魔法を独学で研究中。これ、できて大丈夫?
あれからちょこちょこ魔法を使ってみてる私です。
窓際に飾っている植木鉢に水をあげてみたり、床のごみを風魔法で吹き飛ばしてみたりしてました。で、気づいたんだけど、なんか、色がついてるのよ。何にって? 魔法とかに。
例えば、水やり。これをすると土に水が染み込むのは当然なんだけどほんのり土が青みがかる。水魔法の強弱で青は濃くなったり、薄くなったりする。魔法と言うよりも水分量かなと思って試しに乾いた土の水分量を量れないか試してみた。そうすると乾いた土でも、色を見ることができた。かんなり薄かったけど。でも、地面に手をつき、意識すると表面上は乾いていても中に水分を保持していることが分かる。あ、これ、薬草とか育てるのに役立つんじゃね??
ちなみに風魔法は使用した時はその風の向きとか強さが色でわかった。母が風魔法を使ったとき、意識して見ると他人のものでもそれを見ることができた。さらにこちらは発動のタイミング的なものが分かりやすかった。一ヶ所が色が濃くなる。そして、そこから流れ出すように風が吹き出すのだ。
土魔法は使用される箇所が反応した。勿論、土人形(小さいのを作ってみた)の場合は全体が茶色の光を纏っていた。そして、なんか、土の成分分析って言えばいいのかな。栄養状態が分かるようになった。
火魔法は危ないのであまり使用してないけど、熱感知ができた。母と手を繋いだ時とか、父にだっこされた時にそっと使っていると、まさにサーモグラフィーだったよ。
「かぁたん、ぐあい、わるわる?」
「え、そうなのか?」
「え、確かにちょっと熱っぽいって感じるけど、その程度よ?」
「“その程度”は甘くみない方がいい。ちょっと薬持ってこよう」
ある日見た、母の体温が不自然に一点が高かったので声をかけた。本人はその程度と思ってるみたいだけど、燻ってる熱がある。父の判断はきっと間違いない。父が軽く母を診察し、薬を処方する。
そして、案の定というか、次の日、母は寝込んだ。でも、早めに薬を飲んでいたおかげで大事に至ることはなかった。
「お手柄だ、リタ」
ぐりぐりと頭を撫でてくれる父。そう、本当にお手柄だったみたい。なんせ、母の病は風邪とは違う熱病と呼ばれるもの。内部に熱が燻り、体の中から壊していくものだったらしい。初期症状は殆ど出ず、ちょっと熱があるな程度。放っておくと高熱が出て、死に至るそうな。元々、判別が難しい上に熱病ではと疑う頃には手遅れになっているということが多いんだって。そのせいで死者も多い。ただ、手遅れでも、運良く快復できる場合もある。けど、その場合は何らかの障害が残ってしまう事が多いみたい。しかも、この熱病が厄介なのはいつどういった時になるのかが解明されていないこと。原因を究明している研究者がいないわけではないけど、ある日突然高熱が出て発症することが多いせいもあって、何もかもが間に合ってない。虫を媒介にしているのか、自然発生的なものなのかすらもわかってないから大変だ。ただ、幸いというべきか、熱病はウィルス関係ではないようで、人から人への感染は報告されていない。もしかしたら、ファンタジー特有の魔力が何らかの原因で熱病になってるんじゃないかなと正直話を聞いていて私は思った。けど、何も知らないはずの幼児が疑問に思うのはおかしな話だと思うので、お口チャックした。
母の容体も良くなり、私も少し成長すると家の中だけではと外に連れて行ってもらえるようになった。何度か抱っこしてもらって外に出たことはあったけど、こうして自分の足で外を歩くのは初めてかもしれない。
「こら、リタ、勝手に行くんじゃない。それに畑はそっちじゃないぞ」
あまりの嬉しさに全く違うところに行こうとしていたよう。父に抱え上げられ、畑へと連行される。
「ふわぁ!」
初めて連れてこられた畑はそれはもう輝いていた。あ、文字通りだよ。父が魔法をふんだんに使用していたせいか残滓がキラキラと輝いているのだ。
「リタ、あんまり遠くに行くんじゃないぞ」
「あい!」
地面に下ろされ、目の見える範囲であれば自由にしていいぞと言われた私は父の畑を歩き回る。そんな私を父は誰に似たんだろうなと笑いながら、自分の仕事を始めていた。
「……よち」
父は土の状態や薬草、野菜の状態を見ていて、私を見ていない。これはチャンスである。父から離れたところに移動した私は地面に手をつける。
「“たんちゃ”」
くそう、探査もまともに発音できないのが悔しい。けれど、言葉はともかく、ちゃんと魔法は発動したらしい。脳裏に脳裏に地面内の状態が記される。
「うーん、みじゅの与えしゅぎかな」
自然にできたものか、はたまた水のやり過ぎたのか。地面内部に水の溜まった空洞があった。しかも、だいぶ、土が削られたのか地上に近くなってる。地震や地殻変動が起こったら、陥没しそう。危ないね。でも、私が言ったところで子供の戯れ言で済まされそうだな。父なら耳を傾けてはくれるだろうけど、結果的にはそんなことはあり得ないと捉えられる可能性もある。でも、下手に放置しておけば、陥没したことに気づかず、父が落下してしまう可能性もある。
「……うーん、ちかたにゃい」
また、連れてきてもらった時には手遅れというのは嫌だ。ぱらりとまた少し地上に近づいた気配を感じた。
「“じちん”」
ぐらぐらと小さく地面が揺れる。父がうおっなんだ!? と驚いている声が聞こえた。
「リタ」
「とぉたん、あにゃ、ある」
地震に慌てた父がこちらに駆け寄ろうとするが、私は冷静に父に地面に空いた穴を指摘する。
「な、なんだ、これは」
初めてみたのか、驚く父は穴をしげしげと観察する。私は穴に落ちないように父の傍に行く。
「一体、どうしてこんなものが」
「……おみじゅ、きらきら」
「こら、リタ、そんなにのめり出すんじゃない、危ないだろ」
首を傾げる父に私はしょうがないと穴の中に手を伸ばす。父はそんな私にすぐ気づき、抱き抱える。そして、水に削られる土を見て、水で削られたのかと眉を顰める。そして、一時しのぎではあるだろうがと出来ていた空洞を土魔法を使って、埋める。
「定期的にチェックしておかないとダメだな。それにあの水はどこから出てきたんだ?」
よしよし、ここまで疑問に思っていれば、大丈夫でしょ。一仕事を終えた私はうんうん首を傾げる父の腕の中で睡魔と戯れた。