3話 攫われ人
「そういえばここら辺でお化けでるって話ある?」
二人に連れられている道中、朝の龍崎さんの事がどうしても気になった僕は二人にそう問いかける。
「うん? お化け? 知らんなぁ」
「もう大地! いきなり怖い話せんといて!」
「ごめんごめん。僕の地元じゃそんな話があったから気になっただけだよ」
二人が何も知っていないと悟った僕は適当なことを言って誤魔化す。
「まあ、お化けかどうかは知らんけど『攫われ人』っていうのは聞いたことあるな」
「あー、その話? でもあれって怪談って言うより御伽話やろ?」
「サラワレビト?」
言葉からは誘拐された被害者としか思えないけど、お化けとなんの関係があるのだろう?
「この町にはそういう伝承? みたいなんがあるんや。なんか体から魂だけ龍に抜き取られてこの町で彷徨うんやと」
「龍? 魂だけ抜き取られる?」
「そんな不思議そうな顔しんといてや。俺やってよー知らんねん」
「私もそんくらいしか知らんで。期待した目でこっち見んといて」
誠也がこれ以上知らないことを悟った僕がその首を芽衣の方へ向けると、顔の前で慌ただしく手を振りながらそう言われる。
「そっか。ありがとう」
なるほど、『攫われ人』ね。それが龍崎さんに当てはまるかはわからないけど、もしそうだとしたら体はどこか別のところにあるってことだよな。
「てかこの女優さん、まだ寝たきりなんやな」
すれ違った店のガラスケースの中にあるテレビをチラッと見ながら芽衣が言う。どうやら何かのニュースをやっているようだ。
僕は父さんの時のトラウマからテレビを見たくなかったので敢えて目を逸らそうとする。
「龍崎天な。可哀想やで。まだ出てきたばっかやのにすぐ寝たきりになってもうて」
「龍崎天だって?」
「知らんの? 最近めちゃくちゃ人気やった女優さんやで」
僕は誠也の発した彼女と同姓同名の名前にまさかなと思い、嫌々ながらも人の顔が表示されたスクリーンを見る。それを見た瞬間、驚きのあまり足を止めてしまう。
「……龍崎さんじゃん」
そのスクリーンに映し出されていたのは紛れもなくあのバス停で会った龍崎さんの顔だったのだ。あれからテレビを見る習慣がなくなっていたため、気付かなかったのか。
そしてこの龍崎さんは寝たきりで目を覚まさないという。だとしたら龍崎さんは本当に魂だけさらわれた「攫われ人」なんじゃないか?
「何してんの、大地。早よ行くで」
「あっ、うん」
テレビを見て立ち止まり考え事をしている僕を急かす芽衣の言葉にその場を去る。しかし、僕の脳裏には泣いていた龍崎さんの姿とテレビの華やかな姿がしっかりと残っていた。
分かっているのは龍崎さんの姿は今のところ僕以外には見えていないことと攫われ人かもしれないということ。
そこでふと疑問が過ぎる。
攫われ人って自然に元に戻るのかな?
さっき聞いた限りでは誠也と芽衣はあまり知らなさそうだし、帰ったらお婆ちゃんに聞くか。
「今から行くとこ見たら大地もビビると思うで」
「そうやな〜。私なんか初めて連れていかれた時、死ぬかと思ったもん」
「へ〜、そんなところがあるんだ。楽しみだな」
胸の奥に龍崎さんのことが引っかかりながらも相槌を打つ。
それから談笑しながら町を抜けて坂を上っていく。このルートは……。
「こっからちょっとだけ山登んで、大地」
「だよね? 僕ら何も用意してないけど大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。そんな高ないから、ココ」
若干不安に思いながらも芽衣の言葉に頷き、普通の道路から山道へと足を踏み入れる。山なんて久しぶりだ。小学校の時に遠足で低い山を登った以来だな。
木の枠で整えられ土が踏み固められている階段を登っていく。二人は軽快に足を進めていく中、僕だけどんどんと足が重くなっていく。なにこれ、やばい。
「ふ、二人ともちょっと速すぎじゃない?」
「もうへばったんかいな。ゆうてまだこっから半分くらいあるで」
「え~ホント?」
肩で息をするほど疲れ切っているというのに未だ半分くらいにしか到達していないことを知らされ、ガクリと項垂れる。最近、全然運動してなかったせいか以前よりも体が動かせなくなってるな。
それから二人から励ましの声を受けて登っていくと、段々と頂上が近づいているのが分かる。
「ほら、もうあそこ越えたら着くで、頑張れ」
誠也のその言葉で一気に力を振り絞って最後の段を登りきると、バタリと近くにあったベンチに倒れ込むようにして座りこむ。
「はあ、はあ、ちょと、休憩、させて」
荒い息遣いでそう言う僕を二人はしゃあないなぁ、と言いつつ僕を挟んでベンチに座る。
「はい、水飲み」
そう言って芽衣が自身の水筒と紙コップを取り出し、お茶を注いで渡してくれる。僕はありがとうと告げてそれを受け取り、ごくごくと一気に飲み干す。
「はぁ~、生き返った。ありがとう、芽衣。助かったよ」
「ハハハッ、大袈裟やな~」
そう笑いながら芽衣は自身の制鞄の中に水筒をしまう。
「大地、おもろいのはこっからやで。ほら、あそこの柵の方見てみ?」
誠也にそう言われ、良い景色でも見られるのかなと思った僕はわくわくしながらそちらへ歩いていく。そしてそれを見て圧倒されて言葉に詰まる。
「……面白いって言ってたのが分かったよ。なんだこれ、見たことない」
「やろ! なあ、言ったやん! 絶対、見たことないって!」
ドッキリが成功した時のようなリアクションを取る誠也の横で僕は目の前に広がる底の見えない程深く巨大な穴を呆然と見つめるのであった。
ご覧いただきありがとうございます!
もしよろしければブックマーク登録の方と後書きの下にあります☆☆☆☆☆から好きな評価で応援していただけると嬉しいです!




