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おぉ、勇者よ死んでしまうとはほにゃららら

 目を覚ますと見知らぬ天井がそこにあった。うん、どこだろう、ここ。


「ああ、リタ、起きたのね!」

「目が覚めてよかった。うん、具合も問題なさそうだな」


 キョロキョロしてたら傍にいた母と父と目があった。よいしょと起き上がった私を母は抱き締め、父は頭を撫でる。えっと、なにがどうなってこうなった!?

 覚えてる直前のことだとコウガに光魔法をぶん投げたくらいかな。多分、魔力切れでぶっ倒れたんだと思うんだけど。あの子が起きて、人を呼んでくれたのかな?


「ホントによかったわ。リタが起きなかったら、殿下を恨んでたでしょうね」

「でんか?」


 なんで、殿下を恨むことになるんだろう。あそこにいたのは少年一人だし。ん? もしかして、あの少年が殿下?? いや、でも、殿下だとしたら、何であんなところに一人で閉じ込められてたのさ。影とか騎士とか配置してるだろうし、あんな汚いところに放置なんてしないでしょ。


「イネス、言葉が」

「だって、殿下が助かってもうちの子が死んだりしたら、嫌よ」


 いや、そうだけどと口ごもる父。うん、母達の後ろに綺麗な金髪が見えた。多分、そういうことだろう。


「イネスさん、お気持ちは分かりますが殿下の御前です」


 神父様の声が聞こえる。そして、そんな神父様の言葉に母は目を伏せた。


「ウリセス、構わない」


 声変わりの前の子供独特の高い声が神父様を止める。神父様、ウリセスって名前なんだ。あ、今、関係ないか。

 母達の体を避けて、覗き見るとそこにはギウ君がいた。あ、違う。ギウ君に似た金髪で紅い目の少年がいた。殿下って言ってたし、攻略対象の王子様の一人だね。うん、攻略対象とあって、顔がいい。


「!」


 おぅ、目があってしまった。気のせいかもしれないけど。


「助けてくれてありがとう。一時的とはいえ、こんなに楽になったのは初めてだ」

「どいたまして」


 気のせいじゃなかったし、自分に声をかけてくれたし、思わず母と父の服をギュッと握ってしまった。


「僕はイグナシオ・イバルラと言う」


 怖がられたと思ったのか、少年――イグナシオ殿下は自己紹介をしてくれた。そうか、一目惚れの君はそんな名前だったのね。名前まで知らなくてごめんよ。


「僕が呪われてたせいで君には迷惑をかけた」

「……殿下、それは違います。貴方にそんな瑕疵はなかったではありませんか」

「それでも呪われてたのは僕だ」


 窘める神父様にイグナシオ殿下は首を振って否定する。


「それ、おかしいよ」


 思わず言葉を出すと神父様も殿下も驚いたように私を見る。


「でんかにはかしがなかったのでしょう? じゃあ、のろったひとがわるいよ。で、わたしがこうなったのはわたしのせきにんだよ?」


 子供らしくないかもしれないけど、精一杯子供っぽい口調にして伝える。母や父もよもやそんな考えをするとは思ってなかったみたいで驚いたような空気を感じた。


「ありがとう。でも、呪いは移ることもあるから」

「のろいがこわくてはくすりやのむすめなんてやってられないよ」

「え」


 私の言葉に殿下はきょとんとする。ああ、その顔、子供らしくてすごく好きだな。可愛いわ。


「確かに呪いが怖くては薬屋は出来ないな」

「へ?」

「んぶっ」


 うんうんと父が頷けば、殿下は意味がわからないとばかりに声を出し、その隣で神父様が吹き出しかけてた。神父様、何がおかしいのよ。


「あ、あの、呪いは病とかとは違うんだよ」

「まあ、普通だとそうなんでしょうが、うちでは神父様のご協力で呪い避けや呪いの緩和剤を作ってたりするもんで」


 認識の違いに慌てる殿下。でも、父は頭をぽりぽりと掻きながらそう説明する。そうなのだ、我が家は薬屋と言いつつそんな呪いに対処できるようなものも作ってしまっているのだ。まぁ、お隣が教会であったとことも大いにあるだろうけど、国境も近いということもあってよく呪いを持った人が来たりすることがこれまでにもあったらしい。だからこそ、少しでも苦しんでいる人を助けたいという思いを抱いた先祖様から代々作ってたり研究してたりする。効く保証はないのだけど、気の持ちようはだいぶ変わるみたい。まぁ、効かないと怒る人もいたらしいけど、その人たちは大体自業自得だったとか。


「そうね、そうだったわね」


 私を抱きしめていた母はそんな言葉を零す。どういう意味だろう。


「うちの子が死んでしまったり、目覚めなかったりするのは嫌だけど、確かに苦しんでいる人は見過ごせないわね」


 うちの性分なんでしょうけどと母は溜息をつきながらもそう言った。そんな母の言葉に殿下は驚いたように目を見開き、おどおど。そんな姿に神父様の腰が曲がった。何がそんなに面白いのだろう

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