黒猫ツバキと『魔女たちの秘密基地』(前編)
登場キャラ紹介(コンデッサとツバキ以外)
バンコーコ……コンデッサの友人。同世代の魔女。
プリン……バンコーコの使い魔。メスの黒猫。ツバキの友だち。
ジンキミナ……魔女たちの長老。コンデッサの魔法の師匠。
サクラ……ジンキミナの使い魔。年長の黒猫。
※テーマは「秘密基地」です。
季節は夏。
ここは、ボロノナーレ王国の端っこにある村。
20代の魔女コンデッサと彼女の使い魔である黒猫のツバキは、仲良く暮らしていた。
最近、ツバキには気になることがある。怠け者のコンデッサが、頻繁に外出するようになったのだ。
その際、ツバキはいつも留守番させられる。
出かける時、コンデッサは妙にウキウキしており、帰ってきたら満足げにしている。
いったい彼女は毎回、どこへ行っているのだろうか?
「ご主人様。また、お出かけなニョ?」
「う……うん。そうなんだ、ツバキ」
「いつもいつも、どんなところへ行って、そこで何をしているにょかニャ? たまには、アタシも連れて行って欲しいニャン」
「それはダメだ!」
コンデッサが大きな声を出したため、ツバキはビックリした。
「な、なんでダメなにょ?」
「あ……怒鳴って悪かった、ツバキ。実は……な。私が近頃、訪れているのは〝魔女の秘密基地〟なんだよ」
「にゅ? 秘密基地?」
「そう。そこに顔を出せるのは、魔女だけ。それ以外は、何者であっても立ち入ることは許されないんだ。なんと言っても〝秘密基地〟なので!」
「ご主人様の使い魔なにょに、アタシも入れないニョ?」
「使い魔は、私たち魔女の大切なパートナーだが……秘密基地は、特別なんだ。魔女のみ入ることが出来る、神聖な場所なんだよ。ツバキを伴って行き、万が一にもお前が大変な目に遭ってしまったら、私は後悔してもしきれない。だから、我慢して留守番をしていてくれ。な? ツバキ。頼むよ」
「……分かったニャン。ご主人様はアタシが大事だから、連れて行ってくれないんにゃネ」
「そういう訳なんだ。じゃ、行ってくる!」
コンデッサはツバキへ手を振るや、箒に乗って、サッと王都の方向へ飛んでいってしまった。
「秘密基地は、王都にあるのかニャ? それにしても……ご主人様の言葉は浮ついていたし、目も泳いでいたニャ。怪しいニャン」
♢
王都の街角にある、猫カフェ。
店内は、今日も訪れた大勢の魔女たちで賑わっていた。
「コンデッサ、いらっしゃい」
「やぁ、バンコーコ。また来てしまったよ」
バンコーコは、コンデッサの友人で同世代の魔女である。
「相変わらず、みんな居るな」
「猫カフェの猫ちゃんたち、可愛いからね~」
「しばらく経つと、無性に会いたくなっちゃうんだよな」
「そうそう」
コンデッサとバンコーコが頷き合っていると、他の魔女がニコニコしながら話しかけてきた。
「普通の猫ちゃんって、見ているだけで、不思議と新鮮な気持ちになるのよね」
「喋らないしな」とコンデッサ。
「2足歩行もしないしね」とバンコーコ。
基本的に、全ての魔女は使い魔と契約している。そして使い魔のほとんどは、メスの黒猫だ。なので猫について、魔女たちは見慣れているはずなのだが……。
この夏。
何故か若い魔女たちの間で、猫カフェを訪問することがブームになっていた。ペット同伴は禁止されており、使い魔の黒猫がヤキモチを焼いても困るため、皆コッソリと来店している。言い訳は共通で『秘密基地へ行ってくる』だ。魔女同士で、申し合わせているのだ。
店の中で猫たちと遊びつつ、魔女たちは語り合う。
「常に使い魔と一緒に居るから、ときどき猫ってどんな生きものだったかを私、忘れちゃうのよね」
「使い魔の黒猫は人間の言葉を喋ることが出来て、ちょいちょい2足歩行をしたりもするから」
「あと平気で、人間と同じ物を食べたり飲んだりするし」
「それで、主人である私に文句を言ってくる」
「勤めをさぼることも、多い」
「つまみ食いも、しばしば」
「口が達者で、仕事における手の抜き方が巧妙なのには、腹が立つ」
「ちゃっかりしているのよね」
「あの世慣れた態度……小憎らしく感じちゃうことも」
「だから、普通の猫ちゃんの何げない仕草を見て、キュートな鳴き声を聞くと、癒やされちゃう」
「猫カフェは天国」
「もふもふ~」
と、ここでコンデッサが一言。
「でも、やっぱり私のツバキが1番可愛いんだよな~」
「あら。もっとも可愛い子は、うちのプリンよ」とバンコーコ。
プリンは、バンコーコの使い魔だ。
他の魔女たちも、次々と主張する。
「違う! 最高なのは、うちの使い魔」
「わたしの使い魔には、どの子も敵わない」
「皆、分かっちゃいないわね。ワタシの使い魔である、あの子の右に出る猫なんて、世界には居ないのに」
「うちの子!」
「うちの子!」
結局どの魔女も、自分の使い魔が1番可愛いのであった。
♢
魔女の使い魔である黒猫たちは月に一回、定期集会を開いている。
今月も黒猫たちは集い、近況を話し合った。黒猫たちの口から、主人である魔女たちへの不平が続出する。
「ご主人様は、最近ちょっと出かけすぎニャン。『秘密基地に行く』って毎度、言うんにゃけど……」とツバキ。
「ツバキのところも、そうなんニャ。わたしのご主人様も、しょっちゅう〝秘密基地〟とやらに行ってるニャン」とプリン。
ツバキとプリンの会話を聞き、他の黒猫たちも不満を漏らす。
「あたしのご主人様も!」
「いつも1人で行くニャン、浮ついたかんじで。わたしを連れていかずに」
「いぶかしいにゃ」
「帰ってくるときはご主人様、変にこざっぱりしているニョ」
「うちも! あれは、きっと《クリーン魔法》を使っているニャン」
「クリーン魔法……」
「ニャンでわざわざ、帰宅途中で身体をキレイに――」
「秘密基地って、服や身体が汚れるところなニョ?」
「むしろ、にゃにかの犯行を隠しているようニャ……」
先月の集会でも、『ご主人様が秘密基地に行く』件は話題になっていたのだ。そのため今月は黒猫たちのイライラが、より高まる事態になっている。
ポツリと、ツバキが呟く。
「ご主人様、浮気をしているみたいニャ」
後編に続きます。〝ご主人様の浮気疑惑(笑)〟の結末は……。