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空っぽ空っぽ空っぽ空っぽ、水がない

 お蚕様が我が家に誕生して数十日。なんか、ヤバい子だろうかとカンデ姉さんやウリセスさんのところに連れて行ってみたけど、特に異常なし。突然変異ということで終わった。勿論、私は疑われまして、良くないものをあげたのではないかとカンデ姉さんのひーるで少し実験が行われた。とは言っても、うちの畑で取れるサンユウの葉をあげてみただけである。うん、お蚕様のように急激な成長はしなかった。ただ、通常のひーると違うところがあったとしたら、出来る糸が数段上質なものになったぐらい。まぁ、そこはカンデ姉さんがどうにかするところなので、私はノータッチ。ちなみにウリセスさんからは「それは光魔法の化身か何かですか」なんて評価だ。まぁ、輝いてるもんね。わかるよ。繭からとった糸もだいぶ光り輝いてたし。そういえば、コウガは繭を作る時の糸を体に擦り付けて、どっかに行ったけど、アレは何だったんだろう。本人(?)はただの気晴らしだとか言ってたけど。


「……留守番でもいいと思うんだけど」

「行きたいっていうんだもん。しょうがないよ」


 背負い籠を用意するといそいそとその中に入るお蚕様。入ったら連れてってくれるってわかってるんだよ。賢いよね。

 そんなこというとナチョはすっごく呆れ顔をするんだけど、なんでだろう。別に親バカじゃないと思うんだけど。


「よーいしょっと」


 気合を入れて背負う。まぁ、声だけなんですけど。ナチョが何だかんだ手伝ってくれるので別に背負う時に力はいらなかったりするのだ。流石にさ、自分の身長の半分くらいの大きさは重い。重量があるわけですよ。


「ほら、そんなこと言うんだから」

「でも、ナチョが手伝ってくれるし」

「……そんなこと言うなんてズルい」


 後ろから籠を支えてくれるナチョ。ちょっと頼りっぱなしで良くないかなとは思うけど、素直に思ったことを言えば、ズルいと言って口を尖らせる。なぜだ。いや、確かに楽をしようとしてるからズルいのはあってるかも知れないけど。


「それで、今日は畑に行った後の予定は?」

「まぁ、普通に店番かな。父さん、忙しいし、母さんは産婆さんとこだから」

「それもそうだね。じゃあ、さっさと行って、済ませようか」

「だねー」


 ここ最近はもっぱら店番は私とナチョの仕事になった。母はしばらく産婆さんところに厄介になるらしい。まぁ、だいぶ、お腹大きくなってたし。けど、何ていうの二人分って考えたら、当然かなとも思ったよ。あ、はい、双子ちゃんだよ。お腹にいるの。びっくりだよねー。私も最初に見た時びっくりした。熱病になりかけたってこともあって隙を見ては確認してたので、そのせいでいち早く妊娠を知ってしまったわけです。ごめんよ、父。まぁ、それとなく産婆さんに誘導して一番に知ったのは父みたいな体は作りましたとも。えぇ、作りましたとも。ナチョには全く君って言う人は的な目で見られたけど。

 籠を担いで、畑までの細道をえっちらおっちら。足腰にはいい運動になるよね。そうして、到着した畑。


「お蚕様、水やりの間だけ自由時間だよー。遠くまで行かないようにね」

「……」


 籠を下ろし、横たえるともそもそと出てくるお蚕様。そんなお蚕様に声をかければパタパタと羽を動かして返事する。ほんと、お利口さんだ。

 さて、お蚕様はあれでいいとして、水やり水やりと。


「リタ、水が空っぽなんだけど」

「え? そんな馬鹿な。だって、昨日とかもちゃんと補充したよね、私」

「うん、してたけど、空っぽだよ」


 風で水が巻き上がらないとナチョ。魔法の訓練にいいからとナチョも手伝ってくれるようになってた水やりだが、今日はどうにもおかしいらしい。瓶が劣化して水が染み出してしまったのか。私は土の中に埋めた瓶を覗いた。空っぽ。空っぽ。空っぽ。空っぽ。空っぽだけどなんかいる!!

 いや、え、なに、アレ。なんかいたよ。すよすよと眠ってたよ。

 バッと顔を上げた私にナチョはキョトンとしている。けれど、そんなナチョを見る余裕はなく、私はもう一度瓶の中を覗く。やっぱりいるよね。


「ナチョ、ごめん、あの子取れる?」

「? あの子?」


 流石に私の手じゃ、瓶の底まで届かない。ナチョでも厳しいかな。


「えっと、リタ、アレは、なに?」

「何だろうねぇ。とりあえず、取れそうかな」


 私と同じように覗き込んで、バッと顔を上げるナチョ。困惑した様子の彼だけど、私の質問に腕を伸ばしてみる。


「んー、あと、ちょっとな気がするけど」


 腕を伸ばしてみるけど、どうにもこうにもこのままやったら落ちそうだと言うナチョ。そっか、無理か。一度、瓶を引っ張り出すのが良さそうだな。ナチョには退いてもらって、土魔法を使って、瓶を地中から取り出す。横にすれば、私が潜って入っても問題ない。


「なんか、コウガに似てる気もしなくもない」

『似ておらん。似ておらぬからな!』

「いたよ、コウガいたよ」


 ここらへんが似てるなって声に出てたようで速攻で否定が飛んできた。そんなに否定しなくてもいいじゃんと思わなくもないけど、とりあえずは瓶から出るのを優先させた。


「ちっさい、龍、かな」

「だね、とりあえず、この子はこっちにおいて瓶を戻そう」


 草を集めてベッドにしたところにその子――白い龍を置くと再び魔法を使って瓶を地中に戻す。そして、空っぽになった瓶の中に水もとい聖水を作っていく。


「リタ、待って、水飲んでる。水飲んでる」


 焦った声に振り向けば、入れたところの瓶に顔を突っ込んでる龍。ガブガブ飲んでいるようで水が見る見るうちに無くなってる。そっと、補充するもその分飲む。


『腹壊すぞ』

「だよね、あんなに一気飲みしたらそうなるよね」

『きゅえ』


 そう言うが早いか、龍が横に倒れた。うん、お腹が痛くなったようでお腹を仕切りに摩っている。


『阿呆だ、阿呆がおる』


 ゲラゲラと笑うコウガ。アレなのか、黒龍と白龍とで仲が悪いのかい?


「リタ、この子、大丈夫なのかい?」

「多分、飲み過ぎじゃないかな」


 アレだけ一気に飲んでたんだもん。そりゃあ、お腹にくるでしょう。大丈夫だよと一緒に摩ってやるとようやく私たちの存在に気付いたのだろう、龍は目をパチクリとする。


『きゃう』

「きゃう?」

『きゅきゅあ』

「きゅきゅあ?」


 白い龍の鳴き声を真似しただけだが、なぜがすごく喜ばれた。ウキウキとスキップをするように私の周りを跳ね回る。コウガがすごく呆れた目をしてるよ。


「意識しなかったら、見えなくなるから妖精の一種かな」

「まぁ、そんなところじゃないかな」

『きゅ〜』


 めっちゃ、私に甘えてくるんだけどこの子。手にすりすり。体にすりすり。ナチョには一切近づかない。あれか、光魔法が強すぎるせいなのか。ナチョは現在修練中だから、それほどでもないみたいだし。


『……絶対に嫌なのだが』

『きゅきゅきゅきゅきゃう』

『知らぬ。自分でどうにかせよ。俺様に頼るでない』

『きゅんきゅあん』

『知らぬと言っておるだろうが! アレはどうした。まさか、貴様に引き継ぎをせず還ったのか』


 有り得んだろう。いや、アレのことだ有り得るかと頭を抱えるコウガ。どうやら、白い龍が言ってることがわかるみたいだけど、仲介はしたくないっぽいみたいな。


『きゃうん』

『却下だ。アデリタは俺様のだ、ならぬ』

『ぎゃわわわわ』

「え、なに、なんか、機嫌悪くなってない?」


 大丈夫と不安そうなナチョ。そりゃそうだよね。片方見えてないもん。勝手に虚空に向かって吠えて、威嚇し始めてんだもん、そうなるよね。ナチョには大丈夫とは伝えたが、さてこの状況どうするか。


『くっ、致し方があるまい。アデリタ』

「あい?」

『コレと契約せよ。コレに名を与えよ。うるさくて敵わぬ』

『きゅん』

『可愛子ぶりおって』


 あー、忌々しいというコウガ。いや、そんなに忌々しいのであれば、無視すればいいじゃないか。いや、無視出来ないのか。何だかんだ、優しいから。


「リタ、どうしたの?」

「あー、いや、なんでもないけど、この子は連れて帰ろうかなって」

「まぁ、普通の人には見えないだろうから、大丈夫だとは思うけど」

「とりあえず、名前どうしようかなって」

『きゅきゅきゅあ』

「すごい、つけてもらいたがってるね」


 早く名前とばかりに甘える龍。俺様はもう知らぬとコウガはナチョの影に沈む。逃げたよ、あの子。まぁ、何かあったら出て来てくれるだろうけどさ。


「うーん、どうしようかな」


 腕を組み考える。いっそのこと、コウガと逆っぽいからそれっぽい名前でいいかな。流石にシロとかだったら怒られそうだし。


「……ヒリン」


 ポツリと呟くと一層のこと龍は鳴き、龍から光の球が私に飛んできた。そして、吸い込まれる。


「え、なに? リタ、大丈夫? 体なんともない??」

「あー、うん、大丈夫だよ。ただ、契約が完了しただけだし」

「リタ?」

「にゃむ!? ナチョ、顔怖いんだけど、なに!?」

「契約とかどういうことか説明してくれるよね。どうも、初めてじゃないみたいだし?」

「あぅう」


 じとりと私を見るナチョ。これは誤魔化されてはくれない感じだね。誤魔化されて欲しいなぁ。


「リタ」

「あい」


 王子様の圧力ってこう屈伏したくなるものがあるよね。ええ、勿論、ゲロりましたとも。まぁ、コウガの名前とコウガをナチョの傍に潜ませてるのは言わなかったけどね!


「リタからは目を離しちゃいけない気がする。いや、離しでなくてもこうだから、どうしようもないのか??」


 なにか自問自答してるみたいだけど、私は知らないことにする。

 とりあえず、一段落もしたし、作業だけは終わらせてしまおう。時間がかかりすぎると父に心配をかけてしまうからね。

 瓶の中に聖水を作って、風魔法でばら撒く。ちょいちょいヒリンの妨害もあったけど、なんとか終了。


「こら、ヒリン、そこのお水は飲んじゃだめ。家に帰ったら作ってあげるから」


 さっきはお腹いっぱいになりすぎてイタイイタイしてたっていうのに。瓶の水を何度も飲もうとする。流石に入れ直した水を飲まれるのはしんどい。


「よし、じゃあ、これあげるから、大人しくしてくれない?」


 ペカーと光る水の玉を作り出すと『きゅわわわ』と大興奮。なんとなくで作っただけだから、すごく喜ばれることに罪悪感を覚えるんだが。ただ、あまりの眩しさにナチョは目をキュッとさせてる。可愛い。


「大人しくしてくれないとあげないからね」

『きゃう!』


 なんとなーく大丈夫かなとそれをあげれば、ぺろりと食べてしまうヒリン。ゆっくり味わうとかすればいいのに。ガクッと肩を落としているとすぴすぴと寝息が聞こえてくる。まさかと思ってみれば、気持ちよさげに寝てたよ。全くしょうがないな。

「よいしょっと」

 籠の中にサンユウを敷き詰め、その上にヒリンを寝かせる。遊びから帰ってきたお蚕様は興味深げに触覚を動かすも特にどうのこうのすることなく、籠に入った。うん、喧嘩しなくてよかったよ。


「帰りは僕が背負うよ」


 そう言って、さっさと籠を背負うナチョ。


「え、罪に問われない?」

「問われないよ。もう、何いってんだか」


 クスクスと笑うナチョにいやいや分かってないなと私。だってナチョだよ。ナチョに籠を背負わせるなんて罪だよ。罪なんだよ、私の中では。


「じゃあ、リタに背負わせたら僕の罪だね」

「えー、なに、それ」


 だってそうでしょと笑うナチョに、もうそれ言ったら堂々巡りじゃんと口を尖らせる。けれど、ナチョは笑うだけ。笑って私の手を握る。


「魔法をいっぱい使って疲れてるリタに無理はさせられないよ」

「そんなに疲れてないよ」

「それでも、だーめ。ほんと、リタは規格外すぎるんだから」


 しんどいなっては思うよ。思うけど、規格外はないんじゃないかな。

 手を繋いであーだこーだと言葉を交わしながら細道を帰る。途中、教会を覗くと少々ばかし忙しそうだった。


「薬の在庫とか見といたほうがいいかも」

「そうだね、ラモンさんに伝えておこう」


 もしかしたら、急患かもしれない、急いで家に戻ると色んなパターンを想定して父に薬の準備をお願いした。

 聖水の備蓄はあるのだろうか。作っておいたほうがいいのかなと店番がてら作ってると起きたヒリンがはしゃぎだす。


「こら、ヒリン、だめ」

「失礼します、少々ばかり薬を――」


 ヒリンを抱きかかえ、制止させているとカランカランとベルがなってウリセスさんがご来店。薬の注文であろうけれど、その言葉は途切れた。目線は私、いやヒリンに向いている。


「……ふっ」


 そう息を吐くとウリセスさんはスーッと倒れた。


「なにがどうしたの!?」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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