死にたがり、お礼をされる
ペトラちゃんに着いて歩くこと20分くらいかな。何事もなく彼女の住む村へとたどり着くことが出来た。村は自警団の人たちが見回っていたり門番をしていたりするようだ。
村に入る時当然、止められた。けどペトラちゃんにしたのと同じ説明をしたところその門番の青年はめちゃ泣きながら「あんたも…大変だったな…よし!この村には何にもないが、記憶が戻るまで好きなだけ滞在してくれていいからな!」なんて言って背中を叩かれた。俺としてはありがたいけど大丈夫か?この人ら。明らか俺は怪しいやつだぞ?もしも悪行目的のクズだったらどうすんだろうな。本当に悪行目的の奴はそんなこと考えもしない?それはそう。
「カイトさんはどこか見て回りたい場所はありますか?」
「そうだねぇ…強いて言えば市場みたいなところは見てみたいけど…」
「だったら雑貨屋さんなどを回りましょう!カイトさん、ご案内しますね!」
もしかしてこのまま行く気か?さすがにそれはダメだろうよ。荷物だってあるし。……もしかしたらお礼をしなきゃと必死なのかもしれんけども…
「ちょいちょいちょい、一旦落ち着こうか。先に君のご家族に無事な姿を見せるべきだよ。店なんていつだって行けるんだしさ。物事の優先順位は間違えないようにしていこう。ね?」
いかん、ちょっと偉そうな物言いになってしまったか…?
「あ…確かに、そうですよね。きっと私、まだちゃんと落ち着けてはいないんだと思います。大事なことを見過ごすところでした。教えてくれてありがとうございます、カイトさん。」
明るく気丈に振舞っているように見えるけど、命の危機に瀕したんだ。まだ心の整理がついてなくて当然だよな。
「先に私の家へ行きましょう。お母さんに心配かけるのはよくないですしね!」
「…そうだねぇ。」
俺はどこか適当な所でお別れのつもりでいたんだけど、コレもしかして俺も着いていく感じ?彼女の家に。普通、娘がいきなり家に男連れてきたら親なら何事かとか思わんのか?それともこの世界じゃこれくらいは普通の事なのか…?圧倒的にこの世界の常識が足りねぇぞ…
「そうだ!私のお母さん、薬師なんです。もしかしたら、カイトさんの記憶喪失をどうにかする手がかりを知っているかもしれません。」
なるへそ?だからこの子は一人で森に?きっと何か事情はあるんだろうが…部外者が不躾な質問をするもんでもないしなぁ。
うだうだ悩んでいる内にペトラちゃんの家にたどり着いていたようだ。
***
「お母さーん、ただいま~。」
「あら、ペトラお帰り。…そちらの方は?ハッ⁉もしかしてペトラの恋……」
「違うからね⁉この人はカイトさんと言って……魔物に襲われそうだった所を助けてくれた恩人なの!」
恋…ねぇ。恋人って言おうとしたんだろうなぁ()……待てよ?客観的にこの状況を見たら義理の両親への挨拶に見えない方がおかしいか?
「魔物に⁉…ッスゥ~…そう。ペトラに怪我が無くて良かったけど…やっぱりペトラ一人で森に行かせるべきじゃなかったわね……こほん。お見苦しいところをお見せしました…娘を魔物から助けてくださったそうで、本当にありがとうございます…!もしよろしければ何かお礼をさせてはいただけないでしょうか。」
俺にはこの人が小声で「呪いさえなければこの子に危ない役目をさせずに済むのに…!」と悔しそうにつぶやいていたのが聞こえてしまった。
「いえいえ。偶々通りかかっただけなんで気にしないでください。それにお礼と言っても…特段欲しいものとかも今はなくてですね…」
そんな悲しそうな顔しないでいただきたい。う~む、困ったぞ。けどホントに欲しいものもな……あるじゃん。馬鹿か俺は。
「あ、そういえb…「だったらさ!お母さん、記憶を取り戻せるような薬とか知らない?実はカイトさんは記憶喪失みたいでさ、名前と出身地以外の記憶がないんだって!だから自分がここにいる理由も分からないみたいなの。」
「まぁ、記憶が?それは大変だわ。けど、ごめんなさいカイトさん。私はそのような効能のある薬は聞いたことがありません。恐らくですけれど、そのような薬はどこを探しても存在しないでしょう。もしかしたら魔法であればあるいは…といった感じでしょうか。……薬も、魔法も、どちらも万能ではありませんから。」
???
俺は一言も記憶を取り戻したいなんて言ってないけど…なんか話が大きくなっている気がする。……止めようがないんだけども。だってこんな状況初めてだもん。どうすりゃええねん。
「ああ、はい。別に記憶がないこととそれが治らないことに関しては(死にたいので)正直どうでもいいんです。代わりに生きていくうえで必要な知識を教えてもらえませんか?特に生計の立て方だとかそういうことを。」
「分かりました。それでなら私も娘もお役に立てそうで…」ぐううぅぅぅぅ~~~~~…
……盛大にお腹が鳴ってしまったな。…ペトラちゃんの、だけど。思わず俺もペトラちゃんのお母さんもペトラちゃんの方見ちゃった。あーあー、ペトラちゃん顔を真っ赤にして俯いちゃってるよ。そうだよね、女の子が思いっきりお腹ならしたら恥ずかしいどころの騒ぎじゃないもんね。
「すいません、そういえば俺、朝から何も食べてないもので。盛大にお腹が鳴ってしまいましたよ~。」
「…ウフフ。そういうことにしておきましょうか。でしたらカイトさん、昼食をご一緒にいかがですか?もしかしたら家庭的な味がカイトさんの記憶を呼び覚ます一因になってくれるかもしれませんし。」
「ぜひ。あ、手伝えることがあったら何でも仰ってください。ただご馳走になるのも忍びないので。」
「いやいや、お客様に手伝わせるわけには行きません!カイトさんは座って待っていてくださいな。
よ~し、お母さん腕によりを掛けちゃうぞ~!…ペトラ、いつまで固まってるつもり?ほら、あんたはお皿出すのとか手伝いなさい。」
「あ、う、うん!カイトさん、少し待っててくださいね!お母さんの料理は絶品なんですよ!」
ペトラちゃんは台所への去り際に「その…庇ってくださってありがとうございます…///」とお礼を言ってから手伝いに向かった。ええんやで。
***
ペトラちゃんのお母さんが作る料理は確かにうまかった。そしてこの世界の味付けは割と日本と近しい感じだった。良かった、一安心だな。死ぬまでの旅路に食道楽を追加しても良さそうだわ。
それから俺はペトラちゃんの案内の元、市場を回った。この世界のお金の単位について教えてもらいながらね。で、ざっくりと聞いた感じだと、まず貨幣の種類が「鉄貨・銅貨・銀貨・金貨・白金貨」の5種類かつ小・大の2区分に別れてるようだ。ただし、基本的に出回っているのは小金貨までなんだとさ。それ以上は貴族とかの取引で使われるから滅多に目にする機会はないんだと。そして白金貨は大小別れていない…らしい。ペトラちゃんもそこまでは見たことないみたいだ。
んで、俺の感覚的に日本円換算すると…
鉄貨=10円、大鉄貨=50円、銅貨=100円、大銅貨=500円、銀貨=1,000円、大銀貨=5,000円、金貨=10,000円、大金貨=50,000円、白金貨=100,000円って感じになるのかな。
庶民の生活は月に金貨1~2枚、多くて大金貨1枚前後あれば足りる、と。
ふむ。ひとまずこの世界で生きていくのには困らなそうと言えそうだな。俺の場合はどれだけ道楽に回せるのかと死ぬための実験に使えるのかが重要になるけど。ひとまず雑貨屋でさっき狩ったフォルフの死体を買い取ってもらった。解体料込みで銀貨3枚と大銅貨1枚になった。ま、日本円だと安く感じるけどそうでもないだろう。それにファンタジーじゃこのくらいの値段設定だし恐らく妥当なはずだ。…足元見られてる可能性も否定はしきれないけど。
お金は作中に書いた通り。
鉄貨=10円、大鉄貨=50円、銅貨=100円、大銅貨=500円、銀貨=1,000円、大銀貨=5,000円、金貨=10,000円、大金貨=50,000円、白金貨=100,000円くらい。
追記2025 4/28
それとは別にお金の単位はグリア。 例:こちら500グリア(=大銅貨一枚)になります。 こうなる。
硬貨から小を削除。
料理の味は日本と近い。醤油も味噌もある。