それは予測しようと思ったらできたことだった、けど私はそれをしなかった
西の街スードレステが崩壊したらしい。当初は魔獣の襲撃にあったと言われていたらしい。けれども、専門家たちが冒険者の協力のもと調査、数々の歴史書との精査により、その襲撃は厄災と認定された。厄災、つまりは魔物が降って湧いたのだということ。当然、彼らは予想もしていなかったのだから抵抗する間もなかったらしい。
「……ナチョ」
私はその話をウリセスさんから聞いて、ナチョの腕を抱き締める。珍しいことをやってるのはわかってる。そのおかげでナチョが驚いてるのもわかる。けど、人肌が、温もりが、いや、どこか自分の心の支えがほしかった。
「リタ、どうしたの?」
落ち着かさせるように私の背を撫でるナチョ。ナチョもきっと気づいてると思う。私が震えてることに。
「リタ、大丈夫だよ。話せるようだったら話してくれたらいい」
何か知っていると気づいたのだと思う。だからこそ、話したくなければ話さなくてもいいと言ってくれる。でも、ナチョやウリセスさんは知っておくべきことなのだと思う。
「闇の精霊様、あー、まぁ、コウガなんだけど、コウガが言ってたんだ」
澱みとは人間の負の感情から生まれ、それが厄災を産む。なので、澱みは定期的に浄化しなければならない。
「“聖者巡礼”」
ウリセスさんに心当たりがあったらしい。その言葉に私は頷く。
「おそらく、その巡礼で各地を定期的に浄化していたのだと思う。けれど、ここ百年は行われてない」
それゆえに厄災発生の限界点に到達したのだろう。今まではヒリンの先代が王都にいたこともあって、少しは抑えられていた。しかし、先代自体が限界に達し、幼いヒリンに託していかねばならなくなった。場所も変わり、王都から離れた東の端。国境の近く。西の街までヒリンの力が及ぶはずもなかった。
「厄災は連鎖的に起こることもあると言ってた」
だけど、西の街方面以外ではそれが発生していない。
「アデリタさんの浄化ですね」
「……たぶん、そう」
爆発的に行った浄化は波紋状に広がり、澱みを浄化していった。ただ、王都まで届いたかどうかはわからないけれど、連鎖反応を起こさなかっただけ、澱みは削られたのだと思いたい。
「なるほど、波紋状に広がったと言うことは浄化が強く行われた範囲と弱く行われた範囲があると言うことですか」
私は頷く。けれど、次の言葉が出ない。
「リタはもしかして、自分のせいって思ってない」
びくりと肩が跳ねる。それにナチョは大きな溜息。そんなナチョに私の中から言葉が溢れ出した。
「だって、私は知ってたんだよ。澱みが厄災になるって。でも、言ってない。予測しようと思えばできた」
コウガに話を聞く前から予測はできた。だって、私はゲームを知ってたから。コウガから聞いた後でも遅くはなかった。嗚咽混じりにそう吐き出しながらナチョの胸元を叩けば、むにゅっと頬を包まれる。そして、顔を持ち上げられ、視線を合わされる。
「リタはバカだよね」
「バカってなにさ」
「リタは聖女じゃないんだよ。そんな端の一村人が声を上げたところで国が動いてくれるわけないでしょ」
それもたった十歳の子供が厄災が起こると騒いだところで信じる人はいないよと言う。それは、確かにそうだけど。
「本来、それをいち早く予測しないといけなかったのは王だ、国だ。神殿だってそうだ」
「そうですね、神殿が聖者巡礼を正しく行っていれば、厄災は起こらなかったかもしれませんね」
「でも」
声を上げなかったわけだし、相談しなかったのだから、私も悪いと思うと声に出そうとしたのだけど、むにむにと頬を揉まれ、言葉を出すのを妨害される。
「ぶっちゃけ、澱みに関しては何度が王家に連絡してるんだよ」
「その全て燃やされてるそうですが」
「へ?」
聞けば、ナチョは何度か自分の名前で王家に連絡を入れていたらしい。けれど、本来いるはずもない場所から届くものだから偽物だと一蹴し、処分されているのだとか。いや、それにしても、王家はバカなのかな。呆然とする私を見て、ナチョが笑う。
「王家はザルなんだよ。本来、僕が外にいるのは漏らさないはずだ。それなのに外から届く手紙を捨てるだけで調査しない。そもそも、手紙が届くことをおかしいと思えよって話だよ」
漏らされているはずのない情報なのにどこからか届く手紙を不敬罪とかでもいいから調べれば、ナチョがここにいると知れるし、本来いる場所にいないことも気づける。そして、何故、そこにいるかも原因を探ることにつながったはずだ。
「中身を精査するぐらいしてもいいと思うんだよ」
僕の名前がいけなかったのかと思ったけど、中身も確認せずに処分されてるんだから、バカだよねとナチョは笑う。
「まぁ、僕がここにいるとバレたら不都合な人がいるだろうね」
カラカラと笑うナチョ。思わず、私はナチョの頭を抱き寄せた。なんとなく無理をしてる気がした。
「私はナチョの味方だよ」
「知ってる」
「母さんも父さんもウリセスさんもナチョの味方だよ」
「うん、知ってる」
クスリとナチョから笑みが溢れる。よかったと私からも笑みが溢れる。
「はい、イチャイチャするのもいい加減にしてくださいね」
「え、いちゃ、イチャイチャって、してないよ」
「無意識ですか、タチが悪いですね、ええ」
パンと手を叩いて、イチャイチャするのもとウリセスさんがいう。否定したのだけど、ダメだこりゃとウリセスさんは顔を振る。ナチョは笑ってる。
「まぁ、いいでしょう。アデリタさんから報告があったのでこちらも報告しておきましょう」
何をと首を傾げる私にすでに話は聞いてたのかナチョは苦笑いを零す。
「アデリタさんの一族メディシナ家についてです」
「うち?」
「はい、メディシナ家です。正直、こちらに赴任してから不思議でしょうがなかったのですが」
村長からも敬われている様子から気になっていたらしい。そして、どうやらうちは常に微量ではあるけれど光属性に適性を持っている子が生まれているらしい。稀に闇属性を持つ人もいるらしいけど、大半は光属性を所持していて、父もその一人らしい。ウリセスさんの前任がその記録を取っていた。
「そして、薬の効能が王都の薬よりも遥かにいいです。その旨も含め、ご当主に確認を取りました」
それに父は間違いないと答えたそうだ。自分も光属性の適性を持っているし、祖父も曾祖父も兄弟も持っていると。そして、薬の効能が高いのは光魔法を溶かした水を使用しているからだと言っていたらしい。うん、聖水を使ってたのか、父よ。ウリセスさん、それ聞いた時すごい苦笑いしてただろうな。
「そして、メディシナ先代方が当主を譲った後は旅をするそうです」
「うん、爺ちゃんたちも旅してるね。あれ、そういえば」
確か、父にここらは大丈夫そうだから今度は西に行くって言ってたような。ん? 何か引っかかる。
ふと考える仕草をした私にウリセスさんは言葉を続けた。
「浄化の旅だそうです」
「え?」
「代々細々と行っているそうで、本来私に伝えるつもりなどなかったそうです」
浄化は神殿の仕事であるから、それを奪っているようなものだからと父は言ったそうだ。けれど、今の神殿はそれすら行っていない。もしかして、こうして国が維持できてたのは。
「恐らく代々のメディシナ家の方のおかげでしょうね」
それに冒険者の方々や行商の方々がわざわざ中継点としてここを通る理由もわかりました、とはウリセスさん。え、そこにもうちが関係してるの? まぁ、薬を必要とするのなら納得できるかもしれない。
「体の毒素が抜かれたように具合が良くなるそうです」
なので、周辺の国では具合が悪くなったら、ユグドセク(当村)に行けと言われてるほどらしい。いや、待って、どういうことだ??
「あぁ、だからか」
「え、ナチョわかるの?」
「うん、彼らとは違うだろうけど、呪いが緩くなったんだ」
「え、あれで?」
「うん」
どうやら、呪い自体にも効果があったらしい、この土地。鈍くなったけれど、苦しいのは変わりなかったよとナチョ。そりゃそうでしょうよ。
「……王家の人は知ってた?」
「「それはない(ですね)」」
「さいですか」
もしかしての可能性を口にしてみたけど、速攻でナチョとウリセスさんに否定されたよ。信頼ないね王家。
「適度にいい遠地だったからでしょ」
「向こうからしたらここは寂れた土地に思ってるでしょうね」
寂れた土地って確かに住んでる人の数は多くはないけど、自然豊かだし、資源も豊富よ。田舎だけど。
「まぁ、それはともかく、王家もそろそろ動くかもしれないんだよね」
憂鬱だよというナチョに私はわからず首を傾げる。
「僕がいるはずだったのはスードレステだよ」
「あ、ナチョがいないことに気づく」
「そう、そして、居場所は調査されるだろうね。で、もしかしたら、迎えが来るかもしれない」
今まで知らんぷりだったのにそれはどういうことなのだろう。
「王位継承戦のためだよ」
私の疑問にナチョが答える。いやいや、王位継承戦のためって意味がわからないよ。
「昔、五人の王子が様々な課題に挑み、優秀だったものが王となったそうです」
平和的な解決だったらしく、複数の王子がいる際はその継承戦を行うこととなったらしい。ここ数代は王子は一人であったため、起こらなかったらしいけど。
「……わざわざ五人でする意味とは」
「ほんと、それだよねー」
王妃の子を王位につけたかったからだとしてもナチョまでの三人で事足りたはずだし、と言えば、ナチョも僕もそう思うと頷く。そして、王位継承戦はどうにも辞退が認められていないらしい。だから、間違いなくナチョが必要になるということで。
「なんか、王家を敬う気がなくなってくるんだけど」
「いいんじゃない?」
ケラケラと笑ったナチョに貴方の両親でしょと目を向けたけど、生みの親というだけだよと苦笑いを返された。あぁ、そうなんだ。ナチョは捨てたのか。
「僕の家族はリタたちだよ」
そう言って、柔らかく笑ったナチョに私は何も返すことはできなかった。ただ、ぎゅっと手を握るだけ。それだけだった。
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