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黒猫ツバキと謎の漂流物ナウマニコ(後編)

ツバキ「最低戦役……じゃ無くて、海底戦役のお話ニャン」

 ナウマニコは、コンデッサとツバキへ語る。壮絶なる【第一次海底戦役】が、いかなる推移(すいい)をたどったのかを。


 魔女は思う。

(自分は夏の浜辺で、いったい何を聞かされているんだろう? 人生で、これほど無意味な時間の費やし方が、他にあるだろうか?)


 けれどツッコミを入れるのは忘れない、コンデッサであった。


『日本人の戦力は圧倒的で、ウニもナマコも、手も足も出なかった――』

「もとより、ウニにもナマコにも、手足は無いだろ」


『この重大な危機において、ウニとナマコは、太公望(たいこうぼウ)ニとナマ孔明(コうめい)の指導のもと、手を結ぶことにした』

「どちらにも、結ぶ〝手〟は無いくせに……」


一致(いっち)団結したウニ軍団とナマコ軍団は、襲撃してくる日本人に果敢に応戦し、ついに勝敗を引き分けに持ち込んだ』

「ウニさんもナマコさんも、スゴいニャン」

「おそらく〝日本人〟とやらも『乱獲(らんかく)はマズい』と気付いたに違いない」


『終戦ののち、ウニとナマコは正式に講和条約を結んだ。そして友好の(あかし)、平和のシンボルとして、ウニとナマコ、両方の特徴を備えた(われ)――《ナウマニコ》を作ったのだ』

「普通にウニとナマコ、それぞれの像を作って並べれば良かったのに、どうして無理矢理1つにしたんだ……。ハッキリ言って、〝悪魔合体彫像〟としか思えん。――お前の名は、〝ナウマニコ〟だったか?」

「ニャンで、そんにゃ名前になったにょ?」

『〝ウニナマコ〟にするか〝ナマコウニ〟するか揉めた際に、間を取って〝ナウマニコ〟にしたのだ』


「……彫像のもととなった素材は何なんだ? 石とかじゃないよな?」

『ふふふ。知りたいか? 深海の常闇(とこやみ)の中に(まれ)に存在する奇跡の物質(ミラクル・マテリアル)、その名は――』

「もう充分だ。それ以上は聞きたくない」

『…………』


「しかしながら、ウニもナマコも手は無いのに、良く()れたな」

『そこは、ヒトデに依頼したのだ』

人手(ひとで)?」

『ヒトデ。5本の腕を持つ星形(スター)――ヒトデ界屈指(くっし)の天才彫刻家〝レオナヒト(・・)()・ヴィンチ〟入魂(にゅうこん)の傑作が、我なのだ!』


「……で、〝友好の証・平和のシンボル〟であるはずのお前が、どうしてこんな場所に流れ着いているんだ?」

「漂流物になっちゃってるニャン」


 ナウマニコは嘆息(たんそく)した(ような雰囲気になった)。


『あれから数億年の時が経ち、ウニの間でもナマコの間でも【第一次海底戦役】とその後の和平の記憶はだんだんと薄れ、消え去っていった……そして5年ほど前、争いが再発した。ウニはナマコへ「プニプニするな~!」と、ナマコはウニへ「トゲトゲするな~!」と、互いに攻め合うようになり――現在、【第二次海底戦役】の真っ最中となっている』

「繰り返される、悲劇――だな」


『残念なことに、我が誕生した理由も忘れられ……ウニは我のことを「なんだ? このプニっぽいのは」と()み嫌い、一方でナマコは我のことを「なんだ? このトゲっぽいのは」と排斥(はいせき)した。両陣営から〝無用の長物〟と見なされ、我は捨てられてしまったのだ』

「それで、漂流物になったのか」

「ナウマニコさん、可哀そうニャン」 


 同情する、ツバキ。

 けれど、ナウマニコは奮い立った(ような雰囲気になった)。


『だが、我は(あきら)めるわけにはいかん! 今は亡き太公望(たいこうぼウ)ニとナマ孔明(コうめい)の遺志を受け継ぎ、永久和平への道を探るのだ!』

 

「ナウマニコさん、立派ニャン」

『とは言え、どうすれば良いのか……』

「その心意気や良し! 私が策を授けてやろう」

『何?』


「お前には今、《お喋り魔法》を掛けているので、海底で争っているウニやナマコどもに話しかけることが出来るはずだ。更にお前に《ピカピカ魔法》を掛けてやる。これで、お前は光り輝く存在となった」

「トゲプニピカピカにゃん」


「そしてお前は海底へ行き、ウニとナマコに、こう告げるんだ」


 コンデッサの作戦を聞き、ナウマニコは感激した(ような雰囲気になった)。


『素晴らしい! 魔女殿。貴方の知謀(ちぼう)()えは、太公望(たいこうぼウ)ニやナマ孔明(コうめい)の天才振りに、(まさ)るとも劣らない!』

「ご主人様、やったニャン!」

「あんまり褒められている気がしない……」



 海底でウニとナマコが戦闘を続けていると、海面より、光り輝く巨大な物体が降下してきた。楕円形(だえんけい)で、表面はトゲトゲプニプニしている。


『ウニよ。ナマコよ。無益な争いを即刻、中止するのだ。(われ)は〝ナウマニコ〟である』


 ナウマニコの忠告に対し、反抗の意志を示すウニとナマコ。ナウマニコはピカピカと光り、怒声を発した。


『愚かモノども! 我は偉大なる神にして、其方(そなた)らウニとナマコ、共通の祖先なるぞ』


 ウニとナマコが、ざわつく。


『我の姿を、見るが良い。トゲトゲプニプニしているであろう。其方(そなた)らも、元をたどれば、このような姿をしていたのだ。しかし次第に「もっとトゲトゲしたい」と考えるモノたちと、「もっとプニプニしたい」と考えるモノたち、2つのグループに分かれて、それぞれが独自に進化していった――その結果が、今の其方たちなのである。ウニよ。ナマコよ。其方(そなた)らは、同じ〝棘皮(きょくひ)動物〟! 双方、相手の特徴を受け入れあい、心を通じ合わせるのだ。其方(そなた)らの祖先も、その事を願っておるぞ』


 ナウマニコの説得は功を(そう)し、ウニとナマコは争いを止めて友好関係となった。【第二次海底戦役】は終結した。海底に平和は戻ったのである。



 後日。

 ボロノナーレ王国の端っこにある、コンデッサのお(うち)


「ご主人様。ナウマニコさんから、贈り物の箱が届いたニャン」

「どれどれ……礼状には『和平への手伝いをしてくれた、感謝の品である。ウニたちとナマコたちも喜んで、品作りに協力してくれた』と書いてあるな」

「ウニさんたちとナマコさんたちも、お礼の気持ちを持ってくれてるんニャね。嬉しいニャン」

「どんな品なのかな? …………うわああああああ!!!」


 箱のフタを開けたコンデッサが絶叫して、跳び退()いた。


「ご主人様、どうしたにょ?」


 ツバキが箱の中を(のぞ)き込む。


「ウニとナマコの食材にゃ。美味(おい)しそうニャン。にゃんで、驚いているニョ?」

「いや、確かに美味(うま)そうではあるが……これが〝ウニとナマコから送られてきた〟ってところが問題なんだよ!」

「言われてみれば……まさに〝身を(けず)って〟のお礼ニャン」

「削らんでも良い! 怖いだけだ」

「でも〝ウニさんもナマコさんも、喜んで協力してくれた〟って……」

「なんなんだよ、アイツら! ひょっとして、『三大珍味』と呼ばれていることを自慢に思っているんじゃないのか!?」


 しばし、沈黙。


「良し! この品は、ツバキに上げるよ。ウニもナマコも、有名な高級食材だぞ。喜べ、ツバキ。私って、本当に優しい主人だな~」

「これは、ご主人様が食べるべきニャン。アタシは謙虚(けんきょ)な使い魔なにょで、遠慮するニャ」

「いやいやいや」

「にゃんにゃんにゃん」


 ナウマニコからの贈り物を押し付け合う、主従。

 コンデッサとツバキは、今日も仲良しである。

※豆知識

 三大珍味――日本の三大珍味は「ウニ」「このわた(ナマコの腸)」「からすみ(ボラの卵巣)」と言われています。

 棘皮動物――棘皮動物門に属する動物。海に住んでいる、変な生き物。ウニ・ナマコ・ヒトデ・ウミユリなど。



『魔女殿のお名前は、何だったかな?』

「コンデッサだ」

『その神算鬼謀に敬意を表し、貴方のことを、我はこれから〝コンデッ真田幸村〟と呼ぼうと思う』

「〝真田幸村〟……誰だ?」

『数億年前の戦国日本・大坂の陣における豊臣方の軍師だ。太公望や諸葛孔明に引けを取らない、名将であった』

「おお。よく分からんが、悪い気持ちでは無いな」

『旗印は〝六文銭〟!』

「六文銭……6枚の銅貨か。そこは、6枚の金貨にして欲しい」

「ご主人様、贅沢にゃん」


※次回は「黒猫ツバキ、〝アイスコーヒーの祝福〟を受けて大迷惑をしている少女と出会う(前編)」です!

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― 新着の感想 ―
[一言] ナマコとウニって親戚だったんですね……勉強になります。 棘皮動物って知らなかったので調べてみたんですが、意外と身近な存在だったんですねぇ。 ちなみにたらこはカシパンが好きです(聞いてない …
[一言] >ナウマニコからの贈り物を押し付け合う、主従。 確かにこれは食べづらいwww
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