表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

黒猫ツバキと海のおばけ(前編)

登場キャラ紹介

 コンデッサ……ボロノナーレ王国に住む、有能な魔女。20代。赤い髪の美人さん。

 ツバキ……コンデッサの使い魔。言葉を話せる、メスの黒猫。まだ成猫ではない。ツッコミが鋭い。


※テーマは「海と船」です。 

 物語の舞台は一応、ヨーロッパ中世風・異世界。ただし、設定はかなりテキト~です。

 季節は夏。

 ボロノナーレ王国の魔女コンデッサ(とっても美人さん)と彼女の使い魔である黒猫のツバキは、豪華客船で海の旅行を楽しんでいた。


 ちなみに船は中古であんまり大きくなく、船員は数人、客はコンデッサたちだけだった。


 黒猫が、主人の赤毛の魔女へ尋ねる。

「アタシたちが(にょ)っている船、けっこうボロいけど……どこが『豪華客船』なニョ?」

「馬鹿だな、ツバキ。『豪華(ごうか)客船(きゃくせん)』と考えるから、不可解に思えてしまうんだ。この船は『豪華客(ごうかきゃく)(せん)』なんだ。分かるだろ?」

「分かんにゃい」


「つまり〝豪華な客〟――ボロノナーレ王国で最も高名な魔法使いの1人であり、偉才有能・容姿端麗・空前絶後の私、コンデッサを乗せている〝船〟……ということなのさ。この際、船のグレードは関係ない。私が乗っている時点で、紛うことなき〝豪華客船〟なんだ」

「ご主人様の自己賛美はツッコミどころが多すぎて、聞いていて、痛々しさを覚えてしまうレベルなにょニャ。でも、アタシは賢くて優しい使い魔だから、海のように広い心でスルーしてあげるニャン」

「何か言ったか? ツバキ」

「ニャニも言ってないニャ」


 甲板でしょ~もない会話をしているコンデッサたちのところへ、1人の船員がやって来る。


「船員さんニャン」

「黒猫さんと魔女様。当船はこれより〝魔の海域〟へと入りますので、ご注意ください」


 船員の言葉に、コンデッサとツバキは顔を見合わせる。


「魔の海域とは何だ?」

「おどろおどろしいネーミングにゃん」

「圧倒的なパワーを誇る、海のモンスターが出没するエリアなのですよ」


「海にょモンスター?」

「はい。我々、海に生きる者たちに最も怖れられているスーパーモンスターです。超常世界を含む大海原(おおうなばら)の生態系……その頂点に位置する存在と言えるでしょう」

「それは……よほど強大な力を持つモンスターなのだろうな」


 さすがのコンデッサも警戒心を覚え、身震いしてしまう。


「船員よ。今のうちに、モンスターの正体を教えておいてくれ。推測するに、クラーケンか? シードラゴンか? ひょっとして……悪魔の海蛇(レヴィアタン)か?」

古代の巨大サメ(メガロドン)かもしれないニャン。お魚さんだけど、アタシは大嫌いニャ」

「メガロドンはこの前、私が退治したじゃないか。ついでに料理して丼物(どんぶりもの)にし、お前に食べさせてやっただろ?」

「ご主人様が作ってくれたメガロ(どん)……ちっとも、美味しく無かったニャ。普通のイクラ丼やウナギ丼のほうが、良かったニャン」

「贅沢なヤツだ」


 コンデッサとツバキがノン気なやり取りをしていると、船員が声を張り上げた。


「違います! 魔の海域に生息しているモンスターは、真の意味で怪物なのです! その脅威の前には、レヴィアタンやメガロドンであっても赤子同然」

「凄いニャン」

「まさしく神話級の魔物だな。いったい、どのようなモンスターなんだ……」


 緊張した面持(おもも)ちになるコンデッサへ、船員はついにその名前を告げた。


「モンスターの名は……妖怪《バケツくれ~》です」

「…………にゅ?」

「なんだソレ?」


「大きさは、人間の大人の2倍ほど。姿は人間の男性そっくりですが、青色の肌をしているのです。そして、頭はハゲており、時々ワカメが引っ付いています」

「海坊主っぽいな」


「妖怪《バケツくれ~》は前触れも無く海の中から現れて『バケツをくれ~』と、しつこく要求してくるのです。とっても困ります」

「名前のままのセリフにゃん」

「何のひねりも無いな」


「断ると怒りだし、海に大嵐を起こしてしまう……」

「迷惑ニャン」

「それでやむを得ずバケツを渡すと、そのバケツで海水を()み上げ、せっせと船の中へ流し込んできます」

「地味にイヤな行いだ」


「いくら『止めてくれ!』と頼んでも、妖怪《バケツくれ~》は水汲(みずく)みを続けます。挙げ句に船を〝()()因になりかねない、とんだ()難だ〟――略して〝チンゲンサイだ〟状態にしてしまうという、恐怖のモンスターなのですよ。実際に沈んだ船は、まだありませんが……後で時間を掛けて排水しなければならず、本当に苦労させられます」

「船がチンゲン(さい)に……お(ひた)し向きの素材になってしまうのか」

「沈むのも水浸(みずびた)しになるにょも、怖いニャ~。アタシ、水が苦手で泳げにゃいのに」


 小さな体を縮こまらせる、ツバキ。そのシッポが、後ろ足の間に入り込んでいる。

 魔女は、己が使い魔の頭を優しく撫でた。


「ま、いざとなったらツバキの面倒くらい、私がみてやるさ。……とは言え、この船の者たちは、どうするんだ?」

「ご心配には及びません。我々も海のプロ。対抗策は、キチンと考えています」


 そう言って、船員は意気揚々(ようよう)とバケツを取り出した。

 コンデッサが首をかしげる。


「え? 正直にバケツを渡してしまうのか?」

「魔女様、このバケツをよく見てください」


 ツバキがバケツの中を覗き込む。


「あ! このバケツ、底が無いニャン」

「ハイ、その通りです。これは、底が抜けているバケツなのです」


 船員は得意げな表情になり、コンデッサは納得した。


「なるほど。底が無いバケツなら、モンスターに渡しても安心だな。絶対に水は汲めないわけだし。しかし、念のため……」


 客室へと戻る、コンデッサ。ツバキはトコトコついていく。

 魔女は座り込み、何やらゴソゴソしだした。


「ご主人様、魔法を使ってニャニをしているニョ?」

「うん。一応、万が一に備えて……次善の策を用意しておこうと思ってな」

 後編に続きます。

 全12回を毎日、投稿いたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] わぁ、連載! 楽しみなのです。
2022/08/23 00:06 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ