聖女、恩人を見つける
お久しぶりかもしれない。
どうも皆様、引き続きただのアリシアです。
私がアノン村を出てから早数日が経ちました。アノン村の皆様にしっかりとしたお礼をせずに村を発つことは不義理なことだと思いますがそれでも。私の事を助けてくださったお方に感謝をしたい気持ちも抑えられないのもまた事実……村の人々は私が村を出ることを司祭様から聞いたようでわざわざお見送りに来てくださった方もいらっしゃいました。申し訳なく思いますが、感謝の言葉と、またいつでも戻ってきてくださいと暖かいお言葉をいただきました。……私が目的を果たせたのなら…また、アノン村へ赴きそして、そこで一治癒師として暮らしていくのもいいかもしれませんね。
アノン村での出来事は一旦置いておきましょう。私は今、【スーリアス】にて教会で治癒師として働きつつ、休日に恩人様を探しています。司祭様に聞いた特徴ですと、黒髪黒目で整った顔立ちをしているのだとか。年齢も私と同年代とおっしゃっていた気がします。そして忘れてはならない重要な事!それはかのお方のお名前です!その方の名前は【カイト】様とおっしゃるそうです。…しかしながらその情報を頼りに街を歩いて探してはいますが……成果は芳しくありません。もしやもうこの街にはいらっしゃらないのでしょうか……いえ!弱気になってはいけませんアリシア!決めたではないですか!どれほどの時間がかかっても恩人様を探し出す!と。最初の当てが外れたくらいでなんだと言うのです。
ただ……このままの生活を続けるには少々心もとないのも事実です。ひとまずは司祭様がスーリアスの教会に紹介状を書いてくださっていたおかげで衣食住に困ることはありませんが…先立つものがないのは不安です。そんなこれから先の不安を思っていたためか、私の横を通り過ぎて行った男性の事をうっかり見逃しそうになってしまいました。……その男性は夜を思わせるような漆黒の髪と一瞬見えた横顔から吸い込まれそうなほどきれいなオニキスを思わせる瞳をしていたのです。少なくとも【神聖国アルバトリオン】においては不吉な象徴とされ、非常に珍しい(と思われるほどに)その黒髪は茶色交じりではなく純粋な黒い色をしていたのです。
まだ、確信は持てませんがそれでも、もしかしたらこのお方が私を助けてくださった方なのかもしれません…!……それにしても。オニキスだなんて…一応王子妃教育の一環の教養ということで宝飾品のことを勉強していて良かったと思います。
私の胸は恩人様に出会えた奇跡からか、とってもどきどきしていますし私の気分も高揚しています。それどころか頬に熱が集まってさえいるように思います。…一体、どうしたのでしょうか、私の体は…なんだか変です。
そして私はその人に声を掛けようと思い…踏みとどまりました。なぜなら……いきなり声をかけてはただの不審者だからです。たとえ見ず知らずの私を助けて下さるくらいに慈悲深い方であったとしても、私にとっては命を救ってくださった大大大恩人だとしてもッ…!急に声をかけるわけにはいきません。そのため私は一度冷静になり、そしてその方のことを観察することにしました。もちろん、着いてきているなどと思われて迷惑をおかけしないように平然を装って物陰から観察です。……いえ、十分な不審者ですね、私…その日は私は気づけばその方の宿の方まで結局着いていってしまい…正気に戻りました。でも着いていっていたことはバレていないみたいですし、私、隠密の才能があるのかもしれませんね…!
そしてたまたまうっかりその方が宿の受付をしている
「おや、カイトさん、おかえり。今日は依頼どうだったんだい?」
「いや、まだ2日くらいかかりそうっスね。まだもうちょいお世話になりますわ。」
「そうかいそうかい。こちらとしてはもっといてくれてもいいんだけどねぇ…」
「はは。」
というやりとりを聞いてしまいました。偶然ですからね?少しばかり普通の人よりも耳が良いために聞こえてしまったのです。しかし、恩人様=お見かけした男性でほぼ確定でしょう。それならば明日にでも…いえ、まだ彼の行動は分かりません。こちらに時間を割いていただく以上、ご都合の良い時を伺わなければ…もう少し、要観察、ですね。
結局、数日後……私は未だにカイト様に話しかけることが出来ずに影からそっと様子を伺うことしかできていないのです…!急がなくてはカイト様がこの街を去ってしまうかもしれないのに…!でもなぜでしょう?頭ではそう分かっていても実際に話しかける段階になるとなぜか顔が赤くなりうまく言葉が出そうもなくなり、足は硬直したかのように動かず、彼の下に向かないのです……本当に私の体はどうしてしまったのでしょうか…?しかも一度は病気を疑い自分に治癒魔法を掛けてみましたが…なんの効き目もなく、自分の体が健康体であることを証明してしただけ。…くぅッ!我が体のことながらもどかしいです!
私は未だに自分に芽生えたこの気持ちの正体が分かりません。




