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不愉快な帰路★

 ガタゴトと道が悪いのか馬車は揺れる。来た時とは違い、窓から過ぎゆく景色が見える。頬杖をつき、その景色をただ見つめる。


「殿下、アレを馭者にしてよろしかったのですか?」


 目の前に座るベンハミンが僕にそう尋ねる。アレとはフェリペ・ドゥケのこと。村にいる間に彼に対する印象が最降下したらしいベンハミンの口調に僕は苦笑いを浮かべる。


「選択肢がないじゃない」


 そっと馬車内の声が聞こえないように防音魔法をはり、答える。

 馭者には一般騎士であるベルティ、シーロの二人でもよかったかもしれない。そうなると荷物を乗せている馬車にドゥケともう一人の異常状態の騎士アスペが同席することになる。一応、聖水を守る役目としてチュチョに任せていたとしても、流石にドゥケとアスペの二人の相手は厳しいだろう。であるならば、一人はこちらの馬車に乗せる必要がある。異常状態であるとしてもアスペは症状として軽いのだろうドゥケほど苛立った様子も見せなかった。本来であれば、彼をこちらに乗せる方がいいのだろうね。でも、ドゥケの動向がわからなくなるのは困る。ドゥケが何かしようとしているのはわかっているから。まぁ、下手に荷台に乗せて聖水に細工をされても嫌なのもあったけど。


「君からドゥケは一応貴族籍を持ってることを聞いてたから、彼の隣にはベルティに乗ってもらってる」

「それでも、殿下の身に何かあれば」

「それは大丈夫じゃないかなぁ。だって、僕の身は無事でなければならないんだから」


 綺麗に半身不随等にでもできるのならば、話は変わるかもしれないけどね。でも、基本的に聖女部隊所属の騎士は人に危害を加えることが許されていない。聖女を守るためにしかその剣を振るうことができないとされている。それは所属するための条件に基づくものだ。聖女というのは最大の癒し手であり、国を浄化、繁栄させることのできる女性のことを指す。そんな聖女は引っ張りだこになるのも当然ながら、国内は勿論外国からも様々な標的にされる。これは様々な文献にも記されていることで、拉致誘拐は当然ながら暗殺、傀儡化なども含まれていた。そんな聖女を魔の手から守るために結成されたのがその聖女部隊というものだった。いかなるものにでも対応できるように聖女部隊に所属する際には契約を交わす。そして、それが行われると対象の人物は守るために身体強化がなされる。自分の魔力を使わず、強くなれるということでそれが魅力的だというものたちは多い。まぁ、リスクはあるのだけどね。


「そもそも、弱体化するリスクをとる理由は現段階ではないんじゃないかな」


 無関係の人間に危害を加えてしまった場合、契約に則り対象の騎士は身体強化の代わり弱体化する。それは残りの人生全てそうだというらしいから、騎士達は事実(もの)を見る力を求められる。


「もしものことを考えるのであれば王都が近くなれば警戒する必要はあるだろうけどね」


 ウリセスに教えてもらった魔獣の分布。それらを加味すれば、まだ事は起こさないだろう。彼らとてそれはわかっているはずだ。まぁ、魅了している相手が騎士達を使い捨てのように考えていたら可能性はゼロではないんだけど。


「大体ね、騎士達に魅了をかけられる人間は限られてると思うだよね。騎士になる時に魅了や洗脳の可能性は調べられるわけだし」

「教会の周りという事ですか」

「そう、だからね、ここで騎士達を使い捨てにしたのであれば、王子への傷害ないしは殺害疑惑を理由に懐を探られる可能性があるわけ。まぁ、今まで僕を放っておいた王家が動くか否かは考えないでおくとしてという前提だけどね」

「……確かに教会は探られたくはないでしょうね」


 ウリセスからも聞いてたけど、よほどなんだね。王都の教会って。まぁ、光の精霊が身を削って出ていくほどだ、当然といえば当然か。


「しかし、思えば殿下は一度ドゥケに危害を加えられてますよね」


 胸ぐらを掴まれたことを言っていうのであれば、確かにそうだ。あれが危害を加えるに判定されなかったのは不思議だね。一般的に見たら危害を加えたと見られてもおかしくない出来事だった。


「判定は人の感情で行われてはいないのかもしれないね」

「あの、それは一体どういう事でしょうか」

「いや何、あの時僕はリタに何があっても僕が合図を出すまでは動かないでと言っておいたんだ」

「はぁ、それが何か?」

「もし、判定をしているのが精霊だったら」

「まさか」


 精霊ならまだ意思疎通ができる。つまり、精霊も僕の意図を汲んで判定を下さなかったとしたら納得はできる。それにあの時、リタの傍にいたのはコウガだ。


「例えそうだったとして、意思疎通ができるということは不正ができるということでは」

「まぁ、そうなんだよね。可能性の一つだと思ってもらったらいいよ」


 そこが不明点ではあるんだけど。それでも、コウガが高位の精霊であることは関係ある気はしてるんだよね。


「一つ、お伺いしたいのですが、あの場にヒカリノ様以外の精霊がいたのでしょうか?」

「うん、いたよ。ヤミノ様がね」


 話を聞いてふと思ったのだというベンハミン。『ヒカリノ様』というのはヒリンのこと。コウガのことは『ヤミノ様』だ。僕やウリセス、リタ、メディシナ家以外がいるときは我らが名を呼ぶなとはリタの口を借りたコウガが言っていた。どうしてかは知らないけれど、不特定多数に名を呼ばれるのは不愉快だということらしい。そのため、昔から呼ばれている呼び名を教えてくれた。それが僕たちの会話に出てきた名前だ。


「リタ曰く、ヒカリノ様の親代わりみたいだよ、ヤミノ様って」


 そういうと、バンと窓が叩かれる。それにベンハミンは何事かと窓の外を覗き込む。けれど、そこには何もない。何もいない。ただ、風景が流れているだけだ。

 ただ、僕にはあれはコウガの抗議であるとわかった。リタから聞く限り、そうとしか思えない。


「石でも弾いたのでしょうか」

「ここら辺は道が悪いみたいだから、そうかもしれないね」


 それからも危険性について語り合ったけど、答えには辿り着くことはなかった。





「それでは、宿を確認してまいりますのでこちらでお待ちください」


 野宿や宿場町を経て、王都近くの町までようやくたどり着いた。予め宿は取っていたらしくそれの確認にシーロが離れる。まぁ、予定より日数が経ってるし、取り消される可能性を加味したのだろうけど。


「折角だし、露店を見て来てもいいかな」

「殿下」


 あそこに広がっている露店に行きたいといえば、ドゥケが僕を呼び止める。


「あ、それ、ここではやめてね。だって、どう見てもこの馬車って王族が使ってるものに見えないだろうし、見えていいところの坊ちゃんぐらいじゃないかな」

「……イグナシオ様、如何なる所に危険があるかわかりませんので歩き回るのはご遠慮願います」


 まぁ、名前なら、王族にあやかってということもあるから、いいか。それにしても、こうしてみると真面目な騎士なんだね、彼。一体どうして、魅了なんかを喰らったのやら。いや、真面目だから、そうなったのか。


「しょうがないね」


 馬車のステップを引き出すとそこに腰を下ろして、行き交う人々を眺める。行き交う人々は物珍しそうにこちらをチラチラと見ていた。なんか、うん、僕、見せ物になってないかい?? 流石に見せ物になるのは居心地が悪い。そっとドゥケの影に身を隠した。


 ーードン! パシャ。


 自分の身に何かがぶつかり、頭から何かがかけられた。僕が被害に遭ったというのにドゥケは動かず、チュチョ達だけは慌てる。ドゥケは僕がこういう目に遭うとわかっていたのだろうか。いや、わかっていたのかもしれない。だからこそ、動かなかったのだろう。


「あ、あの、ごめん、なさい」


 オドオドというのはぶつかって来たモノ。それは白髪の浮浪者だろうか擦り切れた服を着た子供だった。目や様相は汚れた髪のせいで伺うことはできなかった。


「別に。謝罪は必要ないよ。ただ、馬車に突っ込んでくるのは君のためにもならないだろうから気をつけるように」


 僕はそれだけいうと着替えをするとチュチョに伝え、替えの服を用意してもらい、馬車の中に入る。


「異常魔法か」


 銀の腕輪は液体にうっすらと赤く発光していた。それはリタの説明にあった異常魔法を受けた時に発光するという現象。赤く光るのは魅了魔法だとか言ってたっけ。

 僕は全身に浄化魔法を展開し、魅了魔法を弾き飛ばす。一応、薬箱からリタが緊急用で作ってくれた解呪のポーションを飲む。

 あの子はどうなったかと窓を覗き込めば、ドゥケによって馬車から引き離されているところだった。まぁ、初動こそは酷かったがまともに動いたと考えてもいいのかな。

 そんなことを考えているとコンコンとノック。


「殿下、具合のほどは」

「それほどでもない」


 こそりと声かけられた言葉に僕は答える。それにベンハミンは畏まりましたと返事。それは僕が異常魔法を受けたことを理解したという返し。

 その後、予定通りにその町に宿泊したけれど、夜半に僕はベンハミン、チュチョを連れ、その町を後にした。


「ベルティやシーロには悪かったかな」

「まぁ、彼らは何も知りませんからね」

「一筆は残したんだけど」


 ついでに王都までにかかるであろう費用と食料も計算して残して来たんだけど。彼らがどう動くかは彼ら次第ということかな。


「それで、昼間の件ですが」

「あぁ、それについては道行ながら説明するよ」


 かけられた液体は魅了魔法を付与したものであったことを報告すれば、あの子供を捕獲しに動こうとする。けれど、僕は止めた。さして、気にする必要がないように思ったからだ。それにしても、王都までの残りの道程は非常に気が楽だった。 




「殿下、お気をつけください!」

「え、何が?」

「そうだった、殿下ってば、あの村で暮らしてたんだ」


 僕の目の前で事切れていく魔獣。それにあははと笑うチュチョ。顔を覆って天を仰ぐベンハミン。

 僕はただただ首を傾げるしかなかった。それでも、襲いくる魔獣に手を緩める気はないんだけどね。

ここまで読んでいただき、ありがとうございますヽ(=´ω`=)ノ

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