあなたの言葉を疑うわけではありませんが……」

 口ではそう言ってはいるけれど、態度が確実に疑っていると言っている。

「信じる信じないは勝手にしな。もう夜になっちまったから、明日の朝にでもギルドの職員を派遣して回収してやりな。見るも無残な状態だから」

「はっ……はあ……」

 ギルドマスターの顔からは、やや生気が失われているように見えた。

 冒険者や同行者のことが心配だったとしても、ちょっと異常な感じに見えた。

「エリューズ君。すまない。ちょっと後を頼んでいいかい?」

 そばにいた三十代くらいの女性ギルド職員に、ギルドマスターは声を掛けていた。

 それは、とても消え入りそうな声だった。

「はい。あの……大丈夫ですか?ギルドマスター?」

 緑の長い髪を揺らしながら、ふらついた足取りで奥の部屋へと向かって行くギルドマスターを支えようとしていた。

「大丈夫……少し、一人にさせてもらえると助かるよ……」

 ギルドマスターは、消え入りそうな声で呟くと奥の部屋へと姿を消していった。

「なんだい、あいつは?まだ報告は途中だってのに」

 モグリーナが、文句ありげに声を上げた。

「すみません。後の報告は、私が聞きますので……」

 今にもギルドマスターを追いかけて行こうとしているモグリーナの前に緑髪のギルド職員は立ちふさがるように佇んだ。

「あんたは?」

「私は、このランドレイクの街の冒険者ギルドでギルドマスターの補佐をしています。エリエリス・エリューズと申します」

 新緑の大きな瞳を見開き、モグリーナを真っ向から見据えながら、このギルド職員は名乗っていた。

「あの……ギルドマスターは、どうしちゃったんですか?」

 ギルドマスターの様子が普通じゃないとメルティナも感じ取っていたみたいだ。

 あれじゃあ、職場放棄にしか見えないけれど、何かわけがありそうな感じがした。

「すみません。ギルドマスターのことは、ご容赦願います。今回、同行者として同行した者は、ギルドマスターの妹さんだったんです」

「妹?」

 僕とメルティナとモグリーナの声が重なり合った。

「はい。ギルドマスターの妹さんは、それなりの実力を持った冒険者でした。冒険者は危険な職業だからと、ギルドの職員としてギルドマスターは働かせていたんです。でも、今回は人食い鬼オーガを討伐できる実力を持った人を同行者として付けることになったときに、ギルドマスターの妹さんに白羽の矢が立ったんです」

「それで、あの真ん中の島に冒険者とともに行ったってのかい?」

「はい……ギルドマスターは猛反対したんですけれど、お祭りも近くなってきて早く人食い鬼オーガを退治しなくてはということで、妹さんは冒険者とともに出発してしまったんです。まさか亡くなっていたなんて……」

 エリエリスの瞳から涙がにじみ出てきた。

「身内かい?だったら、あのギルドマスターには妹の姿は見せない方がいい。それは悲惨な状態になっているからねぇ~。あの様子じゃあ、発狂しちまうよ」

 モグリーナは、発見した時の状態を思い起こしながら言った。

「そんな凄惨な状態なんですか?」

「とても凝視なんてできやしないよ。三人とも、ほぼミンチ状態と言ってもいい」

「うっ」

 モグリーナの言葉を想像してしまったのか、エリエリスは口元に手を当てて込み上げてくるものをこらえていた。

「明日の朝……職員を向かわせます。人食い鬼オーガの討伐の方は?」

「全部やっつけたよ。メルティナが鬼王オーガキングもやっつけちゃったから、島は安全だよ」

 僕は、メルティナを指さしながらアピールした。

「そうですか。討伐ありがとうございます。これで、お祭りが開催できそうです」

 エリエリスは、軽く頭を下げていた。

「あっ?そうだった。真ん中の島の地下にトンネルがあったんだけれど、何か知らない?」

 僕は、ギルド職員に尋ねた。

「ああっ!トンネルは、ありますよ」

 さも当たり前のように、この職員は答えていた。

 あれ?知ってるの?

「あのトンネルは、一体……?」

「あのトンネルは、お祭りの際にお客様を中央の島や左右にある島にご案内するための地下トンネルです。たくさんの方が来場されるので、お祭りの際はあのトンネルを使って湖の中にある島に移動するんです」

 知っていて当たり前といった様子で言っていた。

 僕たちは、何も聞いてないんだけれど……。

「ええっ?じゃあ、何で僕たちにあんなボロイ船で真ん中の島に行くように言ったの?」

「それは、船で移動した方が距離が短いし早いんです。トンネルを利用する場合、湖を挟んで街の反対側に行かなければなりませんから、かなりの遠回りだし時間のロスが大きいんです」

「そういうことかい。でも、そのトンネルが今回はあだになったようだねぇ~」

「仇?どういうことですか?」

 緑の髪を揺らしながら、エリエリスは首を傾げていた。

人食い鬼オーガは、あのトンネルを利用して島に渡ったんじゃないかと思います」

 メルティナの言葉に、エリエリスは目が点になっていた。

「えっ?人食い鬼オーガがトンネルを利用していたんですか?」

 まさか、そんなことがあるわけないと言いたげな表情で、声を上げていた。

「だけど、そうとしか考えられないよ。湖を泳いで渡る方が非現実的だからねぇ~」

人食い鬼オーガにそんな知能があるだなんて……」

 この職員は、人食い鬼オーガの知能のことを過小評価していたみたいだ。

「その慢心が、今回の結果を生んだんじゃないのかい?」

 モグリーナに釘を刺され、「うっ」とうめくことしかできないエリエリス。

「とにかく、ギルドの方で三人の遺体の回収と人食い鬼オーガ鬼王オーガキングの処置を任せたよ」

「わかりました。三人の遺体を早く回収してあげたいので、明朝には動き出すようにします」

 エリエリスは、手続きや指示が必要だと思ったようできびすを返そうとした。

 そこへ僕は声を掛けた。

「報酬は、いつ貰えるの?」

「ああ、報酬ですか?しばらくお待ちください。遺体の回収と人食い鬼オーガたちの討伐確認ができてからの支払いになるので、二~三日くらい時間をください」

 顔だけこちらに向けてエリエリスは叫んでいた。

「報奨金、期待しているよ」

 僕は、せわしなく他のギルド職員に指示を出しているエリエリスの背に声を掛けたが、反応は返ってこなかった。

「これから、どうする?ヴィオ君?」

「とりあえず、ご飯を食べようよ。お腹空いたよ」

 僕の腹の虫が、悲鳴を上げていた。


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