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召喚獣戦士 ヴィオ  作者: 朧月 氷雨


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第21話 トロル討伐依頼

「やっと街に着いたね」

 森を抜けて、街道をひたすら進んできた僕とメルティナとシヴァリーヌの三人。

 街を囲む巨大な壁と鋼鉄製の門を見上げながら、僕は溜め息交じりに呟いた。

 この街の前に辿り着くまでに二体のトロルを森の中で見かけた。

 戦うのは面倒臭かったし、トロルに気づかれていないようだったので、身をひそめながらやり過ごしていた。

 まあ、戦うことになったとしても、戦うのはシヴァリーヌなんだけれど。

 無駄に戦っても仕方ない。

 街道を通る人の安全を考えれば討伐するべきなんだろうけれど、僕たちにそんな義務はない。

 危険を冒してまでトロルと戦う必要はないので、避けて通り抜けた。

 気づかれてしまい、攻撃を受けたのであれば、迎撃するつもりではいた。

 でも、無事にやり過ごし、こうして目的の街まで辿り着いていた。

「早く宿で休みたいわね」

 夕焼け色に空が染まりだした頃合いだ。

 メルティナは、疲れ切ったような表情をしていた。

「そろそろ門を閉めるぞ。入るなら早くしな」

 門のそばに設置された物見櫓ものみやぐらから男の人が身を乗り出して僕たちに声を掛けて来た。

 どこの街も夜になる頃には、門を閉めてしまう。

 夜に活動を活発化させる魔物も少なくはない。

 その魔物の襲撃に備えて早めに閉めてしまうのだ。

 まあ、門は閉められたとしても、声を掛ければ開けてもらうことはできる。

「ヴィオ様。早く行きましょう」

 シヴァリーヌが、急かす様に僕の背を押した。

 僕たち三人が門をくぐって街の中へと入っていくと、その背後でゆっくりと門が閉じていった。

 この街の近くの森の中でトロルがうろついているようなところだ。

 魔物に対しての警戒心は強いみたいだ。

 街をぐるりと囲う壁の上には、見張りをしている兵士の人の姿が何人も確認できた。

 松明の火も灯され始めた。

 空も一気に夜色へと変わっていく。

「何だか警戒が厳重な街ね」

「トロルがうろついているような場所だから、これくらいは普通だと思う」

 メルティナの呟きにシヴァリーヌが答えた。

「とりあえず、宿に行って休もう。お腹もすいちゃった」

 僕のお腹の虫がぐぅぅ~となった。

「そうね。私もお腹空いたわ」

 宿を探して、僕たちは街路を歩き出した。

 レンガを敷き詰めて作られた街路は平らで歩きやすい。

 周囲を見ればレンガで作られた家がたくさんある。

 きちんと区画整理がされているようで、家々も同じような造りで統一感があり、雑多な印象はない。

 それがかえって、単調な感じの街に見えていた。

 街の北側の門から入った僕たちは、とりあえず街の南へと向かって歩いていく。

 この辺りは普通の民家が多いようだ。

 人通りも少なくて、寂しい感じだ。

 宿屋や飲食店といった店屋が見当たらない。

 ついには街の真ん中あたりまでやってきてしまった。

 円形の広場があり、その広場を中心に東西南北に乗り合い馬車が三台くらい並走できそうな幅広いメインストリートが走っている。

 その広場のそばに大きな建物があった。

「あれ、ギルドじゃないかしら?」

 ひときわ大きくて目立つ建物には、冒険者ギルドと書かれた看板が掲げられていた。

 相当、大きなギルドの様だ。

 四階建てくらいありそうだし、窓がいっぱいあって周辺にある家々がとても小さく感じられるくらい飛びぬけて大きかった。

「ギルドだね」

「そう言えば……ギルドには宿を併設しているところもあるらしいわよ」

「そうなんだ?じゃあ、行ってみる?」

無料タダで泊まれるといいわね」

「冒険者であれば、無料タダで泊まらせてくれるんじゃない?」

「行ってみましょう」

 普段はギルドに行くことを渋るメルティナだったけれど、宿が無料タダで泊まれるかもしれないと思ったら足取りは軽くなるみたいだ。

 メルティナの後について行く僕の後ろで、シヴァリーヌが「そんなに気前のいいことをしてくれるかな?」と小さく呟いているのが聞こえた。



 冒険者ギルドの戸をくぐり中に入っていくと、にぎやかな声が聞こえてきた。

 何事かと視線を向けると、ギルドのカウンターとは逆の方に酒場が設置されているようだった。

 円形のテーブルがいくつも置いてあり、そのテーブルを囲むように木製の椅子が並べられていて、そこにたくさんの冒険者と思われる人たちが集まり、酒を飲みあかし、食事を楽しんでいた。

 皆仕事を終えて戻って来たのか、陽気な感じで騒ぎ合っていた。

 僕たちは、その喧騒を横目にギルドのカウンターへと近づいていく。

「あら?いらっしゃい。ヴェイクトレールの街の冒険者ギルドにようこそ。初めましてかしら?」

 人当たりの良さそうなお姉さんが僕に声を掛けてきた。

 艶のある金色の長い髪を三つ編みにして束ねている。

 右側の前髪だけが異常に長く、右目を覆い隠し、顎のあたりまで伸ばしている。

 そんなに長いと右目が隠されちゃって見えずらいと思うんだけれどと僕は思った。

 鋭く尖った切れ長の左目は、優し気な感じにも見えるけれど、力強さを宿し注意深く僕やメルティナ、シヴァリーヌを見据えていた。

「さっきこの街に辿り着いたんだけれど、宿屋ってどこにあるのかな?」

「宿屋ですか?西地区に宿屋や飲食店街が集中してありますよ。あとは、このギルドの上の階が宿屋も兼ねていますね」

 受付嬢は、指で真上を指した。

「僕たちでも、このギルドの宿に泊まれるの?」

「君は冒険者かな?」

 受付嬢のお姉さんは、首を傾げながら僕に尋ねてきた。

「ううん、僕は違うよ。このメルティナが冒険者だよ」

 メルティナの背後に回って、カウンター前へと押し出す。

「ちょっと、ヴィオ君……」

 押さないでと抗議の声をメルティナが上げる。

「あなたが冒険者ですか?」

 メルティナを見据えながら、受付嬢は値踏みするかのように下から上へと視線を巡らせていく。

 ドワーフのリベリアに作ってもらった鎧に身を包んでいるし、背には斧槍ハルバードを背負っている。

 どう見ても冒険者には見えるはず。

 間違っても街娘とは思われないだろう。

 鎧を身に着け武器を持った街娘なんているわけがないからだ。

「冒険者証明書をお持ちですか?」

 受付嬢に提示を求められ、メルティナは背負い袋ナップザックから丈夫な紙きれを取り出し、受付嬢に手渡す。

 丸められた紙を開いてその中身に目を通す受付嬢の表情が驚きに包まれている。

 メルティナの冒険者証明書には、とんでもない魔物の討伐記録が記載されている。

 ブレスフェンリルやメイジキマイラなどの滅多にお目にかかれないような魔物の討伐やつい先日にもらった『龍殺しドラゴンスレイヤー』の称号までが記されている。

 特に『龍殺しドラゴンスレイヤー』の称号なんてもらえる人は本当に数えるくらいしかいないはずだ。

 驚くのは無理もない。

「メッ……メルティナ・メーベリアさん?ディレイザスの街のギルドマスターから『龍殺しドラゴンスレイヤー』の称号を受けたんですね?」

 受付嬢は、信じられないといった表情をしながら、メルティナと冒険者証明書を何度も交互に見まわしていた。

「ええ……まあ、そうなんです……あはは……」

 どう答えていいのかわからず、メルティナは愛想笑いをするだけだった。

「ディレイザスの街のギルドマスターとは旧知の中なので、彼女が『龍殺しドラゴンスレイヤー』の称号を与えるなんて……メルティナさんは、よほどすごい冒険者なんですね?」

 尊敬にも似た眼差しがメルティナに向けられている。

 その視線を痛々しい表情で受けながら、メルティナは苦笑いするだけだった。

「あれ?あの金色の鎧の人と知り合いなの?」

 確か、『黄金の戦乙女ゴールデンヴァルキュレイア』という二つ名で呼ばれていた人だ。

 金色のど派手な鎧兜を身に着けていた女性のギルドマスターだった。

「知り合いですよ。私、これでも元冒険者なんです。シルヴァリアさんとは一緒にパーティーを組んでいたんですよ。でも、私はヘマをしてしまって……」

 受付嬢のお姉さんは、椅子から立ち上がるとカウンターから出てきた。

 右足を引きずるようにして歩いている。

「足を怪我しているの?」

「もう何年も前のことですよ」

 自分の右足に視線を向けながら寂しそうに受付嬢は呟いた。

 その時に右の前髪が揺れて、その奥がチラリと見えた。

「えっ?目が……」

 僕は、思わず呟いていた。

「ああっ!見えちゃいましたか?ちょっと人目悪いので、前髪で隠しているんです」

 慌てて手で右の眼の辺りを覆っていた。

 彼女の右目はつむられたままで、魔物の爪で引き裂かれたような傷痕があった。

「魔物にやられたの?」

「ええ……それで、冒険者をやめたんですけれど、未練がましくギルドの受付嬢なんてものをしています」

 この受付嬢は、寂しそうな笑みを浮かべていた。

 冒険者をしていれば、魔物と戦うことは頻繁に起こりうる。

 五体満足で連戦連勝できる人なんて、そう多くはいないと思う。

 運が良ければ無事に帰ってこれるけれど、運が悪ければ怪我をする。

 いや、もっと運が悪ければ魔物の餌となってしまうことだってあり得る。

 生きて戻ってこれただけ、この受付嬢は運が良いと言えるかもしれない。

 彼女が、そう思っているかは僕にはわからないけれどね。

「別に、未練がましくなんてないと思います。生きていく希望が見いだせるのなら、しがみついていいと思いますよ」

 メルティナが、そんなことを言っていた。

「はい。私はギルドが好きですから」

 受付嬢は、暗い顔から一変して笑顔を見せてくれた。

 いそいそとカウンターの中へと戻っていき、「『龍殺しドラゴンスレイヤー』の称号をお持ちのメルティナさんにお願いしたい依頼があるんですが……」と前置きして、依頼書の束をめくっていた。

「これなんですけれど」

 依頼書の一枚を手に取り、カウンターに置く。

 僕たちは、その依頼書を覗き込んだ。

 その依頼書には『トロル三匹の討伐』と書かれていた。

「もしかして北の森にいたトロルのこと?」

 僕が尋ねると「もしかして、トロルと遭遇したんですか?」と尋ね返された。

「一匹はいきなり襲い掛かって来たから、退治したよ。でも、それ以外に二匹は見かけたけれど、やり過ごしてこの街まで来たから、まだいると思うけれど」

「さすがは『龍殺しドラゴンスレイヤー』の称号を持つメルティナさんだわ。すでに一匹を討伐しているだなんて」

 驚きと尊敬が入り混じった表情で、受付嬢のお姉さんはメルティナを見つめていた。

「えっ?……ああっ……まあね……」

 そんな視線を向けられ、メルティナは困り顔で苦笑いするしかない。

 実際にトロルを退治したのは、僕の横に立つシヴァリーヌなのだから。

「だったら、残りの二匹もお願いします。北の森で目撃されたトロルは、結構街に近いところまで出没するようになっていまして。冒険者に依頼は出しているんですけれど、誰も受けてはくれないんですよね」

「なんで受けてもらえないの?」

「見ての通り、報奨金が少ないんですよね。それで、トロル三匹を討伐する労力とかを考えたら、引き受けてくれる人が現れなくて……それに……」

 受付嬢は、何か困ったような顔をして俯いた。

「それに?」

 僕は促す。

「トロルの目撃情報は、北の森だけではないんです。西の岩場や川のほとりでトロルを見かけたっていう人もいるし、南の丘陵地帯でも目撃情報が上がってきているし、東の森林地帯にある湖でも複数のトロルを見たという情報があって困っているんです」

「トロルの生態調査は、されていないんですか?」

 メルティナが首を傾げながら尋ねていた。

「手が回らないんです。このギルドの職員はほとんどが一般人で魔物と戦ったことがない人ばかりなので、さすがにトロルの生態調査はさせられないですし、冒険者の方々はたくさんいるんですけれど、トロルを退治できるほどの実力を持った人がいないんです」

 併設している酒場で騒ぎ合う冒険者たちを横目で見ながら、この受付嬢は大きな溜め息を吐いていた。

「あんなにいっぱい冒険者がいるのに、トロルと戦える人がいないの?」

 お酒を飲んで、バカ騒ぎしている冒険者たちを見てみるけど、誰もが薄汚れた革の鎧を身に着けていた。

 とても羽振りが良いと言えるような装備を身にまとった冒険者は一人として確認できなかった。

 しかも、小鬼ゴブリンを十匹倒したとか、犬人コボルトを七匹退治したとか、駆け出しの冒険者が請け負うような比較的弱い魔物……もっと言ってしまえば雑魚ザコと言えるような魔物を退治したことを口々に吐いて自慢し合っている。

 それから察するに、とてもトロルと戦って勝てそうな人たちとは思えなかった。

 だから、この受付嬢のお姉さんも溜め息を吐くわけだよ。

「ゴブリンを討伐して自慢し合っているくらいですから、お察しいただければと……」

 大きな溜め息を吐いて、額を押さえて俯いている。

「とりあえず、北の森にいるトロルは三匹ということが確認できたので、依頼は出したんですけれど、だれも見向きもしなくって……このまま放置していると、街にやってきてしまうことも考えられるわけで……できればメルティナさんにお願いしたいんです。引き受けてもらえませんか?」

 訴えかけるような視線を向けられ、メルティナはそっと視線を逸らす。

 まあ、戦うのはメルティナじゃないもんね。

 答えられるはずがない。

 戦うのは、僕の召喚獣たちになるわけだから、メルティナは僕の方に視線を向けてきた。

 どうしたらいい?と言いたげな視線だった。

「ねえ、その依頼を引き受けたら、宿は無料タダで止まらせてくれる?」

 僕はカウンターに身を乗り出して、受付嬢を見つめた。

「う~ん……そうですね……」

 考え込む受付嬢。

「ギルドマスターに聞かないとダメかな?」

「ギルドマスターに聞く必要はないですよ」

 そこは、あっさりと答えてきた。

 さすがに宿代を無料には、してもらえそうにはないかな。

 残念。

 そう思っていたら「私がこの街のギルドマスターですから」と予想外な言葉が返って来た。

「ギッ……ギルドマスター?」

 僕とメルティナの声が重なり合った。

 目の前の受付嬢がギルドマスターだったなんて。

 こういったらあれだけれど、ギルドマスターっぽくないから、そんな風には考えなかったよ。

「はい、このヴェイクトレールの街のギルドマスターは私です。申し遅れました。私は、エクリエールと申します。エクリエール・エクリプスティアンナです」

 椅子から立ち上がって、丁寧に頭を下げてきた。

 右の長い前髪が前に垂れ、魔物に傷つけられたという痛々しい傷跡がチラリと覗けた。

「あっ!」と小さな声を上げて、受付嬢……ギルドマスターのエクリエールは慌てた様子で右手で傷跡を覆う様に隠していた。

 かなり目立つ傷痕だから、本人はすごく気にしていることだろうね。

 慌てて隠そうとするくらいだから。

「隠さなくてもいいと思うよ」

 慌てているエクリエールにやんわりと言ってあげた。

「だけど……醜い顔ですから……」

 エクリエールは右目を覆う様に右手を添えたまま、隠し続けている。

 もう見えてしまったのだから、今更隠しても意味ないし、気にすることないのに。

「僕はそうは思わないよ。エクリエールは美人だと思うよ」

 僕の一言に「君はどこでそういうことを覚えてきたのかしら?」とメルティナが睨んできて、僕の頬をつねった。

「痛いよ、メルティナ」

 抗議の声を上げる。

「ギルドマスターを口説こうとするんじゃないの」

 そう言いながら、つねった頬から指を離してくれた。

「別に口説いてなんかいないもん。そう思ったから言っただけなのに」

 頬を膨らませて、メルティナを睨み返す。

 メルティナは、やや青ざめた表情をしていた。

 なぜかと思ったら、僕の背後に立ったシヴァリーヌがものすごい形相で仁王立ちしていた。

 メルティナに今にも飛び掛からんばかりの強烈な殺気ともいえるものを立ち上らせて睨みつけていたのだ。

「まっ……まあ、ヴィオ君には、そんなつもりなんてないわよね……あははははは……」

 コソコソと僕のそばから離れていったメルティナは、カウンターに近寄ると「依頼を受けちゃおうかな」と心にもないことを口走っていた。

 明らかに目が泳いでいた。

 ここで僕たちが、そっぽを向いたらどうするつもりなんだろう。

「引き受けてくださるんですか?ありがとうございます。メルティナさん」

 エクリエールは、メルティナの手を握ると嬉しそうにパッと表情を明るくしていた。

 これには、メルティナは困った顔をするしかなかった。

 助けを求めるような視線をメルティナは向けてくる。

 もう、しょうがないなぁ~。

「引き受けるのは良いけれど、宿代はいくらなの?」

 投げやりに尋ねる僕に「引き受けてくださるのなら、ギルドマスターの特権で無料タダにします」と言ってくれた。

 それはそれでよかった。

 報奨金から宿代を差し引かれるとか言われたら、引き受けるのや~めたと言ってみようかなとか考えてみたけど、そんなこと言わずに済んだので良かった。

「今日は、ゆっくりとお休みください」

 エクリエールは、部屋の鍵をメルティナに渡していた。

「あのさ、お腹空いたんだけれど、ご飯は無料タダにはならないかな?」

 思い切って僕は聞いてみた。

 この際だから調子に乗ってみたよ。

「ごめんなさいね。それは私の権限ではどうにもできないわ。食事に関しては、ギルドがかかわって経営しているわけじゃないから無理ですね」

 やんわりと断られてしまった。

 まあ、宿代が無料タダになっただけ良しと思うことにしよう。

 僕とメルティナとシヴァリーヌは、ギルドカウンターを離れ、併設されている酒場へと向かった。

 今日は夕飯を食べて、明日のトロル討伐のために早く寝ることにしよう。


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