感動の再会★
いや、もうね、なんというかね、凄いね。
先触れを出していたこともあって王城に到着するや当然ながら身を整えさせられた。ほとんど自分で着替えて仕上げをベンハミンがしてくれたんだけどね。うん、リタの従兄弟はどこまで見通してたんだろう。かなり上等な服を用意してくれていた。むしろ、これが用意できる彼らは一体何者だろうと考えてしまうほどに。ベンハミンたちはあの村のどこにこんなものがと思っただろうね。
それから、玉座の間に案内された。そこで見た光景が凄いんだよ。感動するレベルというのかな。
「これはやり過ぎでしょう」
「正直、あり得ないっすね」
僕の両脇を固めるベンハミンとチュチョも小声でそう感想を漏らしてしまう。
そりゃそうだよ、玉座の間で僕を迎えてくれた家族の皆様方。それに各大臣達。そこまではまあいいだろう。けど、僕と彼らの間には何重にも張られた光の防御壁。僕とベンハミン達の間には何もないのに家族方や大臣達の間にはしっかりと壁が作られていた。凄いと言わずしてなんと言うか。まぁ、僕に見えてるなんて思わないんだろうけどね。
「イグナシオ・イバルラ、戻りました」
「ふむ、無事で何よりだ」
こちら側の空気など感じさせるわけにはいかないと僕は皆に出迎えてもらえて嬉しいですと喜びを滲ませ陛下へ挨拶をする。たぶん、一番真ん中の椅子に座ってふんぞり返ってるのがそれだろう。返ってきた言葉に労りなどない。ただ、道具がちゃんと戻ってきたことに安堵するかのようだった。
それにしても、陛下ってあんなにもふっくらしてたっけ。そう思わず首を傾げたくなるほどふっくらと大きかった。琥珀色の髪は変わらないし、乙女色の目も過去に僕が知ってるものだ。にしても、記憶にある姿と変わりすぎて笑いそうになる。こんなにも変わるものなんだね。
隣にすっと目を向ければ陛下と同じ琥珀色の短髪の青年。印象深い青緑と黄赤のオッドアイは一番上の兄マウリシオ殿下だったはず。まぁ、オッドアイでもリタの大叔父のオッドアイの方が遥かに美しかったけど。いや、そんなことより僕より少し年上なのに身長があるのが羨ましいな。でも、まぁ、僕に望みがないわけじゃないし、大丈夫だし? 男の子は十代後半で伸びるって誰かが言ってたから、問題ないし?
その更に隣りにいるのはエウスタシオ殿下かな。肩より少し上で切り揃えられた千草色の髪。目は陛下に似たのか乙女色。容姿自体は母である第二側妃に似たのか女性的……というより中性的な感じかな。あまり武芸に秀でた人ではないらしいし、体の線が細いのもわかる気はする。
で、その隣で、落ち着きがなさそうにもぞもぞしてるのが、僕と同腹の弟パトリシオ殿下かな。桜花色の髪はくせ毛なのか、猫っ毛なのか短いこともあってぴょんぴょん跳ねている。大きく真ん丸な本紫の目は興味津々なのを隠してはいない。うん、陛下の面影か塵ほどないんだけど。まぁ、王妃殿下の面影は目のあたりに見える気がする、気がするだけかもしれないけど。そういえば、パトリシオとその隣で、微動だにしないもう一人の弟はリタと同い年になるんだっけ。
ティブルシオ殿下。明るめの青紫色の髪は目元まで覆っているけど、微かに赤みのある紫の目がメガネの向こうから覗く。でも、その目は虚ろ。昔の僕みたいな目だね。盛大に誕生日とかも祝われてたと思うのだけど僕がいない間に何があったのだろう。
ちなみに殿下方とは王を挟んだ反対に妃たちが、といっても王妃殿下と第一側妃が並ばれてるだけで、第二側妃はいらっしゃらない。ベンハミン情報ではエウスタシオ殿下をお産みになってから、精神を病まれているらしい。故に彼女はこの場にいらっしゃらない。
「それでだ、お前の住処は慣れ親しんだところが良かろう」
「えぇ、離宮で結構です。あぁ、そうでした、お願いが数点あるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだ、言うてみよ」
お願いをしたいと口にした途端、王のサイドから図々しいとばかりの視線が飛んでくる。いや、図々しいって、貴方方のように僕は我儘も面倒もみてもらったことがないのだけどねぇ。
「一つ、僕に割り振られている費用は僕自身で管理いたします。スードレステに僕は滞在しておりませんでしたし、離宮の管理費くらいにしか現在は使用されてないかと思うので、問題ないですよね」
「失礼、これらはまだお若い殿下には少々難しいかと思われますが。それにお忘れになられてるか、とぼけられてるのか、貴方のお迎えにもこちらの費用が当てられております」
「あぁ、でしたら、尚の事、僕で管理したいですね」
「はい? どうしてでしょう」
「当然でしょう。迎えに来てくれた馬車は近場を移動する簡易馬車でしたし、こちらに戻るために必要な水、食料、衣料を用意されてませんでした」
財務大臣かそれに準ずるであろう人が挙手をして、僕に声を飛ばす。けれど、僕の言葉にぎょっと目を見張る。彼は知らなかったんだろうね。
「叶うのでしたら、今一度僕のところの費用を見直していただきたい。明らかにおかしな数字が動いてるのではないでしょうか。それに費用を僕が管理するとしても、週に一度は財務の方に確認は取ってもらうつもりですよ」
僕はまだ若いですから、どうしたらいいか迷うこともありますしと付け加える。彼はうむと唸った後、陛下が許可するのであればと下がった。僕はそれを聞いて、陛下に目を向ける。
「では、二つ目ですが、僕に部隊を持たせてください。部隊は主に王都周辺ならびに点在する町村に出現する魔獣の討伐です。勿論、こちらの財源は僕の費用と討伐した魔獣の買取金額にて賄わせてもらいます」
口を出される前に理由と運用費について語る。
「三つ目、離宮に対する全権限を僕が利用する間いただきたい。折角、用意してくださった方々を呪わせたくありませんし、怖がらせたくはありませんので。費用は前述と同様ですが」
背筋を伸ばし、堂々と告げる。
おどおどしていてはつけ入れられる、堂々と発言なさい。願い出るときはその理由と財源をどうするかをきちんと述べなさいというのはリタの教育のために来ていた御老公の言葉だ。一月交代でいろんな分野の方々が来られてたけど、リタの親族ってなんなんだろうね。
「よかろう。好きにしろ」
「「陛下!?」」
「ありがとうございます」
両サイドから声が上がるけど、僕はそんな声を無視して、深々と頭を下げた。陛下は駒さえいれば、どうでもいいのかな。それとも、何か考えあってのことか。
でも、まさかこうもすんなり許可がもらえるとはね。ま、どうせ部隊を用意してくれたとしても問題児ばかり集められそうだけどね。問題児なんて金色たちに比べれば、可愛らしいものでしょ。
「本日はこのような場を設けていただき、ありがとうございます。しかし、長時間も僕と同じ空気を吸うというのは嫌でしょうし、早々に離宮に下がらせていただきます」
それではと言って、僕は記憶にある離宮へと向かった。離宮は王妃殿下や兄弟殿下がいる東宮や西宮などと違い、繋がっておらず、孤立した場所にある。
そして、到着して思う。見事と。
「え、管理してたんスよね、ここ」
「早急に誰か派遣してもらいますか?」
唖然とするのはベンハミンとチュチョ。僕はなんとなく想像がついてたから、想像通りすぎて笑えるほどだよ。
草は伸び放題、離宮本体は何の手入れもされていないのだろう汚れ、ボロボロだ。よくもまあ、慣れ親しんだところがよかろう、なんて言えたもんだ。それに僕が持って帰った荷物なんて適当に草の中に投げ入れられてるし。リタが防御魔法をかけてくれてて本当によかったよ。この分だと中はスッカラカンかな。
「殿下」
「あぁ、平気だよ。対策は講じてる」
そう言って僕は投げ捨てられている荷物の山からビンが沢山入っているバッグを掘り起こす。そして、バッグを開けてやれば、どんどんとビンは宙に舞い上がり消えていった。どういうこととベンハミンとチュチョが僕に声をかけようとする間にも離宮の周りが整えられていく。
「え、え、ちょ、これは」
「リタの秘密兵器、かな」
ビンに詰められてたのは金ピカの聖水。精霊や妖精たちには喉から手が出るほどのものらしい。で、それを報酬に働いてくれたというわけだ。宙に消えた理由は彼らが持っていったということで。あっという間に綺麗になった離宮。
「“洗浄”」
仕上げに洗浄をしておく。コウガ曰く妖精や精霊は適当だから、最後にそうしておくといいらしい。
「ベンハミンたちも中に入るかい?」
「ええ、お付き合いいたします。それに殿下の荷物も運び入れなければなりませんから」
「まぁ、それもそっか」
三人で手分けをして、荷物をエントランスに入れるも、それだけで十分わかる。
「何もないねぇ」
「殿下、訴えましょう」
「いいよ、極力彼らには関わりたくないし。それにこれだけ綺麗だとリタの従兄からもらったお下がりが役立つだろうし」
「お下がり」
王族なのだし、そういうのはと口にしたかったんだろうけど、僕としてはこの離宮に長居するつもりもないんだよね。だから、それで十分なわけで。
ちなみに従兄からもらったのはお引越しセットというバッグ型のアイテム。中に家具などがしまえ、展開時に設定したように家具を設置してくれるという便利道具。そう説明したんだけど、どうやらこの王都では普及してないようだ。どこで買えるのか問われてしまった。ユグドセクでは普通に使われてるから、珍しいものではないとおもってたんだけどなぁ。
「行く機会があれば確認してみます」
必ずとベンハミンは拳を握る。まぁ、引っ越しは大変だもんね、わかるよ。
そんなこんなありつつ、僕は一部屋一部屋でバッグを展開していく。そもそも設定は従兄がやってくれてたし、僕は魔力登録だけで、中身も確認してなかったんだけど。
「「お下がりって」」
「……うん、これは僕も予想外」
展開された家具は新品かと思われるほど使用感はなく、離宮どころか王宮で使用されていてもおかしくないレベルのものだった。確かに彼らはもう使わないからさァって言ってたけど、一体何者なんだろうね。
「ま、今、この離宮の権限は僕にあるし、これらの家具には僕の魔力が登録されてるし、大丈夫だよ、うん」
後日、ベンハミンとチュチョは正式に僕付きの騎士になった。好きにしたらいいよとは言ったけど、まさか僕付きになってくれるとは思わなかったよ。嬉しいし、頼もしいけどね。
「リタを迎えれるようにしっかりと準備しておかないとね」
さぁ、やることはいっぱいだ。これ以上何をやるんだって苦笑いを浮かべるベンハミンとチュチョ。いやいや、色々あるからね、部隊の調整もそうだし、リタ用の工房とかね。あと、簡易聖域化もしておかないとヒリンが来れないだろうし。
「これは、その、失敗か」
「まぁ、いいんじゃないッスか。なんとなく、損しなさそうですし」
「それは、そうかもしれないが、常識が」
「ま、ぶっ壊れるッスね」
ここまで読んでいただき、ありがとうございますヽ(=´ω`=)ノ




