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不思議で温かな家族★

 目が覚めた後はウリセスに案内され、小さな部屋でホットミルクをもらっていた。そこで、この村のことなど色々と話を聞き、僕は僕がどうして連れてこられたのかと話した。

 元近衛騎士ウリセスの話ではここは国境近くの小さな村だそうだ。そして、彼は怪我が理由で王宮をさり、教会に入り、ここに配属されたそうだ。何か深い事情もありそうだったけど、彼の顔は尋ねてくれるなと言っているようだった。


「もう、驚きました。教会の窓が黒い靄に割られたかと思うと、私を誘うようにあの屋敷に逃げるのですから」


 そこで貴方を見つけた時はさらに驚きましたがと苦笑いを零しながらそういう。けれど、黒い靄がなぜそんなことをしたのだろうか。僕を殺そうとしたものとまた別のものなのだろうか。今はそんな気配がないというウリセスに僕は答えを出すことはできなかった。


「あ、あの女の子は」

「あぁ、アデリタさんですね。恐らく魔力枯渇でしょう。日々努力をされているとはいえ、元々魔力量も微々たるものですから」

「え、微々たるものって」


 いや、そんなことはないはずだ。だって、あの水球の大きさも然り、その後にも温風だとか魔法を使っていた。それが微々たる量でできるはずがない。


「間違いありませんよ。なんせ、私が彼女の魔力判定の儀を行いましたので」


 どういうことだろうか。僕が見たアデリタという女の子とウリセスが見たアデリタという女の子は違うのだろうか。同一人物なのにそんなことが起こりうるのだろうか。


「……!」


 遠くで騒ぐ声が聞こえた。ウリセスはどうやらアデリタさんが目覚めたようですねと告げる。話を聞きたいからとウリセスが席を立ち、僕もお礼を言いたいからと言ってついていく。

 結論で言うとアデリタという女の子は僕の言う子とウリセスが言う子は同一人物だった。ただ、拙い喋り方をする彼女を見て僕は首を傾げる。だって、あの時はもっとはっきりと大人のように話していたし、考察していた。それが、なんか子供っぽい。いや、年相応の喋り方なのだろうけど、僕には違和感しかなかった。

 そして、そこで僕は僕の中にあった普通と常識をボロボロに壊されることになった。だってそうだろう。今まで呪いはうつるから危険だ。近寄ってはいけない。触れたくない。気持ち悪いと言われ続けたのに、何それとばかりに彼女たちはあっさりと否定したのだ。呪いが怖くて薬屋ができるものかと。ウリセスは僕の状況を知っていたから、彼女たちの言葉に笑いが止まらないようだった。


「えぇ、そうですね、そうですとも、呪いが怖くて騎士も神父もできませんとも」


 そう笑いながら呟いていた。


「アデリタさんたちはどのくらい殿下について知っておられますか?」


 メディシナ一家は笑いを収めたウリセスの言葉に揃って首を傾げ、首を振った。それは全く知らないということだった。よろしいですかとウリセスに確認され、僕は頷く。きっと知ったら、いつも通りに離れていくだろう。ここにきた時の状況は伏せ、ただ療養のためにきたということとそれまでのことやがウリセスの口から語られる。


「ーーーーというわけです。ご理解いただけましたか」

「ふぅん、だからどうしたの?」


 にこりと話し終えたウリセスにアデリタは気のない返事をして首を傾げる。だから、どうした。どういうこと?


「いままで、でんかからはなれていったひとたちはのろいがこわかったんでしょ。それだけよ。それをきいたから、わたしがはなれていくりゆうになるの?」


 なんで? どうして? と首を傾げるアデリタ。その表情は心底不思議といったもの。


「でんかのまわりにはそういうひとたちしかいなかった、それだけでしょう」


 たったそれだけのことだよとアデリタは言う。それにせっかく療養に来たんだったら、目一杯遊べばいいと思うよとアデリタは笑う。けれど、ふと何かに気づいたのか眉が下がる。


「もしかして、あのいえからでちゃダメなの?」

「そんなことはありませんよ。むしろ、村の中で過ごして貰えた方が何かといいかと」

「そっか、よかった。きれいなところいっぱいあるからきっとたのしめるとおもうよ」


 えっと、あそこにどこどこにと彼女は嬉しそうに言いながら指折り数える。それから、またアデリタは眠たくなったのかベッドにパタンと倒れると寝息を立て始めた。恐らく、疲れたのだろうという彼女の母イネスさんはそう言った。


「それで、殿下は村外れの屋敷に住まれるのですか?」

「いえ、あそこでは何かあってもいけませんので、できれば村の中でと私は考えておりますが」


 ちらりと僕をみるウリセス。確かにあそこだと何かあった際に急には来れないな。妥当なところだと村長の家に世話になるか、ウリセスのところにいるのがいいと思うのだけど。


「村長さんのところは息子さんが三人もいるから大変でしょう」

「そうですね。さらに殿下となれば、顔が真っ青になりそうですね」


 それに子供たちが外から来た殿下を受け入れれるかどうかと苦笑いを零す。悪い子たちではないけれど、殿下の心にずかずかと踏み込まれるのは困るとウリセスは告げる。え、そんなに結構ずかずかと来るの。呪われやすいのだから、そんなにこないと思うけれど。あぁ、でも、親との関係とかそういう聞かれたくないことを聞かれるのは嫌だな。


「うーん、しかし他の家は殿下を養えるほどの余裕はないですよ」

「むしろ、殿下であると知られると萎縮されるでしょうね」

「いっそのこと言わない。あー、いや、でも、ポロリと零れればすぐに広まりますね」

「えぇ、小さな村ですからね。むしろ、知っておいてもらったほうが皆で注意しあえる可能性はあります」


 アデリタの父であるラモンさんはぽんぽんとウリセスと会話を交わす。教会はどうですかとラモンさんの口から出たけれど、ウリセスは他の集落などにいくことがあるのでその際は殿下を一人にしてしまうと首を振った。


「じゃあ、うちでいいじゃない」

「イネス?」


 パンと手を打って提案してきたのはイネスさん。アデリタの家に? ラモンさんは困惑しているようで首を傾げている。


「だってそうじゃない。村長さんの家も厳しそう。他の家だとなおのこと無理。教会も神父様は常に教会にいるわけではないから厳しい。ともすれば、我が家以外にどこかある?」

「いや、まぁ、確かにそうだが」

「ただ、条件としては殿下にもしっかりお手伝いなりなんなりしてもらうってところだけど」

「いやいや、流石にそれは」

「僕は構わない。殆ど、邪魔する程度にしかならないだろうけど、やらせてもらえるのならば」


 こてんと首を傾げたイネスさんにラモンさんは流石に無理だと首を振る。けれど、そこに僕は口を出させてもらった。確かに王宮暮らしだし、本当なら人に世話をしてもらっていた立場だろう。けれど、呪われてからは殆ど自分のことは自分でやってきた。それに、呪われる僕を受け入れてくれる人たちはどれくらいいるだろうか。


「一応、乳母からは自分のことは自分でできるように教えてもらっているし、兄や弟のように人に世話をされなければならないほどではないと思う」

「あら、そう? ほら、あなた、大丈夫だって」

「いや、しかしだな、うちには女の子とがいるだろう」

「いるからどうしたのよ。むしろ、リタは殿下のこと気に入ってるみたいだったけど」

「……むしろ、それが嫌なんだが」

「あら、まぁ、もう!」


 ボソリと呟かれた言葉に理由がわかったイネスさんは笑いながらバンバンとラモンさんの背を叩く。痛そうだ。そして、僕は理由を理解できてないとわかったのだろうウリセスがこそっと男親ならではの心情ですよと教えてくれた。そう言うものなのか。


「では、ラモンさんのお宅で殿下を預かっていただく形でよろしいでしょうか」

「まぁ、はい、そうですね。部屋も余ってますし、何より神父様の目の届く場所ですし」

「ウリセスの目が届くところ?」

「この教会のお隣の薬屋がラモンさんのご自宅兼薬屋なんですよ」


 よかったよかったとウリセスは言うけれど、村長を呼ぶことなく、この場で決めてしまっていると言うことは最初からそのつもりだった気がする。


「それじゃあ、殿下はこれからうちの子ね」

「いやいやいや、イネス!?」

「だって、うちで暮らすんだもの、いいじゃない。あ、でも、殿下じゃ、他人行儀ね」

「待ちなさい、それはどうなんだ。流石に」

「えっと、好きに呼んでもらえたら」

「あら、そう、いい子ね。じゃあ、どうしましょう」


 いい子、そんな風に言ってもらえたのなんてあっただろうか。どこか恥ずかしくて俯いているとちょっと失礼するわねとぎゅっと温かなものに包まれた。


「ちょっと痩せすぎね。うちに来たら、大したものは出せないけどいっぱい食べてちょうだい」


 温かいものはイネスさんだった。イネスさんは僕を抱きしめながら、その頭を撫で、そう言う。今まで言ってもらったこのない言葉にしてもらったことのない行動に目頭が熱くなって、ポロポロと涙が溢れる。


「いい子、あなたはとてもいい子よ。でも、我慢しすぎよ。これからは年相応に遊びなさい。それが今あなたの仕事よ」


 漏れる嗚咽に僕の涙で濡れる服。イネスさんは気にした様子もなく、トントンと優しく僕の背を叩いてくれていた。その後ろで一つ大きな溜息が聞こえ、びくりとなるけれど、それは杞憂だった。


「はぁ、しょうがないな。イネス、俺は先に戻って部屋を準備してくるよ」

「えぇ、お願いね。あ、ついでにリタも連れて帰っててちょうだい」

「あぁ、そうだな」


 ラモンさんはそう言ってアデリタを抱えて、隣の家に帰っていった。僕はいまだに涙が止まらなくて、イネスさんから離れられなかった。


「イネスさん、どうか殿下をよろしくお願いします」

「えぇ、でも、多分だけど、面倒を見ようとするのは私じゃなくてきっとリタよ」

「あぁ、確かにそうかもしれませんね」


 泣き疲れたせいなのか、ウトウトとした僕の耳にはそんなイネスさんとウリセスの会話が聞こえた。

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