契約している精霊は秘密が多すぎる気がする、いや、それは私もか
倒れるウリセスさんに私は驚きつつ、風魔法で頭を守る。どの世界であろうと人の形をしていて、同じ構造ならば、守らなければいけないところでしょう。そして、手に持っていたヒリンをナチョへと投げる。
「ナチョ、パス!」
『きゅあ~ん』
弧を描くヒリン。
「え、ちょ、まっ」
『きゅっ』
驚きつつもうまいことキャッチしてくれたナチョ。それを確認し、私はウリセスさんに駆け寄る。顔を見れば、少々疲労の色が出ている。疲労のところにヒリンを見て驚いて倒れたと言うところなのだろうか。
「“鑑定”」
ウリセスさんの上に彼のステータスが表示される。そこには状態異常として疲労と混乱、気絶の文字。疲労と気絶はわかるけど、混乱とは??
「父さん!!」
「なーん?」
何かあった時のためにと薬を用意するため工房に籠っている父を呼べば、緩い返事。まぁ、緊急を要することもないだろうと思ってのものだろうけど。
「気付け薬と回復薬持ってきて!」
「なに、いや、わかった!」
少しばかり戸惑った声が返ってきたけど、すぐに了解の声。気付け薬は臭いが中々なものだから普段は店の奥に置いてあるんだよね。なので、それで意識を戻すことはできるだろう。嗅がせるの抵抗あるけど。疲労と混乱に関しては回復薬でいけるはず。ただ、混乱は原因がわからないから、再度混乱状態になってしまうかも。まぁ、そこはウリセスさんの状況を見ながらかな。
「リタ、持ってきたぞって神父様!? どうされたんだ!?」
薬を持ってきた父は転がったウリセスさんに驚く。そりゃそうだよね。とりあえず、父には突然意識を失ってしまったこと、薬の注文に来たようだったから、一度教会を覗いてみた方が確かかもと伝える。
「確かに、教会の方がバタバタ騒がしかったな。わかった、ちょっと覗いてくるから、神父様を頼んだぞ」
「はーい」
そうして、父は教会の方に向かい、すぐに馬車の事故で怪我人が多いと原因を突き止めてきた。とりあえずは自分が応急処置をしてくると言う父にそちらはお願いし、私はウリセスさんに気付け薬を使用する。ナチョとヒリンには少し離れててもらう。いや、好んで嗅ぐものじゃないし。
気付け薬の瓶の蓋を少し開け、臭いを嗅げるように鼻の下で揺らす。
「うっ」
声が上がったところで、キュッと蓋を閉める。長い時間嗅ぐものじゃない。
「……こ、ここは」
「ウリセスさん、大丈夫? うちの薬屋だよ」
「しまった、怪我人!?」
「あぁ、そこは父さんに行ってもらってるから安心して。とりあえず、こっちの回復薬を飲んでもらっていい」
「え、あ、どうも」
気付け薬の代わりに回復薬を渡すと状況がいまいちなウリセスさんは素直に受け取り、コクコクと飲む。そうしていると、気を失う前のことがはっきりしたのだろう、私の肩をガッと掴み何か言いたげに口をぱくぱくとさせる。
「ウリセスさん、私逃げないんで、落ち着きましょう。んで、先にやらなければならないことをやろう」
「え、あ、そ、そうですね。後で覚悟しておいてください!」
おかしいな。覚悟しておいてくれとはどう言うことだろうか。バタバタと出ていったウリセスさんを見送ってそんなことを思う。
「にしても、馬車事故かぁ、みんな無事だといいね」
「そうだね」
私が行って回復魔法を使うのが早いのだろうけど、あんまり目立ちたくない。それに父やウリセスさんみたいな優秀な人がいるのだから、きっと大丈夫なはず。
『祈っておけば良い』
コウガがなにを思ったかそんなことを言う。まぁ、祈るくらいなら、魔法でもないし、大丈夫か。そっと心の内で無事を祈っておいた。
『聖人聖女の癒しというのは本来はこういうものだ』
何か言っていたけれど、それは私の耳までは届かなかった。
数日後、馬車事故の怪我人たちは無事に完治し、村を去っていった。重傷者もいたらしいのだが、その人も他の軽傷者たちと共に完治し帰っていった。むしろ、前よりも丈夫になったかもしれないとは彼らの言葉だ。
「後遺症が残るのではというほどの重傷だったんですが」
「「ふーん」」
もう当たり前になってしまったのだけど教会の一室で私とナチョはウリセスさんからミルクを出される。これはもうお話会の合図だよね。そして、話題は馬車事故のこと。まぁ、確かに重傷者が軽傷者と同じ期間で完治して帰っていくのはおかしいよね。わかるよ。わかるけど、それを私たちに言われても困るというもので。
「何かしましたか?」
「いや、してないよ。やらないからね」
「そうですか。てっきり、アデリタさんが何かしたのかと」
心当たりとかありませんかというけど、ないよ。魔法は使ってないし、私は心の中で祈っただけ。それだけだから。
「まぁ、いいでしょう。それよりも、重要なことです」
真剣な顔をするウリセスさんにこれ以上に重要なことと私とナチョ、ついてきたヒリンが首を傾げる。
「ここ数日、ふわふわ、うろうろされているのを拝見してるのを確認し、現実なのだなとはっきりしました」
「ウリセスさん、結論を」
「……貴女は、またそういう。えぇ、そうですね、そうでしょうね」
前置きが長いといえば、大きな溜息を吐かれる。ひどくない? だって何が現実なのかこちらとてわかっていないのに長々と言われたところでしょうがないじゃん。
「なぜ、神殿に居られるはずの光の精霊様がこちらにいらっしゃるのでしょう!? そして、なぜ、そのように縮まれてるのでしょう!」
光の精霊様? うん、もしかして、ヒリンのことか? 私と同じことを思ったらしいナチョの視線もヒリンへと向かう。ただ、本人(?)はよくわかっていないらしい首を傾げている。
「そっか、ウリセスさん、光の適性持ってるから、ヒリンのこと見えるのか。いや、でも、光の精霊様って何? 神殿にいるはずってどういうこと??」
「アデリタさんはこの国の成り立ちの本も読まれてますよね」
「うん、まぁ、読んだね。初代国王が国を作ったってお話しでしょ?」
「えぇ、そうです。そして、その国王に付き従ったというのがそちらの光の精霊様なのです」
へぇ、そうなんだと頷くも、コウガからはなんだその話は嘘っぱちではないかと声が飛んでくる。大体建国の話とかそういうものなんだよ。まぁ、それはともかく、そんな光の精霊様がなぜ神殿にと首を傾げれば、ウリセスさんが滔々と説明してくれる。
国王の願いで国守りため、光の精霊様は神殿に座し、祝福を送ってくれているのだとか。
本当にと思ってヒリンを見たけど、ヒリンはブンブンと心当たりがありませんとばかりに首を振る。コウガもそうであろうなと同意している。
『きゅきゅきゅきゃ』
「なんて?」
声を上げるヒリンにウリセスさんが思わず、そう私に聞く。なぜ、私に聞く。私もわかんないよ。
『約束も守れるのになぜ、こちらが守らねばならないのだだと。まぁ、当然であるな』
「へぇ」
「アデリタさん」
「あ、はい」
ヒリンの通訳をコウガにしてもらい、コウガの言葉をナチョとウリセスさんに伝える。それにしても、ヒリンは精霊だったのか。あれ、こちらで体を維持できるってことはそれなりの高位な精霊ってことだよね。うん? もしかして、コウガも? そんな二人と契約している私とは?? よし、考えるのはやめておこう。
とりあえず、ヒリンとコウガの話を要約すると光の精霊は聖域化された場所でしか生活できない。そのため、神殿を生活の拠点地としていた。その上で、聖水を捧げることによって、怪我の治療や穢れ落とし、呪いの除去などの手助けをしてあげていたらしい。win-winの関係で成り立っていたと。そして、ヒリンは二代目であるということ。かつてから座していた光の精霊様は穢れによって弱り、精霊界に還ったのだろうとはコウガ。
「え、今の神殿はそんなにも酷いのですか?」
「そうみたい。下手したらヒリンも還っていた可能性もあるって」
頭を抱えるウリセスさん。まぁ、神殿の内部が腐っていたことは認めるという。ただ、穢れというのが光の精霊様に影響があるというのは知らなかったらしい。
「まぁ、なんでも、この世界は常に穢れがあるのが当然みたいで、本来は神殿や教会が簡易的な聖域の役割を果たさなければならないそう」
そもそもの話、穢れというのは妬みや僻みなど人間の負の感情だとか。そう考えるとどこにでも穢れがあるのは当然とも言える。それから、こちらに来れる精霊は力を持ったものが多く、多少の穢れなら行動に問題はない。けれど、光の精霊だけはかなりデリケートで穢れによって力が弱まってしまうのだとか。最終的に精霊界に還らざるを得なくなってしまったのはそれだけ穢れがひどくなったということなのだろう。
ちなみに妖精もいるのだけど、妖精はこの世界で生まれた精霊のようなものらしい。なので、こちらは穢れに対して耐性はあるけれど、精霊に比べて遥かに力は弱いらしい。
「あー、どうも穢れが一定の箇所に溜まりすぎると呪い溜まりとかもできるらしい。まぁ、人間の負の感情からだからねぇ、そうなるか」
光の精霊様がいたおかげで、少しはそれが抑えられていたらしい。けれど、現在いるのはヒリン。まだまだ幼い精霊らしく、そこまでの力は持ち合わせてないのだとか。なので、近々そういうのができる可能性もあるらしい。
「待ってください、本当に待ってください。アデリタさんからの情報に混乱しそうです」
「まぁ、わかる。私も驚き情報ばっかで、どうしようってなってるもん」
「とりあえず、注意に超したことはないかな。ちなみに、リタ、王城とか王宮ってどんな感じ?」
「うん、すごい、いい笑顔をされたよ」
「そっか、そんなに酷いんだね。わかったよ」
「うん? 光の精霊様の他にもいるのですか?」
そうか、ウリセスさんには言ってなかったか。まぁ、言っておいた方がいいかなということでウリセスさんにもう一体精霊がいると伝える。名前は伝えるなと言われたので言わない。人間に呼ばれたくないのだとか。待て、じゃあ、私はなんなんだ。
「私にもヒリンの言葉はわからないのでそのもう一体の方が解説してくれてる」
「そう、ですか」
ほんと、アデリタさんはなんなんですかと頭を抱えるウリセスさん。なんなんですかと言われても、私は私ですとしか言いようがないので、困ったものです。
「聞いていて思ったのですが、光の精霊様はここにいても大丈夫のですか? どこにでも穢れがあるのであればここも危ないと思うのですが」
「えー、いや、なんでさ!?」
ウリセスさんの問いに対しての答えを聞いて私はバンと机を叩いた。驚く二人に申し訳なくも思いつつ、しょうがないじゃんと言いたくもなる。
「リタ、なにか問題でもあった?」
「問題? 問題といえば問題かもしれない」
ごくり、そう喉を鳴らしたのは誰だったか。気にすることなく、私は口にする。
「当村、もれなく簡易聖域化されてるそうです」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます(*´ω`*)




