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1話 闘技場の控室

「かかってくれば?」


 目の前に斧なのか剣なのか分からない武器を持った男が居た。

 居たというのは、既にいないのと同義。


 男は右腕を斬り落とされ、その場でうずくまっている。


 僕の周りにいた大人たちは、あの一瞬の間に何が起きたのか理解できていないだろう。


 視線が痛い。


 かかってこいと言ったのは向こうなのに、少しだけ罪悪感のような申し訳ない気持ちではないのだが、何かここで言うべきセリフが思いつかない。


「……なあ、お前……今何した?」


「……別に」

「別にじゃねーよ。お前調子に乗り過ぎなんだよ」


 調子に乗るって何?

 

 このどんよりとした空気の中、先陣を切って話しかけてくれるまでは良かった。

 

 確かに腕を斬ったのは僕だ。そこに関しては、責められる義務がある。

 むしろそれ以外何もしてないのに、相手にとって僕は調子に乗ってるように見えたのか。


「勘違いもほどほどに」

「はあ? それを調子に乗るって言うんだよ」


「……それで次の相手はあなたでいいんですね?」

「……いいだろう、少しは――いや、最初から本気でいくぞ」





 この世界には()()がある。


 僕ももちろん魔法が使える。ただ、戦いにおいて魔法はさほど重要ではない。そのことを相手は理解していない、というのは相手の表情(かお)を見れば分かる。


 人の表情(かお)は単純なものが多い。

 楽しければ目が笑い、悲しければ目から涙が流れる。


 それは戦いにおいて二番目に大事なもの。


 こんな状況でわざと負けるという選択肢もあるが、ここで戦いの基本を相手に叩き込ませるほうが面倒事にはならないだろう。


「先程は無礼な真似をしました、ので先に攻撃してもいいですよ」

「ふざけるのも大概にしろよ。……そうだな、俺の攻撃を一発でも耐えれたらお前が強いことを認めよう」


 誰目線なんだ。


 そもそも、コロシアムと呼ばれる闘技場の()()に来たのは、男と戯れるために来たんじゃない。


 ある目的――ある()に逢うために。


「炎に抱かれて消えろ!! 大獄炎(ダイナミックフレア)!!」

 

(詠唱か)


「惜しいね。あと10秒早く撃ててたら良かったのに」


 少しやりすぎたか?

 でも、もう遅い。


 倒れた男の皮膚は全身焼け爛れている。

 どうするべきか。周りの目も気になるが、まずは応急処置からっと。


「……おまえは……何者……だ?」


「……え?」


 回復魔法は一応、倒した二人が全快するまでかけた。が、何を思ってそんな質問をしたのか……。

 こんな時は名前か?それとも職業?


「回復、ありがとな。それでもう一度訊くが、お前の正体というかただのガキじゃねーだろ?」


「……まあ、ガキですけど何か?」


「名前は? 俺たち二人を一撃で倒したやつの名前くらいは覚えといたほうがいいだろう?」


 確かに一撃と言えばそうなのだが、丸焦げになった本人は気づいてないのか?

 いや――気付くはずもない。


 魔法が放たれ、一秒もしないうちにその魔法が自分に帰ってくる。

 魔力操作――――


「名前……僕の名前はクリスティアーヌ・フォワード。一応冒険者をしている……ことにしておく」

「フォワードね。火炙りの刑にされた俺は分かる、お前は強い」

「それはどうも。……あなた達に用はないので、これで失礼します」


 お前は強いって、本当に思ってる?


 こう言うのは素直に受け止めるべきなのだが……


 二人の男は僕を凝視した後、その場から立ち去った。


(取り敢えずは……噂訊いてみるか)


 噂というのは、簡単に言えば、「行きたい場所に行ける」という、なんとも嘘らしいもの。


 闘技場の控室には、試合に参加するために来るものも居れば、僕のように噂を嗅ぎつけて来るものも居る。

 そしてその噂が本当かどうか確認するべく、受付の人に尋ねる。


「えと……行きたい場所があるのですが」


「……あなたは先程の方ですか? お強いですね!」

「はあ、有難うございます」


(何なんだ急に)


「それでなんの御用でしょうか?」

「話聞いt……あの、噂というか行きたい場所に」

「あ〜それでしたらあちらのものにお申し付けください」


 噂は本当だったのか。

 てっきり嘘かと思ってた。


「分かりました」


 案外噂に流されるのもいいな。

 

 人は嘘でできている。

 自分の利益のために嘘をつき、他人を蹴落とす。

 お金を手に入れるために、信頼も友情も何もかも全てを捨てる。


 それで何が楽しい?


 でも完全には否定できない。


 自分の利益――自分のために生きているからだ。

 僕も少なからず、自分のために、ある人に会いたいと思っている。


「あの」

「はい、行き先はどちらですか?」

「……ラエリル有数の果物が盛んに育つ洞窟――フルーツガーデンに」

「かしこまりました。……フルーツガーデン、それではご案内いたしましょう。あなたの旅が美しいものになりますよう、心から願っております」


 美しい、か。


 いつぶりに聞いただろう。そんな言葉。


 でも皮肉には聞こえない。本気で思って言ってるのかな。


「行ってきます」

読んでいただきありがとうございます。

次話投稿に関してですが、不定期です。

話の大まかな展開は考えていますので、次話ができ次第投稿します。

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