表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

黒猫ツバキ、女神アマテラスの夏休みの宿題を手伝う(前編)

登場キャラ紹介(コンデッサとツバキ以外)


 アマテラス……天照大神あまてらすおおみかみ。太陽神にして最高神。

 ウズメ……天鈿女命あめのうずめのみこと。芸能の神。

 タヂカラオ……天手力男神あめのたぢからおのかみ。力持ちな神。

 オモイカネ……思金神おもいかねのかみ。頭の良い神。

 高木神……高御産巣日神たかみむすびのかみ。アマテラスの後見役にして教育係。


 ダルマ……赤くて丸い人形。縁起物。モデルは、インドから中国へ仏教の『禅』を伝えた僧侶・達磨大師だるまたいし


※テーマは「宿題」です。

※豆情報

・柱……神様の数え方。

 季節は夏。

 日本神話における天上世界《高天原(たかまがはら)》。


「これより、夏休みの宿題の内容を告げます」


 そう述べるのは、高木神(たかぎのかみ)。白い顎髭(あごひげ)を垂らした、威厳のある老人(老神?)の姿をしている。

 高木神の前には、4(はしら)の若い神が横並びになって、おのおの椅子に腰かけていた。


 タヂカラオ――体格の良い少年の姿をしている、天界でもっとも力持ちな神である。

 オモイカネ――賢い顔つきの少年の姿をしている、天界でもっとも頭の良い神である。

 ウズメ――踊り子風の衣装を身に纏った少女の姿をしており、天界でもっとも芸事(げいごと)に秀でている神である。

 アマテラス――巫女服を着た10代半ばの少女の姿をしており、天界でもっとも……もっとも……取りあえず最高神ではあるので、1番偉いはずである。 


 その偉いアマテラスが、ブーブー文句を言う。


「夏休みは本来、休むためにあるものじゃろう? にもかかわらず〝宿題〟などという苦行(くぎょう)があるのでは、本末転倒(ほんまつてんとう)ではないか」

「アマテラス様。屁理屈(へりくつ)を述べないでください」


 (いさ)めるウズメに、タヂカラオとオモイカネも同調する。


「夏休みの宿題を苦行なんて考えるのは、アマテラス様だけだよな。力は、全ての問題を解決するぜ!」

「せっかく別天津神(ことあまつかみ)の1柱である高木神様が先生をしてくださっているんですから、僕たちは有り難く教えを受けなければ。ま、優秀すぎる僕に、これ以上の勉強が必要かどうかは疑問ですけど」


 どうやら高木神が教師、アマテラスたち4柱は生徒――そのような立場になっているらしい。


「騒がないで。皆に〝夏休みの宿題〟を申し付けるにあたり、特別講師をお呼びしています」


 高木神の発言と同時に〝ボン!〟と音が鳴り、神々の眼前に赤い人形(ひとがた)が、いきなり出現した。

 高さは、高木神の腰までくらい。全体的に丸く、コロコロしている。手や足が無い代わりに、顔がやたらと大きい。


 アマテラスが呟く。

「ダルマさん……かの?」

「そのとおり。我輩(わがはい)は、ダルマである。承知のこととは思うが、我輩は達磨(だるま)大師をモデルに作られた置物であった」

「達磨大師……禅宗のお坊さんですね」とオモイカネ。

「うむ。だが、我輩は、ただのダルマでは無いぞ。達磨大師に憧れ、修行を積んで(さと)りを開いた〝スーパーなダルマ〟なのだ」


 威張る、ダルマ。

 アマテラスは、首を(かし)げる。


「スーパーのダルマ?」

「違う! 〝スーパー()ダルマ〟だ。〝スーパー()ダルマ〟では、スーパーマーケットの店内で展示されている縁起物(えんぎもの)のようでは無いか!?」

「スマン」


 ダルマが怒りながらボインボインと跳ね回るので、アマテラスは謝った。


「まぁ、良い。ともかくこのたび、高木神殿に頼まれて、臨時講師をすることになった。我輩が夏休みの宿題として、お主等(ぬしら)にしてもらいたいのは、水墨画(すいぼくが)を描くことだ」

「水墨画……(すみ)一色の絵画ですね。(ぜん)の精神を表現する技法ですから、確かに〝ダルマ講師〟が出す課題としてはピッタリかもしれません」


 しきりに頷く、オモイカネ。

 タヂカラオは、ダルマに尋ねた。


「それで、俺たちは墨で何を描けば良いんだ?」

「お題は『煩悩退散(ぼんのうたいさん)』である!」

「『煩悩退散』……難しいテーマじゃな。(わらわ)の中のどこを探しても〝煩悩〟と呼ぶべきモノは、そもそも存在しない(ゆえ)


 困り顔のアマテラスに、ダルマが質問する。


天照(あまてらす)殿に訊こう。目の前に、ケーキ・シュークリーム・おはぎ・栗饅頭(くりまんじゅう)がある。どれを食べたい?」

「全部、食べたいのじゃ!」

「……更に、訊こう。1日24時間のうち、眠りたいのは何時間?」

「14時間じゃ!」

「……最後に訊く。美しいイケメン・爽やかなイケメン・セクシーなイケメン・渋いイケメン、このうちの誰と付き合いたい?」

「誰とも付き合いたくない。面倒くさいのじゃ」


 ウズメとタヂカラオ、オモイカネがコソコソと話す。

「アマテラス様、煩悩まみれですね」

「食欲と睡眠欲に、歯止めが()いていないな。でも、恋愛方面の欲は無いみたいだぞ?」

「あれは、単に情緒(じょうちょ)が未発達なだけでしょ」


「それでは皆、ダルマ殿の言いつけに従い、水墨画を描いてくるように。提出期限は10日後です」

 高木神は締切日(しめきりび)を示し、その日の授業を終了した。



 ここはボロノナーレ王国の端っこにある、魔女コンデッサの家。


「……ということがあったのが、9日前なのじゃ」

「提出期限まで、あと1日しか無いじゃないですか! ノンビリしていて大丈夫なんですか? アマテラス様」


 コンデッサは慌ててしまう。

 1柱でひょっこり遊びに来たアマテラスが、ゴロゴロしているためだ。


 黒猫のツバキが、コンデッサへ語りかける。

「心配すること無いニャ、ご主人様。アマちゃん様は、きっと既に〝水墨画〟ってモニョを描き終えているに違いないニャン」

「ああ……そうだよな。思わず、早とちりしてしまったよ。考えてみれば、当たり前か」

「課題は全然、やってないぞ」


 アマテラスがキッパリと言う。何故か、誇らしげだ。


「あれより9日……月日は、嫌と言うほど強引に流れてしもうた。『強引(ごういん)(いや)のごとし』とは、まさにこの事じゃな」

「それは『光陰(こういん)()のごとし』の間違いです」

 コンデッサが訂正する。


「何はともあれ、今からでも始めましょう」

「む、むう。意外とコンデッサは先生っぽいの?」

「ご主人様は昔、家庭教師をやっていたこともあるニャン」


 アマテラスが紙を広げる。当然ながら、真っ白だ。


「このまま提出したら、ダメかの? 『煩悩が無くなった、透明な世界』とか言って」

「ダメに決まっています。それは〝水墨画(すいぼくが)〟では無く〝怠慢画(たいまんが)〟ですよ。ほら、アマテラス様。(すみ)をする!」

「コンデッサが厳しい……あ、墨が無い。どこかに忘れてきてしまったみたいじゃ」

「弱りましたね。我が家には、墨汁(ぼくじゅう)しかありませんが」

「墨汁で構わんじゃろ」

「しかし、本格的な水墨画では……」

「ご主人様。アマちゃん様に本格的な水墨画を描く技量は、もとから無いニャン」

「それもそうだな」

「アッサリ納得されると、妙に腹が立つの」

「アタシが墨汁を持ってくるニャ!」


 ツバキが張り切って駆け出し、しばらく経って、2足歩行でヨロヨロしながら戻ってきた。両前足(りょうまえあし)を使って、墨汁が入った容器を抱えている。


「お、おい、ツバキ。無理はするな」


 コンデッサが声を掛けた瞬間、ツバキは転んでしまった。その拍子に容器の(ふた)が外れ、アマテラスが用意していた白紙の上に、墨汁がドボドボと流れ落ちる。


「あ~!!! 妾の紙の上に、墨汁が!」

「ごめんにゃさい、ごめんにゃさい!」

「ツバキ、後始末(あとしまつ)は私がやる。お前は無闇(むやみ)に歩き回るな。紙に足跡がつく」

「妾の紙に、ツバキの肉球がペッタンペッタン~!」

「ごめんにゃさい、ごめんにゃさい!」



 宿題の提出期限、その当日。

 神々とダルマが、前回と同じ場所に揃った。


「さて、お主等が仕上げた水墨画を見せてもらおう。どんな風に『煩悩退散』というテーマを表現したのか、楽しみである」


 ダルマは、生徒たちが提出した宿題の水墨画を点検しつつ、イチイチ感想を口にする。


「ふむ。鈿女(うずめ)殿は〝美しい深山幽谷(しんざんゆうこく)〟の風景を描いたのか。心が洗われる作品である」

手力男(たぢからお)殿は――〝手力男殿が自ら邪鬼を踏んづけている〟絵であるな。邪鬼の(ひたい)に書いてある文字は〝ボンノ~〟……かなり直接的な示し方ではあるが、面白い」

思金(おもいかね)殿は、我輩のモデルである達磨大師(だるまたいし)の姿を絵にしたのか。背景に星々――銀河を添えるとは、()っておるな」


 ウズメ・タヂカラオ・オモイカネが描いた水墨画は、いずれも高評価のようだ。


「で、天照(あまてらす)殿は?」

「う、うむ……」


 口()もる、アマテラス。

 高木神は顎髭(あごひげ)をしごき、〝ヤレヤレ〟といった表情になった。


「天照様。お忘れになられたのですか?」

「そうなのか? 天照殿」

「最高神である妾が、そんな失態(しったい)を犯すわけが無かろう! 妾のは、コレじゃ!」

 後編に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 情緒が未発達!!!! き、きびしい……! この台詞はオモイカネ様でしょうか。 永遠の十五才ですものね、アマテラス様。 >『煩悩が無くなった、透明な世界』 うまいな!と、思わず膝を打つとこ…
[一言] ある意味芸術かも( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ